前編
1999年3月。
村雨祇孔は、最愛の恋人にふられた。
1月に告白し、2月に同棲し、3月にふられる、なんて、何だか歌にありそうだ、などと、現実逃避をしつつ、村雨は目前の恋人を見つめていた。
本日只今までの仲は、大変に順調。
夕べだって何回かカウントも取ってないくらい致したし、ついさっき、卒業式を終えて、真神学園の校門前に迎えに来たときなんか、村雨を認めて、『あ』なんて嬉しそうな声を出しちゃったりなんかして、ラブラブバカップル一直線なこの間柄をどうしてくれよう畜生め、なんてくらいのもんで。
それが。
なにゆえ、なんだって、なんのためにか。
「もう一度、言うぜ、先生。・・・俺と一緒に世界に出てくれねぇか?」
ひょっとして、柄にもなく緊張して『俺に付いてこい』なんて言っちゃって機嫌でも損ねたか、と淡い期待を抱いて、もう一度プロポーズしたが。
「もう一度、返答しよう。NOだ。行く気は、無い。勝手に一人でベガスでもモヘンジョダロでも好きなところに行くが良い」
誤解のしようもない、見事な返事であった。
龍麻は、自分を愛している、と。
そう思っていたのは、自惚れでも錯覚でも無いはずだったが。
しかし、龍麻はきっぱりと拒絶した。
「へっ、そうかい。アンタにゃアンタの、俺にゃ俺の道があるってことか」
どうにか片頬を歪めて笑顔を作り、その場を足早に立ち去るのが精一杯。
そうして、ぐでんぐでんに酔っぱらって(龍麻の)マンションに帰ってきたならば。
段ボールに自分の荷物が片づけられていて、当の龍麻はぐっすり寝ていたり。
酔った頭でも、自分が捨てられた、ということは、よく分かった。
「そうかい、そうかい・・・」
呟きながら、村雨はマンションを飛び出し。
それから、誰にも連絡を取らずに、ベガスへと旅立ったのだった。
1999年7月。
「きゃあっ!祇孔、見て見て〜!」
村雨は、その声に嘆息を吐きながら、新聞から顔を上げた。
ぱたぱたと軽い足音を立てて、リビングに女性が駆け込んできた。
「何だ?」
「見て見て〜!亀〜〜!」
きゃっきゃっと若い笑い声を立てて、その女性は、両手を掲げてみせた。
確かに、その手には、亀が抱えられ、じたばたと足をばたつかせていた。
「・・亀だな」
「亀よ!」
大仰に頷いて、女性は亀を村雨の膝に置いた。
「どうやって郵便受けにまで登ったのか知らないけど、なんと、手紙をくわえてたのよ〜!その亀!!」
・・・なんか、記憶をくすぐられるフレーズだ。
「・・・・・伝書亀」
ようやくその単語に行き着いて、思わず呟くと、やたらと受けながら、女性はキッチンに向かっていった。
「亀さん、亀さん、何食べる〜♪」
鼻歌からして、亀の食事を用意しに行ったらしい。
村雨は、その女性−−母親を見送って、苦笑しつつ、膝の上の亀を見た。
そして、亀がくわえていたという手紙を手に取り、裏を返す。
予想通り、『如月翡翠』の名が記されていた。
それにしても、墨痕も鮮やかな宛名はどうにか英語であるものの、差出人の名は思い切り日本語(しかも漢字)である。
あいつらしいと言えば、あいつらしいか、と納得しつつ、封を切ったところで、母がキッチンから皿を手に帰ってきた。
「パン、食べるかしらねぇ、亀は。・・・あら?亀は?」
言われて初めて、膝の重みが無くなっていることに気づく。
「亀ちゃーん、危ないですよ〜、踏まれますよ〜」
子供に語りかけるような口調で母はソファの下を覗く。
「・・多分、もう日本に戻ったんじゃねぇかな・・俺に手紙を渡すという任務が終了したんで」
口にすると恐ろしい内容だ。
不思議そうに首を傾げていた母は、急に目を輝かせて、村雨の手の中の手紙を見つめた。
「ねぇっ、この翡翠ちゃんって、祇孔の恋人?想像するに、和風美人かしら?どんな娘かしらねぇ、祇孔が付き合う娘って」
「・・・・和風美人は和風美人だが・・・如月は男だ・・・」
「あら、祇孔、そういう趣味だったの?大丈夫よ、母さん、アングロサクソン系の中での生活が長いから、そういうことに偏見は無いわよ?」
・・これ、冗談で言ってるから良いようなものの、本当に息子が男を恋人にしていたと知ったら、この母はどうするだろうか、と村雨はちょっぴり遠い目をした。
・・・しかし、本当に、『息子がもう一人できた』とか言って喜ぶかも知れない。
恐るべし、母。
村雨は、日本を飛び出してから、最初はベガスに行った。
有名人の言葉を借りるなら、『来た。見た。勝った』。
しかし、すぐに飽きてしまう。
舞台を世界に移してみても、結局やることは賭事の延長。
規模が違うだけで、東京でやってることと何ら代わり映えしない・・・どころか、龍麻がいない分、はっきり言ってつまらなかった。
そこで、早々に切り上げたは良いが、すぐに日本に帰国するのも業腹であったため、親孝行も兼ねて、両親の住むここアーカンソーに転がり込んだ次第である。
そして、株式をちょいと囓ってみたり、だだっ広い牧場を駆けめぐる馬に、日本に置いてきた自分の持ち馬たちを思い起こしたりしつつ無為な時間を過ごしていたのだが。
手にしたまま、まだ目を通していなかった手紙に目を落とす。
『村雨。
こちらは、何の変わりもない。
龍麻は大学に合格して、4月から医師を目指して大学生になっている。
壬生は何やら怪しげな商売を始めたようだが、以前のものよりは真っ当かも知れない。
そして、僕は、なかなかに忙しい毎日を送っているよ。
『お宝探偵団』という番組を知っているか?各地で埋もれる『実は値打ちがあるのに放って置かれたもの』を再発見しようという番組だ。
結構人気があって長く続いているようだから、君も名前くらいは知っているだろうが。
いつの間にか、龍麻がアレに僕を売り込んだようなのだ。
『若き美形鑑定人』として。
TVというのは阿漕なものだな。
これまでの実績が無くとも、見栄えがすると言う理由で、ほいほいと僕を登用したよ。
まあ、僕には実力もあるのだから、結果的には問題がないが、もしも僕の目利きが悪ければどうするつもりなんだろうね?
僕も最初はそんな目立つことはしたくなかったのだが、TV出演料はどんどんアップするし、店もつられて繁盛するし、まあ様子を見ることにするよ。
この騒ぎにつられて父が戻ってくるかも知れないしね。』
『お前がいなくとも、この東京は何も変わりはしない。
無論、龍麻も動揺している気配はない。
安心して、心ゆくまで異国の地にいるが良い。
では。
なお、この手紙は、お前が今どこにいるか分からなかったから、お前の両親の住所に送ることにする。
1999年 7月1日
如月 翡翠』
何も変哲のない、ただの近況報告。
それも、龍麻はお前がいなくても変わりない、とわざわざ書くところが憎たらしい。
第一、どこで俺の両親の住所を知ったんだ、お前には言ってなかったぞ、と顔をしかめながらその手紙をためつ眺めつしているうちに、違和感に気づいた。
2枚目の、本文と最後の日付及び名前の間が、妙に広いのだ。
確かに、そこで用件が終われば1枚目よりも空間が開くのは仕方がないかも知れないが、それにしても日付が左に寄りすぎている(注:手紙は本当は墨で縦書き)。
ひょっとして・・・いや、しかしそんな手間をかけてどうする・・・と思いつつも、キッチンに立って、コンロに火を点け、手紙を炙ってみた。
「・・・祇孔、何やってんの?」
「・・いや・・・妙な遊び心のある奴だから・・・」
言い訳しているうちに目が逸れたらしい。
「しーちゃん!火!火付いてる!」
「うわちゃちゃちゃ!」
手紙に火が燃え移り、慌てて横の流しで水をかけると。
墨が流れて滲むのとは別に、文字が浮かび上がってきた。
「・・・炙り出しじゃなく、水だったかい・・・」
考えてみれば、相手は水忍者であった。まずは水をかけることを考えてみればよかった。
「あら〜スパイメモみたいね〜」
「いや、あれは水に溶けるんだぜ、確か」
感心している母をよそに、村雨はその単語を読んだ。
『帰ってこい。龍麻と秋月の関係が不穏だ』
1999年7月7日。
図らずも、自分の誕生日に、日本に戻ってくる羽目になった村雨である。
というのも、久々に息子の誕生日を祝いたかった両親はごねたからである。
かなり未練たらたらに引き留められて、ここまでずれ込んだのだが。
ようやく振り切り、どうにか戻ってきたのだ。
さて、ここからどうするか、と村雨は思案した。
まず、龍麻のマンションに行く、という手がある。
が、これは少し待て。さすがにふられておいて、のこのこと顔を見せるのもちょっとどうか。
それから如月の店に行く、という考えもある。
が、何やら忙しそうだし、多分は詳しく言う気は無いだろう。懇切丁寧に自分の情報を開示するような男なら、はなっから手紙に書いているだろうから。
となると。
素知らぬ振りして、<浜離宮>に挨拶に行くとしよう。
久々の<浜離宮>は・・・一見、なんら変わりはなかった。
「祇孔!久しぶりですね!」
自分の足で立ち、迎えてくれる薫の髪が、幾分伸びてきているくらいで。
「にいさまは、出かけているけれど・・祇孔が帰ってきたと知ったら、きっと悔しがるわ」
微笑む顔に、後ろめたい様子は何もない。
とすれば、秋月は龍麻と喧嘩しているのではないのだろうか?
それとも、薫には知らされていないだけだろうか?
「御門は?」
「えぇ、もうすぐこちらに来るって言ってたんだけど・・」
その言葉が終わらないうちに、障子がからりと開けられた。
「失礼しますよ」
「あら、今、晴明の話をしていたところよ?」
「聞こえていましたとも」
白のスーツという、ある意味派手派手しい服を違和感なく着こなした御門が、そこにいた。
扇子で隠してはいないものの、その表情は、どこか鎧をまとっているように無表情だった。
「世界に出る・・などという大言壮語を吐いた割には、随分と早々に引き上げてきたものですね」
いつもなら嫌みな口調の陰に感じ取れるはずのからかいや気遣いが、全く見受けられない。
このよそよそしさからして、『秋月と龍麻の関係が不穏だ』というのも、あながち誤報ではなさそうだ。
「へっ、世界も俺にゃあ狭すぎんだよ」
とりあえずジャブで応酬。
さて、どういう方向から攻めるべきか、と考えているうちに。
御門が、ふぅっと大きく溜息を吐いた。
「いい加減、腹の探り合いには飽き飽きしているんです。今、お前ごときを相手に、神経を使うのは真っ平ですよ、私は」
いきなり弱音を吐かれてぎょっとする。
確かにそれは御門の本音であろうが、これまでそんなことを吐露したりはしない男だったのに。
村雨という『見返りなしでも確実に秋月の味方である』便利な人間を失った分、御門に重責がのしかかっているらしい。
快く、とまではいかないまでも、別段邪魔もされずに飛び出してしまった村雨だが、友人がこんなに苦労しているのを見ると、さすがに申し訳ない気になってくる。
日本に戻るのなら、また手伝っても、と喉元まで出かかったが。
断られるのも目に見えているため、やめておく。
もしも秋月の仕事をするなら、どっぷりと首までこの世界に浸からなければならない。
御門と征希には悪いが、それでは息が詰まって、自由を求めてしまうだろう自分を知っている。
友人たちは、それゆえ自分を送り出してくれたのだ。
無論『友人として』助力を求められたなら、力を揮うことはやぶさかでないが、中途半端に関わるのは却って失礼であろう。
そう結論づけて、村雨は、ずばっと切り込んだ。
「秋月と龍麻の関係が不穏、と聞いたぜ。・・・どうなってる」
「不穏・・・ね」
御門は、かすかに笑って、扇子をぱちりと打ち鳴らした。
「その言い方だと、おおかた飛水忍者が情報源なのでしょうが。・・・私にも、はっきりとは言えませんよ」
そして、御門は、どこか困惑したような、まるで初めて会った人間を見るような目で村雨を見た。
「お前という存在が、<黄龍の器>にどれほどの影響を与えていたのか・・・今の緋勇龍麻の状態が、お前という存在を傍らから失ったためのものなのか。そんなことは、私には分かりませんとも」
『緋勇龍麻』という呼び方が、いかにも一歩引いていて、『元仲間』に対するものではなかった。
しかし、どのような状態だと言うのか。
如月の手紙では、普通に大学生をしている、とのことだったが、やはり裏があったのだろうか。
「表面的には・・そうですね。変わらないようにも見えますよ。仲間に会ったときに、まるで『高校時代にちょっと知り合った友人、ただし今はただの他人』に会ったときのように素っ気ない、との情報は、何人かから得ていますが、それはまあ分からなくもないですし」
龍麻は以前、『高校を卒業すれば、皆、それぞれ住む世界が違う。どうせ徐々に疎遠になるさ』と言っていたが。
それは自分の存在が不安定で皆に受け入れられるかに怯えていたときの強がりだと思っていたのだが、本気であれだけのことを乗り越えた仲間も『ただの知り合い』に格下げしたのだろうか。
それはそれで気にはなるが、それが原因で秋月との関係が不穏になるわけもない。
村雨は、続きを促すように、御門に目を向けた。
「緋勇龍麻が、東京の龍脈を支配していることは、知っていますね?」
御門は、不機嫌そうに、また扇子を打ち鳴らした。
「最近、その支配圏が拡大しているのですよ。無論、自然の成り行きではなく、<黄龍の器>の意志で」
「そりゃまた、何で・・・」
そこまで言って、絶句する。
龍麻は他人を支配しようとする女王様気質がありそうでいて、実際のところは『支配欲』だの『権力欲』だのは意外と薄い、と思っていたが。
本当に、龍麻の統括する龍脈の支配圏が拡大しているとなると、どうにも『権力欲』がゆえというように映る。
秋月が警戒するのも、無理のない話であった。
「何で、なんてこっちが聞きたいですよ。・・時期的には、お前がいなくなって間もなくのことです。元々『支配欲』はあったところを、お前がいるから自重していたのか、それともお前を支配することで紛らわせていたのが、お前がいなくなって『支配欲』が爆発したのか・・・」
「俺を支配、ね・・・」
傍目にはそう映るかも知れないが、実際のところは、龍麻が村雨を支配しようとしたことはない・・というか村雨自身にはそうは感じ取れなかった。
むしろ、傲慢な口調にも関わらず、村雨を尊重して控えめなくらいであったが。
『俺の男』と表現はするが、『お前は俺のものだ』と決めつけたことはなし、いや、それどころか『アンタは俺のものだ』と口走ると、『誰が、お前のものか!』なんて言いながらも目が幸せそうに微笑んでたりして、『自分が支配されるあるいは所有される』のも結構好きらしく、S属性に見えつつ実は隠れM属性なんじゃないか、とか・・・。
いや、回想している場合じゃないか。
「あの人は、この国を支配しよう、なんて考えるような人じゃねぇよ」
「まあ・・・私も、そうは思ったので、ここまで放置していたのですが」
御門も、龍麻とは犬猿の仲・・というかキングコブラとマングースの仲ではありながらも、共に柳生を倒した縁がある。
その際に、龍麻自身の欲の無さは、御門も知っている。
「ですが、すでに支配圏は関東一円に及んでいます。さすがにもう傍観しているわけにはいかなくなりました」
「先生に、理由は聞いたのかい?」
ふん、と鼻で笑われる。
「あの人が?私に理由を言うとでも?」
「・・・だな」
納得して、村雨は肩をすくめた。
まあ、『元恋人』になら言うという確信もあるわけではなかったが。
「ま、じゃ、俺はいいタイミングで帰ってきたってこったな」
「そういうことですね」
秋月としても<黄龍の器>と全面戦争とでもなれば被害は甚大であろうから、話し合いですめばそれに越したことはない。
村雨としても、そんな事態は避けたいところである。
龍麻の行為の理由を聞き出し、出来ることなら、それを止める。
それは秋月のためでもあるし、村雨自身のためでもあった。
とはいうものの、さて、どう切り出したものか。
まあ、ともかくは、帰国した挨拶を口実に、龍麻のマンションにでも行くか、と足を向けた。
玄関まで来て、ポケットの中の合い鍵を握り締め、しかしそれを使う権利はあるのだろうか、と思い直し、インターホンに手を伸ばした。
その途端。
かちり、と鍵が開く音とともにドアが開いた。
「何だ、遅かったな」
まるで、今まで村雨と暮らしていて、帰りが遅かった、とでも言うように。
さらりと言って、龍麻は村雨が上がるのを確認もせずに、背を向けて廊下を歩き始めた。
何か言うタイミングを失って、無言で村雨もそれに付いて行く。
リビングのソファに座ると、龍麻がキッチンから盆を持ってきた。
「とりあえず、これでも食ってろ」
缶ビールとともに、枝豆と冷や奴が、どんっとテーブルに乗せられた。
香りからして冷や奴に乗っているネギは冷凍ではなく今切ったもので、ショウガもすり下ろしたばかりに思える。
誰かが(多分は壬生あたり)来ていたのか、とも思うが、ネギの切り口の無茶苦茶さから見て、龍麻が切った可能性が高い。
さて、となると、村雨が来るのが分かっていたわけでなし、誰か自分以外の人間のために用意されたものか、と疑いたくもなるのだが。
それにしては、あまりにも自然に供されたので、つい、村雨も自然にそれに手を伸ばす。
茹で加減が足りない上に塩気のない枝豆をぼりぼりと(音が出る時点で枝豆としては失格であろう)食っているうちに、龍麻がまた戻ってきた。
「お前が戻ってくるのが遅いから、すっかり冷めてしまったぞ」
次々にテーブルに出てくる二人前の食事は、村雨の好きなもので占められていた。
ちょっと待て。
『戻ってくる』って何だ。
しかも、今日戻ってくるのが分かってたのか?
村雨の頭の中を、疑問符がいくつも飛び交った。
まさか、と考えるだに恐ろしい可能性が浮かび上がる。
ふられた、もう終わった関係だと思っていたのは、自分だけか?!
なんか、勘違いしてたのか?
混乱する村雨に、龍麻はうっすらと笑って見せた。
「<浜離宮>に寄っただろう?なら聞いてるんじゃないか?俺が関東一円の龍脈を支配してるって」
「え?あ、あぁ」
返事が遅れたのは、龍麻の笑みに見惚れていたせいだ。
どうやら、自分は思った以上に、未だこの人に惹かれているらしい。
「お前の<氣>くらい、この地に降り立ったときから把握済みだ。何万人・・何億人の中からだって、お前の<氣>なら判別できる」
なんか、すっごい告白をされた気もするが、とりあえず、後で意味を考えるとして。
「龍麻」
幾分かすれた声とともに側ににじり寄った村雨を、龍麻は首を傾げて見上げた。
「悪ぃ、メシも話も後でいいかい?・・今、猛烈にアンタが欲しいんだが」
じっと見つめた後、龍麻の口が苦笑気味に歪められた。
「・・・4ヶ月ぶりだから、あまり無茶はするな」
それを承諾と解した村雨は、光の早さで龍麻を抱き込み、口づけた。