ドラマティックレポート 



 予想より早く緋勇と如月は接触した。そして、やはり予想通り<玄武>は<黄龍>の傘下に入ったらしい。
 そうなると、俺としちゃあのこのこと如月ん店に出ていくわけにゃあいかねぇ。いつ緋勇と接触するか分からねぇし、そこで「あぁ、あんたは」「村雨を知っているのかい?彼はお得意さまの一人でね」なんて会話が予測される。下手すりゃ勘の良い如月のこった、秋月が俺を使って接触してるのに気づく。そして、付き合い上は秋月含む俺との方が長いが、「仕えるべき相手」と天秤にかけりゃ緋勇に付く可能性が高い。
 おかげで俺は如月と接触する機会を失い、従って麻雀仲間を一人失ったも同然だった。
 そりゃ俺の運を以てすれば会わずに済ますことは可能だろうが、そんな『運任せ』にしてんのも危険だ。
 てことで、確実に緋勇に会わずに如月と接触出来る機会、つまり真神が修学旅行に行っている日に、俺は久々に店に顔を出したのだった。
 ここの店主は大変分かり易い奴で、普段なら俺が客として来たんじゃねぇと分かると露骨に表情を変えるもんだが、どうしたもんか今日は営業用のような微笑で俺を部屋へ招き入れた。
 出てくるお茶までワンランク上だぞ、おい。どうした守銭奴。鬼の霍乱か?
 「やぁ、姿を見せなかったな」
 「へ、どうやらお忙しそうだったしな」
 これも嘘じゃあねぇ。たまに覗きにくりゃあ緋勇かまたは他の仲間たちが店を彷徨き、そうでなけりゃ『本日休業』の札を掛けて如月まで旧校舎巡りと来たもんだ。
 だが。
 どうやら、如月はこの一言を待っていたようだった。
 普段はクールビューティーな顔をそりゃもう幸せそうに崩してのたまう。
 「あぁ、僕はこれ以上無く充実した毎日を送っているよ」
 ………まさか、如月。
 のろけたくて俺を歓迎してんのか?仲間相手にゃ出来ねぇだろうしな。
 「僕はこれまで、この店にしても持って生まれた力にしても『責務』としか認識していなかった。それが、心持ち一つでこんなにも違うものとは思わなかった。僕が生まれたのは彼のためだ。そう考えると、店も力も素晴らしく誇れるものだと思えるよ」
 そうっすか…。
 この場合の『彼』が誰を指してんのかなんてのは、俺にゃ分かるが、さてそう見せていいものかどうか。
 しかし俺がどう考えようと全く気にしてねぇ様子で如月は頬を上気させて言い募る。
 「一度、君にも彼を見せてやりたい。彼のためになら、僕の全てを捧げても惜しくはない」
 待て待て待て。妖しげな言い方をするな。
 しかし、思わず如月に圧倒されちまったが、ホントにこいつが言ってんのはあの緋勇なのか自信が無くなってきたぜ。
 「そうかい、あんたがそこまで言う相手だ。俺も一度拝みてぇもんだな」
 いや今接触する気はねぇが、如月に合わせるように言ってやると、途端如月の顔が警戒にひきつった。
 「いや、お前のような男を会わせるわけにはいかないな。僕は彼に及ぶ危機を全て排除する役目があるのでな」
 自分で言っておいて何つー言いぐさだ。
 俺が何で緋勇の危機になるってぇんだ。
 俺個人としても、秋月としても、<黄龍の器>と敵対する気は、今のところ無い。
 てことは…まさかたぁ思うが、俺の個人的資質か?俺は女は好きだが、男に手を出したことは無い。それは如月も知ってるはずだが、それを疑ってんじゃねぇだろうな。
 「おいおい、どんな相手なんだ?俺ぁ全くのノーマルだぜ?そんな美女と見紛うような奴なのか?その『彼』ってぇのは」
 そうカマかけてみりゃ、如月は陶然とした顔になった。思い出すように目を宙に向け、柔らかく微笑みながら言う。
 「彼のような人物に会ったことは無い。一見普通の高校生に見えながら、僕には分かる。彼は自然そのものなのだよ」
 …ふーん。
 外見が平凡だってぇのは分かってんだな。そこまで目が曇っちゃいねぇか。
 しかし、何げに強烈に自己主張したな。「僕には分かる」か。他の仲間には分からねぇ魅力を「自分だけは理解している」と。
 …気に食わねぇな。確かに、俺も緋勇の魅力とやらは全く分からねぇ。これまで会った奴らを全て籠絡出来てんのが不思議なくれぇだ。
 「彼のためになら宗旨替えしても良いくらいだ」
 おい。
 この場合、クリスチャンになる、なんてことを意味してんじゃねぇだろう。そもそも緋勇の宗教が不明だが。
 まさか。あの如月が。
 男色になっても良いくらいだっつってんのか!?
 分からねぇ…どこがそんなに良いんだ?緋勇のどこが。
 「へぇ、そんなに、かい。そりゃますます見てみてぇな」
 「駄目だ。お前に見せると彼が汚れる」
 きっぱりと言い切ってから、また顔が崩れやがる。
 「いや、そんな些細なことで動じるような人じゃないな、彼は。彼は全てを包み込む。お前のような男がどうこうできる相手では無い」
 言ってくれんじゃねぇか。
 緋勇個人に興味はねぇが、如月にそこまで言わせるたぁ恐れ入ったな。
 それからもこっちがもう勘弁してくれと言いたくなるくれぇ如月は饒舌に『彼』の素晴らしさを語った。かと言って、俺が興味を示すと途端に警戒して『彼』には会うなと牽制してくる。自分で興味を煽り立てておいて言うこっちゃねぇ。
 だが、その判断も出来ねぇくれぇ如月は喋りたかったらしい。
 なるほど。
 これが『恋に狂った男』ってぇ奴か。
 『氷の男』を恋に落とした緋勇って男に、改めて興味を抱いた。
 どこがそんなに良いのか分からねぇが、如月も馬鹿じゃあ無い。目が曇るにしたって、多少の根拠はあるだろう。
 …それに…。
 如月の先を越してみたくなった。
 いざとなれば薬を使えば意のままに彼を抱ける、などと恐ろしいことを素面で語っていたが、回りくどい手順の好きな如月だ。いきなり薬ってこたぁねぇだろう。多分は遠回りに緋勇の気持ちを確認してから口説くと見た。
 その隙に、俺が先に頂いちまうのも悪くない。そして、如月に「こんなにつまらねぇ男のどこが良いんだ?」と聞いてみてぇ気がする。
 今度緋勇に会う機会があったら、ちっと手ぇ出してみるか。

 だが、河岸を新宿に変えて彷徨いてても、なかなか緋勇に会うことは無かった。ちっと探ってみれば、修行に明け暮れているらしい。
 やれやれ、こっちからは無理に接触出来ねぇ立場だ。またいずれ機会もあるさ、と元通り歌舞伎町で札ぁ拡げていたら。
 もう秋も深まり冬の気配もそこまでってぇ頃にようやく緋勇に出会った。
 その時、俺は勝負の末にイカサマだなんぞと難癖付けてきやがる馬鹿を相手にしていた。怒鳴り声のせいで周囲に人だかりが出来ている。その中に、緋勇の姿があった。
 結局金を払って捨てぜりふを残してやっちゃんが去っていった後、その場では異質な制服姿に声をかける。
 「よぉ、緋勇。久しぶりだな」
 緋勇は、僅かに小首を傾げて考える素振りを見せる。まさか、俺が分からねぇんじゃねぇだろうな。
 「あんたみてぇなのが、こんな所に何しに来たんだい?」
 続けて言えば後ろめたそうに笑った。
 「えっと…何だか眠くなくて、散歩に」
 こんな所にか?ま、夜でも賑やかっちゃ賑やかな場所だがな、ここは。眠気を誘うんじゃなく夜中起きてるつもりなら良い街だ。
 まさか歌舞伎町に遊びに来たとは思わねぇが…性格もそうだが、制服を着て来るところじゃねぇ…さりとて散歩に来るにもおかしな感じだ。
 「俺に会いに来てくれたってんなら嬉しいんだがねぇ」
 そう言ってみれば、緋勇は何とも曖昧な笑みを浮かべた。ま、考えてみりゃ、ここで会ったことはねぇし、俺がここにいるってぇのは知らねぇよな。
 「あ…その、えっと、しこう、は」
 確かめるように俺の名前を発音し、上目遣いにちらりと見た気配があった。またすぐに目は伏せられたが。ここまで来ると、おかしくも思わねぇ。
 「しこうは、この辺に、よく来るのか?」
 一言一言噛み締めるような話し方で緋勇は俺に聞く。そんなに考えながら話しかけるほどのことか?それともよほど自分から話しかけるのが苦痛なのか?
 「あぁ、この街は俺の家みてぇなもんだ」
 笑いながら言ってやると、ちょっと眉を顰めた。歌舞伎町にあまり良いイメージは抱いていないらしい。ま、それが普通かもしれねぇが。
 「あんたは、よく来るのかい?」
 「いや、初めて。何となく、恐いイメージがあったから」
 やっぱりな。小さく綴られる言葉は予想通りだ。
 だが、続けて、首を傾げながら言ったのには一瞬意表を突かれた。
 「けど、しこうがいつもいる所なら、そんなに恐いところでも無いのかな」
 ほー。
 初めてそんな可愛らしいことを聞いた気がするぜ。ようやく俺にも慣れたってことか?それとも『仲間』に鍛えられて男心をくすぐるセリフってもんを無意識に繰り出すようになったのか?
 そういや、俺はこいつに手を出してみようと思ってたんだっけな。如月はまだ何も出来てねぇようだし。せっかく媚びてくれたんだ。お誘いに乗らなきゃ男が廃るってもんだ。
 「そういや、あんたには振られたのが最後だったな。これから付き合えよ」
 喉を鳴らしてそう言えば、緋勇は警戒したように一歩下がった。
 「お酒は駄目だぞ?未成年だから」
 俺も未成年なんだがな。
 「賭事も駄目だ。やったこと無いから」
 飲む打つ買うの基本3セットは押さえているらしい。が、残念ながら俺が狙ってんのは、残りの一つ『買う』つまり『女遊び』の方だ。ま、遊ぶのは女じゃなくて男だがな。
 「は、あんたみてぇな真面目そうな奴に、そんなこと誘ったりしねぇよ」
 押し黙った緋勇は、黙って首を傾げている。なら何をしようとしているんだろう?って感じだ。
 「ま、とりあえず、俺のヤサに行こうぜ」
 そう誘って、とりあえず頭ん中に浮かんだ一番近い場所を選ぶことにした。バイク転がしてもいいが、そこまでしねぇでも歩いていける範囲に何カ所かある。
 「はぐれないようにな」
 酔客に絡まれないよう手首を持って引っ張ってやれば、また俺の一歩後ろを素直に付いてきた。
 元々あんまり喋る奴じゃねぇが、普通もうちょっと聞くもんじゃねぇのかね。これからどこへ行くのか、とか、何をするのか、とか。ま、聞かれねぇ方がありがてぇけどよ。
 うちの連中が途中で邪魔しねぇよう、最近じゃあまり使ってねぇボロいアパートに案内する。取り巻きどもは小綺麗な場所を好むが、俺はこの腐ったようなぼよぼよの畳の感触が嫌いじゃねぇんで、結構使ってんだがな。
 中に入れて、ドアの鍵を閉める。
 緋勇は恐る恐る靴を脱いで畳を爪先立って歩いた。大丈夫だって、抜けたりしやしねぇよ。
 あいにく座布団なんて代物もねぇ。そのまま畳にどっかりあぐらをかけば、緋勇は目の前にきっちり背筋を伸ばして正座した。
 「さて、と。酒も駄目、賭事も駄目…となると、どうしたもんかねぇ」
 しっかし、お手本みてぇな正座だな。手は軽く握って大腿に置きなさいってか。ま、視線だけが相変わらず床を向いていたが。
 「あんたとは、もっとお近づきになりてぇんだが」
 嘘じゃねぇ。以前よりは興味が湧いている。何せあの如月を落とした男だしな。しかし、どう見てもこれのどこがいいのかさっぱり分からねぇが。
 「俺好みの顔してるんでねぇ」
 リップサービスのつもりだったが、緋勇はあきれたような口元になった。しかし怒り出しも戸惑いもしねぇってことは、意外と口説き文句に慣れてんのか。あぁ、如月にでも言われてんのかもな。だとしたら、口で落とせるもんでもねぇか。
 「なぁ、あんた、女と寝たことあるかい?」
 「無い」
 物の見事に即答だったな。だが、意外にも照れたりはしていねぇ。童貞なのを恥じる気持ちは無く、むしろ悪いことをしないのを誇っているような反応だ。俺ぁ平均的男子高校生ってもんとあんまり付き合いがねぇんで分からねぇが、こんなもんなのかねぇ?
 「惜しいねぇ、可愛い顔してんのに」
 目のあたりは見えねぇが、全体的には整った顔立ちだと思う。無難にまとまって平凡に見えるが、ちょっと線の細いところが、最近の女には受けそうなんだが。
 しかし緋勇は、微動だにしねぇ。これも慣れてるのか、それともまるっきり信用されてねぇか、だ。
 言いながらじりじりと近寄るが、全く危機感が無い様子で、姿勢は変わらねぇ。
 「俺と寝てみねぇかい?なぁに、男同士のセックスなんざ、スポーツみてぇなもんだ。一緒に汗をかこうぜ?」
 どうせ遠回りな誘いなんぞ通じやしねぇと思って、わざと露骨に言ってやれば、しかつめらしい顔で淡々と言いのける。
 「せっかくの申し出だが、必要無いんで」
 そして慌てた様子ではなく極普通の態度で立ち上がるのを、手首を掴んで引き寄せた。
 武術家にしてはあっさりと俺の腕の中に収まる。ここまで警戒されてねぇのを喜ぶべきか、馬鹿にすべきか。
 実のところ、俺も男とやったことは無ぇ。さて、細身とはいえしっかり男の体のこいつ相手に勃つもんかどうか。が、まあとりあえず押しつけてみた唇の感触は悪くなかった。柔らかくしっとりした唇は、口紅臭い女のそれより余程心地よいかもしれねぇ。
 ついでに中も試してみるか、と舌で探ったが、気づかれたのかぎゅっと唇を噤んで俺を受け入れねぇ。顔を見れば目までぎゅっと力が込められている。
 しかし…だんだん顔が赤くなって来ている。思えば、全然呼吸している気配が無ぇ。おいおい、まさかずっと息止めてんじゃねぇだろな?
 俺の肩をぐいぐいと押していた腕にますます力がこもり、ほとんど突き飛ばされるような勢いで離される。
 畳に横向きに転がり、はぁはぁとせわしなく息をしている緋勇は、それなりにそそるものがあった。処女は面倒くせぇと思ってたが、少しは楽しいもんだねぇ。
 上から腕で囲い込み、もう一度唇を寄せると、ふいっと顔を背けた。そのままさらされた首筋に吸い付くと、体中が緊張するのが知れた。
 「…スポーツだから」
 「あん?」
 「あくまで、スポーツだから。愛情とかじゃないから、キスはパス」
 意外だ。
 目を閉じて呟く内容は、意外とさばけている。本気で男にやられんのが嫌なら、とっくに力尽くで逃げてるよなぁ?仮にも<黄龍の器>、それがなくとも古武術の使い手なら、俺なんざさっさと片づけられる。
 どうも今までの認識とは異なる。優等生でもやっぱりこういうことに興味があった、とか?それとも、俺に惚れた…とか?
 うわ、寒。
 だがキスをあえてする必要もねぇし、とりあえずそれは了承して、続きをすることにした。
 制服を脱がしていくと、顔を隠すように両腕を交差させた。ま、その分抵抗はされずにさっさと脱がせられたがな。しっかしキスは嫌だの顔は隠すだのする割にゃ、行為そのもんは嫌がってねぇ、たぁ…。
 「やっぱ、あんた、可愛いな」
 喉で笑って言うと、びくりと体が震えた。
 ふ…ん。何だ、やっぱ俺に惚れてんのか。へっ、ざまぁねぇな如月。あんたの大事な『仕えるべき主君』は、俺に抱かれても良いくらい俺が好きなんだとよ。
 薄い筋肉に包まれた胸を指先でなぞり、淡い淡い胸の飾りを弄ってやる。
 「くすぐったい」
 喘ぐようにひきつれた声で俺の手を払いのけるのを押さえつけ、今度は舌先で乳輪をなぞってやると、陸に打ち上げられた魚のようにびくびくと跳ねた。
 ふぅん、男なんて興味はねぇが、咄嗟に逆らってしまいます、みたいな反応はちっと面白ぇな。
 下の薄い茂みの中のもんに手を伸ばすと、それはまだおねんね中だった。
 「ふぅん…あんまり反応してねぇなぁ。自分でやったりしねぇのかい?」
 きゅっと握って、先のくぼみを親指で引っ掻いてやると、途端びくりと力を持った。
 なるほど、慣れてねぇ体は胸の刺激だのキスだのくれぇじゃ反応しねぇのか。それが快感に繋がるってぇ経験があって初めて腰に来るもんなんだろうな。
 改めて、処女とやるより開発された女とやる方が面倒が無くて良い、と言ってる男の気持ちが分かったぜ。自分で真っ新なもんを好みに開発するのも面白ぇかもしれねぇが、長く付き合うつもりじゃなきゃうざってぇだけだ。
 俺がそんなことを考えてるなんて下の男は知らねぇだろう。俺の手淫に翻弄されて、体をびくつかせている。
 ………。
 ま、しっとり濡れた皮膚の感触とか、時折上がる甘い声とか、それなりに色っぽくなくは無ぇ。俺のも全く役に立たねぇってこたぁねぇだろ。
 そのうち、俺の手の中に欲を吐き出した緋勇が、はぁはぁと息を弾ませながら俺を見上げた。見上げたっつっても、相変わらず視線は合わねぇが。
 「…次は、あんたの番?」
 確認するようなそれは、妙に冷静な響きがあった。
 何となく違和感を感じつつも、俺は頷いて見せた。
 「あぁ、今度は俺の番だ」
 それに答えるかのように伸びてきた手は、俺のもんに向かっている。あぁ、なるほど。握りっこ程度の認識だったわけか。小学生の見せ合いっこの延長版とでも考えてたなら、この達観ぶりも頷ける。
 さて、そんな風に考えられてたってぇんなら、それに添うのも何となく業腹だな。やはりここは最後までやるか。
 緋勇の手を畳に縫い止め、もう片方の手を尻に沿って下ろし、吐き出された粘液を入り口周辺に塗りつけた。何度か周囲をなぞった後、第一関節まで沈めてみる。ほー、意外と簡単に入るもんだな。
 更に中へ潜り込ませようとしたが乾いた部分が入り口の粘膜と擦れて痛いのか、緋勇の体に力が入った。当然、そこもきゅっと締まる。
 構わず中へと進めると、急にふんわりと柔らかい感触に包まれた。なるほど、入り口付近は筋肉だが、中に入っちまえばただの腸壁か。
 えー、確か前立腺が中にあるんだよなぁ。
 指でごそごそ探っていると、柔らかい壁の中に、やや弾力のある塊を見つけた。そこを押せば、緋勇の体が跳ね、ついでに前も角度を持った。
 なるほど、ここがイイらしい。ぎゅうぎゅうに締め付けていた入り口も力が抜けている。
 さーて、しかしこのままじゃまだ挿れられねぇよなぁ。
 一端抜いた指を、今度は二本まとめて突っ込む。そして前立腺を刺激しながら入り口を押し広げていった。
 微かな吐息を掻き消すように、ぐぷぐぷと音を立てる。
 俺は、これが男の体だってぇのには意識に蓋をした。中の粘膜は結構気持ちよさそうだったし、今じゃ試してみてぇってのが先に立っていた。
 指を抜いて、緋勇の両足の間に割り込み太股を下からすくい上げるように持つと、大人しかった奴がいきなり足をばたつかせた。今更抵抗なんてするもんじゃねぇだろ。そう思って無視して足を抱え上げると、真っ赤な顔でそっぽを向いた。
 「顔は、見られたくないから」
 はぁ…で、正常位は嫌だ、と。
 ま、良いけどな。バックからの方が楽だってのを聞いたこともある。
 俺はさっさと緋勇の体をひっくり返した。四つ這いで僅かに開かれた足は、完全にお誘いの姿勢だろう。尻の中心には、さっきまで解していた場所が赤く熟れて濡れ光っている。ま、悪くはねぇな。
 俺は自分のもんを取り出して、2,3度扱いた。それだけで臨戦態勢になるんだから、俺もそれなりに興奮しているらしい。まだまだ若いね俺も。
 そこに押し当てると、大人しかった緋勇の体がびくりと跳ねた。それを押さえつけるようにゆっくりと含ませる。
 …きついな。
 まだ解しようが足りねぇのか。結構広がるもんだ、と感心してたんだが。
 一気に奥まで、とはいけずに、ゆっくり小刻みに入れていく。そのうち、一番太い部分が入ったのか、少し抵抗が減った。何とか全部収めきる時にゃ俺の体まで汗が滲んでいた。もちろん、受け入れる方の緋勇の背中はしっとりと濡れている。綺麗に反った背骨と肩胛骨が健康的で妙に笑えた。
 その背中に沿うように体を倒して首に口を寄せ、歯を立てると、緋勇のそこがぎゅっとしまった。なるほど、中のもんの角度が変わったせいで、イイとこを刺激したんだな。
 「ふぅん…ここがイイのかい?」
 聞こえてんのかどうか知らねぇが、緋勇が首を振るのにつれて前髪が畳に擦れてぱさぱさと音を立てた。
 それからは俺の好きなようにさせて貰った。
 緋勇の喉から甘い悲鳴が漏れる。それが嫌だったのか、途中から自分の腕を噛んで声を耐えているようだったが、よけい快楽が中にこもるのか格段に粘膜の締め付けが良くなった。
 悪くねぇな。
 入り口の筋肉部分のぎゅっと締め付けた具合もイイし、中の粘膜のうねるようなざわめきも結構刺激的だ。男にはまる奴がいるのも頷ける。
 俺が腰を突き出す度に、緋勇の喉から音にならない空気が漏れる。
 前に手を伸ばして扱いてやれば、中の締め付けが引き込むような動きをし、思わず呻いて射精していた。ほぼ同時に緋勇も達する。
 腰だけ残して倒れ込むところを、尻を掴んで萎えたもんを引き抜けば、赤く充血した粘膜が惜しむようにまとわりつき、最後にくぷん、と音を立てて閉じた。だが俺のもんに掻き出された状態で、白い精液がとろりと溢れている。
 そこだけ見ればとても男たぁ思えねぇような扇情的な光景だった。
 もう一回やっても悪かねぇな、と思っている俺の前で、緋勇は這うように自分の服へ手を伸ばした。そして、のろのろと身に着けていく。
 「余韻ってもんがないねぇ、あんた」
 相変わらず目線を俺から離したまま、緋勇は震える指先でボタンを留めていく。
 制服まで着終えて立ち上がった緋勇の顔が、一瞬泣きそうに歪んだ。だが、すぐに表情を無くす。
 「じゃ」
 一言だけ残して去っていこうとする緋勇を貶める言葉を投げかける。
 「溜まったら、また来な。あんた、結構イイ締め付けしてたから、いつでも相手してやるぜ?」
 終わった後も肌をくっつけたがる女はうざってぇと思っていたが、ここまでさっさと帰ろうとされるとホントに単なる性欲処理に付き合わされた気分になる。
 泣き出すか怒り出すかするかと思ったが、緋勇の固い表情にはヒビ一つ入らなかった。
 「それはどうも」
 呟くような声は掠れていて、どんな感情が込められているのかどうも読めねぇ。
 ばたんと閉められたドアを眺めつつタバコを吹かす。
 さて、これで如月の先を越したわけだが…やっぱり分からねぇな。何だってあそこまで執着すんのか。体は悪くなかった。だが、如月はやってねぇようだし、なら体に惹かれたんじゃねぇってこった。
 ふーむ、意外と如月の奴、真面目そうなのを色の道に引きずり込むのを愉しむ性癖でもあったのかねぇ。
 もっと分からねぇのは緋勇だ。
 真面目な優等生かと思えば、あっさりと体を差し出してきた。しかも特にメリット無しに、だ。
 てこたぁ、俺とそんなに寝たかったってことかと思うんだが…。
 しかし、仮にも惚れた相手から冷たい言葉を投げつけられりゃ、もっとなにがしかの反応がありそうなもんだが。
 さて……。
 ま、どうでもいいが、ちっと興味が湧いて来た。
 いずれ秋月は<黄龍の器>と正式に接触するだろう。
 その時に、俺が『偶然出会った』のではなく『故意に接触していた』のであって『緋勇自身にゃこれっぽっちも興味が無ねぇ』と知った時、あいつはどんな反応をするか。
 あの自分の感情を自分の内部で処理しようとする仮面が剥がれ落ち、泣き喚く姿が見てみてぇ。
 自分でもひでぇ趣味だたぁ思ったが、退屈しのぎのその案は、ずいぶんと俺を慰めてくれた。
 そうと決まれば…次に会うなら、もっと優しくしてやるか。もっと緋勇が勘違いするように。

 それは、俺にとっちゃゲームに過ぎなかった。
 どんなときにどっちへつつけば思ったようにボールが転がっていくのか、確かめるゲーム。
 緋勇みてぇな常識の範囲内でしか反応しねぇ奴相手には、退屈に過ぎるゲームだったが、仮にも相手が<黄龍の器>で、その気になれば俺くれぇ捻り潰せる力があるってぇのだけが、スリリングで色を添えてくれる。
 ちっ、つまんねぇ話だ。
 いっそ緋勇が激怒して俺に殴りかかりでもすりゃあ、ちっとは楽しめるんだがなぁ。だが、あんな優等生タイプは、おおかた敵の命を奪うのすら躊躇ってんだろうからなぁ。少なくとも憎からず想った俺を傷つけられるたぁ思えねぇ。
 あぁあ、どっかにいねぇかなぁ。俺の心を掻き立ててくれるような面白い存在が。



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