愛してると言ってくれ

前編

 とある日曜日の夜。
 今日も今日とて、村雨祇孔は、如月の家に夕飯をたかりに来ていた。

 「まだ、壬生はいいよ、壬生は。手伝ってくれるからね。
  君は、のんべんだらりと寝そべってばっかりで・・」
 ぶつぶつと、この家の主は、聞こえるように呟いている。
 食器を片づけながら、壬生は苦笑した。
 「すみません、いつもお邪魔して」
 「いいんだよ。いっそ、来なかったら、余ってしまうしね。
  先日など、3人分用意したのに、どちらも来なかったものだから、僕は、2日間同じ物を食べ続けたよ」
 「用意しろと言った覚えはねぇぜ」
 「無かったら、文句を言うくせに」
 
 一度、如月は予約制にしようとしたのだが、B型人間の村雨に却下された。
 行かなくてはならない、となると、途端に面倒くさくなるのが、B型である。
 思いつくまま気の向くままに、やって来てメシをたかるところが楽しいのだと、村雨は主張する。

 ちなみに、如月は、金銭面で文句を言ったことはない。
 何故なら、実は村雨は夕食代を払っているからだ。
 壬生の分まで。
 それは、本人には、秘密。
 夕食代について恐縮する壬生には、
 「村雨も払ってないのだから、気にする事は無い」
 と言うことになっている。
 友人同士の間であっても、そのくらいの秘密はあってもいいではないか。


 さて、そういうほのぼのした夕食後の団らんは、一本の電話でかき混ぜられた。
 ♪ぱっぱらぱらぱらぱっぱー♪
 突然、壬生の顔が輝いた。
 「ドラゴンロード♪・・・はい、もしもし龍麻かい?」
 いそいそと携帯を取り出し、通話ボタンを押す壬生に、村雨の顔が引きつった。
 台所へ向かったはずの如月まで、方向転換して、壬生の携帯に意識を集中している。
 「え、ああ、もちろんだよっv君の頼みなら、いつだって・・・うん、今は、如月さんの家に・・・」
 そして、ちらっと時計を見る。 
 「うん、まだ、いるから。じゃあ、待ってるねvv」
 いちいち語尾にハートマークを散らせながら、壬生は携帯を名残惜しそうに離した。

 「龍麻が、今から、僕に会いに来るそうです」
 「そうか、僕の家に来るんだね。早速、お茶の準備を・・・」
 幸せそうに、携帯を撫で撫でしている壬生と、踊り出しそうな勢いで台所へ向かう如月。
 村雨の顔は、ひたすら引きつっていた。
 (先生は、俺のモンだっ!!・・・言いてぇ・・・言いてぇぞ、畜生!)
 晴れて両想いとなっている筈の二人であったが、仲間にはまだ、ばれていないのだ。
 というより、展開が急すぎて、気付かれるヒマも無かったというか。
 村雨としては、堂々宣言したい気持ちは山々であったが、相手はプライドの高い龍麻様である。
 ひょっとして、村雨がカミングアウトしちゃうと、烈火の如く怒りだしてしまうんじゃないかなー、等と弱気なことを考えたりするわけだ。
 他の相手なら、その怒ったところを懐柔するのも、また楽しみ、とか、そんな面倒くさい相手ならどうでもいいか、とかになるのだが、如何せん、村雨は、龍麻さんに惚れきっているのである。
 情けないと笑わば笑え、へへんっ、と開き直るしかない。

 村雨がちゃぶ台をがじがじ囓り、壬生が携帯をうっとりと握りしめ、如月がお茶と茶菓子を用意万端にしている最中、龍麻はやってきた。
 「邪魔するぞ」
 案内も乞わずに、いきなり居間の襖を開け放つ。
 「いらっしゃい、龍麻」
 『さあ、僕の胸へ!』と言わんばかりに、両腕を拡げる如月を完璧に無視して、龍麻は壬生の元に直行した。
 「くれは〜、寒い〜!」
 ぽふっと壬生の背中にかじりつく。そして、ほっぺをスリスリ、手を壬生の首筋に突っ込んで暖を取る。
 「うわっ、本当に冷えてるね。龍麻、こっちおいで」
 「今晩は、東京にしては珍しく、星が綺麗だったんだ〜。で、つい、のんびりと歩いてしまって・・・」
 コートを脱いで、壬生の招き通り、前面に回り込んで、座り込む。
 壬生に抱きかかえられるような形になって、しばらく温もりを楽しんでから、龍麻は、目を上げた。
 「村雨、いたのか」
 最初から、いました。
 「アンタな・・・」
 青筋がぴくぴくと浮いている。
 (いや、落ち着け、俺。先生は、壬生に何か頼みがある。そのためのサービスだっ。そうに違いない!)
 自分が、全く視界に入っていなかったという悲しい可能性は、この際考えるのは止めておこう。
 
 「それで、龍麻。壬生に用事があるんじゃないのかい?」
 如月が、お茶を注ぎながら、龍麻に言った。
 「ん。如月、裁縫用具あるか?」
 「勿論。すぐに持ってこよう」
 いそいそと席を立つ如月の姿は、ボールを投げられてそれに向かう忠犬の姿を思い起こさせる。
 本人が幸せなら、それで良いじゃないか。
 たとえ、全く報われなくても。
 
 龍麻は、持っていた紙袋から、ごそごそと何かを取り出した。
 その色合いは・・・村雨は、記憶を刺激されて、一瞬、考えるが、答えが出る前に、それが広げられた。
 「パジャマのボタンが取れた。紅葉、付けて♪」
 「そりゃ、もちろん、喜んで・・・?」
 ボタン付けに手芸部の腕前はいらないが。
 壬生は、そんなことは気にはしないだろう。
 龍麻が喜んでくれるなら、ボタン付けだろうが、種付けだろうが、同等の意欲を持って望むに違いない。
 壬生が、首を傾げたのは。
 「全部、取れたのかい?」
 パジャマには、一つ残らずボタンが無い。
 それも、布の引きつれ具合から見て、強引に引きちぎったような。
 目前では。
 村雨の顔も引きつれていた。
 (やべぇ・・・あの時のパジャマかい!)
 そういえば、お前付けろ、と言われたのを、ほったらかしにしていたような。
 (いや、でも、この返答で、先生が、ばれてもいいと思ってるかどうかが分かるか・・)
 
 しかし、龍麻の返答は、 
 「そ」
 一文字であった。
 (わからーん!)
 心の中で身悶えしているのは、村雨ばかりではなかっただろう。
 裁縫箱を持って戻ってきた如月も、怪訝そうに、パジャマを見ている。
 しかし、壬生も如月も、まさか、龍麻に向かって、どういう状況でボタンが全部取れるのかは、聞きもできなかった。
 不自然な沈黙の中、壬生は黙々とボタンを付ける。
 「はい、できた」
 「うむ、やはり、紅葉は早いな」
 一人にこにこと、龍麻が持ち上げる。
 それだけで、壬生の顔は、幸せそうにとろけた。
 「君の頼みなら、いつだって、喜んで」
 「いや、次は無いと思うがな。・・というか、あったら、許さん」
 はっはっはっと笑い声を上げるが、目はマジだ。
 だが、それでも、目線はパジャマであって、村雨には向いていない。
 「・・・誰を許さないんだい?」
 「いや、こっちの話だ。気にするな」
 さっくり言って、龍麻は立ち上がった。
 
 「すまんな、用件だけで。俺は帰るが・・・」
 「じゃあ、俺も帰ると・・・」
 言いかけた村雨を遮るように、
 「いやあ、僕たちは、まだ、村雨に用事があってね」
 「そうなんだよ、龍麻。寒いから、気を付けて」
 如月と壬生のセリフが被った。
 「ふうん?ま、いいけど。じゃ、おやすみ」
 ひらひらと手を振って、龍麻は出て行った。


 「さて」
 龍麻を玄関まで送ってきた如月が、戻って来たなり、ちゃぶ台に刀を突き刺した。
 「お、おい!?」
 「どういうことか、説明して貰おうか」
 「そうですね、村雨さん」
 壬生も足首をぐりぐり回して、戦闘態勢だ。
 「はて、何の事やら・・」
 「貴様、龍麻のパジャマを引きちぎって、何をした!?」
 如月が、ずばりと言い切った。
 「とぼけないで頂きましょうか・・・貴方の態度を見れば、アレが貴方の仕業であることくらい、容易に推測できますよ」
 二人の目には、紛れもない殺意が浮かんでいる。
 言い逃れは効きそうにない。
 村雨は、腹をくくった。

 「アレは、和姦だ」
 嘘つけ。
 「・・・信用すると思いますか?」
 「貴様、龍麻に手を出したことは、認めるんだな!」
 ふん、と、村雨は腕を組んでふんぞり返った。
 「先生はな、俺に惚れてるんだよ。まあ、あの時は、多少、勢い余ってボタンが取れちまったが、基本的には、惚れ合ったモン同士の、愛の営みってヤツだ」
 「盗人猛々しいとは、このことだな。僕の龍麻が、貴様如きに惚れるわけがないだろう!」
 「まったく。僕の龍麻は、女好きなんですからね。それがよりにもよって、貴方を好きになるなんて・・・見え透いた嘘ですね」
 「じゃあ、聞くがな。あの先生が、惚れてもない奴に、大人しく抱かれる玉かよ?それにな。一度じゃねえ。もう数十回は、やってんだよっ!」
 ちなみに、龍麻カウントによると、夕べまでで
83回だ。
 それはともかく。

 殺気の満ちあふれる居間で、如月の<氣>が高まっていった。玄武変を起こしそうな気配だ。
 「待って下さい、如月さん。もし、本当なら・・・龍麻が悲しむようなことはしたくないんです」
 「そ、それはそうかも知れないが・・・」
 「村雨さん」
 壬生は、ことんと、ちゃぶ台に何かを置いた。
 「これを貸して差し上げます。龍麻が、貴方を愛している、と言うなら、それを証明して下さい」
 置かれたのは、小型テープレコーダー。
 どうでもいいが、懐に常備しているというのも、何か嫌なものがある。
 「龍麻が、貴方に『愛している』と言ったなら、僕も納得しましょう」
 「へっ、お安いこった」
 平然と言ってはみたが、実は、心の中では戦々恐々。
 (『愛してる』?言うか?あの人が!)
 「くっ・・仕方あるまい。だが、もし、駄目なら、市中引き回しの上さらし首・・もとい。裸踊りでもやって貰うぞ!」
 「そうですね。しっかりビデオ及び写真を撮って、仲間内のみならず、皇神にまでばらまいて差し上げましょう」
 「・・・何で、そうなる」
 「これは、貴方の好きな『賭』ですよ」
 反論したいのは山々だが、顔は笑っている忍者と暗殺者の、目は全く笑っていないため、あまり強くは言えない。
 「それで?『愛してる』と言わせりゃ、俺は何を貰えるんだい?」
 「龍麻に『愛してる』という言葉を貰う以上に、何を望むというんだ、君は?」
 「僕は、頭蓋骨を一つ、プレゼントしましょう」
 「・・・何だ、そりゃ」
 「もし、龍麻を強姦したというなら、砕け散るはずの貴方の頭蓋骨を、無事に置いておいてあげる、という意味ですよ」
 洒落にならない。
 というか、思いっきり本気だろう。
 隣に座っていた忍者が、正座をしたまま、ずざざざと後ろに下がったほどの迫力だ。
 村雨は、冷や汗を必死で押し止めながら、強気に言い放った。
 「いいだろうよ。まあ、見てろってんだ。先生の愛の告白、お前らにも見せつけてやるぜ」
 「期限は、一週間にしておこう。来週の日曜、ここに来て貰おうか」


 そして、村雨の一週間が始まった。


 
1日目(日曜日)。

 (さて・・・まずは、正攻法でいくとするか・・・)
 如月宅を出たその足で、龍麻の部屋に向かう。
 一応、おざなりにノックをして、合い鍵で部屋に入る。
 「なんだ、用はもう終わったのか?」
 「まあ、な」
 早速、ボタンの付いたパジャマ着用の龍麻に、不機嫌そうに出迎えられた。
 「もう、寝ようと思ってたのに・・」
 龍麻の夜は早い。
 しかも、眠いときに邪魔すると、かなりご機嫌斜め。
 (う〜ん、タイミングを誤ったか?)
 とは思いつつ、己の運を信じて、挑戦してみる村雨。
 「なあ、先生。先生は、俺のことを、『愛してる』・・・よな?」
 無論、テープレコーダーのスイッチはオン。
 だが、しかし。
 龍麻の柳眉が、きりきりと角度を上げていく。
 逆に機嫌は、急転直下。
 (うわっ、やべぇっ!)
 実は、この腰の引けた態度が、
 (この俺を疑うつもりか、馬鹿者!)
 と、龍麻の逆鱗に触れたのだが、村雨は気付いていない。
 「いや、悪かった。ちょっと聞いてみただけだ」
 (この部分のテープは巻き戻しておこう・・・)
 情けないことを考えている村雨だったが、目の前の龍麻が、ちょっぴり拗ねモードに入っているのには気付いた。
 「愛してるぜ、龍麻・・・」
 そっぽを向いている龍麻を引き寄せ、軽くキスする。
 「知ってる」
 いや、先生、普通はそこで、『俺も』とか言うだろう、とか心の中で突っ込みつつ、抵抗しないのに気をよくして、細い躰を巻き込んだ。
 「せめて、ベッドが良い」
 「すぐに、温かくしてやるぜ」

 というわけで、作戦その2『睦言編』

 「ん・・・っ!・・あ、やぁっ・・!」
 「『愛してる』って、言ってみな・・・」
 「あ・・・あ・・・え・・?な、に・・・ふ、あぁっ!」
 (はっ!こんな、色っぺぇ声を、あいつらに、聞かせられねぇっ!)
 「何でもねぇ・・・それより、いくぜ・・」
 「あぁ!あん!やぁっ・・!」

 作戦、失敗(でも幸せ)。


 
2日目(月曜日)。

 (次に、古典的方法というと、やっぱり、酒だよな)
 「よぉ、先生」
 「また、来たのか」
 今晩は、昨晩よりも早い時間に来たのに、またしても、龍麻はパジャマだ。
 ここまで来ると、いっそ誘っているのかとも思いたい。
 龍麻には、本当に、その気は無いのだが。
 「お前のせいで、睡眠時間が減っているのだ」
 だから、いつもより早めに寝たかったらしい。
 「まあまあ。それより、寝酒代わりに、ワインなんてどうだ?」
 「・・・まあ、少しだけなら・・・」
 そして、出されるのは、湯飲みとグラス。
 未だに、龍麻の分の食器しかないので、こうなってしまうのだ。
 (そういえば、先生が酔ってる所は、見たことがねぇな。・・怒り上戸とかは勘弁して貰いてぇなぁ・・・)
 秘拳・黄龍上戸とか。
 何気に話で龍麻の意識を逸らして、どんどん湯飲みにワインを追加していく。
 二人で、ワイン半分くらいが空いたところで、龍麻の目がトロンとしてきた。
 (あぁ、色っぺぇ・・・誘ってるのか、先生よ・・・)
 「うにゅ・・・眠い・・・」
 単に、眠くて、目が潤んでいるだけだが。
 「意外と、弱いな、先生は」
 「あんだと〜!んなことは、無い!今日は、眠いだけなの!」
 微妙に躰を揺らしつつ、龍麻は、勢い良く、湯飲みのワインを飲み干した。
 どうにもこうにも、負けず嫌いな男である。
 「にゅう・・・ひっく!むらしゃめ〜」
 いきなり、呂律の回らない口調で、村雨にすり寄ってきた。
 (よし、来い!)
 録音開始。
 「むらしゃめ〜、お前って、ホントに、可愛いよにゃあ・・・ひっく!」
 「ままままま待て!龍麻!」
 不意を打たれて、床に押し倒されつつ、村雨はあせった。
 龍麻は気にせず、村雨のシャツを引っぱり出し、胸に唇を寄せてくる。
 (攻め上戸かーい!)

 そんな言葉はありません。

 それから、何とか宥め倒してベッドに連れ込み、逆襲して。
 明け方に、ふと気付くと、二人素っ裸で眠っていた。
 己の上で、ふにふに寝息を立てている龍麻に布団を掛け直して、本日の作戦も失敗しつつも、幸せを感じている村雨であった。


 3日目(火曜日)。

 (薬・・・は、やべぇよなぁ。後の怒りを宥めるのが、大変そうだ・・・。ここは、浮気物か、別れ話編で・・・)
 一歩間違えたら、火だるまになりそうな計画をぼそぼそと立てながら、本日も、村雨は龍麻の部屋にやって来た。
 入ったは良いが、真っ暗だ。
 「先生?いないのかい?」
 その割には、室内がやけに暑い。居間から寝室に抜けて、村雨は、絶句した。
 「先生?」
 「
村雨〜
 エアコンが、がんがんにかかっている中、龍麻はベッドにいた。
 その声は、ハスキーどころか、掠れてほとんど音にもなっていない。
 慌てて駆け寄り、額に手を当ててみると、これまた凄い熱。
 「
今日・・乾燥・・マラソン・・喉痛い・・
 目を閉じたまま、辛うじて言葉を繋ぐが、それだけ言うのも、かなり痛そうだ。
 「
ポカリとアイス・・買ってきて
 言うだけ言って、また息を吐く。
 「わかった。ポカリとアイスな。薬、飲んだか?」
 「
効かない
 龍麻の身体は、異常に代謝が早い。飲んでも、すぐに排泄されるため、全く効果無いらしい。
 「すぐに、戻ってくるからな」
 熱い額にキスをして、村雨は、部屋を飛び出す。

 (どう考えても、俺のせいだ!)
 乾燥した気候でマラソンをしたから、と龍麻は言うが、それ以前に、村雨が身体を弱らせたせいだろう。
 夕べは、酒飲んだ後、一汗かいて、そのまま裸で寝て。
 その前は、寒いのに、冷たいフローリングの上で躰を冷やして。
 思えば、夕べ、眠たがっていたのも、早く酔いが回ったのも、体調が悪かったせいだろう。
 それなのに。
 一瞬でも、『この声で「愛してる」と言われても、証明出来ないだろうな』などいう考えがよぎった自分が、許せない。
 こうなったら、とことん、看病するしかないだろう。

 超音速で戻ってきた村雨に半身を支えて貰いながら、龍麻はポカリを一気飲みした。
 「多少・・・まし・・・
 喉に手を当て、顔をしかめる。
 「辛いんだったら、喋るこたねぇよ」
 「生憎・・俺・・テレパシー・・無い
 微かに笑って、村雨に背を預けた。
 身体は燃えるように熱いのに、汗の一滴も出ていない。
 額に当てられた村雨の手を掴んで、龍麻は怠そうに口を開いた。
 「帰れ
 「やだね」
 村雨は即答する。
 どんなに龍麻が嫌がっても、今回ばかりは、折れる気は全く無い。
 その決心が通じたのか、単に言い争う元気がなかったのか、龍麻は、僅かに肩をすくめて見せた。
 「伝染っても・・俺は、面倒、見ない
 「伝染せよ。で、さっさと元気になりゃあいい」
 いっそ、口移しで、病魔を吸い取れれば良いのに。
 火のように熱い吐息を奪いながら、村雨は埒もないことを考える。
 「
・・・寝る
 力無く、目を閉じた龍麻の口に、濡れタオルを乗せると、怒ったように眉が顰められた。
 「別に、殺そうとしてんじゃねぇよ。この方が、息が楽だろ?明日の朝一で、加湿器買ってくるから、今晩はこれで我慢しな」
 2,3度、確かめるように息をしてから、すぐに龍麻の息は、睡眠状態のものとなった。

 一晩中、タオルを替え続ける。
 時折、龍麻の手が、村雨に触れる。その手を握ってやると、またすぐに、眠りに落ちた。


4日目以降にGO!


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