龍麻さん白紙化事件  後編


 「お前らな〜、真剣に考えてくれよ」
 「いや〜、だって、このひーちゃん可愛いし・・・」
 「翡翠さん・・・翡翠さん・・・ふっ・・・うふふふふふふふふふふふふ・・・・・
 「元の龍麻に戻すことを考えろっつってんだ!!」
 「そうは言うがな、村雨!」
 びしぃっ!と如月は村雨に指を突きつけた。
 「お前にとってもチャンスとは思わないのか!?」
 「・・何が」
 「今の龍麻は真っ白白ROM状態!これからいくらでも染まり放題!白い相手を自分色に染める・・・男のロマンとは思わないか!?」
 「ロマン・・・そりゃまあ・・・」
 思わず頷きつつも、『白ROM状態』という言葉に、何かが引っかかった。
 強力な磁場・・・強制フォーマットされて白ROM・・・。
 連想していた何かは、如月の声で中断された。
 「ひょっとしたら、これからの染め具合では、朱○さまのとこの龍麻くんみたいに、ぬいぐるみを抱えて短パン姿で『早く帰って来てねv』なーんて可愛く微笑んでくれるとか!」
 「うっ!!」
   ぐらっ(←理性が揺れる音)
 「涙×さまのとこの龍麻さんみたいに、照れながらも『お前しか、愛せない』と囁いてくれるとか!」
 「うぅっ!!」
   ぐらぐらぐらっ!(←理性がかなり激しく揺れる音)
 「あまつさえ、小△さまのとこの龍麻兄みたいに、一緒に仲良く臨死体験するとか!!」
 「・・いや・・・それは、あんまり羨ましくねぇ・・・」
 「なんだと!?謝れ!小△さまに謝れ!!」
 如月に胸ぐらを掴まれ、がしがしと揺さぶられながら、村雨は呟いた。
 「いや、小△さまがどーこーじゃなく、一般的に臨死体験は勘弁して欲しいってーか・・・」
 「この、贅沢者め!!」
 「どうせなら、『がんばれ、たつまくん』・・・じゃなくて!!」
 どうにか如月の手を振り払って、村雨は体勢を立て直した。
 「たとえ、他の世界に可愛くて色っぽくて健気な龍麻がいるとしても!俺は、俺の龍麻が良いんだっ!!」
 どどーん!(←効果音)

 その頃の壬生紅葉。
 「龍麻。君は、古武術を修得していたんだよ?」
 「え?古武術・・・?」
 「そう、それは、僕と同じ流派でね、しかも、僕らは表裏一体の技を修得した一心同体の間柄だったんだ・・」
 表裏一体と一心同体は似て非なるもののような気がするが。
 「そして、僕が兄弟子だったから、君は僕のことを『くれはおにぃちゃん』と呼んでくれていたよ」
 お前もか、壬生紅葉。
 「紅葉お兄ちゃん?」
 ちっちっちと壬生は人差し指を振った。
 「くれはおにぃちゃん」
 その微妙な違いに苦心しながら、龍麻は舌っ足らずに唱えた。
 「くれはおにぃちゃん?」
 「あぁああああっ!龍麻っ!」
 がしぃっと抱き締めて。
 「大丈夫っ!血は繋がってないからねっ!!」
 
 「やめんかーーっ!」
 壬生本人にはとりあえず村雨がかかと落としをかまして。
 「いやー、壬生は『血の繋がってない妹属性』だったのかー」
 うんうんと頷く京一に、如月が不思議そうな顔を向けた。
 「何だ、その『何とか属性』というのは」
 「うーん、『メガネっ娘属性』とか『猫耳属性』とかの旧勢力を後目に、最近赤丸急上昇中の新勢力『血の繋がってない妹属性』ってのがあるんだけどよ。旧勢力を押し退けるんじゃなく、勢力が重なることも出来るってのがポイント高いよな〜」
 誰がそんなことを聞いておるか。
 
 ぜーぜーと背中を波打たせながら、村雨は龍麻を確保した。
 龍麻本人はきょとんとした顔で村雨の腕の中に収まっている。
 「お前らなー、元の龍麻に戻す知恵でも出るかと思えば・・・何考えてやがる!」
 「えー、俺このままのひーちゃんでもいーかなーっと」
 「蓬莱寺くん・・・」
 「きょーちゃん」
 京一は、親指をびしっと立てて見せた。
 「きょーちゃん・・・」
 素直に龍麻は呼び方を変える。
 「僕も、別段、困りはしないな。はっはっは」
 「翡翠さん・・・」
 「あぁっ!もっと呼んでくれ、龍麻っ!」
 「僕も・・その・・・いえ、元の龍麻も愛しているのは確かなんですが・・・」
 「くれはおにぃちゃん・・・」
 「くっ・・・!許してくれ、龍麻・・・僕は・・僕は・・・!」
 
 どうもこれ以上ここにいても、埒が開かないのは目に見えた。
 村雨のこめかみで、ぶちぶちと何本か血管が切れる。
 「帰るぞ、龍麻」
 恐ろしく平坦な声で、村雨は低く言った。
 「あ・・・でも・・・」
 「帰るぞ、龍麻」
 繰り替えす声に、龍麻は後ろを気にしながら立ち上がった。
 「あぁっ!帰ってしまうのかい?龍麻!!」
 「あ・・その・・また来ます、翡翠さん、くれはおにぃちゃん、きょーちゃん」
 にこぉっと笑うと、ぴょこんといった感じで頭を下げる。
 「それじゃっ」
 それじゃあ〜・・と3人はでろんでろんにとろけた表情で手を振り返すのだった。


 怒り心頭に発したまま、村雨は龍麻をマンションに連れ帰った。
 怒ってますオーラに、龍麻は何度か口を開きかけては黙り込むというのを繰り返した。
 ついに意を決して、
 「あの〜・・・」
 「・・・何だ」
 「な、何でもないですぅ〜・・・」
 あう〜、とやっぱり大人しくなってしまった。
 そのまま夕食も終えて、風呂に入って。
 さ〜、寝るぞ〜という段になって、ベッドの脇でもじもじとする。
 「あのぉ・・・・」
 「何だ」
 「そのぉ〜・・・何にも、しないのかな〜?なんて」
 てへっ、と照れたように笑いながら様子を窺う龍麻に、村雨は肩をすくめて見せた。
 「何にもしねぇよ」
 「え?身体こみの恋人なんですよね?」
 心底不思議そうに尋ねる様子に、苦笑して、村雨は龍麻の頭を軽く叩いた。
 「元の龍麻とは、な。アンタは違うだろ?」
 「えとー、でもぉ〜・・・」
 「悪ぃが、元の龍麻じゃねぇと、その気になんねぇんだ」
 いや、浮気したら殺されるし、とも、ちょっぴり思ったりもするのだが、格好悪いので口には出さない。
 まだ納得してないような龍麻の頭をもう一度叩いて、ベッドに入るよう促す。
 やたらと広いベッドだから、二人で寝ても触れずにすませることも可能。
 村雨は、龍麻に背を向けると、やれやれ、と肩の力を抜いた。

 どうやら思ったより疲れていたらしく、眠りはすぐに訪れた。
 そうして眠り込んでいた真夜中。
 隣の気配が動いたが、慣れ親しんだ気配のため、あまり気にも留めずにいたのだが。
 うつらうつらとした頭の中で、何かがおかしいと警報が小さく鳴った。
 それにつれて覚醒し始めた意識が、そういえば龍麻はいつもの龍麻ではないと思い出す。
 がばっと身を起こし・・・いや、起こそうとして、それが出来ないことに愕然とする。
 両腕は頭の上へ向かい、なにやら拘束されているようで、左右にしか振れない。
 足も同様。
 顔の周りにも布が取り巻かれているのか、真っ暗闇で何も見えず、更には口の中まで柔らかな布が詰められている。
 呼吸を塞ぐほどではないが、何か喋ることはできないという、完璧な猿轡ぶりであった。
 じたばたしていると、妙に明るい声が降ってきた。
 「あ、気づきました?」
 「ん〜!」
 「えとね〜、俺としては、今の俺しかいないんだし〜、他の友達は、今の俺でも良いって言ってくれるのに、肝心の恋人が駄目出しするんじゃさー、困っちゃうじゃん」
 「んが〜!」
 「それでね?どうせなら、村雨さんにも、今の俺が良いって言って貰いたいな〜なんて思うんだけど〜」
 「んぐわ〜!」
 「どーしよーかなー、なんて考えて、やっぱり、既成事実を作っちゃおうかなーなんてね♪」
 「がっがが〜!?」
 「俺、したこと無いけど、サービスするよん♪俺の方が良いって言って貰わないとねっ」
 「ん〜〜!」
 じたばたじたばた。
 しかし努力空しく、パジャマの前は開けられ、ズボンは引きずり下ろされる。
 両足はやや開き気味で固定されているため、途中まででズボンは止まった。
 村雨の焦りを感じ取ったように、龍麻はくすくすと笑った。
 「だーいじょーぶ!俺が突っ込むんじゃないから!」
 そりゃ不幸中の幸いだが。
 ・・・しかし、このまま甘んじているわけにも。
 何とか腕の拘束が弛まないかと筋肉を怒張させたり弛緩させたりするも、柔らかな拘束ではどうにもこうにもならない。
 却って締め付けられる状態に焦っている間に、腹の上に体重を感じたかと思うと、顎の辺りに吐息を吹きかけられた。
 「んふ♪ホントはキスしたいんだけど、口、詰めちゃったもんね」
 呟いて、僅かに覗く下唇を自分の唇で挟んでは舐める。
 その触れるか触れないか程度のかすかな刺激が、むず痒いような快感を呼び起こして、村雨は慌ててそれを追いやろうとした。
 そのまま唇は這い降りて、喉元を通り、胸へと辿り着いた。
 小さな突起を舌で転がしたりぺちゃぺちゃと舐めたり。
 指は相変わらず触れるか触れないかほどの刺激で皮膚を這い回り。
 「・・・祇孔・・・」
 その吐息のような囁きが。
 まるで恋人に言われたような錯覚を起こして、思わず反応してしまう。
 「祇孔って呼ばれるの・・・好き?」
 また囁いて、乾いた手が、ひたりと腹筋に置かれた。
 そうしてコンマ数秒の後に、村雨のそれに吐息がかけられた。
 「・・・おっきい・・・」
 溜息のような声が聞こえたかと思うと、それが、くい、と立てられた。
 (くっそ〜・・・)
 頭の中だけで罵っても、この状況が変わるわけでなし。
 それどころか、熱い感触に包まれて、呻きを漏らす。
 誰とも知れぬ相手にこんなことをされたなら、醒めてしまって反応もしないだろうが、何せ気配は恋人そのもの。
 喋り方は全く違うとはいえ、こんな囁き声では違いも分からない。
 (やり方が違う!)
 可愛い恋人とはしゃべり方もしゃぶり方も違うんだ!と自分に言い聞かせても、却って新鮮だなーなんて頭の片隅で考えてしまう自分がいて。 
 もー、いっそのこと、流されちまった方が、お互い楽しいんじゃないだろーか、ひょっとしたら、ホントに一生このままかも知れねぇし〜・・・と、ふと頭を過ぎって、慌てて首を振る。
 いーや、こんな無理矢理縛られて犯られるなんざ、村雨祇孔の男が廃る。
 やっぱりこんな奴に良いようにされてたまるか!
 ・・と、結論づけたのはいいものの、すでにおっきくなっちゃってたりなんかして。
 先に滲み出た液体を、指先がすくい取る感触があったかと思うと、
 「・・・ん・・・」
 なんて微かな声とともに、ぴちゃっと濡れた音が聞こえてきて。
 どうやら自分で慣らしているらしいと見当づいて、一気に熱が集中した。
 (見てぇ!)
 なにせ、見た目は龍麻そのものなのだ。
 それが、自分で慣らしてる図、なんて今まで見たこともなければ、今後もまず見られないと思われるレア映像である。
 どんな顔してやってんだろう、指は何本まで入れてんだろうか・・・などとついつい想像してしまい、顔がにやけるのを止められない。
 「・・・あん・・・」
 時に聞こえる喘ぎが何とも艶めかしく、思いっきりやる気満々になってしまった自分を宥めようも無く。
 やっぱ、いっそ流されてしまえー・・とどこかで囁く声に身を任せた。
 わくわくして待っているそれが、きゅっと握られた。
 先端が、どこかに触れ。
 きつく締め付けられる感触に眉を顰める。
 「・・・やっぱり・・・・おっき・・・」
 吐息のような囁き。
 だが、やめる気配もなければ、その声も、苦痛ではなく陶酔を感じさせて。
 腰がゆるゆると回され、僅かずつだが全身を飲み込んでいく。
 ほぼ、入りきったところで、
 「・・あぁん・・・」
 悩ましい嬌声とともに、内部がざわりと蠢いた。
 (・・・くっ・・・考えてみりゃ、身体は先生のもんなんだよな・・・)
 初心者がやっているとはいえ、身体は村雨に慣れている。
 すぐに快楽を感じ取ることが出来たのか、腰が動き始めた。
 「・・・あん・・・・い、い・・・気持ち、いいよぉ・・・」
 自分の望むところへ、望むだけ。
 腹の上の『龍麻』は、譫言のように素直な言葉を紡いで、貪欲に食らいついている。
 じきに、淫猥な水音は、2カ所から聞こえるようになってきて。
 どうやら、自分で自分のモノも擦り上げているらしい。
 龍麻が感じた快感のままに、熱い襞が村雨を締め付ける。
 「・・あうん・・!・・あ・・いい・・いっちゃい・・そ・・・」
 ますます激しく追い上げられて。
 下半身にじわりと熱が凝って渦を巻く。
 
 それでも。

 身体の熱とは逆に、冷めていく精神があって。

 「気持ちイイ」とか「いきそう」とか。
 素直に言って欲しいと望んでいたのだけれど。
 どうしても絶対に、口を割らない龍麻が大好きだった。
 それが、こんな簡単に素直に喘いで。
 愛しい人の声だけれど、これは絶対に違う。
 これは、自分の愛している人では無い。

 身体の欲求に負けて、腹の上で踊る『龍麻』の内部に思い切りぶちまけながらも、彼をほとんど『憎い』とさえ思った。


 身体の上に、寄り添うように倒れてきた身体は、はっはっと短く息を吐いている。
 やがて、息が整っていき、身動きした途端、まだ内部に納めていた村雨に、少しばかり息を飲む気配がした。
 ゆっくりと、身体が伸べられて、指先が顔の辺りをくすぐったかと思うと、はらりと顔の周りを覆っていた布が解けた。
 口に詰まっていた布も抜き取られる。
 やはり暗闇の中ではあるが、先ほどまでの視界とは全く違う。
 外からの月明かり、ベッドのフットランプ・・そういったもののおかげで、暗闇に慣れた目には眩しいほどに明るく見えた。
 2,3度目を瞬いてから、目前の少年を睨み付けた。
 その視線を真っ向から受け止めて。
 少年は、かすかに、笑った。
 途端。
 何故か、下半身が思いっきり反応した。
 一瞬、少年の眉が顰められ、それから、苦笑気味に口が歪む。
 何か言いかけて、ふと、悪戯っぽい顔になったかと思うと、ゆるゆると腰が動いた。
 「・・・おい・・・」
 「・・・満足・・・した・・・?」
 そんなわけ無いだろう、との言外の問いかけに、
 「そりゃ、アンタだろう」
 と答える。
 婉然と微笑む顔が、遠ざかった。
 村雨の上に跨って、視線は逸らさないままに、ゆっくりと動き始める。
 漏れる吐息は、同じ声であり、全く違う声であった。
 良いときには、却って息を詰め、鼻から抜けるような鳴き方をして、決して「イイ」とは言わない。
 自身の快楽に溺れていながら、「お前はどうだ」と言わんばかりの傲然とした視線を下ろしてくる。
 動きに合わせて、下から突き上げると、ひゅっと息を吸う鋭い音がした。
 陶然とした表情と、かすかに怯えを含んだ、しかし強気な視線。
 押さえても押さえきれない喘ぎ声。
 やっぱ、これだよ!と頭の中で感動しつつ、本能の命ずるままに、欲望を解放した。

 今度こそは身も心も満足して、大きく息を吐いた村雨の上で、龍麻がもそりと動いた。
 「先生・・・腕、解いてくれよ」
 濡れた目でじっと見つめ、しびれを切らしかけた頃に、ゆっくりとした動作で腕に手が掛かった。
 ようやく自由になった手首をこきこきと鳴らし、ついで、起き上がって、足に手を伸ばした。
 まだ、入ったままだった龍麻は、正面から抱き上げられるような形になって、慌てて村雨の首に手を回す。
 すっかり自由な身になってから、村雨は腕の中の恋人を思い切り抱き締めた。
 「会いたかったぜ、龍麻」
 「・・言うのが、遅い」
 くすくすと笑いつつ、龍麻も腕に力を込めた。
 額と額を擦り合わせつつ、村雨は情けない声を漏らした。
 「今回ばかりはもう・・・マジで、先生に会えなきゃどうしようかと思ったぜ」
 「おや?中身が違っても、十分勃った上に、イったようだが?」
 「・・・いや、それは、その・・・ほれ、見かけはアンタだし・・・」
 「見えて無かったくせに」
 「いや、その、だから、気配とか、声とか・・な」
 口で言うほどには気にしてない様子で、龍麻はくすくすと笑っている。
 それに気をよくして、村雨は、耳元で囁いた。
 「やっぱ、アンタじゃねぇと気分出ねぇって。・・・全然、馬力が違うとこ、証明してやるからな」
 そのまま押し倒しても、やっぱり龍麻は笑ったままだった。
 


 翌朝。
 村雨が目覚めた時、傍らの存在は、隣に座って、村雨の顔をなぶっていた。
 なにやらデジャブな感覚に、慌てて目を開けると、龍麻がにやりと笑った。
 「おはよう」
 どうやら、わざとやったらしい。
 「・・・アンタな・・・あせらせんなよ」
 枕に頭を沈めて溜息を吐くと、上から、ちゅっと音を立ててキスが降ってきた。
 そう、これが朝の光景ってやつだよ、と幸せを噛み締めていると、龍麻がするりと床に降り立った。
 よく見ると、すでに服を着込んでいる。
 「・・・?どっか行くのかい?」
 「あぁ」
 そのときの龍麻の笑顔は、そりゃもう、黒い尖った尻尾が盛大に振られているのを連想させてくれた。
 「ちょっと、翡翠さんと、くれはおにぃちゃんと、きょーちゃんに、ご挨拶を・・・な」
 「・・・あ、そう・・・」
 気の毒だが、自業自得だ。
 そう納得しながらも、村雨は聞いた。
 「アンタ、覚えてんのかい?」
 「どうやら、な」
 記憶喪失というのがどういうものかよく分からないが、龍麻がそう言うのなら、そうなんだろう。
 ・・・っと、記憶喪失だったんだっけか?
 「・・・なんで、アンタ、元に戻ったんだ?」
 タイミングは、確か・・・。
 夕べは、嬉しさのあまり追求しなかったが、一回やった後に、急に戻ったんだったっけか?
 あぁ、と言って、龍麻はくそ真面目な声で答えた。
 「セーブデータをロードしたからじゃないか?」
 ・・・・・・はい?
 「だからぁ、俺の中にもお前のデータはあるが、お前の中にも俺のデータはあるってことだ」
 ・・・・・・・・・・・・。
 俺の中に、龍麻のデータ・・・。
 ・・・・・・・あ。
 「そうだなぁ。そういや、毎日、口にしてるわな」
 「そういうことだ」
 照れもせずに、龍麻は頷いた。
 
 納得したような、ホントにそれでいいのか、人間ってそういうものだっただろうか、とかちょっぴり悩んでいる村雨を後ろに、龍麻は部屋を出ていこうとした。
 そして、戸口で、「あ」と、ふと思い出した、というような声を出した。
 振り返り、数歩戻ってくる。
 「俺が良いって、言ってくれてありがとう」
 「・・・あ?」
 顔を上げると、唇が押し当てられた。
 「嬉しかった」
 ほんのりと目元を染めて、幸せそうに笑う龍麻の顔に、村雨はしみじみと、如月に言いくるめられなくて良かった・・・と思うのだった。
 ・・・ほんの少し、やばかった・・・とか背筋が冷えたりもしたんだけど。


  龍麻の襲撃を受けた3人が、どんな目に遭ったのかは、村雨は知らぬ存ぜぬで通した。

  
  ちなみに、御門は、1週間寝込んだらしい。



     合掌。



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あとがき
17777のキリリクになり損ねたり、襲い受け同盟用捧げ物になり損ねた
只の記憶喪失ネタです(笑)。
いや〜、すぺさるげすと(?)がいたり、襲い受けがどっかで見た媚薬なシチュエーション
(攻め縛り)だったりするので(しかもレベル格段落ち)。
朱○さま、涙△さま、小×さま、ありがとう御座いました〜!
(伏せる必要はあるのか)
なお、元ネタは、
朱○さま:過去トップ絵の『お留守番』
涙△さま:カウンターの『幸せ未来計画』
小×さま:傷の体温シリーズ及び『がんばれたつまくん』
楽しかったです、うふ。


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