俺を選んで後悔するな

『俺を選んで後悔するな』


 祇孔の唇が首筋を伝う。
 軽く顎を仰け反らせると、耳の後ろを強く吸われた。
 キスの間もその後も、俺の足の間に身体を割り込ませた祇孔に股間を擦り合わされ、身体の熱が上がっていく。
 無意識に洩れそうになる声を殺そうと、俺は唇を噛んだ。
「……声、出せよ……」
 囁くような声が俺の耳を刺激する。──ぞくり……と悪寒が背中を這い上がった。

 誰がッ…誰が喘ぎ声なんか出すもんかッッ!!

 辛うじて快感より羞恥の方が勝っていた俺は、ますます身体に力を入れる。
 それを見た祇孔は、くくく…と喉の奥で笑うと、酷く緩慢な動作で俺のズボンに手を掛けた。
「───ッッ!!」
 至極ゆっくりと降りるファスナーの音に更に羞恥心を煽られていた俺は、突然訪れた脳天を突き抜ける激しい衝撃に喉を引きつらせる。
 ズボンに忍び込んで来た祇孔の手が布越しに俺の中心を撫で上げ、堅く形を変え始めた先端を爪で引っ掻いたのだ。
 それでも声を上げないでいると、尚もしつこく擦り上げて来る。その刺激に、俺は必死で耐えた。
「…強情だなぁ」
 繰り出される愛撫で仰け反った背中と床の間にもう片方の手を入れ、俺の腰を固定した祇孔は面白そうに呟く。
 俺はといえば、震える吐息を吐くのが精一杯で悪態を吐く事も出来ない。
「何時までもつかな」
 そんな恐ろしい台詞を吐いた祇孔は、おもむろにブリーフの割れ目から指を入れて来た。
 一本の指でその形を確かめるようになぞり、しっとりと湿ったところを指の腹で擦られる。
 ゆるゆるとした快楽は、俺に焦れを齎した。その時──

「ひッ……ぁあッ!」

 いきなり先端の窪みを抉られ、喉の奥から堪えきれない嬌声が迸る。
 酷く甘ったるいその声に驚愕した俺は、思わず固く閉じていた瞼を開いてしまい、覗き込んでいた祇孔の瞳とまともにぶつかった。
「…可愛い声出るじゃねぇか」
「ばっ…バカッ…なんっ…」
 抗議に口を開きかけたが、続く愛撫にとてもそんな余裕は持てない。
 何かに捕まっていないと流されそうで、俺は夢中で祇孔に縋りついた。
 その手が、滑らかな張りのある肌に触れる。
 不思議に思って良く見ると、何時の間にか祇孔は服を着ていなかった。両手で常に俺を弄っていた祇孔が服を脱ぐ暇などあるわけがない。
 ぐるりと視線を巡らせると、煌煌と点いていた室内灯も消えている。しかし部屋の中はほのかに明るかった。
 外灯の灯りではない。
 まるで部屋自体が発光しているような灯りなのだ。

 また…こいつの魔法か…

 何でも出来るくせに無理強いをしないのは、(自分でいうのも恥ずかしいが)やはり俺に惚れているからか。
 俺は痺れた頭でどうでも良い事を思い出す。

 そういや…祇孔が身に纏う衣装は、主人の思い込みで決まるんだっけ……だとすると……

 今の裸の祇孔が素の彼なのだろう。
 先入観のない、飾らない祇孔。

 いつも変わらないのは、あの顎の古傷と不精髭、それと──彼自体……なのかな…

 知らず、笑みが零れる。
「…余裕じゃねぇか…それとも、観念したか?」
 はっとして意識を戻すと、俺は既に下半身を剥かれ、祇孔を受け入れる体制を取らされていた。
 思わず全身に力を入れる。
「……怯えるな、ちゃんと慣らしてやるから」
 硬直した俺の足を抱え上げ、不敵な笑みを湛えた祇孔は、そのまま俺の股間に顔を埋めた。
「……っくぅっ…!……う……んあぁっ…あっ…っ…」
 我慢しようとして出来るものではない。
 祇孔の舌が俺を舐め上げ、先端を舌で転がして嬲るたび、唇に包まれ吸い上げられるたびに意識が飛びそうになる。
 羞恥よりも意識が途切れるのを恐れた俺は声を上げ、その声によって漸く正気を保っていた。
「ぁ……っやぁっ…!…もう……っゃ…やぁ……し、こうっ……祇孔ッ……」
 身悶えながら祇孔の頭を引き剥がそうとするが、まるで力が入らない。
 高まった身体は解放を欲して腰を揺らす。
「イきそうか?……そうだな、先にイッちまうと後が辛いな」
 独り言のように呟いた祇孔は唐突に俺から唇を離した。
「くぅ……っん……」
 直前で放棄された愛撫に、俺は思わず恨みがましい目で祇孔を見上げる。
 わざと確認出来る体勢で俺の内股を舐め上げた祇孔は、俺の足の付け根をきつく吸い、舌で行き先の軌跡を辿った。
 濡れた感触と角度からその場所を察した俺は、思わず声を上げる。
「ちょっ…祇孔!何するんだよッ」
「慣らしてやるんだよ……俺を受け入れやすくするようにな」
 慌てる俺に構わず、祇孔は目的の場所に舌を潜り込ませた。
「いッ……!!ちょ…っ…ま、って……!」
 後ろにぬめった感触と異物が進入する感覚に、俺は必死で抵抗する。じたばたと足をばたつかせ、背を仰け反らせた。
「……っち……おとなしくしろよ」
 軽く舌打ちすると祇孔は俺の身体を無理やり反転させ、腰を高く突き出した四つん這いの格好を取らせる。
 足を大きく開き秘部を晒した体制に、俺の羞恥は頂点に達した。
「いッ…嫌だッ!…祇孔、嫌ぁっ!!もう、…もうやめてよぉっ……やめ…て…」
 恥ずかしくて、それ以上に気持ち良くて──俺は泣きながら懇願する。
 止めて欲しいのに、ここでこの行為が中断されればもっと辛い事になるのは理解していた。
 だから、俺には何と言って良いのか判断はつかない。
 その時──
「…我慢するなって…恥ずかしい事じゃないぞ…お互いを求めているだけだ。…俺は──俺は、本当はお前以上に……!」
 俺の心の声に応えるように祇孔が呟き、ふいに──本当にふいに、しかも殆ど抵抗もなく、俺の後ろに節くれだった指が挿入された。
 唾液で濡れていたせいか、前戯で緩んでいたせいか──いずれにせよ抵抗と言う抵抗もなく祇孔の指が俺の中に限界まで押し入って蠢き出す。
「ひ……!…うんっ…ふ…ぅあ…っあぁ……なに…あ、ああっ……ゃ……そ、こは……んやぁっ…」
 本来その場所にこんな感覚が生まれる事事態どうかしているに違いない。
 祇孔の指先が蠢くたびに言いようの無い不安のような、腹の奥だけでなく胸の中まで掻き乱されているような感覚に俺の意識は霞みがかったようになっていく。
 なのに、中を掻き回す指の感触だけは妙に生々しくて…。
「…そろそろ、いいか?」
 遠い世界から祇孔が問い掛けた。何の事か分からず、潤んだ瞳を薄く開いた俺の後ろに、熱い塊が押し付けられる。
 不思議と、抵抗はなかった。
 男同士で、どんな事をするのかという知識ぐらいはある。先刻の抵抗は恥ずかしかったのと、その行為が多大な苦痛を伴うと分かっていたからだ。
 ──尤も、祇孔が人間なら、という前提がある訳で。
 だが、俺はおとなしく祇孔を受け入れた。
 ゆっくり、ゆっくり。
 俺を気遣いながら小刻みに進入を試みる祇孔。そうすると辛いのは祇孔の方だというのに。
 直前で愛撫を止められ、身体の奥が燻っていた俺は、そのもどかしさに気が狂いそうになる。
「しこう…祇孔ぉ……ねぇ……はやく…ぅ……」
 浅ましくねだる自分自身に嫌悪感を抱きながらも、俺は祇孔を求めた。
「ばっ…かやろう…言ったろ、俺は、お前以上に……」
 さっきと同じ台詞をはきながら、祇孔はいきなり乱暴に自身を突き立てる。
 痛みが無かったわけではない、しかし、進入して来た祇孔が襞を引っ掻く感覚と、先端が最奥を抉った感覚に耐えきれず、俺は高く声を上げて達してしまった。
 同時に祇孔も熱を弾けさせる。
 暫く、淡い光の中には荒い息遣いだけが響いていた。
 やがて卑猥な音を立てて俺の中から自身を引き抜くと、祇孔は深く口付けてきた。そして、その吐息の間に囁く。

「俺は──お前以上に、感じてるんだよ……」


* * * * *


 全身が気だるい。
 ちくちくと痛む瞼を無理に押し上げ、俺は目を開けた。
 さんさんと降り注ぐ太陽の光りが、早朝ではない事を明確に告げている。
「龍麻…起きたか。…無理、させちまったな…」
 すぐ目の前には祇孔の顔があり、顔に血が上るのが自分でも分かった。

 結局。

 夕べはあれで終わる事はなかった。
 更に風呂場で数回、ベッドに入ってからも散々絡み合い、明け方までお互いを貪っていたのだ。
 疲労はピークに達している。
「今日はゆっくり休めよ。俺が傍にいるから……」
 祇孔の台詞に安心し、俺は再び目を閉じた。

 これからはずっと祇孔が居てくれる。

 俺がいなくなるまで、ずっと………。

 祇孔にはもっと俺を知って欲しい。
 俺も祇孔をもっと知りたい。
 だが焦る事はないのだ。
 俺達は、歩き始めたばかりなのだから。


   感謝の辞
 うわーい!やったぞ、自分! よくぞ、踏んだ!
 と言うわけで、続きが読みたくて、7222を踏み抜いたジーダです。
 よかったねぇ、カードの精!ようやく、想いを遂げられることが出来て・・・。
  朱麗乃華さま、ありがとうございました〜!これで、私も想いを遂げられました!
 ところで、私は気になっておりました。
 花札、と言うことは、彼は、紙及び絹張りではないのか、と。
 風呂に入るとへにゃへにゃに溶ける(萎える)んじゃないかと。
 心配ご無用! 創造主様から「プラスチック製なので、耐水加工ばっちりです!」とのお言葉を頂きました。
 これで、思う存分、風呂場でHできます(笑)
 うんうん、幸せだねぇ・・。


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