愛してると言ってくれ

後編

 4日目(水曜日)。

 (翌日には、すっかり元気に・・なんて風には、うまく行かないモンだな)
 相変わらず、高熱と、喉の痛みにぐったりする龍麻がいて。
 予告通り、加湿器を買いに行き、湿度設定を上限まで上げて、フルパワーで働かせる。
 部屋の中は、冬とは思えないような温度と湿度になっているのに、相変わらず、龍麻は汗一つ出ていない。
 死んだように眠り続けるのを、無理に起こして、水分を口にさせる。 
 夕刻、見舞いに来た真神の連中と一悶着(『何で、てめぇがここにいるんだ!』『先生は寝てんだよ!静かにしやがれ!』)起こした以外は、何もなく一日が過ぎていった。


 5日目(木曜日)。

 (全然、よくならねぇな・・)
 「先生、桜ヶ丘行くぞ」
 『あそこは、産婦人科だから、妊婦がたくさんいる。風邪を伝染すのは、不本意だ』
 更に悪化して、声が出ないため、筆記で意志を伝えている龍麻だった。
 「フェミニストを気取ってる場合じゃねぇだろ。普通の病院も駄目なんだろ?」
 嫌がる龍麻に、無理矢理セーターだのコートだのを着せて。
 着だるま状態でタクシーに乗せて、行き先を言うと、運ちゃんは、
 「おめでたですか?」
 と聞いてきた。
 身体のラインが見えない上に、顔も下半分はマフラーで隠れている。
 しかも行き先は産婦人科。
 他人が間違うのも、無理はない。
 とは言うものの、いつもなら、確実に怒り心頭に発するはずの龍麻が、今日は、全く無反応。
 余程、身体が辛いのだろう、と、『余計なこと言ってないで、さっさと行きやがれ!』という殺気を帯びた視線で、運転手を睨み付ける。
 その甲斐あってか、後は、何も言わなくなった運転手によって、二人は無事、桜ヶ丘に着いた。

 この期に及んでも、遠慮がましく待合室の一番すみに座る龍麻の肩を抱いて、村雨はイライラと足を鳴らした。
 その膝を、龍麻が無言で、ぺしっと叩く。
 返事の代わりに、回した腕に力を込める。
 
 無言でコミュニケーションを取っている様は、イチャイチャしすぎの感はあるにせよ、『夫婦』と言っても差し支えのない光景であったので、実は男二人だという点に気付かれることもなく、約20分が経過した。

 「緋勇龍麻さん〜」
 まあ、看護婦に呼ばれ、二人が席を立つと、さすがに『あれ?』と言う視線が浴びせられたが。

 「おう、どうしたね。まあ、アンタなら、いつでも歓迎だけどね、ヒヒヒ・・」
 相変わらず無意味なまでに、迫力のある先生だ。
 無言で頭を下げる龍麻に代わって、村雨が説明する。
 「3日前から、熱と喉の痛みがあるんだが、全然回復の気配が無くてね。先生は、妊婦に伝染すのは嫌だから来たくないっつったんだが、俺が無理矢理、連れてきた」
 「いいんだよ、そんなこと、気にしなくて。・・・女ってぇのはね。丈夫に出来てんだよ。さ、脱ぎな」
 なんだか、この医師の前で服を脱ぐのは自殺行為のような気もしたが、いや、先生は俺が守り通すぜっと、密かに気持ちは臨戦態勢を取った。
 無言のまま、龍麻がコートを脱ぎ、セーターを脱ぎ、パジャマの上を脱いで・・・
 (あ、やべぇ)
 現れた上半身は、うっすら上気して。
 一時に付けたのではないことが一目瞭然の、色とりどりの花びらが散々に舞っていた。
 「相手は、アンタかい?ヒヒヒ、いいねぇ、若い子は」
 (産婦人科で言われると、何とも言えない台詞だな・・)
 つい感慨にふけってしまい、
 「あぁ、間違いなく、腹の中の子の父親は俺だ・・・うげっ」
 つまらないことを口走り、龍麻の裏拳を腹に喰らって身体を丸める。
 「ま、元気そうだね。ほら、口、開けな」
 聴診と喉を見て、岩山は、とんとんと机を叩いた。
 「肺炎にはなってないようだね。どうする?アンタにゃ解熱剤も30分くらいしか効果無いだろうし、せめて点滴でもしていくかい?その喉じゃ、水飲むのも辛いんだろ?」
 龍麻の困ったような視線を受けて、村雨が頭を下げた。
 「こいつはまだ、他人に伝染すのを気にしてる様だが、俺から頼む。点滴でも何でも、してやってくれ」
 「大丈夫だって言ってんだろ。つまんないこと気にしてんじゃないよ。じゃ、案内させるよ」

 巨体を揺すり上げて、岩山は笑った。
 「それにしても、アンタ、黙ってると絶世の美少年だねぇ」
 立ち去りかけた龍麻が、両手を腰に当て、胸を反らした。
 「あ〜、多分、『俺は、いつだって、世界一の美形だ』と言ってると思われます・・」
 溜息を吐きながら通訳した村雨の背を叩いて、龍麻がにやっと笑う。
 「仲が良いねぇ。その分だと、入院なんかはしなくても平気そうだね」
 龍麻は、肩をすくめながら、村雨を親指で指し示す。
 「『これがいるから、問題なし』と言っているようで。ま、メシも作ってるし、洗濯もしてるし、体も拭いてるし、Hはしてないし・・痛ぇ!」
 余分な一言の罰は、向こう脛への一撃だった。

 5時間かけて点滴2本を受けた後、二人は帰宅した。
 こうして、5日目が終わった。


 6日目(金曜日)

 (だいぶ、マシになったみてぇだな)
 相変わらず、喋ろうとはしないが、村雨の作った粥を食べる時にも、喉が痛そうに顔を顰めることも無くなったし、何より、やけにご機嫌だ。
 本を読んだりTVを点けようとするのを、まだ駄目だと止めさせたが、ずっと眠り続けるほどでも無くなったのか、久々に起きている。
 かと言ってやることも無いので、近くにいる村雨の顔を引っ張ったり、無精髭を抜こうとしたり、髪を逆立ててみたりと、やたらとじゃれてくる。
 (耐えろ、俺。いくら誘われている(村雨ビジョン)とは言え、ここで、襲いかかったら、さすがにケダモノだぜ・・)
 無視して、本を読んでいると、龍麻のちょっかいは、段々激しくなっていき、ついには、ベッドから半身を乗り出して、村雨に背後から抱きついてきた。
 更に無視していると、首筋を、あみあみと歯を立てずに噛んできて。
 (耐えろ、俺。耐えろ、耐えろ、耐えろ、耐え耐え耐え耐耐耐・・・何で、耐えてるんだったっけか、俺)

 忘れるなよ。

 「何やってるんだ、先生」
 答えの代わりは、耳元に吹きかけられた、微かな吐息。
 そのまま、龍麻の唇は耳を這い、耳朶を軽く囓った後、また首筋に戻っていく。
 (ここまでされて、欲望が理性を凌駕したとて、誰が、俺を責めることができよう!?)
 とは思いつつも。
 わきわきと伸ばしかける手を、必死で止める。
 多分、責めるのは、自分自身だから。

 こうして、6日目は、なけなしの理性を総動員することで終わった。


 
7日目(土曜日)

 朝、物音で目を覚ます。
 「起こしたか
 幾分ハスキーだが、しっかりした声で、龍麻は言った。
 「って、アンタ、何やってるんだ!」
 バスローブに身を包んで、髪からはまだ水滴が垂れている。
 「風呂、入った。汗臭かったし。今日、学校行こうと思って
 「まだ、大人しくしてろよ!」
 「実は、出席日数がやや危なく。お前も、今
日は、学校に行け
 一旦、言い出したら、梃子でも動かないだろう。
 早々に諦めて、盛大に溜息を吐く。
 「分かった。あんまり、無理するんじゃねぇぞ」
 「
 長く喋っていると、徐々に声が掠れていく。
 そんな状態でも、大人しくしている気は、さらさら無いようで。
 村雨に、学校に行くように念を押して、龍麻は部屋を出た。
 
 (ひょっとして、俺に気を使ってんのかねぇ?)
 そんな必要は全く無いのに。
 (そんじゃ、ま、主のいない内に・・・)
 高湿度のせいで、なんとなくじっとりしている布団を干したり。シーツを洗ったり。掃除機をかけたり。ついでに、久々にタバコを吸ったり。
 登校する気など毛頭無い村雨は、病人がいると出来なかった家事を、せっせとこなした。
 自分の事なら、ここまでやりはしないのだが、やはり、龍麻には、気持ちのいい環境で過ごしていて欲しいではないか。
 (惚れた方の負けってね)
 得意でもない家事が、龍麻が喜ぶ顔を思い浮かべるだけで楽しくなるのだから重症だ。

 勢い余って、アイロンがけまでしている最中に、龍麻が帰ってきた。
 出迎えた村雨を、一瞬驚きの目で見て、ちらりと怒りの気配を漂わせた後、諦めの色が目に浮かぶ。
 無言の龍麻と数日過ごしたせいで、何となく、龍麻の言いたいことが分かるようになった村雨だった。
 (だが、ここまで、無言てことは・・)
 「また、喉が痛いのか?」
 頷いた龍麻は、加湿器の前に座り込む。
 「あぁ、そうだな。外は、乾燥注意報だもんなぁ。ここでいるのとは違うだろ」
 うんうんと、頷いた龍麻は、嬉しそうに、村雨を見やった。
 今まで見たこともないような、安心しきった極上の笑顔。
 ちなみに龍麻は、
 『やっぱり学校だと、何かと喋らないといけないから、喉を酷使した。お前は、何も言わなくても分かってくれて、助かるよ』
 と、言いたがっている。口には出さないが。

 「・・・やっぱり、俺は、ついてるねぇ・・・」
 思わず呟いた言葉に、龍麻が首を傾げる。
 「アンタにしてみりゃ、風邪をひいて辛いんだろうが、俺は、本当に、運の良い男だぜ。
  アンタを今、看病してんのは、世界で俺一人なんだからな」
 しみじみ言うと、龍麻が声も立てずに笑った。
 笑いながら、村雨を見つめる、その目に含まれるものに。

 (あぁ、なんだ。この人は、ちゃんと俺のことを愛してるんだなぁ・・・)

 突然、気付いて。

 自分を振り回して楽しんでいたり、高飛車に命令したり、怒り散らしたり。
 冷ややかに拒絶されたり、頭ごなしに怒鳴られたり、技を喰らわされたり。
 『惚れてる』とは言われたものの、龍麻の態度に一喜一憂して、疑ったり期待したりしていた村雨だったが。
 
 今、初めて、実感した。

 幸せそうに微笑んでいる龍麻を、そーっと抱きしめると、背中に回された手が、宥めるようにとんとんと叩いてきた。

 で。
 至福の時を噛み締める村雨だったが。
 いきなり、思い出したりするわけだ。
 (『愛してる』って・・・うっ!今日は、何曜日だ!?)
 思いっきり忘れていたのだな。


 そして、8日目(日曜日)当日。

 昨日、久々に学校に行って疲れたのか、龍麻はぐっすり眠っている。
 その寝顔を見つめつつ、村雨の心は、妙に穏やかだった。
 『愛してる』という言葉は無くても、愛されている確信を得たからだ。
 本人が納得しているのはいいんだが、裸踊りのことは、いいのだろうか?
 (龍麻に愛されている以上・・・裸踊りの一つや二つ!)
 今なら、全校生徒の前でストリップをしても、自分は幸せだと言い切れる自信のある村雨だった。
 いや、そんな自信あっても困るけどな。

 昼過ぎに起きてきた龍麻は、まず、風呂に入りに行った。
 バスローブ姿というしどけない姿で村雨の作った昼食をとる龍麻に、
 「悪ぃな。今日は、ちっと、その・・・前からの約束があってな。行かなくちゃなんねぇ所がある」
 渋々告げると、龍麻の機嫌が、微妙に悪化した。
 「せっかく、今日は、元気なのに」
 「なるべく早く帰ってくるからよ」
 「・・・約束は、優先するべきだから、仕方ないが」
 そう言う割には、口が拗ねたように尖っている。
 その唇に軽く音を立ててキスをすると、龍麻は不機嫌そうに唸った。

 夕刻、怨ずるような目の誘惑を、必至に断ち切り、村雨は如月宅に向かった。

 「やあ、待っていたよ」
 「ビデオ及びカメラの用意は、ばっちりですよ」
 まったく、友達甲斐のない二人だ。
 もっとも、今の二人は、『友達』ではなく『恋敵』だが。
 「さあ、聞かせて貰おうじゃないか」
 そんなわけは無かろう、と腕を組む如月に、村雨も胸を張る。
 「録音は出来てねぇよ」
 返されたテープレコーダーをしまいながら、壬生は、カメラを手に取った。
 「ま、そんな事だろうと思っていましたよ。・・・で、なんだって、そんなに嬉しそうなんですか?」
 へっ、と村雨は片頬を歪めて笑う。
 「俺は、この一週間、先生に愛されてるってのを満喫したんだよ。録音は出来てねぇが、それを補って余りある生活をしたってわけさ」
 「へぇ。そうですか」
 「・・・てめぇ、壬生。信じてねぇだろ」
 「いえ、別に。ま、でも、約束は約束ですから」
 「そうだな、村雨。潔く、裸踊りを披露して貰おうか」
 「へっ、そんなに俺の裸が見てぇのか?」
 「バカを言うな。ビデオを龍麻に見せて、村雨株を暴落させようとしているだけだ」
 「・・・そう来たか」

 それは、考えていなかった。
 だが、しかし、龍麻はそんなことくらいで、俺を見限ったりはしないだろう・・・しないと良いな・・・できればしないで頂けると有り難い・・・
 ちょっと弱気になる村雨だが、今更どうすることも出来なくて。
 思い切って、まずは上半身を脱ぐ。
 「あぁ、村雨。靴下は着用のままで良いから」
 それは、全裸よりも更にマヌケだ。
 無論、如月はそれを狙っているのだが。
 「こうなりゃ、何だってやってやるぜ」
 さらりと流し、立ち上がってベルトに手を掛けたところで、村雨の動きが凍りついた。
 「どうした、村雨。今更、臆したなどと・・・」

 「・・・何をしている」
 村雨の目線の先−−如月、壬生の背後に、龍麻が立っていた。
 「やあ、龍麻。今、村雨が、裸踊りをするところで・・・」
 如月の嬉しそうな言葉を、まるっきり無視して、龍麻は、低く続ける。
 「俺の誘いを断る程だから、てっきり秋月関係かと思えば・・・約束は、守るべきとは言え・・・」
 「・・・誘い?」
 思わず問い返すと、龍麻は腰に手を当て、言い放った。
 「わざわざ風呂に入り、しかも『元気だ』と言っただろうが!」
 本当に、そういう意味の『誘い』だったらしい。
 普段の村雨なら、思いっきり食いついていただろうが、今回は、頭が別のことで一杯だったため、気付かなかったようだ。
 「第一、裸踊りとは何だ!そんなものを約束していたのか!」
 「い、いや、先生、違うって・・・」
 おたつく村雨から、壬生に視線を移し。
 「
くれは
 「なんだい、龍麻」
 「
説明、してくれるよな?
 この甘え口調に壬生が抵抗する筈があろうか。

 最初からの経過をきっちり説明され、龍麻は更に不機嫌さを増した。
 「この、馬鹿者が!!」
 怒鳴る龍麻を、如月が嬉しそうな顔で見つめる。
 仮に村雨株が下がっても、如月株が上昇するというものでもないんだが。
 「いや、先生、聞いてくれ・・・」
 村雨の抵抗を無視して。

 だけど、村雨だけを見て。
 「貴様は、俺に、『裸踊りをするヤツを恋人に持つ男』というレッテルを貼るつもりか!」
 
 その言葉の意味を、三者が咀嚼し、嚥下し、消化する。

 「げ、幻聴だ!幻聴に決まっている!僕の、龍麻が〜〜!!」
 如月の絶叫の中、壬生は、深々と溜息を吐いた。
 「龍麻。『裸踊りをするようなヤツなら恋人から他人に格下げ』という風にはならないのかい?」
 「ならない」
 龍麻は、きっぱりはっきり言い切る。
 「・・・そっか。じゃあ、仕方がないね」
 「うむ。仕方がない。『愛してる』から」
 別段、赤面もせずに、あっさりと。

 「うわ〜〜!!誰か、嘘だと言ってくれ〜〜!!!」
 「諦めましょうよ、如月さん。賭けも負けたようだし」
 「そうだな。期限は今晩までだったようだしな。『俺は、村雨を愛してる』。これで、いいんだろう?」
 「いやだ〜〜!!聞きたくない〜〜!!」
 「『愛してる』〜『愛してる』〜『俺は、村雨を愛してる』〜〜♪」
 部屋の隅に向かって小さくなり、耳を塞いでいる如月を、足蹴にしながら、龍麻は楽しそうに繰り返した。
 実は、如月に対する嫌がらせのためだけに、言ってるんじゃないのか?

 「これこれ、カメを苛めては、いけないよ」
 壬生のセリフに、龍麻が笑いながら、振り返る。
 「じゃあ、紅葉が、竜宮城に連れて行かれるんだな。二人でどうぞ、ごゆっくり。俺、帰るから」
 「別に、行きたくはないけどね。二人でってことは、村雨さんも連れて帰るつもりなんだね?」
 「そ♪・・・駄目か?」
 「駄目、というか、さっさと持って帰れって気がするけどね」

 のそのそとシャツを着終わった村雨は、どこか呆然とした口調で言った。
 「壬生。・・・・・・今の、録音してねぇか?」
 「してませんよ。聞きたければ、龍麻に言って貰えば良いことでしょう?」
 苦虫を噛みつぶした顔で、壬生は答える。
 何故、自分の大事な人が、他人に告白する言葉を録音せねばならないのか?
 いくら『龍麻コレクター』な壬生でも、そこまで酔狂ではない。

 村雨をせき立てて帰りかけていた龍麻が、とっとっと、と戻ってきて、壬生の耳を引っ張った。
 「紅葉。村雨とは、ちょっと違うけど、俺、紅葉のことも、『愛してる』から」
 「・・・それは、どうも・・・」
 多分は『家族愛』のようなものだろうけど。
 それでも、壬生の顔は綻んでくる。
 「僕も、愛し・・」
 「龍麻っ!僕はっ!?」
 ぶつぶつ呟きながら、畳のけばを毟っていた如月が、聞きつけて、龍麻の足に縋った。
 「如月。お前には・・・」
 言って、にっこりと、龍麻は笑う。
 「もう少し、『無』の心が必要だな」
 「はううっ!」
 
 蹴り倒された如月は、その格好のまま、天井を見上げていた。
 「分かったよ、龍麻・・・きっと、『無』の境地を極め、君に相応しい忍びになってみせるからねっ!
  その時こそ、『愛してる』と言ってくれ!!」
 もう、龍麻さん、帰ってるけど。
 と言うより、『無』の境地を極めたら、龍麻に対する執着も無くなってる筈なんだけど。
 仰向けで拳を握りしめる如月の頭を、壬生がぽんぽんと叩いた。
 「はいはい、如月さん。今日は、飲みましょう。とことん、付き合いますから」
 「そうだな。もはや、それしかあるまいな。
  ・・・・・・は〜。・・・博打打ちの愛人より、由諸ある骨董品店の若女将の方が、よほど似合ってるのに・・・」
 「似合う、と言う点では、暗殺者の相棒もぴったりなんですけどね・・・」

 はあ、と吐息し、二人、酒盛りの準備を始める。
 今宵は、長くなりそうだった。


 白い息を吐きながら、夜道を帰る、影二つ。

 「なんで、賭のことを言わなかったんだ?」
 「いや・・・最初は、まあ、楽しんでたところもあったしな。後半は、すっかり忘れてた」
 「最低でも、今日には思い出してるだろうが。・・・『愛してる』なんて、2秒もあれば言えるぞ」
 「情緒ってもんが無いねぇ、先生は。・・・そうだなぁ、なんで、言わなかったのかねぇ・・・」

 別段、急ぐでもなく、二人、ふらふら、のんびりと。

 「俺の運も、捨てたもんじゃねぇな」
 村雨が、独り言のように呟いた言葉に、龍麻が、ふんと鼻を鳴らす。
 「今回に限って言うなら、こうなったのは、お前の『運』じゃない。『実力』だ」
 「そうか・・・実力かい。嬉しいねぇ・・・」

 そして、その後、二つの影は無言のままで、寄っては離れ、また、くっついて。
 暗い夜道を、ふわりふわりと、帰って行った。



 暗号83リクエスト(涙樹さま)
「  ズバリ、『愛してると言ってくれ作戦!』(爆)。
 ひょんなコトから、誰か(壬生クンとか如月クンとか、誰でも)と
 「龍麻クンに『愛してる』と言わせるコトが出来るか否か」という
 賭をしてしまった村雨氏。
 あれやこれやと作戦を立てて実行するけど、ことごとく失敗。
 最後は………どうなるかは、お任せ致します☆
 でも、村雨さん少しでも報われると嬉しいです〜
(>_<)。
     というものでした。
   
ジーダの言い訳
  涙樹さま!申し訳ございません〜。長くなった割には、リクエストの「村雨さんが、あれやこれやと作戦を立てる」が、できませんで・・(私が、思いつかないので、当然、村雨さんも思いつかない(笑))。
  うちの龍麻さん、下僕(京一・如月他)には厳しいけど、愛人(笑)には甘くて、女王様っぷりを発揮できなかったし。
  しかも、微妙に『合い鍵』の続き。
  こんなものですが、暗号83リクエスト、お納め下さいませ。


 なお、村雨さんの性格に合わないため没になった、変な計画を、おまけで描いてみました・・。


4日目以前にBACK!


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