プチ髭



 むかし、むかし、あるところに、生やそうといてるのかわざと剃り残してるのかよく分からない髭を持つ、『プチ髭』と呼ばれる貴族がおりました。
 彼はお金持ちだし、領民に気前も良かったのですが、ただ一つ。
 何度、奥方を迎えても、すぐにその人がいなくなるのです。
 最初は同じ貴族階級の娘を妻にしておりましたが、だんだんと噂が立って、貴族たちには敬遠されるようになりました。
 そこで、近隣の少し格落ちした階級の少女が妻になりましたが、やはりすぐに行方不明になってしまいます。
 
 プチ髭の妻になって、生きて戻った者はいない。

 だんだんと領地中に噂は広まり、彼の妻になろうとする者はいなくなっておりました。


 そんな、ある日。
 隣の領地の下級貴族の三男が、プチ髭の領地の賭博場で大負けしてしまいました。
 青ざめる彼に、勝った胴元が、こう言いました。
 「てめぇにゃ美人の妹はいねぇのかい?それで勘弁してやるぜ?」
 三男には妹はいませんでしたが、美人の『弟』ならおりました。
 「び、美人なら・・・まぁ、その・・・うちの領地で一番の美人かなーっなんて噂されてる奴がいるにゃいるけどー」
 それを聞いて、胴元はにやりと笑いました。
 「俺の妻に寄越すってぇんなら、帳消しにしてやる」
 よくよく話を聞けば、胴元は(口調は悪いが)ここの領主だと言うではありませんか。
 これは、下級貴族にとっては一種の玉の輿だし、良い縁談じゃないかっと自分を騙して、三男は自分の領地に帰って行きました。

 さて自分の屋敷に戻った三男は。
 夕食で4人揃ったところで、「良い縁談があるんだがよー」と切り出しました。
 「・・・縁談?誰の」
 「まさか、君のかい?三男」
 「・・・名前で呼んでくれよ、長男こと紅葉兄ちゃん・・・」
 「誤魔化すな。さぁ、京一くん、きりきり吐きたまえ」
 「翡翠兄ちゃん、厳しい・・・」
 そして賭事に弱い三男は、長男と次男に事の次第を白状させられました。
 
 「・・・てことなんだけどよー」
 「「・・・この、大馬鹿者がーーっ!」」
 「うぅ・・・俺には厳しいんだよな、この長男と次男は・・・」
 「君がつまらん賭などするからだ!」
 「弱いくせに」
 「しくしく・・・」
 「それにしても」
 次男は厳しい顔で腕を組みました。
 「確かに我が家の財政上、負けた金額を払うというのは、なかなかに厳しい話だな」
 「これを売り飛ばしてもいいですけど。多少は足しになるけどね」
 これ、と三男を指して、長男も溜息を吐きます。
 「多少っすか・・・」
 「全額払えるものなら、塵ほどの迷いもなく売り飛ばしているよ」
 闇稼業の長男は冷然と言い捨てました。
 「しくしく・・・俺の味方は、ひーちゃんだけだぜ・・・」
 そして、三男は、先ほどから一言も発言していない四男に目を向けました。
 四男は、『近所では一番の美人』と評判の顔をゆっくりと上げ、おもむろに口を開きました。

  このひーちゃんは、絶対俺に黄龍をかます、恐い龍麻だ。
  このひーちゃんは、絶対俺を助けてくれる可愛い龍痲だ。


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