装着推奨 前編



 村雨さんは、僕のマンションまで送ってくれて、それからまた車から降りて部屋に行くまでもおんぶしてくれた。
 誰かに見られたら、恥ずかしいなぁって思ってたんだけど、村雨さんの運のおかげか、早朝だからか、誰にも見られずに部屋まで着いた。
 ドアの前で降ろしてもらって、鍵を開けて、それから、やっぱり言ったほうがいいかなって思って、上がって行かれますか?って聞いたら、村雨さんは「お言葉に甘えるぜ」って・・。
 それが、なんだかすっごく嬉しそうで、僕なんかと一緒にいて、ホントに嬉しく思ってくれてるんだなぁって感じて、ホントに好きでいてくれてるんだって僕もとっても嬉しくなった。
 村雨さんにお茶でも煎れようと思ったんだけど、お尻が痛くて、変な歩き方してたら、村雨さんがベッドまで運んでくれて、「龍痲は大人しくしてな」って僕の分のお茶まで煎れてくれた。
 それが凄く美味しくて、温かくて、幸せだなぁって思ってたら、眠くなっちゃって、うとうとしちゃったみたいで、そしたら村雨さんが、
 「いいぜ、たっぷり寝な。疲れただろうしな」
 って頭を撫でてくれた。
 もっと起きてて村雨さんとお話ししたかったのに、撫で撫でしてくれてると、気持ちよくっていつの間にか眠っちゃったみたいだ。
 はっ、て気づいたら、もう村雨さんがいなかった。
 でも、すぐに枕元のメモを見つけて、『また来る』って書かれてたから、寂しくなかった。
 ・・・本当は、ちょっぴり寂しかったけど。
 でも、また来てくれるっておっしゃって下さるなら、大人しく待ってなきゃいけないよね、うん。
 
 着替えて、朝御飯(昼御飯?)食べて・・ってしてるうちに。
 あれれ?・・なんか、おなか、痛い?
 僕、おなかはすっごく丈夫なんだけどなぁ・・。
 ちょっと床に落ちた物でも食べて平気だし、日にちが経ってて危ないかなぁって思う物でも平気だし・・。
 だけど、おなか痛いし、押さえたらぎゅるぎゅるって言ってるし・・。
 どうしよう・・結跏趺坐して治るかなぁ・・。
 えと・・・あ!
 これ、病気だったらどうしよう!
 村雨さんに伝染しちゃってるかも知れない!!
 そうだったら、そうだったら、すごいご迷惑かけることになるし・・病院に行って調べてもらわなきゃ!
 でも・・普通の病院は駄目って言われてるんだよね・・僕、異常に治りが早いから・・。
 岩山先生のとこ・・産婦人科に行っていいのかなぁ・・でもでも、病気だったら村雨さんにご迷惑おかけしちゃうし・・そしたら嫌われたりするかもしれないし・・・えぐえぐ・・。
 うん、しょうがない。
 桜ヶ丘に行こうっと。

 おなか押さえながらタクシーに乗って桜ヶ丘お願いしますって言ったら、タクシーの運転手さんがすごく心配してくれた。
 すみません・・流産でも出産でもないです・・。
 待合室の隅っこでひっそり待ってたら、意外と早く呼ばれちゃった。
 診察室に入って、周りを見回して・・・うん、高見沢さんはいらっしゃらない。
 岩山先生に、こんにちはて言ったら、おっきい声で笑いながら、
 「相変わらず礼儀正しいねぇ」
 って褒めてくれた。
 「それで?どうした?」
 「えとえと・・その・・おなか痛くて、あの、病気だと困るなって思って、あの、産婦人科に来ちゃって、ご迷惑とは思ったんですけど、でも、病気だともっと困るから・・」
 「良いんだよ、病院は、病人が来るとこなんだから、そんなに縮こまらなくたって」
 岩山先生は、ダイナミックだけど、とっても優しい。
 けど、なんか厳しい顔で、僕をじっと見た。
 「それよりね。なんだか、妙な歩き方で入って来たが・・どこか腹以外に痛い場所でもあるのかい?」
 あう・・お尻・・って言いにくい・・。
 どうしようって思ってたら、岩山先生に叱られちゃった。
 医者には包み隠さずはっきり全部言っちゃえって。
 ・・それはそうなんだけど・・。
 「あの・・・高見沢さんには、秘密にしといてもらえますか?」
 「そりゃそうだ。医師には守秘義務があるからね」
 それで少し安心して、お尻って答えたら、岩山先生は、当然って顔で、隣の内診室に行けって言った。
 個室でゆっくり診察するのかなぁって入ったら・・・うわぁ・・・これって、これって、女の人が使う内診台っていうものじゃ・・。
 まさか・・これに上がるのかなぁ・・だって、僕、男だし・・でも、他にベッドないし・・。
 待ってたら、岩山先生が来て、
 「何やってんだい。早く下を脱いでここに上がりな」
 って・・や、イヤなんだけど・・でも、でも、さっさとしろって言われるし、岩山先生にはご迷惑かけてると思うし・・。
 覚悟を決めて、ズボン脱いで・・下を脱げって、パンツもかなぁ・・。
 「早くしな。尻見るんだから、下は全部脱ぐんだよ」
 あう。
 恥ずかしいなぁ・・・でも、しょうがないか・・。
 脱いで・・うわあ・・これに足を乗っけるのかぁ・・足広がっちゃうよぉ・・。
 そしたら、イスがぐいんって昇って・・うわああああん!こんな格好、恥ずかしいよぉ!!
 で、で、でもでもでも、女の人はみんなこうやってるんだし・・・うぅ・・でも、恥ずかしい・・・。
 おまけに、カーテンがおなかのとこにかかってて、岩山先生の顔が見えないし、何されてるかもわかんない。
 「ちょっと力抜いてな」
 ほえ?
 ・・・うわあああああん!!
 触っちゃ駄目〜!
 「・・・やっぱり、裂けてるね・・」
 ほえ?ほえ?裂けてる?
 な、なんか、すっごい怖いこと言われたような・・・。
 うわあん!今度は、なんか冷たい物が入れられちゃった〜!
 ふええええん・・・昨日から、そこ、一生分使っちゃったんじゃないだろうか・・。
 しくしく・・・。
 
 えぐえぐしながら隣の診察室に戻ると、岩山先生が厳しい顔でこっちを見た。
 「それで?相手は誰だい?訴えるってんなら、採取した精液を証拠として保存しておくがね」
 ・・・・・・・・は?
 訴える?
 誰が・・誰を?
 「強姦じゃなかったのかい?」
 ・・・???
 「あの・・・お話がよく見えないんですが・・・」
 「セックスしたんだろ?」
 ほえ?
 え・・・でも、せっくすって言うのは、『男性性器が女性性器に挿入されること』だよね?
 そんなの、したこと無い・・。
 そう言うと、岩山先生は、頭が痛くなったみたいに、こめかみを押さえた。
 「そりゃ、狭義の定義はそうかも知れないがな。広義には、男性性器が直腸内に挿入されるのも『アナルセックス』という名称の付いた、立派なセックスだ」
 男性性器が直腸内に挿入・・・・あ!
 「あ、それなら、夕べ、しました」
 岩山先生の手の中で、ボールペンがぺきって折れた。どうしたのかなぁ。
 「それで?それは合意の上でのことかい?」
 んと・・・よくわかんないけど・・僕がしたいって言ったんじゃないけど・・駄目〜って言ったけど、でも、『強姦』じゃないよね、きっと。
 だから、うんって頷いたんだけど。
 「その割には、随分傷ついているようなんだが・・・まあいい。相手は誰だ?」
 え?あ、相手?
 言わなきゃ駄目?で、でも・・・。
 「どうしても、相手の名前が必要なんですか?」
 「あぁ。必要なんだよ」
 そ、そうか・・・必要なのか・・・でも・・・。
 「でも、でも・・・でもぉ・・・・村雨さんが、言っちゃ駄目っておっしゃってたから・・・」
 「・・・・・・・・ふぅん・・・・・・村雨、ね。・・あぁ、あの遊び人タイプの・・・」
 「村雨さんは、遊び人じゃないです!とっても、ステキで、とっても紳士で、優しくて・・・」
 「あぁ、はいはい」
 岩山先生は、ひらひらって手を振った。
 それから、何かお手紙を書いて、僕に渡した。
 「これを、アンタの『言っちゃ駄目な』相手に渡しておいで。今後の注意事項が書いてあるからね」
 はいって頷いてから、気が付いたんだけど。
 「あのぉ・・・おなか痛いのは・・・」
 「あぁ、精液が刺激になってんだね。一応下痢止めと整腸剤は渡しておくけど、それよりしっかり中を洗った方が先決だよ」
 「はぁ・・」
 ・・・中を洗う?
 どうやって?
 ・・・ていうか、そもそも、何の中を?
 んと・・・聞きたいけど、お忙しそうだし・・うん、村雨さんにお聞きしてみよう。
 村雨さん、何でもご存じだし、また来るっておっしゃってたから、それまではお薬だけ飲んでおこうっと。

 マンションに帰って、お薬飲んで。
 んと・・なんか、お尻がべたべたして気持ち悪い・・。
 お薬塗られてるのかなぁ・・でも、気持ち悪いし・・よし、お風呂入っちゃえ。
 ふえー・・お尻のあたりがぬるぬるだー・・。
 んと・・裂けてるって言われたけど・・うん、よし、裂けてない。・・と思う。
 指で触った限りでは、裂けてないと思うんだけど・・奥が裂けてるのかなぁ・・でも、見えないし・・。
 うわあ・・なんか、中の方もぬるぬるしてるー・・うまく洗えるかなぁ・・。

 出来る限り洗って、お風呂から出たら、村雨さんがお部屋にいた。
 「よぉ、先生」
 なんて、缶ビール片手にちょっと合図したり・・うにゅ・・格好良い・・・。
 びっくりしたけど、でもでも、もうお会いできて、嬉しくて、僕は思わずソファに座ってる村雨さんに抱きついちゃって、
 「おっと」
 って村雨さんの声で、ビールがこぼれかけちゃったのと、僕がお風呂上がりでまだ濡れてるのに気づいて。
 「ごごごごごめんなさい・・・村雨さんまで、濡らしちゃいましたぁ・・・!」
 「あ?・・あぁ、別に平気だぜ。こんなもん」
 でもでもエアコンかかってるけど冬だし・・なんかお着替え・・う〜でも村雨さんに僕の服は合わないだろうなぁ・・。
 悩んでると、村雨さんが僕の両脇に手を回して、ひょいって感じで持ち上げられた。 
 すっごーい・・村雨さん、力持ちだぁ・・。
 そして、村雨さんのお膝の上に降ろされちゃった。
 ズボンまで濡らしちゃいます・・村雨さん・・。
 「いい匂いだな」
 は?え?え?・・・あ、石鹸の匂いかぁ・・。
 びっくりしたぁ・・そ、そうだよね、僕がいい匂いなんじゃないよね、石鹸とかシャンプーがいい匂いなんだよね。あんまり香料が入ってないやつなんだけど。
 村雨さんは、僕の濡れた髪に鼻を寄せて、シャンプーの匂いを嗅いでる。
 そんなに気に入ったのかなぁ、この匂い。如月君に試供品だからって、もらったんだけど。
 「風呂入って、俺を待っててくれたのかい?」
 え?え?え?
 「あ、あの、その・・・」
 「くくっ、冗談だ」
 ほえ。
 「で、でも、お待ちしてました!こ、こんなにすぐ、お会いできて、嬉しいです!」
 村雨さんは、ちょっとびっくりしたみたいに目を見開いて、それから細めた。
 頭を撫で撫でしてくれながら、
 「俺も、会いたかったぜ」
 っておっしゃってくれた。
 嬉しいよぉ・・・。
 あんまり嬉しすぎて、涙目になってたら、村雨さんが額にちゅってキスしてくれた。
 それから一杯、顔中にキスしてくれて、気持ちいいから目を閉じてじっとしてたら、口にもキスされた。
 あ・・ちょっと苦い。これがビールの味なのかなぁ。村雨さんは、大人なんだなぁって、ちょっと悔しく思う。
 同い年なのに、どうして、村雨さんはこんなに格好良くて大人なんだろう。
 でも、くよくよ考えてたのに、村雨さんの舌がぐにゃっとかべろっとかされると、なんか頭がぼーっとして、何も考えられなくなる。
 くらくらしてるのに、村雨さんが体重かけてくるから支えられずにソファにぽすって倒れちゃった。
 でも、村雨さんは上からのし掛かるみたいにして、まだ口を合わせてる。
 ほえ・・・あ、いつの間に、バスタオル落ちちゃったんだろ・・。
 素肌に村雨さんの服がこすれて、なんか変な感じ。
 「龍痲・・・」
 うわぁ。村雨さんの声はちょっと掠れてて、よくわかんないけどおなかの方がどきんってした。
 ・・おなか?
 あ!そういえば、岩山先生に、お預かりしたお手紙があるんだった〜!
 「あ、あの、村雨さん!お手紙があるんです!」
 「あ?手紙?アンタからかい?」
 「いえ、あのその、い、岩山先生から・・」
 村雨さんは、不機嫌そうに眉を上げた。
 ほえ・・ごめんなさい・・でも、お手紙渡さないと・・。
 僕はどうにか村雨さんの身体の下から抜け出して・・・うわぁ、真っ裸になってる!い、いつの間に・・。
 恥ずかしいけど、でも、ちょっとの距離だからそのまま歩いて、鞄から手紙を出して、村雨さんに渡した。
 村雨さんは顔を顰めたまま、封筒を破って中の手紙を読んだ。
 「・・・なぁ、先生」
 あ・・先生って呼んでる・・二人っきりのときは、龍痲って呼んでくれるのに・・ご機嫌損ねちゃったのかなぁ・・。
 「俺は、夕べのことは、内緒だっつったよな?」
 「は、はい!村雨さんが駄目っておっしゃるから、相手が村雨さんって言ってません!」
 「そうかい・・なら、なんで・・・・まあ、アンタのことだからなぁ・・」
 ???ぼ、僕、また何かやっちゃった?
 村雨さんは難しい顔のまま、手紙を封筒にしまった。
 「それより先生。身体の具合はどうなんだ?」
 「え?べ、別に、どうもないです!元気だけが取り柄ですから!」
 おなかは・・もう痛くないし。
 「なぁ、先生。ちっと、今日、桜ヶ丘に行った最初のとこから、全部話してみちゃくれねぇかい?」
 え?えと・・・んと・・・。
 僕は思い出せるだけ、頑張って村雨さんにお話しした。
 村雨さんは、うんうんって頷きながら聞いて下さって、最後まで話して終わったら、ぎゅって僕を抱っこした。
 「む、む、村雨さん?」
 「・・・あ〜もぅ・・・先生は、何でそんなに可愛いんだろうなぁ・・・」
 ほえ!?か、可愛い!?
 うわあ・・顔が熱いよぉ・・。
 「ホント、マジ、危ねぇよな、アンタは」
 言いながら、額や鼻の頭にちゅっちゅってキスしてくれる。
 ふえぇ・・よく分かんないけど、気持ちいいからいいかなぁ。
 「さて、と。女怪に怒られたことだし、今日は、使ってやるからな?」
 ・・・?何を?
 村雨さん、何か怒られちゃったの?




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