PCL86ミニワッター |
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1Wのアンプと言ったら、あなたはどのようにイメージされますか?
おもちゃのアンプじゃあるまいし、音量不足でまともな音が聴こえないんじゃないの。最低でも3W以上は必要でしょう。
BGM用としてならいいかもしれないけど、本格的にいい音で好きな音楽を聴こうとしたら力不足じゃない。
じつは、自分も正直これに近い思いを持っていました。
ぺるけさんがその思いをこっぱ微塵に打ち砕いてくれました。
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ぺるけさんのHPに「The Single Amp Project」と言うカテゴリーがあり、そこでミニワッターコーナーが始まりました。1W以下のシングルアンプをまともに、まじめに作り上げていくものです。
いつもそうですが、ぺるけさんのまじめにとことん追求する姿勢、そしてそれを分かりやすく解説する姿勢、大いに見習いたいと常々思っています。まだの方は一度ぺるけさんのHPをご覧になるとよろしいかと思います。
http://www.op316.com/tubes/mw/index.htm
さて、そのミニワッターアンプとやらを製作してみました。
その音を聴いたときは衝撃的でしたね。何が衝撃的かというと
● 1Wの音量はでかい!
● いい音です。(音がきれい、すっきりした感じ、音の表現は言葉では・・・・)
● 低域音が結構まともに出ます。(低域音は出力が大きくないとまともに出ないと思っていた)
● 6〜10畳程度の部屋では十分なアンプかと
音量は使用スピーカーの能力にもより変わってくるし、聞く部屋の大きさによっても感じ方が違ってくると思います。
私のスピーカーはLSF-555で音圧レベルは85dB/W/mと決して高能率とはいいがたい
ものです。そして部屋は9畳の洋室です。
この条件で今回作成した1Wアンプはみごとに充分大きな音で鳴ってくれます。
そして、音が大きいだけじゃないのです。これがいい音なんです。
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この、ミニワッターアンプ、いろんなところに工夫があります。
出力段のコンデンサの使い方、電源回路のリップルフィルター回路など魅力的で理にかなったものになっています。それらが相互にかみ合いこの音を作り上げていると考えられます。
しかしこれらの回路も決して複雑な回路と言うわけではありません。そして特殊な部品を使っているわけでもありません。
私も以前作ったシングルアンプを改造し、ほとんど手持ちの部品で作ることができました。
ぺるけさんの記事を見ていつも感じるのですが、特殊な部品はできるだけ使わない、どこでも入手可能なもの。そして、再現性の良いもの、誰が作ってもある程度の結果が出るものを発表しています。たまたまうまくいったや、アクロバット的に作られた回路はまず見ることはありません。
このようなことの裏では相当な実験や考察が行われえいることと思います。記事をよ〜く読んでいくとそれらをうかがえる部分がいくつもあります。
そういうぺるけさんに敬意を表してここでは「ぺるけ式アンプ」と呼ぶことにします。
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この「The Single Amp Project」のミニワッターでは12AU7などの双三極管を使用して0.3〜0.8W程度のアンプを作るところから始まり、6BM8や6GW8の作例も紹介されています。
そこで、手持ちにあったPCL86を使用して作成してみることにしました。
PCL86は14GW8と同じでヒーター電圧14.5Vという電圧であるがゆえあまり人気がない球になっています。しかし、春日無線が電源トランスKmB90FやKmB150Fなどに14.5Vヒーター用端子を用意したため簡単にPCL86を使用できるようになりました。
以前製作したPCL86シングルアンプ用のシャーシーと電源トランス(KmB150F)、出力トランス(54B57)をそのまま流用して「ぺるけ式アンプ」を製作してみました。
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まずは、今回作成した回路図です。
各箇所の電圧を記入しておきました。KmB90Fの電源トランスを使用した場合、195VタップですのでB電源電圧は若干低くなると思いますが特性はほとんど変わりないものと思います。 |
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● 初段
初段は0.5mA
を流します。R4のカソード抵抗は2.4kΩです。ぺるけさんのページは620Ωとなっていますが、確認したところ間違いだそうでそのうち訂正されることと思います。
じつは、うかつにも私も620Ωで組み付けたところ、音はまともに出るのです。各部の電圧をチェックして行き初段のカソード電圧があまりに低いのでおかしさに気づきました。
雑誌やネットに公開されている回路は正しいと思いがちですが、間違いもあるのですね。今回はいい教訓になりました。
回路図を鵜呑みにするのではなく、作る前に自分でよく確認してから製作に入ったほうが良いと思った次第です。
Cg1に0.47μを使用していますが、たまたま手持ちがあったので使用したのですが0.1μでも問題ないです。
● 出力段
出力段の5極管は3極管接続です。PCL86は5極管接続で3〜4Wは出ます。ところが3極管接続だと1〜1.5Wがいいところでしょうか。出力を落としてでも3極管接続にするのは音の良さです。特性カーブを見れば分かりますが増幅された直線性が圧倒的に3極管接続のほうが優れています。それが音にも現れるわけです。
出力段はプレート電圧240Vで20mA流しています。今回電源トランスは(流用したため)KmB150Fを使っており
電流容量にはかなり余裕があります。それじゃ、出力を上げるために電流増やしちゃおうか・・・と発想しますが、これはだめでかえって出力を落としてしまいます。そう、プレート電圧を高くできれば出力増大も少しは可能でしょうがこのトランス電圧はこれでいっぱいです。
出力段で「ぺるけ式アンプ」の最大の特徴であるC3のコンデンサの使い方です。信号ループを電源に返すのではなくカソードから直接出力トランスに返しています。とても合理的な手法かと思います。
● 電源回路
MOSFETによるリップルフィルタ回路が組み込まれています。MOSFETには手持ちの2SK2662を使いました。2SK3067が原典ですが、秋葉原ではどこも売り切れ状態でしたので手持ちのものを使うことにしました。
B電源をできるだけ上げるためR9を51kΩにしました。
このリップルフィルターはかなりの優れものです。次の項目で取り上げます。
R12の抵抗は100kにし直列にLEDをつけました。調整時に電源OFF時してB電源が確実に下がったかを確認するためです。これがあると結構便利です。
電源トランスは流用品の春日無線変圧器のKmB150Fです。B電源巻きは200V端子がありACで150mA、DCで95mAまで取り出せます。今回のB電源の必要電流は、42〜45mAですからかなり余裕があります。というより大きすぎ。この下のKmB90F辺りがちょうどよさそうです。
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秋月電子通商に3N90(FQPF3N90)というMOSFETが格安(2個100円−2010年5月現在)が売られています。Vdss=900VでId=2.1Aですから問題なく使えます。実際にこのアンプに使用してみました。2SK2662とそん色なく使用できました。
ただし、3N90を使うときにはGS間に24V程度のツェナーダイオード
を上記図fig02のように付けたほうが安全です。GS間の最大定格電圧は±30Vです。なんらかのときに30V超えてしまうと壊れてしまいます。
それでは2SK2662や2SK3067のほうはいらないのかというと、こちらのMOSFETにはこのツェナーダイオードが内部に組み込まれているので必要ないのです。ほかのMOSFETでももちろん代用できますが内部にGS間ツェナーがあるかないかも確認したほうがいいですね。
さて、今回使用した回路がfig01です。 FETのソースフォロアです。基本回路だけを抜き出しますと下記のようになります。 |
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基本的にGゲート電圧値(より2.5〜5V程度低い電圧)にSソース電圧がコントロールされます。
ゲート電圧はR9とR10で決まる電圧がGにかかります。その電圧がSに出てくるわけです。
Sから流れ出る電流はDから供給され、GからSへ流れることはありません。GはあくまでもSの電圧を自分Gと同じになるように見張っているだけです。
Gの電圧を計算してみます。
273V×(1500k/(51k+1500k)) = 264V
抵抗の誤差などで実際には262.5Vでした。その2.5V低い電圧260VがSソースに出力しています。
次にリップルを考えてみます。
Dドレイン側は整流して100μのコンデンサだけのものです。当然リップルが乗っています。実測では1.2Vのリップル分がありました。このままB電圧にしたら”ブ〜ン”というハム音の原因になります。
このリップルが乗っている273VをR9とR10で分圧してGゲートに加えているのですが、ここで、GにC5が接続されています。つまりGに加わる電圧のリップルをC5で平滑しているわけです。Gは電流は流れないのでC5は小さな容量でもリップル分を充分取ることができます。
リップルのないきれいなGの電圧と同じになるようにSはコントロールされるので当然Sもリップルのないきれいな電圧になります。
その上、Sは出力インピーダンスが非常に低くなるので、まるでバッテリー(直流の電池)みたいなものになるわけです。
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MOS-FETのドレイン側リップル波形 MOS-FETのソース側リップル波形
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左側の写真がDドレイン側のリップル分(縦スケール0.2V/DIV)、右の写真がSソース側の写真でまったくリップル分がありません。テスターの計測では7mVacでした。
チョークを使ったLCフィルターでもこれほどのB電源は作れないでしょう。その上この回路の部品代は数百円です。昔では考えられないことです。便利な世の中になったものです。
それから、このMOSFETは入力273Vで出力260Vです。13VがMOSFETでダウンしています。そして、MOSFETに流れる電流はB電源すべての電流約45mAです。MOSFETが消費する電力が計算できます。
13V×45mA = 585mW = 約0.6W
となります。この0.6Wは全部熱になりますので念のため
小さな放熱板をつけるかシャーシに取り付けます。わたしはシャーシに取り付けました。
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次の各部は線を良くよって配線します。
・AC-100Vライン
・ヒーターライン
・電源トランスの0-200Vの交流部分のライン
などです。これらをよることでハムノイズの軽減ができます。
また、出力トランスの1次側0-7kΩ(B-P)のラインもよって配線しています。これは寄生発振防止です。
内部の配線状態です。画像をクリックすると大きな画像で見ることができます。
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0.5Wでの周波数特性です。
NFBなしとNFBありを描いてみました。NFBありで低域と高域がかなり改善されています。
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入力(mV) |
出力(V) |
倍率 |
dB |
NFBなし |
70 |
2 |
28.6 |
29.1dB |
NFBあり |
230 |
2 |
8.7 |
18.8dB |
約10dBのNFBです。回路ゲインが結構あったので多目の帰還がかけられます。
フィードバック抵抗に並列に2000PFのコンデンサがついていますが、このコンデンサの有り無しの違いは
広域での乱れを少なくするものです。下記の波形の違いで分かります。
コンデンサなしの10kHz矩形波形(出力) 2000PFありの10kHz矩形波形
(出力)
低域もこれだけ延びてくれると言うことなしです。
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ひずみ特性を取ってみました。その特性カーブが下の図です。このカーブから出力は大体1.2Wと言ったところでしょうか。
データで1Wと1.2Wを詳しく見てみると
出力 |
ひずみ率(%) |
(W) |
100Hz |
1000Hz |
10000Hz |
1.0 |
2.94% |
1.73% |
1.80% |
1.2 |
12.0% |
3.37% |
4.70% |
となっています。
1000Hzで1.2Wのときのひずみが3.37%です。だいたいこのあたりが最大出力と言っていいところかと思います。
低域の100Hzで見てみると1Wで2.9%ですから、全体域でひずみを感じない出力としては1Wかと思います。
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残留ノイズは
Left:0.28mV
Right:0.26mV
でスピーカーに耳を近づけても全くハム・ノイズは聞こえませんでした。
そのほかの諸特性はおいおい取っていこうと考えています。
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まず最初の印象はしっかりした音ということ、1Wのミニワッターとは想像できないほどの音質と音量です。
多目のFBで低域の特性がかなり改善しているところにもよりますが、低音がしっかり出ているのには驚きです。
私が常用しているEL34全段差動と比べても普通に聞く分にはまったく遜色ない音量です。そしてその音質もまったく不満はありません。
とてもクリアな音質と思います。
エコが叫ばれている今日この頃、真空管アンプファンとしては肩身の狭い思いをしています。
しかしこのミニワッターでは消費電力はB電源12W、ヒーター8.7Wで全体で20Wそこそこです。電源トランスのロスなど多少あっても30W以下の消費電力のアンプと言うことになります。
EL34全段差動なんて、80〜100Wですからそれから比べたらとても省電力と言うことになりますね。
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ONKYOのスピーカーD-N8(W)と組み合わせてみました。白色で統一されアンプとスピーカーよくマッチしています。
ただし、音はそこそこ。
やはり中古ですがKENWOODのLSF-555のほうが満足できる音で鳴ります。
真空管のシャーシ内側から青色LEDで照明し暗くするとなかなか趣があります。
シャーシは以前シングルアンプを作成したときに作ったものです。
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そして、より良い音を求めて改造を・・・
PCL86 ぺるけ式ミニワッター製作(その2)
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