強制選択  前編


 翌日。
 日比谷公園で待ってると、村雨さんが案内してくれて、<浜離宮>っていうところに連れて行かれた。
 そしたら、なんだか、ここじゃない<浜離宮>っていうところがあって、そこに行くんだって・・。
 もし、はぐれたら、どこに行っちゃうか分からないって・・・。
 ・・・・・・しくしく。
 きっと、僕なんか、運が悪いから、一人だけはぐれたりするんだよぉ・・・。
 そいでもって、訳の分からない世界に落ちこんじゃったりして、戻ってもこれないで、一人寂しく死んでいったりするんだよぉ・・・。
 恐竜が闊歩する世界とかさ、もう人類が絶滅しちゃった未来とかさ、日本でも鎖国時代とかで、いきなり大名行列の真ん前に現れちゃって、「無礼者〜」って斬られたりとかさ・・・。
 なんで、こう、運が悪いのかなぁ、僕って。
 あ、なんか、段々、思考が滅入ってきた・・・。

 て、えぐえぐしてると、村雨さんが、背中から腕を、ぐいって巻き付けてきた。
 「なんだい、怖いのかい?ずっと手でもつないどいてやろうか?」
 ・・・人の頭に顎を付けて喋らないでくださーい。
 なんか、頭の中がむずむずくすぐったいです。
 「俺にくっついとくと、お得だぜ?なんせ、運が良いからよ。くっくっく・・・」
 あぁ、そうですね・・。運が良いんでしたっけ、村雨さんは・・。
 羨ましいなぁ。
 でも、きっと、それだけ運がいい人でも、僕のそばにいると、調子を落としちゃったりするんだよ〜・・。 僕だけだと、ティラノザウルスの目の前に落ちちゃったりするのが、村雨さん込みでもトリケラトプスの前に落ちちゃう程度とか〜・・。
 僕なんかと一緒にいない方がいいと思います、村雨さん。

 はう〜とため息を付いていると、後ろから、袖が引っ張られた。
 「ねぇ、龍痲。怖いわ・・手を繋いでくれる?」
 美里さん・・・。
 でも、僕でいいんでしょうか。
 どっちかというと、醍醐くんとかの方が、重石になると思いますよ〜。
 「私・・・龍痲と一緒なら、何も怖いものは無いわ・・」
 ・・・・・・僕も、ちょっぴり、そんな気もします・・・。
 美里さんと一緒なら、ティラノザウルスの前に落ちても平気っていうか・・・
 いえ、何か具体的なビジョンが浮かぶ訳じゃないんですけど・・・・なんか、平気そうです。
 こう、振り向くと、ティラノザウルスが消えてるとか、不可思議なことが起こりそうで。

 「えーとですね。みんなで手を繋ぐというのは、どうでしょうか」
 
 僕なりに考えた結果なんだけど・・村雨さんは、あきれた顔をしてた。
 「幼稚園のお遊戯じゃねぇんだから」・・だそうで。
 しくしく・・・馬鹿にされたよぉ・・・。
 でも、真神のみんなは、優しく受け入れてくれて。
 桜井さん、醍醐くん、蓬莱寺くん、僕、美里さんの順で、手を繋いで、よくわかんない通路を歩いていったのだった。
 
 
 で。
 みんなが手を繋いでいてくださったおかげで、僕も無事に、<浜離宮>ってとこに着いたんだけど。
 えーと、なんか、すっごい偉い人に会うんですよね〜・・。
 陰陽師の人たちの総元締め・・・あぁぁぁぁあ!緊張する〜〜〜!!!
 そんな偉い人に、僕なんかが会っていいんだろうか〜〜!?
 きっと、きっと、普段なら、会うのにアポイントが必要で、それも6ヶ月待ちだったり、それでそれでお話しできるのは5分〜とかなんだよ〜〜! 
 こんな事態でもなかったら、僕なんか一生会ったりしないような、雲の上の御方なんだよぉ〜〜!

 はう〜。
 あまりの緊張で、もう、自分でも何言ったか、覚えてない〜・・。
 車椅子の人は、穏やかにお話してくれてるから、ちょっと落ち着いたけど〜・・。
 「おい」
 うっきゃああ!!
 ま、ま、また背後に村雨さんが〜〜!
 おんぶおばけみたいに、背中にのっかるの、やめてください〜〜!
 「アンタ、なかなかやるじゃねぇか」
 「えとえとえと・・何がでしょうっ!?」
 「くくっ、俺に対するみてぇにじたばた五月蠅くしてりゃ、御門に嫌われんの、わかってたのかい?
  相手に合わせて、素っ気なく返事するなんざぁ、大したもんだ。
  無邪気な顔して、男に気に入られる術を知ってやがる」
 なんか、怖い・・・
 村雨さんの顔は見えないけど、声、怖い・・・。
 ふえ・・・足、がくがくしてきた・・・
 「きさまーーっ!ひーちゃんを放せーー!!」
 あ・・・蓬莱寺くんだ・・・
 木刀を振りかざしちゃ、ダメですよぉ・・・
 「・・・って、おい!?」
 ・・・・・・・・・
 
 ・・・・・僕は、情けなくも、一瞬気絶してたらしい・・・・。
 蓬莱寺くんの顔見た途端に、緊張が一気に解けて、頭、真っ白になっちゃって・・・。
 はう〜・・情けないよぉ・・・
 これじゃ、きっと、御門さんにも、芙蓉さんにも、秋月さんにも、村雨さんにも呆れられて・・・
 って、うわ〜〜!!
 御門さんが目の前に〜〜〜!!
 「大丈夫ですか?」 
 「あぁっ!お、お気遣い無くっ!!だだだだだだ大丈夫ですからっ!!」
 あわあわと立ち上がったら・・あ・・・・・また、くらくらと・・・・
 ぽふっと、誰かが抱き留めてくれた
 誰かなぁ・・なんか、いい匂い・・・日本家屋の匂いっていうか・・扇を広げた時の匂いっていうか・・
 ほえ〜・・落ち着くなぁ・・・けど、目を開けなきゃ・・・・
 白い。
 白い服ってことは・・・
 「あぁ、無理はしないで」
 うっわぁぁぁああ!!
 御門さんだ〜〜〜〜!!!!
 「すすすすすすみません!!ぼぼぼぼぼ・・・・・」
 「龍痲さん」
 「はははははいい〜〜!」 
 「聞けば、私と会うのに、緊張していたとか。・・ふふ、そんな必要はありませんよ。私は確かに陰陽師の東の棟梁ではありますが、ただの高校3年生でもあるのですから」
 そう言って、御門さんはにっこり笑ってくれた・・。
 ほえ〜〜
 いい人だ〜〜〜。

 「おいこら、御門。てめぇ、何、点数稼いでやがる」
 こ、この低くて機嫌の悪そうな声は・・・村雨さんだ・・・。
 御門さんは、僕をかばうように、ぎゅって抱きしめてくれて、
 「点数稼ぎ、とは聞き捨てなりませんね。私は、龍痲さんが気に入っただけですよ」
 ふえ〜・・気に入ってくれたんだ〜・・
 自分で言うのもなんだけど・・・僕なんかのどこが気に入ったのかなぁ・・。
 「しかも、ちゃっかり『龍痲さん』かい!いいから、放しやがれ!」
 うきゃああ!
 凄い力で引っ張られたと思うと・・・今度は、村雨さんがぎゅってしてきた〜〜!
 こわいよぉ〜〜!
 美里さ〜〜〜ん!!

 ようやく。
 僕は、真神のみんなのところに戻ってこられた。
 怖かったよぉ・・・。
 やっぱり、みんなと一緒がいいよぉ・・・・。
 そう言ったら、醍醐くんが、撫で撫でしてくれた。その後、なんでか、つま先を抱えてぴょんぴょんしてたけど。どこかぶつけたのかなぁ・・。
 「あのね、龍痲」
 「はい、なんですか?」
 「あの二人の、どちらかの力を借りられるのだけれど・・・どちらがいいかしら?」
 ほえ?
 二人・・って御門さんか、村雨さん、ですか?
 あ・・・こっち見てる・・。
 ていうか・・・村雨さん、睨んでる・・?
 しくしく・・嫌われちゃったんだ・・きっと、僕なんかに巻き込まれて迷惑だったんだよぉ・・。
 どうしよう・・でも、御門さんもお忙しいだろうから、僕なんかに付き合ってる暇ないだろうし・・。
 あ〜・・ホントにどうしよう・・

 「あの・・・お二人とも・・・お忙しい・・です・・よ、ね?」
 そしたら、御門さんは、優雅に扇子をぱたぱたさせながら、優しく答えてくれた。
 「いえ、これは、私どもの戦いでもありますから、どうぞ、お気になさらず・・私を選べば、力になりますよ」
 で、村雨さんは。
 「へっ。俺の方が役に立つよなぁ?」
 きょ、脅迫されてるみたいだ・・・。
 あう・・む、村雨さんを選ぶのは、すっごく怖い・・・
 けど・・・選ばないのは、もっと怖いよぉ・・・・・・。
 どどどどどうしよう・・・・
 どうしたら、いいのかな・・・。
 
 「龍痲さん」
 「はい〜〜!!」
 「今、私を選べば、もれなく芙蓉が付いてきます」
 ふ、芙蓉さんが・・・あ、お辞儀してくれた・・礼儀正しくて、素敵な方だなぁ・・。
 じゃなくて。
 「そそそそそそそんなこと、言われるととととと!まままますますますます選べなくなりますぅ〜〜!」
 そうなのだ。
 だって、だって、だって、『芙蓉さんが付いてきます』で、『あ、じゃあお願いします』って言っちゃったら、まるで、御門さんだけじゃ足りなかった、って言ってるみたいで!!
 かといって、その上、村雨さんを選んだりしたら、お二人併せても更に村雨さんの方がいいって言ってることになって〜〜!!
 だめだめだめ〜!
 うわ〜〜ん!
 さっさと選んだら良かったよぉ・・・。
 ふえぇぇん、僕のバカ〜〜!アホ〜〜!!マヌケ〜〜〜!!
 
 じりっと、御門さんの足が、こっちに向いた。
 あう・・・
 む、村雨さんも、顔はにこやかに、でも目は笑ってないまま、じりじりとこっちににじり寄って来てる。
 あああう〜〜・・・

 「ねぇ、龍痲」
 「はいっ、美里さんっ!!」
 「こう考えたらどうかしら。今から、私たちは、陰陽師の敵と戦うの。その時、呪術系の攻撃を見切ることが出来る、お二方が囮・・盾・・いえ、力になってくれるんじゃないかしら」
 はあ、確かに・・。
 僕も蓬莱寺くんも醍醐くんも、前線タイプで、術系に弱いから・・・。
 確かに、見切ってくださる方は、嬉しいですが・・その分、体力もあまり無く、前線にはお立ちにならない方が・・・・・・ 
 で、でも、美里さんがそう仰ることだし、そうしようか。
 
 「あ、あの、そういうことですから・・あの・・御門さん、お力をお借りしてよろしいでしょうか・」
 「ふふ・・喜んで」
 御門さんは、にっこり笑ってくれた。
 芙蓉さんも、少し笑ってくれた。
 村雨さんは・・・村雨さんは・・・恐くて、見られなかった・・・・・・・。


富岡八幡宮に向かう


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