後編
その後も、何人かの酔っぱらいさんと遭遇しながらも、蓬莱寺君の案内で裏路地を見つけた。
そこには・・・白くておっきい人がいた。
ぶ、無精ひげ・・・目つき恐い・・・なんか、迫力・・・
や、やだな・・・僕、こーゆー人、苦手で・・
目が合いませんように・・とみんなの後ろで縮こまっていたら、
「千代田皇神の村雨祇孔」
って名前が聞こえてきた。
「あのぅ・・」
つんつん、と桜井さんの制服の裾を引っ張る。
「なに?ひーちゃん」
「千代田皇神って・・・ヤクザさんの組の名前か何かでしょうか?有名なんですか?」
桜井さんは、一瞬目を見開いて、それから吹き出した。
「やだなー、ひーちゃんてば。そりゃ、あの人、老けて見えるけどさー。千代田皇神って、学校の名前だよ!」
「・・・・え?え?え?が、学校!?・・・予備校とか、大学とか・・・」
「聞こえてるぜ?」
ドスの利いた声が這ってきた。
あう・・・村雨さんの声・・でしょうねぇ・・
そうっと目を上げると・・・村雨さんがこっちを睨んでた。
「言っとくが、俺ぁ、80年7月7日生まれの、正真正銘高校3年生なんだがねぇ」
「すすすすすすすみません!!!
あのあのあの、決して、あのその悪意があって言ってるんじゃ無いんです〜〜!!
あのあのあのあのあのあ・・お、そう!大人びた方だなぁっと!!
あのあのぉ・・・お気に・・・触りましたでしょうか・・・」
あう〜また、やってしまった〜・・・
どーして、こう、僕は、つまらないことを口走ってしまんだろう・・・
普通の高校3年生が、ヤクザさん呼ばわりされたら、そりゃ、ご気分を害しますよね・・はは・・
はう・・村雨さんの目が恐い〜・・斬りつけられそうな目だよぉ・・
じりっと村雨さんが足を進めてきた。
あうあう・・思わず、後ずさる、情けない僕。
「随分な口を聞いてくれるじゃねぇか、緋湧龍痲さんよ」
あうあうあうあう申し訳ありません〜〜!!
・・・って、あれ?
僕、名前、言いましたっけ?
あれぇ???
考え込んでる間に、なんか、話が進んでたみたいだ。
えーと、村雨さんと戦ったら、名前知ってる理由を教えてくださるんですね?
それじゃ、戦いますけど・・・
「美里さん」
「なあに?龍痲」
「えーと・・この方々は、村雨さんに操られてる・・・という訳じゃないんですよね?」
村雨さんと僕たちの間には、不良さん達が何人も立ちはだかっている。
美里さんは、そうね、と首を傾げて、不良さん達の<氣>を見た。
「村雨さんの舎弟さんじゃないかしら。ただ、単に村雨さんに心酔しているという・・」
そうですね、そんな感じですよね。
ってことは、村雨さんって、そう悪い人じゃないんでしょうけど・・。
「えーと、じゃあ、この普通の一般人の方々には、極力怪我をさせないという方針でお願いしたいんですけど・・」
「ひーちゃんは、相変わらず、甘いぜ」
「そうだな、こちらに立ちふさがっているのだから・・」
却下ですか・・でも、一般の方を傷つけるのは、気が引ける・・
しょうがないなぁ・・村雨さん一人を狙ってみよう・・
そしたら、他の方も引いてくださるかもしれないし・・
「それじゃ、行きますね」
戦闘開始。
僕は、とりあえず、村雨さんめがけて最短距離を行くことにした。
後ろで、皆さんが怒鳴ってる・・
すみません、先走ってます。でも、この方が、怪我人が少なくて済むと思うので・・
「けけっ。行かせねぇぜっ」
あう・・いきなり、目の前を塞がれた・・。
「えーと・・その・・申し訳ありませんが、退いてくださると大変有り難く・・」
「うりゃっ!」
あう・・ナイフで斬りつけられてしまった・・
しょうがないか・・
「すみませんっ!」
進路を確保さえ出来たら良いので、横向きに掌底をば・・
あうあう・・なんか、吹き飛ばした先に、看板がある〜!
うっわ〜・・派手な音がしてすっころんじゃったよ、あの人・・大丈夫かなぁ・・
後で、治療させていただきますので、今はご勘弁を・・
ちらちらとそちらを見ながら走ってると、意外と近くに村雨さんがいた。
こっち見て、にやっと笑う。
なんだか・・イヤな予感が・・
「絶場・素十九!」
ひーん!!
辛うじて生身に傷は避けたつもりだけど・・
制服が、切れ切れになってるよぉ・・
また、新しい制服買わなきゃ・・一年間で何着目だろう・・怒るかな、母さん・・
「くくっ、良い格好だねぇ」
あう・・バカにされてるし・・
「えと・・大変、心苦しいのですが・・秘拳・鳳凰をば、少々・・」
あ・・吹っ飛んじゃった、村雨さん・・
って、あれ?村雨さん?どちらに?
おーい、村雨さ〜ん?
「貴様!よくも村雨さんを!」
「すすすすみませんっ!」
舎弟さん達をかわしつつ探すと・・
あ〜〜!!
吹き飛んだ先に工事現場の穴が〜〜!!
だっ大丈夫かな、村雨さん・・穴・・深いのかな・・
「村雨さん・・?」
恐る恐る覗いてみると、村雨さんが、穴の底から見上げていた。
「ちっ、ついてねぇぜ」
・・結構、深い?でも、お怪我は無さそうだけど・・
手は、届かないかな。
「あの〜・・すみません、そちらの方、少々、お手を患わせますが・・よろしいでしょうか?」
とりあえず、手近の舎弟さんに声をかけてみた。
「へっ?お、俺っすか!?」
「はい、あの、村雨さんを引っ張り上げたいのですが、僕だけじゃ無理そうなので・・」
舎弟さんは、ちょっと目を白黒させてたけど、手を貸してくれた。
村雨さん、尊敬されてるんだなぁ・・
舎弟さんの手を左手で握って、右手を村雨さんに差し出す。
「・・・お前、ひょっとして・・・バカか?」
「・・・よく、言われます・・・」
ぶつぶつ言いながらも、村雨さんは、僕の手を取ってくれた。
穴から引っ張り出すと、勢い余って、村雨さんが、僕にのし掛かってきた。
重い・・
あの・・村雨さん?
重いんですけど・・退いてくれますか?
「ふぅん・・・バカはバカだが・・・嫌いじゃねぇな、そういうバカは」
はぁ、どうも・・・
・・・バカにされてるのか、誉められたのか、ちょっとよく分かりませんが・・
村雨さんは、じーっと間近で僕の顔を見る。
目が寄りそうです、村雨さん。
ひょっとして、近眼なんでしょうか?
なんだか、多いんですよね〜・・仲間内に、近眼の方が。
こんなに、鼻が触りそうなくらい間近に見るほどの近眼の方はいらっしゃいませんが。
えーと・・あ、村雨さんの手が、僕の胸の辺り触ってる。
あ〜・・制服、ぼろぼろだから、直接肌に触れてるよ・・
く、くすぐったい〜!
・・・はっ!素肌ってことは・・・
壬生君に編んで頂いたセーターまでぼろぼろ!?
ああああっ!
ごめんなさい、壬生君!!
「悪かったな。怪我はしてねぇかい?」
あ、傷を確かめてらっしゃったんですか?
すみません、ご心配をおかけしまして・・大丈夫なようです・・
「てめぇ〜〜!!イカサマ〜!!!ひーちゃんの上からどけぇ〜っ!!」
あぁ、蓬莱寺君達が、こちらに向かってるようです。
舎弟さん達は、大丈夫でしょうか・・・・・・
・・・・・あっ!
僕は、慌てて起きあがった。
そう!舎弟さんの一人を突き飛ばしたんだった〜!
村雨さんを押しのけて、僕は覚えのある位置へ向かう。
あうあう・・あぁっ舎弟さん達が、集まってる〜!
け、怪我しちゃったのかな・・
「あ、あのあのあの・・これ、太清神丹って薬でっ!」
僕の分の薬を取り出す。
よかった〜制服、ぼろぼろだけど、薬は無事だった〜。
僕の差し出す薬を、その人はイヤそうに見つめた。
そうですよね、これ、漢方臭いですもんね・・いきなり飲めと言われても、アレですかね・・
えーと・・自販機、自販機・・
「おい・・」
あ、あった!
烏龍茶でいいでしょうか。
僕は、悩んだ挙げ句、あたたか〜い烏龍茶を買って、舎弟さんにお薬を渡した。
「あの、苦いですけど、効きますから・・・すみません、自分で怪我させておいてなんですけど・・」
「おいって・・」
「あ、他の方も、怪我をなさってる方はいらっしゃいませんか?まだ、薬ありますので・・」
「聞け〜!緋湧龍痲〜!」
「はい〜〜っっ!?」
思わず、返事して、振り向くと、村雨さんが睨んでた。
はう〜・・怒ってる〜・・
「すすすすすすみませんっ!舎弟さん達に、お怪我をさせてしまいましてっ!傷の手当てだけはさせていただきますので、どうか、ご容赦をっ!!」
あわあわと頭を下げると、村雨さんが、がくーっと肩を落とすのが見えた。
・・?なんか、僕、変なこと言ったかな?
「おい・・・アレは、いつもあんな調子なのかい・・?」
「あぁ・・・あんな感じだ・・・」
醍醐君まで、肩を落としてる・・
はう・・・僕、また、何か、やっちゃいましたか・・
村雨さんは、盛大に溜息をついて、僕を見た。
なんだか、世界一の珍獣でも見てるような目だった・・・・。
追記。
立ち上がって、みんなの方を見た途端に、醍醐君と蓬莱寺君が、鼻血を吹いた。
・・・どうしたんだろう?顔でも殴られてたのかな?
あとがき
えーと、ですね。正確には、絶場・素十九は、敵状態では使えませんが、ちょっとやってみたかったんです。
絶対使うよね〜、かまいたち(ですよね?)で、服びりびり。
それにしても、『心から始まる関係』を書いてみたくて、始めた三号さん・・・別の意味で、心から始めるのが難しい子になってしまった・・・。ちゃんと自覚できるのか?こいつ。(自分で書いて、何言うとるかね)
いつもだったら、平文でツッコミを入れるのですが、一人称だと突っ込めないので、三号さんのボケには、皆様、各自心の中で突っ込んでやって下さい・・。