強制選択  後編


 富岡八幡宮ってとこに行くと、敵の人が出迎えてくれた。
 んーと・・・あの人、男の人なんだろうなぁ・・
 なんで、女の人みたいに喋るのかなぁ。
 「あのね、ひーちゃん。ああいう人を『おかま』っていうんだよ」
 「ちょっと!そこのガキ!!おかまって言うんじゃないわよっ!!」
 あ、怒ってる・・・。
 「すすすすみません!あのあのあの、では、何とお呼びすれば良いんでしょうか!!」
 つい、咄嗟に、そう言っちゃったけど・・御門さんが、溜息をついて、僕に言った。
 「龍痲さん・・・あれは、今から倒すべき敵なのですから・・・」
 「ああああっ、すみません、すみません!!」
 どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・
 
 ぴこん。

 僕の頭の上で、ピコピコハンマーが鳴った。
 「龍痲。落ち着いたか?」
 「あぁっ、醍醐くん!ありがとうございますぅ~~!!」
 と、とりあえず、深呼吸。
 「えっと、まとめると、ですね。あの方は敵で、『おかま』さんで、でもご本人はそう呼ばれるのを嫌がっている、と。そういうことです」
 はぁ、落ち着いた。

 「変な子ね・・まあいいわ。さっさといらっしゃいよ」
 「はあ、お邪魔します・・・」

 仮称『おかまさん』に付いていこうとすると、後ろから声がかけられた。
 「悪いな。一名追加だぜ、ともちゃん」
 あああああああああっ!
 こ、この声は!!
 恐る恐る振り返ると・・・やっぱり~~!
 村雨さんだ~~!!

 あわわわわわわわわあああわわわわわあわわわ・・・

 ぴこん。

 「ひーちゃん、落ち着け・・・」
 あぁっ、ありがとうございます、蓬莱寺くん!
 な、なんで、村雨さんが?

 御門さんとお話ししたかと思うと、こっちに歩いてきて・・・僕の頭をぽふっと叩いた。
 叩くっていうより、撫でたってくらいに、軽く。
 「なんだ、迷惑かい?」
 ぶんぶんぶんぶん。
 あ、頭振りすぎて、くらくらする・・・。
 「そうかい、そりゃあよかった」
 あ・・・笑ってくれた・・・。
 ほえ~・・笑うと、目尻にしわが入ってる~・・なんか、優しい人かも~・・・。
 そうだよね~、おっきくって、歌舞伎町にいて、舎弟さん達がいて、恐い目をするからって、怖がってちゃいけないよね・・。
 慣れるように、がんばろ・・・。

 
 それで。
 戦ってると、何度も跳ね飛ばされちゃったんだけど、なんだか、いつも村雨さんが後ろにいて、受け止めてくれた。
 それから、一杯、回復してくれた。
 
 いい人・・かも知れない・・・。


 「きゃああ!パパ!パパ!しっかりして!!」
 ほえ。
 気付いたら、勝負はついてて、僕は、そんなにやっつけたつもりはなかったのに。
 『ともちゃんさんのパパ』が、血を吹き出してて。
 敵・・・なんだよね・・・。
 秋月さん、いじめたし・・・僕以外の転校生を勘違いで傷つけたりしてたし・・・敵、なんだけど・・・
 「パパ~~~!」
 お父さん・・なんだよね・・。
 ・・・・・・やっぱり・・・自分のお父さんが、目の前で血を吹き出してるなんて・・・・・・やだよね・・・
 「パパ!今、あの人の所に連れてくからね!!」
 あの人って誰だろう・・・て、今はそれより。

 「と、ともちゃんさん!!」
 まずいかな~・・でも、僕・・・
 「これ!お、お薬です!!」
 太清神丹。立ち去りかけるともちゃんさんに投げる。
 ともちゃんさんのとパパさんのと。
 ともちゃんさんは、振り返って、鬼のような形相で怒鳴った。
 「敵に情けを掛けられたくないわよ!」
 「で、で、でもでもでも!これ使ったら、お父さんが助かります!!!」
 ともちゃんさんは、まだ、睨んでた。
 でも。
 パパさんを抱えながら、結界から抜けるとき、確かに、太清神丹を拾って行ってくれた。
 ・・・助かると良いけど。
 
 見送って、一息つくと。
 「・・・・・・龍痲さん」
 御門さんの声だ・・・あ・・なんかこう、重いっていうか・・頭痛を堪えてるような・・・
 こ、恐いな~・・でも、振り返らなきゃ・・・
 御門さんが、顔半分を扇子で隠して、こっちを見てた。
 ま、まずかったかな・・やっぱり・・・
 ともちゃんさんとパパさんは、秋月さんの・・御門さんの敵でもあったもんね・・。
 でも。

 「ごめんなさい!御門さん!!でも、どうしても、僕、パパさん、助けたくて!!
 あの、ご、ご存じかもしれませんが、僕、僕の、父は死んじゃってて、いえ、顔も見たこと無いですけど、でもそれでも、死んじゃったって知ったとき、すごく悲しくて、だから、その、ともちゃんさんも、お父さんが、目の前で死んじゃったりしたら、もっと悲しいだろうなって思って、だから・・・その・・・その・・・・・・・・・・・・ごめんなさい・・・
 あの、もし、ともちゃんさんやパパさんが、また秋月さんいじめに来たら、僕、戦いますから・・・許して下さい・・・」
 ふえ・・・ダメかな・・・御門さんにとっては、僕は敵を助けた人になるんだもんね・・
 でも、後悔はしないんだ。
 だって、もし、同じ状況になったら、僕はこうする。
 誰だって、家族が死んだらイヤだと思うから。
 自己満足かも知れないけど。

 「それで」
 と、御門さんは、ぱちりと扇子を鳴らした。
 すっごい無表情・・・恐い・・・
 「貴方は、戦った末に、またあの親子を助けるのですか?」
 あう・・・
 「はい・・・すみません・・・」
 迷惑だよね・・・敵が来て、一緒に戦って・・・で、最後に敵を助けちゃう存在って・・・。
 はぁ・・・・どうしよう・・・

 「まあ、そう言うなよ。これが、この先生のいいとこなんじゃねぇか」
 いつの間にか、村雨さんが側に来てた。
 御門さんに宥めるように声をかけてる。
 そいでもって、僕の頭を撫でてくれて、耳元で、小さく言った。
 「ありがとよ。ともちゃんは、ちっとばかし馴染みでね。アンタが助けてくれて、嬉しいぜ」
 そっかぁ。
 村雨さんは、『ともちゃん』『しーちゃん』て呼び合う仲なんだっけ。
 良かった・・一人でも、僕のやったことを肯定してくれる人がいる・・。
 それだけで、僕は、心が軽くなる。

 御門さんは、ふぅって、大きい溜息をついた。
 「仕方がないですね。貴方が、私どもの役に立つよう・・・貴方の方の問題を、さっさと片づけることにしましょう」
 ほえ?
 ほええええ?
 僕はよっぽど間抜けな顔をしてたんだろう・・御門さんが苦笑した。
 「私の力をお貸しします、と言ってるのですよ。この龍脈を治める戦いの間、ね。勿論、芙蓉も」
 「御意」
 えっと・・・それって・・・僕たちの仲間になってくれるってことかなぁ?
 僕、嫌われちゃったんじゃないのかなぁ?
 僕・・・役に立つのかなぁ?
 
 「よかったわね、龍痲」
 美里さんが、僕の手をとって言った。
 そうか~、よかったんだ。
 やっぱり、御門さんと芙蓉さんが、仲間になってくれるってことなんだ~。
 「有り難うございます!御門さん!芙蓉さんも、有り難うございます!!」
 僕には、何にも出来ないから、一所懸命、お辞儀した。
 よかった・・・本当に、よかったぁ・・・。

 「ふふ・・そんなに喜んでいただけると、力を貸す甲斐があるというものです。・・・それで、村雨。お前はどうします?」
 あ。
 村雨さんは・・・僕のこと、キライかも・・・。
 さっきは誉めてくれたけど・・なんだか、僕を見るとイライラしてるみたいだし・・・
 
 村雨さんは、じぃっと僕を見て。 
 それから、にやって笑った。
 「そうだねぇ。やっぱり、ここは一つ、運試しといこうじゃねぇか」
 どこからか取り出した、コインが、宙を舞った。
 月明かりに照って、きらきらきらって・・・なんか、綺麗な光景で、僕は見惚れてて・・・

 「さあ、表、裏、どっちだ?」
 
 村雨さんの手にそれが収まって。
 しししししまった~~~!!!

 「あのあのあのあのあのあのあの!うううううううううう運試しって仰いましたよね!!!すすすすみません!!!!僕、僕、僕、見ちゃってましたぁぁ!!」

 そう。
 僕は、つい、コインに見とれて・・・ずっと見ちゃってたのだ。
 それって、<運>じゃないよね。
 えっと・・そう、<どーたいしりょく>ってやつだ。
 
 「あのあの、お手数をお掛けしますが、もう一度・・・・!」
 「ほら、選びな」
 「・・・あのあのあの・・・・・」
 「俺は、気が長い方じゃねぇかもな?言えよ」
 「あの・・・ですから・・・・・・・・」

 村雨さんには、僕が言ってることが通じないんだろうか?
 どうしよう・・どう言ったら良いのかな・・・
 
 村雨さんは、小さく呟いてる・・・
 「そうか・・見えてたのか・・なら、外れたら、俺がいらないって言ってるようなものだよなぁ・・・傷つくなぁ、それは・・・」
 はう・・・・・・
 それは、その・・・・・

 「さあ、表と裏、どっちだ?」
 
 なんか・・・もう、言えない雰囲気だ・・・もう一度、やって下さい、とは・・・

 「・・・・表、です・・・すみません・・・・」

 がっくりと突っ伏す僕の背中を、村雨さんはぽんぽんと叩いた。
 「アタリだ。これから、じっくりたっぷり、よろしくな、先生」

 うぅ・・・ズルしてしまった・・・
 いいんだろうか・・・こんなカンニングみたいな方法で、村雨さんの人生を賭けさせてしまって・・・。



 追記。

 それとは、別に、もう一個、悩むことがある。
 『先生』って、何だろう・・・。
 あれかな?時代劇で、『先生!お願いします!』とかいうの。
 ・・・やっぱり、村雨さんって・・・ヤクザさんだったのかなぁ・・・・。


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あとがき
19話後半。御門か村雨か。表か裏か。
強制的に選択・・は、緋湧龍痲には、大変な難関です。バカだから(←ひでぇ)
茜さま、笑ってくれよ・・所詮、うちのはこんなんや・・・。
さて、次は、やっぱり、選択話。
どうする、龍痲!御門主になってしまうのか!?


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