マニュアル人間で行こう!

後編

 〜CM〜

 「誰かに狙われていると言う貴方!
  誰かをやっつけたいと言う貴方!
  そんなときには、九角ガードシステム!
  鍛え抜かれたコマンダーが貴方をお守りいたします。
  今なら、依頼者本人を強化するサービス付き!!
  警備のご用命は、九角ガードシステムへ!!」

 
〜アイキャッチ〜
  「ミサちゃんも、仲間に入れてぇ〜」


 本当に、それしか、無いのか?
 ファイナルアンサー?
 いいんだね?

 「覚悟しておけ、村雨祇孔!
  貴様の精魂が尽き果てるまで、やって、やって、
  やりまくってくれるわ!!」


 龍麻様は、村雨に跨ったまま、高らかに宣言なされた。

 覚悟するのは、貴方では。
 ついでに、やられるのも、貴方では。

 「この<黄龍の器>こと緋勇龍麻と、耐久力勝負をしようなど、片腹痛い!
  100年は早いと言うことを、思い知らせてやる!!」

 ラウンド1  カーン♪
 史上最低な戦いの火蓋は、とりあえず騎乗位から、切って落とされた。

 
 途中経過−−

   ラウンド6
 「くほー、このほーわ、おえの負担わ少ないはぶなんにゃら・・・
  こら、貴様!初心者が、努力しているのだから、甘んじて享受せんか!」

   ラウンド13
 (○○が溢れてくる〜・・美里の真似〜
  ・・・・・・・結構、余裕だな、俺・・・・・・・)

   ラウンド21
 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  はっ、一瞬、意識が飛びかけたぞっ・・・・・・・・・・)

    ・
    ・
    ・
    ・
    ・
 浜離宮にて。

 「みかど・・・これ・・・解呪・・・」
 御門の姿を認めた途端、背中から村雨を床に落とし、返事も聞かないまま、
 「俺・・・寝る・・・」
 床と仲良くなる龍麻だった。

 
 「お目覚めですか、ご主人様」
 「芙蓉ちゃ〜ん!」
 目覚めた龍麻は、布団の横にきっちり正座している芙蓉に、思わずしがみついた。
 「うぅ・・・柔らかいよぉ・・・女の子って、良いなぁ・・・」
 「あ、あの、ご主人様・・・わたくし、女性では・・」
 「いーの、いーの。柔らかくって、良い匂いで、気持ちいいのが女の子なんだから。
  うぅ・・しゃーわせ、しゃーわせ」
 すりすりと芙蓉の胸に顔を埋めていた龍麻の後頭部を、衝撃が襲った。
 痛い、と呟きながら、振り向いた龍麻の前には、苦虫噛みつぶした顔の御門が扇を打ち合わせていた。
 「あ、いたのか、御門」
 「先程から、おりますよ。
  まったく、何なんですか、貴方は。
  いきなり来られたかと思えば、眠ってしまうだなんて。
  ・・・さ、もう宜しいですか?こちらにいらして下さい」
 ぽんぽんっと言い放って、御門は立ち上がる。
 しょうことなしに、龍麻も布団から抜け出した。
 名残惜しそうに、芙蓉にもう一度すりすりしてから、御門の後を追う。
 「まったく、もう・・・私も、暇な身体では・・・」
 「あぁ、はいはい。文句は後で聞かせて頂きます。・・・というか、村雨につけとけ」
 「その、村雨ですが」
 開けた襖の向こうには、布団に横たわる村雨がいた。
 覗き込んでみると、やはりさすがに、顔色がかなり悪い。
 『憔悴』そのものである。

 「ふっ、やはり、俺の勝ちだな」
 勝ち誇ってどうするよ。

 「いや、さすがだ、御門。解呪の料金は、村雨から、取っといてくれ」
 「何を、言ってるんです」
 また、ぽんと御門は扇を打ち鳴らした。
 「まだ、解呪してませんよ」
 「・・・あんだと?」
 ぎぎぎっと軋みを上げて、龍麻は御門を見上げた。
 「いいですか?解呪は、まず、何の術がかけられているかを調べて、それから解くのです。
  貴方が起きられてから、何の術か言ってもらえれば、私が余分な力を使う必要が無いじゃありませんか」
 「そう来たか・・・出し惜しみしやがって・・・」
 「村雨は、気付いても、何をするでなく、じっとしてましたから、術がかかったままの方が静かで良かったですしね」
 「・・・・・・・・・・・・・気付いた?
  ・・・・・もう、か?・・・・て、ことは・・・・・・」
 
 恐る恐る、村雨の顔に視線を戻す。

 村雨の目が、くわっっと見開かれた。

 「またかーい!!」
 じたじたと布団から飛び退いて、龍麻は、御門の背後に回った。
 ゾンビのような動きで迫ってくる村雨に、
 「ほーら、村雨くーん。
  御門だよ〜。細腰だよ〜、お尻も小さいよ〜」
 ぐいぐいと御門を押しやる。
 「・・・何、やってるんですか、貴方は」
 「まあ、色々と、思うところがあって」
 しかし、村雨は、目の前の御門を、ぽいっと横に避けた。
 「御門では、気に入らんのか?」
 「ご主人様?」
 「あぁっ、駄目だよ、芙蓉ちゃん!女の子は、今、こいつの前に来てはいかん!
  こいつは、今、見境無い、野獣・・・あれ?」
 芙蓉も、ぽいっ。
 あくまで、龍麻を狙う様子だ。
 「お前、それは失礼というものだぞ!芙蓉ちゃん、こんなに可愛いのに!
  いや、手を出しては、いけないがっ!!」
 
 視線を外したら、ヤられる!
 猛獣と対面している気分だ。
 
 「御門!!」
 「はい、なにか?」
 涼しい声で、御門が答える。
 「『禁人則不能考』だ!これにかけたのはっ!
  解け!!解けば、今なら、緋勇龍麻の感謝というレア物が、もれなく付いてくる!!」 
 自分で、レアと言うか。
 御門は、わざとらしいほどに落ち着いた態度で、扇をしまった。
 「この期に及んでも、解け、と命令されるのですね、貴方という方は」
 「・・・・ふ。ふっふっふっふっ・・・御門よ・・・俺が、下手に出ているうちに解け・・・
  さもないと、召喚魔法を使うぞ・・・」
 「今度は、恫喝ですか。いやはや、まったく、物の頼み方というものをご存じ無いようで・・・」
 「・・・後悔、するなよ」
 一旦、切って、龍麻は、深呼吸した。

 「いざっ!!
  
いでられませい!!我が友、マサキ×2!!!

 「わ〜〜〜〜〜!!!!解呪します!!しますとも!!」

 御門晴明、完敗。

 「くっ、今日の所は、私の負けを認めましょう。
  芙蓉、村雨を取り押さえなさい」
 「御意・・」
 
 「では、俺は、帰るとするか。
  ふっ、御門晴明。しっかり励むがいい」
 マサキsによろしく、と言い残して、龍麻は部屋を後にした。
 廊下を数歩渡った後、後ろを振り向いて、ぺしっと御門の怨念をはたき落として。



 2日後。

 村雨は、龍麻の部屋の前で、逡巡していた。
 ようやく、意を決して、インターホンを押す。
 『はい、緋勇龍麻です。ピーという音がしたら、お名前とご用件をどうぞ』
 ・・・インターホンに、そのような機能は付いていない。
 「先生、俺だ。入れてくれとは、言わねぇ。
  ・・・詫び入れてぇから、聞いてくれるか」
 インターホンの向こうからは、何も聞こえてこない。
 もう一度、押そうとした、その時、ドアが開いた。

 見上げてくる龍麻の顔は、別段、普段と変わらない。
 「入れ。今回は、特別に、許してやる」
 言って、振り返りもせずに、すたすたと部屋に戻る。
 
 居間のフローリングにあぐらをかいた村雨は、深々と、頭を下げた。
 「先生。今回の件は、本当に、俺が、悪かった。
  謝って、すむ問題じゃあ、無ぇかも知れねぇが・・・」
 ちらりと、龍麻を伺うが、当の龍麻は、テーブルに拡げた地図に何やら書き込んでいる。
 (無視、かよ・・・)
 もとより、謝罪をすんなり受け止めてくれるとは思っていない。
 ましてや、許してくれるとは、とても思えない。自分でも、自分が許せないのだから。
 しかしそれでも、詫びなければ、己の気がすまない。
 あの時の龍麻は、ひどく辛そうだったから。
 戦っている最中でも、そんな顔を見せたことは無いのに。
 ましてや、その表情を浮かべさせたのは、己のせいだ。

 「なぁ、先生・・・」
 「村雨」
 遮って、龍麻は、手元の地図を村雨に向けた。
 「印、付けといたから、早いうちに様子見といてくれ」
 「・・・何だ?」
 何が何でも謝罪するぞ、という気持ちで一杯だった村雨だが、珍しい龍麻の依頼には、興味が湧いた。
 地図を確認する村雨に、龍麻が、淡々と説明する。
 「今回、龍脈をちょいとねじ曲げて、俺に流入するようにしてたから。
  もう、元には戻したが、本来、龍脈が流れていたのが、途絶えた場所では、下手したら、霊障が起きてるかも知れない。
  死人が出た、とか、不渡りを出した、とかまでは責任持てんが、雑霊が悪さしてるくらいなら、責任とって祓うべきだろう。
  責任の一端は、お前にあるんだから、お前、やっとけ」
 どうやら、村雨に対抗した体力は、龍脈で補ったものだったらしい。
 「あぁ、任せとけ」 
 責任の一端どころか、全面的に己のせいだと思うし。
 
 地図を丁寧にしまい込んで、改めて、村雨は龍麻に向き直った。
 「秘拳・黄龍でも何でも、煮るなり焼くなり、切り刻むなり突き刺すなり、アンタの気が済むように、やってくれ。
  覚悟はしている」
 草人形を仕込む等という男らしくない真似もしていない。
 龍麻に殺されるのなら、それもまた、良し。

 「まず、最初に聞いておきたいんだが」
 無表情に、龍麻が言った。
 「お前、どこまで覚えてるんだ?」
 「最初から、最後まで」
 きっちり、くっきり、はっきり。
 1ヶ月分のオカズになるくらいには。
 −−−あれだけやって、1ヶ月分にしか、ならないのか?

 「数えたか?」
 「・・・へ?」
 「俺のカウントによると、口腔内射精7回を含めて、計31回。時間にして、43時間だ。
  さすがに、20回を超えた辺りから、意識が時々飛んでてな。
  ひょっとしたら、もう2,3回は多いかも知れないと思うのだが」
 「あ、いや、その・・・数えてはねぇよ・・・」
 「そうか」
 そう言って、龍麻は、腕を組んだ。
 「うむ、ここまで来ると、同じ男として、尊敬せざるを得ないな。いや、感服したよ」
 「・・・悪かった」
 「何を、謝る?」
 首を傾げた龍麻の顔は、本当に、不思議そうだった。

 理不尽だ、と、自分でも分かっている感情がこみ上げてくる。
 許してもらえるとは、思ってはいなかった、とは言っても−−
 全く、責められもしないのは、予定外だ。いっそ、腹立たしい。
 自分が、何をしても、龍麻を傷つけることすら、出来ないのだろうか?

 「なぁ、先生。・・俺の謝罪ってのは、アンタにとって、そんなに価値が無いものなのかい?
  謝らせてもくれねぇくらい、アンタ、俺のこと、どうでもいいのかい?」

 龍麻の目が、まん丸になった。もともとが童顔なため、そんな表情をすると、やけに子供っぽい。
 そして、いきなり、吹き出した。
 「村雨〜、お前って、時々、京一並にバカだな」
 そう言って、龍麻は、村雨の前に立て膝をついた。
 村雨の両肩に手を置いて、見下ろすように顔を覗き込んでくる。
 「俺が、本当にイヤなことを、終わってから、ぶち殺すタイプだと思うか?
  殺すんだったら、最中か、もしくは始まる前にやっているぞ、俺は」
 「確かに・・・。だけど、アンタ、『仲間』には甘いところもあるからな」
 「かもな」

 あっさり認める龍麻の瞳が、今まで見たこともないくらい、柔らかな光を放っている。
 「だけど、俺が、お前を殴り飛ばさない理由は、3つある。
  1つは、もともと、俺が不慣れな術を使ったのが原因だからな。・・高い授業料に付いたが、もっと取り扱い説明書はよく読むようにしよう、という良い戒めになった。
  2つ目は、お前が、御門や芙蓉ちゃんは、襲わなかったこと。『本能』が、俺のみに発動したってことで、許してやる。
  で、3つ目は−−」
 
 吐息がかかるほどに、顔を寄せて。

 「どうやら、俺は、お前に惚れているらしい」


 言葉が、村雨の耳に入って、フーリエ解析が行われ、その情報が、大脳に到達し、単語と、意味が繋がるのには、3分を要した。


 「んあ?」

 固まった村雨の顔を、龍麻がおもしろそうに引っ張っている。

 「今、俺は・・・白昼夢を見たのか?」
 「良い夢、だったか?」
 「先生に、告白される夢だった・・・」
 呆然と、呟く。
 それは、よかったな、と龍麻が苦笑する。

 「だけど、多分、気のせいだから、忘れろ」
 「お、おい、先生・・・」
 「だって、どう考えても、おかしいだろう。こんな男の、どこが良いんだ、俺は」
 そう言って、また、村雨の頬を引っ張った。ついでに、無精ひげを1本抜く。
 「痛ぇ・・・夢じゃねぇ」
 「・・・感動に浸っているところを悪いんだが、本当に惚れているのかどうかは、今ひとつ、自信は無い」
 村雨の大きな手に包まれた顔が、僅かに、しかめられる。
 不安そうに震える睫毛。だが、瞳は、困惑しながらも強い光をたたえて、村雨を真っ直ぐ見る。

 「・・・この間の、凄く、イヤだった。でも、それなりに、肉体的な快楽はあったし、やってること自体は、変わらないのに、何で、イヤなのかな〜と、つらつら考えたんだが。
  それで、結論は、お前が俺の名を呼んでくれなかったからかな、と。
  お前が、俺を見て、俺の名を呼んで、するんじゃなきゃ、ちっとも気持ち良くない。
  それって、惚れてるって、ことかな〜と、思ったんだが、どうだろう?」

 龍麻、と呼んで、抱き寄せると、抵抗無く腕の中にすっぽりとはまる。
 「・・・名前、呼ぶなら、これからも抱かれてやっても良い」
 「龍麻」
 「31回、貸しだから。次、する時は、31回以上、呼ぶんだぞ」
 「龍麻」
 「ちくしょー、何で、俺は、こんなヤツがいいんだ?」
 「龍麻」
 「・・・・・・・・・・・・うん」



     3日後。

     村雨は、記録を更新した。


     今度は、土下座して謝る、村雨の姿が、見られたという。

 
  
次回予告

 「僕にケンカを売るとは、良い度胸だね。壬生紅葉です。
      来週の『龍麻くんは女王様』は・・・
         『我知陣理画牢』
         『村雨、猫になる』
         『その人なりの<器>』
     の3本をお送りいたします。
              では・・・龍牙咆哮!!」
   



 
  
あとがき

 シリアスかと思えば、ギャグ。村雨視点かと思えば、龍麻視点。
 精進せねばなるまいて・・・。
  いや、他に反省するべきところがあるだろう、自分。
   え〜と・・・・すみません、すみません、すみません・・・
          そして、逃げるように去る・・・・・


前編へ


         秘密文書室に戻る                     ロビーに戻る