《習作・Mさん像》


渋江喜久夫:
画材を探そうと押し入れの中をかき回していたら、何と!おそらく47.8年前の学生時代に描いたまま忘れていた鉛筆画が出て来た。この絵は同級生のY君達と学校のスタジオを借りて撮影したものを資料に描いたもので、今見ると稚拙で直したいところだらけだが、なんとも懐かしかったので作品集に加えてみた。 この時モデルを務めてくれたMさんは、今どうしているだろうか。(鉛筆画)


西谷史:
この絵を初めて見たとき、思わず嘆声をあげてしまった。渋江さんが、40年以上前にこれだけの描写技法を完成させていたことも驚きではある。しかし真の驚きは、この絵が1970年前後の日本をあまりにもリアルに感じさせたことであった。当時の若者たちの多くは、自分のまわりはもちろん、前すら見てはいなかった。ただひたすら上を見つめ、自分がどこまで昇り詰めることができるかを夢想していた。その時代の空気を、こうも見事に捉えた絵を私は他に知らない。

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