企図遭遇  前編


 僕の名は、緋湧龍痲。
 今年の春から、新宿にある真神学園に通ってる、高校3年生の男子。
 地元では、すごくイジメられっ子だったんだけど、鳴滝さんっていう死んだ父のお友達の方が、鍛えてくれたので、ちょっぴり強くなったんだ。
 で、昔の僕のことなんか知らない処に来て、何とか頑張ってみたんだけど・・やっぱり、性格はあんまり変わんなくて・・・。
 いろんな事件に巻き込まれちゃったりした時、僕、もうひたすらおたおたするばっかりで、情けないんだけど、こっちに来てから出来たお友達が、とても良い人たちばかりで、事件解決したり、人助けしたり、僕を引っ張ってくれて、僕、ホントにそんなこと初めてで、嬉しいし、でも、やっぱり情けなくて・・・・あぁっ、僕、何言ってるんだろっ!
 僕、小さい頃から、一人で考えてても、すぐ混乱しちゃうんだよね・・。
 だもんだから、僕のお友達は、みんな『ピコピコハンマー』を持っててくれてる。
 如月君が、『ピコハン(そうやって略すのって、業界用語なのかなー、なんか、カッコイイよね)の卸業者さんが、驚いていたよ。最近、発注数が異様に多いと』
 って、言ってた。・・・すみません、多分、その大半は、僕が消費してると思います・・。

 僕、みんなに頼ってばっかりだから、誰かに頼られるの、すごく嬉しいんだ〜・・ちょっとだけでも、恩返しできたら良いなって思ってる。
 だから、その朝、蓬莱寺君が夏服で登校してきたときは、張り切ったんだ。何か、役に立てるかなって。
 ・・・あれ?あ、違った。
 夏服を見たときは、感動したんだった。

 「うわあ、蓬莱寺君、夏服ですか〜・・お元気なんですね〜」
 そしたら、蓬莱寺君は、なんだかちょっぴり狼狽えたみたいだった。
 「おうっ!俺はいつでも、元気一杯だぜ!」
 でも、ガッツポーズしてくれて。蓬莱寺君は、上腕二頭筋が発達してて、そのポーズが似合って,うらやましい・・。
 「・・京一。龍痲の前だからと言って、格好をつけるな」
 醍醐君が、不機嫌そうに言った。
 え?僕?
 僕が・・・何か?

 結局。
 蓬莱寺君が夏服なのは、身ぐるみ剥がされちゃったのが理由らしくて。
 あ、そうそう。
 それで、なんかよく分かんなかったけど、その『イカサマ』を見破るのに、僕が役に立つみたいで。
 へへ・・頑張るぞっ。
 ・・・本当に、役に立てるかな〜・・見えなかったらどうしよう・・せっかく、期待してくれてるのに・・あ、なんか、胃が痛くなってきた・・。

 「どうしたの?龍痲・・なんだか、顔色が悪いわ・・」
 あぁっ、すみませんっ!
 美里さんにまで、ご心配をかけてしまいました・・ただでさえ、美里さんにはお世話になりっぱなしなのに・・あう・・そんな、悲しそうな顔をされると、僕としてはどのように対処すればよいのか、さっぱりわからず・・
 「だ、大丈夫ですっ!すみませんっ!僕、全然、平気ですから・・」
 「ホント?・・実は、ひーちゃん、歌舞伎町に行くの、イヤなんじゃないの?いいんだよ?京一なんかほっといても」
 桜井さん・・いえ、行きます!
 『どーたいしりょく』を何とか発動させて見せます!
 ・・なんとか、なると・・・多分・・・。

 「あ、それよりも!」
 僕は、美里さんと桜井さんの追求をかわしたくて、あわあわと手を振った。
 「蓬莱寺君、寒くないですか?僕、寒がりなんで、制服の下にセーター着てますから、あの、よろしかったら・・・」
 んーと。
 制服は、貸してあげられないよね。僕のじゃ少し小さいし。
 セーターなら、伸びるから、蓬莱寺君でも合うと思うし、暖かいと・・
 んしょんしょと、脱いでいたら、蓬莱寺君が、鼻血を吹いた。
 ・・寒いのに・・のぼせたのか〜・・すごいな〜、寒がりじゃない人って。
 「ひ、ひーちゃんの、脱ぎたてセーター・・!俺は、もう、この温もりに包まれて、死んでも良い!」
 ・・・ほえ〜・・でも、やっぱり、寒かったのか〜・・。
 セーターにすりすりしてる蓬莱寺君の身体を、いきなり深紅の光が包んだ。
 「・・?」
 「うふふ・・ねぇ、龍痲。龍痲は寒がりなんだから、セーターを着ているのでしょう?駄目よ、風邪をひいてしまうわ」
 美里さんが、僕のセーターを手に、立っていた。
 えと・・・それ、蓬莱寺君に貸したつもりなんだけど・・
 というか・・蓬莱寺君は、どちらに行かれたのでしょう・・。
 
 美里さんや桜井さん、醍醐君まで、セーターは僕が着ていた方がいいって言うから・・結局、僕は、脱いだセーターをまた着た。
 蓬莱寺君は、何故か急に、もう暖かいから、平気だって言った。
 なんでかなー・・くしゃみとかしてるのにな〜・・
 あ・・僕の体温が残ったセーター・・気持ち悪かったかな・・
 トイレの便座とかでも、人が座ったあとで、ほんのり温かかったりすると、気色悪いもんね〜。
 蓬莱寺君、優しいから、断れなかったとか・・。悪いコトしたな〜。


 放課後、僕は、みんなに連れられて、歌舞伎町に行った。
 「ほえ〜・・なんか、大人の街って感じ〜・・蓬莱寺君は、お一人でこちらを歩かれたんですか〜・・勇気がありますね〜」
 僕、イジメられっ子だったから、不良さんとかすごく苦手で、だから、『繁華街』ってものには、出来るだけ近づかないようにしてたんだ。
 こんなところ、一人で来いって言われたら、泣くかも・・。

 みんなと一緒でも、やっぱりちょっと恐いので、なるべく後ろにこっそりと付いて行ってみた。
 そしたら、壬生君に会った。
 「あ〜!壬生君だ〜。こんにちは〜」
 壬生君は、とっても真面目で優しい方なので、僕は好きなんです。
 「こんにちは、龍痲」
 壬生君は、にっこり笑ってくれた。それから、手を伸ばして、僕の首元を触った。
 うわ〜くすぐったい〜。
 「セーター。着てくれてるんだね」
 壬生君が指先につまんでいるのは、草色の毛糸のクズ。
 「はい。とっても、暖かいです。有り難うございましたっ」
 この間、壬生君がセーターを下さったんです。手編みだそうで・・すごいな〜、僕、不器用だから、尊敬しちゃうな〜。
 「嬉しいよ、着てくれて。・・あぁ、サイズはぴったりのようだね」
 壬生君が、制服の上から、僕の肩、腕、腰を確かめた。
 はい、ぴったりです。計測もしなかったのに、すごーくぴったりでした。
 やっぱり、僕って、平均身長だから・・。
 
 「壬生ーーっ!てめぇ、いつまで、ひーちゃんに触ってんだーーっ!」
 いきなり、蓬莱寺君が、僕を後ろから引っ張った。
 思わずふらふらとこけかけたんだけど、醍醐君が、後ろから抱きかかえるみたいに支えてくれた。
 はう〜・・情けないな〜僕って・・・。
 「壬生。仕事ではないのか?」
 醍醐君が、みょーに硬い声で指摘した。
 あ、そーか・・あんまり、大声とか出したら、迷惑なんだ。
 「すみません、壬生君。お仕事のお邪魔をしてしまって・・」
 「いいよ。声をかけたのは、こっちだったからね」
 そうでした〜・・やっぱり、壬生君がいた位置でおしゃべりするのはマズいのか、数百mは離れてる場所から、全力で走ってきて下さいました。
 「すみませんでした・・今度、お仕事じゃないとき、ゆっくりお話して下さいますか?」
 「そうだね・・是非・・」
 壬生君は、やっぱり、にっこり笑って、それじゃ、って言った。
 本当に、笑顔の素敵な方です。
 えーと・・何か、言い忘れたような・・
 あ、そうだっ!
 「壬生君っ!」
 慌てて、僕は、追いかけた。
 「なんだい?龍痲」
 不思議そうに、壬生君が振り返る。
 あ、お仕事の邪魔してるのかな、僕・・でも、これは言っとかなきゃ・・
 「壬生君、怪我しないでくださいねっ!お気をつけてっ!」
 「龍痲・・」
 壬生君は、僕の両手を握った。
 うわ〜、冷えてる〜。
 駄目だよ〜蹴り技主体でも、手も温めとかなきゃ・・
 「龍痲。もしも、僕が怪我をしたら・・・看病してくれるかい?」
 壬生君は、一人暮らしだそうだから、怪我をしても、誰も手当てしてくれないんですね〜。
 「もちろんです!僕に出来ることなら、なんでも、します・・けど・・でも、やっぱり、怪我はしない方がいいですし・・」
 「何でも、か・・何でも、ね・・・・・」
 えーと・・。
 なんだか、身を乗り出して来ている壬生君の目が光ってる・・。
 なんでかな〜・・僕、なにか、変なこと言ったかな〜。
 僕が悩んでると、後ろから、美里さんの手が肩に置かれた。
 「うふふ・・勿論、私が全力で癒しを施すわ・・安心してね、龍痲」
 美里さんて、いい人だな〜。
 「仲間、ですものね。当然よ。そうじゃない?龍痲」
 うんうん、そうですね。お友達、ですもんね。
 よかった〜、みんな、仲良しで。
 

 壬生君ともお別れして、そろそろ時間も良いから、と、蓬莱寺君が『身ぐるみ剥がされた』路地裏へと向かう。
 あう・・酔っぱらいさんが、寝てる・・
 大丈夫かな〜・・風邪ひかないかな〜・・声かけた方がいいかな〜・・
 「あの・・お風邪を召されてしまいますよ〜」
 「・・・なんだー?・・ヒック。こりゃ、きれーな姉ちゃんじゃねーか・・ヒック。一緒に、飲もうぜー」
 あわわわわ。
 しがみつかれてしまった。
 やっぱり、酔っぱらってらっしゃるんですね〜・・僕が、『綺麗な姉ちゃん』に見えるなんて・・

 がつっ!

 ・・・・がつっ?
 あぁっ、醍醐君、殴っちゃ、駄目〜!
 「龍痲・・・頼むから、もう少し、気を付けてくれ・・」
 えと・・何が?
 ひょっとして、こちらの方は、敵さんでしたか?
 「なあ、ひーちゃん。ひーちゃんは、見知らぬ酔っぱらいにキス・・じゃなかった、ゲロ吐かれたくないだろ?」
 あぁ、はい。そうですね〜。できましたら、見知った方のでも、ゲロはあまり有り難くないです。
 そうか〜・・おじさん、吐きそうだったのか〜。
 でも、殴るのは、やりすぎだと思うけど・・
 「・・・すまん。つい、咄嗟に・・」
 あぁっ!醍醐君を責めてるんじゃないですっ!
 僕がとろくさいのがいけなかったので!
 酔っぱらいさんには、お薬を置いていこう・・。

 


やっと出てくる村雨さんに会う


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