PCL86


家族のために
真空管アンプ作りは私の趣味、決して家族を巻き込むことはありませんでした(つもり)。だから作ったアンプはすべて私の自室に置いてあります。
ある日、リビングで「この部屋に真空管アンプ置いてCD聴いたりDVD映画を迫力ある音で聴いてみないか」と言ったら、「いいわね、聴きたい!」と妻の返事。この趣味もやっと認められた瞬間とはちょっと大げさか。
さて、手持ちの真空管アンプを1台持って行ってもいいのですが、どのアンプもよくよく見るといかめしい真空管アンプという面構えばかりです。真空管が目立ちすぎ。趣味で作るとこうなるのだなぁ、はたと気づいた瞬間でした。
まあそれはそれで悪いわけでもないが・・・、今回は普通の人が見て、聴くものです。アンプのデザインも少し考えなくてはいけない、音だって最高のものを聞かせたい。
その前に真空管は何を使うか?どのような回路で作るか?いろいろ方向性を決めなくてはいけない問題が出てきます。



やはり全段差動でしょう
回路は超三結か全段差動になるか。
シングルなら超三結、プッシュなら全段差動。たまにはオーソドックスな回路もとは思うのですが、これらの音を聞いてしまうと・・・。

そういえばPCL86が10本ほどありました。春日無線でペア980円だったので買っておいたものです。(現在でもペアで1000円で売っているようです。)サンエイさんではもっと安く売っていたとの情報がありました(1本220円、10本2,000円だそうです。2005/3/31現在IMOさんからの情報)。で、この球は安いのですがとてもいい音がするのです、6GW8ファミリーなのだから当然と言えば当然かもしれません。しかしこの球なぜか人気がありません、その理由にヒーター電圧が14Vと言う中途半端な値だからでしょうか。
真空管アンプに興味を持つきっかけになったのが春日無線のPCL86アンプキットでした。そのうちこのPCL86で全段差動を作ってみたいとずっと思っていました。
全段差動アンプは6L6GCでその良さは経験済み。PCL86でも期待に応える音を出してくれるだろうと胸膨らみます。

その前に予算です。真空管アンプは何しろトランスにお金がかかります。タンゴや橋本は見栄えはいいが価格が高い。もちろんそれなりの性能がありますのでいいのですが、安いトランスでも結構な性能のものが沢山あります。かと言って見た目に安っぽいトランスが配線端子むき出しで並んでりゃ家族も興ざめすることでしょう。何かいい方法はないものか・・・。



完成イメージ
真空管アンプを作られるあなたも作る前に完成時のイメージを頭の中に思い浮かばせることでしょう。これってとても大事なことと私は思っています。このイメージがしっかりしているかいないかで、出来た作品に大きな違いが出てきます。
さて、今回はどのような外観にしようか。アンプ作りでこの外観イメージを構想(空想)している時が一番好きです。
自作アンプの外観や見栄えについては皆さんいろんな意見を持っています。自作だからメーカー品の様にきんきらゴテゴテ飾らなくてもいい自分好みの音を出すほうに注力すべき、と言う方いれば、いや、自作と言えども実用性のあるものだから長く愛着もって使うにはやはり外観も重要と言う人もいます。外観やデザインは総じて主観的な好き嫌いに属するものなのでなんとも言いがたいが、自分が綺麗、美しいと思うものに仕上げたいです。

と言うことで今回はブルーライトを横浜に・・・おっと違ったブルーライトを真空管に当てて管を照明してみようと考えました。(ブルーライト横浜なんて年いくつ?)
真空管を前面に配置しその後ろに横長のBOXを置き、その中にトランス類をに入れ隠してしまいます。そして、真空管とBOXの間に青色LEDを配置しBOXの壁に向け青色の光を当てるのです。正面から見れば間接照明で真空管の後ろにブルーの光がひかりその光にで真空管が浮き出したように見える・・・こんなイメージでいよいよ製作開始。



トーンコントロール付き
さて、このアンプの利用目的は家族が普通に聴くために使用するアンプです。テレビのドラマ、音楽番組、DVDで映画鑑賞、CDで音楽鑑賞など、ジャンルはざまざま、音量だって大きくするときもあれば控えめの音で聴くことだってあります。特に控えめの音量で聴くときどうしても低音部と高音部が聴こえづらくなります。
そこで、トーンコントロール回路を入れることにしました。入力もDVDプレーヤーとTVの2回路切り替えセレクトスイッチをつけます。
さて、トーンコントロール回路ですが、長真弓著の「真空管アンプ設計自由自在」を参考にしました。この回路はもっとじっくり検討したかったのですがおまけの回路と思いとりあえず作ってみることにします。また、トーンコントロール回路をバイパスするスイッチをつけました。本来の全段差動だけで聴くにはスイッチをDIRECT側にし、トーンコントロールをかけたいときはTONE側にします。

それにしても、トーンコントロール回路というのを自作派の方であまりと言うかほとんどやられていないのにちょっと驚きです。私もついつい「おまけの回路」と言ってしまいましたがどうしてトーンコントロール回路が窓際なのでしょうね。ちょっと考えてみました。
●せっかく忠実度を追求して作ったアンプをわざわざ壊すような回路だから
●デジタルでグラフィックイコライザのような技術が当たり前になったので低域と高域2点のコントロールだけやったって。
●安物のアンプみたい、高級アンプにはトーンコントロール回路なんて付いてない。
●回路が複雑になり作るのが面倒だから
など、いろいろ考えられますがそれにしても自作例が少ないですね。邪道回路なのでしょうか、でもこのトーンコントロール回路まじめに追求すれば面白いしそれなりの勉強にもなりそうです。今回CR型でやりましたが入出力のインピーダンスによる影響だとか利得の取り方だとか奥は深そうです。
まずは今回、重低音とシンバルの繊細な響きが聴けるのか、小音量で不足気味の低高音を聴くことができるのかやってみることにします。


回路設計
まずは本機の回路図です。
2段の全段差動回路です。当初3段を予定してたのですがゲイン的に2段で充分でした。PCL86を三結で使用しましたがどこを探してもこの球の三結特性が見当たりません。そこでプレート電圧250V以下電流30mA以下とすることにしました。この程度ならオーバーになることはないだろうと考えました。と言うことで定電流回路は60mA以下にします。定電流回路はLM317Tを使用しますので定電流にするための抵抗を決めます。ADJ、OUT間のリファレンス(基準)電圧が1.25Vなのでそこに60mAを流すには
1.25V÷0.06A=20.83Ω
になります。こんな抵抗ありませんので近い抵抗値は20Ωか22Ωです。60mA以下が設計値ですから22Ωを使うことにします。ちなみに22Ωなら電流は 1.25÷22=0.0568(A) です約57mAです。これでいいでしょう。あとはB電源を240〜250Vを作ればいいことになります。
じつは、このアンプも完成した先日、千葉にお住まいの田村さんからPCL86の三結特性グラフを頂きました。何と綺麗な三極管特性を描いてました、嬉しくなってしまいました。
出力トランスは東栄のOPT-10P(8k)を使用しました。電源トランスは春日無線の7Z40WCDと言う型式で100V:200V(40W)です。ヒータータップはないですが6.3VがあってもPCL86には使えません。別に用意します。PCL86のヒーター定格は14.5V、0.3Aで、4本使うから
0.3A×4=1.2A これに12AX7も2本使いますのでヒータートランスは12Vタップと14Vタップがあり電流2A程度がほしくなります。東栄にちょうどいいトランスがありました。
トーンコントロール回路はCR型を使います。コントロール部の定数は長真弓著の「真空管アンプ設計自由自在」を参考にしました。コントロール回路の出力段はカソードフォロアを付けバッファアンプにしています。



レイアウトと加工
ステンレスのシャーシを使うことにしました。シャーシを買いに行ったとき、ふと目に入ったのがステンレスのシャーシ、ぴかぴかでとても綺麗。よし、これでPCL86全段差動アンプを組もう、見たとたん決まりました。ところがこの即断が後で痛い目にあうとはつゆ知らず、有頂天になっていました。
意外と入手に苦労したのは1MΩの2連ボリュームです。その他青色LEDは秋月電子で10本400円のものを購入、5φで高輝度です。照明用に8個使いC電源用に2個使います。青色LEDはそのまま発光させたのでは光が線(ビーム状)になってしまいよろしくありません。秋月に5φ青色LED用のブルーキャップがありました。このキャップをLEDにかぶせると光が程よく散乱してとてもいい雰囲気になります。





さて、部品も揃って穴あけ加工です。配置はイメージ通り前面に真空管を配置、後ろにトランス収納BOX。つまみ類は、左から入力切替スイッチ、トーンコントロール回路入り(TONE)/切り(DIRECT)、低音コントロール、高音コントロールそして少し離れて右に音量ボリューム。寸法も決め、さて穴あけ開始。ところが電気ドリルで開けるもなかなか穴が開きません。ドリルの刃を見てみるとつぶれてます。アルミ感覚で穴開けようたってステンレスは硬くてそう簡単ではなかったのです。仕方なく、ホームセンターにドリルの刃を買いに行きました。いろいろ見てみるとドリルの刃にもいろんなものがあることが分かりました。そして見つけましたチタンドリル刃、これは強そうです。少々お高いがこれからも長い間使えると思い13本セットを購入。これで、やっと加工にはいれます。しかし、やはりアルミとは大違い硬すぎてリーマも使えない大きな穴はドリルで外周をぐるりと開け後はやすりで根気良く穴を整えていく、シャーシの穴あけ加工に相当時間を費やしました。もう二度とステンレスシャーシなんて使わないぞと指の切り傷見ながら思いました。

















トランスはすべてバンドタイプです。とてもむき出しにすることは出来ません。タカチのBOXシャーシにMB-13と言う手ごろな横長のシャーシがあります。以前もこの中にトランスを収納したアンプを作成したことがあり今回もこれを使うことにしました。ただ、すべてのトランスを収納出来る大きさかやや不安。・・・実際にレイアウトすると案の定入りません。仕方なく、OPTの一部がはみ出してます、後ろだから見えないし放熱にいいし、まぁいいっか。ってなことになってしまいました。ここら当たりはいささか加工に疲れてました。


発振だ〜
組み立て完成後、調整していて片側がやけに残留電圧が高いのです。ひょっとしてと思いオシロで確認してみると見事に高域発振していました。PCL86(6GW8)はGmが高く発振しやすいと聞いていましたが、まさか自分が食らうなんて・・・。グリッドに2kΩ野抵抗を入れてみましたがだめ、いろいろいじっているうち他方も発振しだしました。最悪!重症です。残留電圧で30〜100mVぐらい、なにかの拍子で大きくなったり小さくなったり。
試しにスピーカーをつないでみました。全くノイズとしては聴こえません、当たり前、人間には聞こえない高域周波数です。試しついでにCDで音出ししてみました。・・・・とってもいい音ではないですか・・・・でも発振していると思うと心地よく聴いてはいられません。

解決できないまま数ヶ月ほったらかし。全ばらしで組み直しを考えましたが、その前に再度発振退治にチャレンジ。
まず、ぺるけさんのアドバイスを元に上の球プレートからOPTまでの線と下の球のOPTまでの線を良くよって配線してみました。そうすると発振振幅が1/3程度下がりました。かなり改善、しかし完全に止まったわけではありません。
そして、LM317T定電流回路の入り口に0.1μのコンデンサ、22Ωに並列に0.1μを入れたところ、ものの見事に発振は止まりました。しかしここにコンデンサを入れると高い周波数領域で作動回路が崩れることになり少なからず音への影響が出ると思われますのでこの対策は断念。
次にドライバー段のプレートから5pFでアースに落とすとこれも発振が止まりました。
5pFというと10kHzで3MΩほどのインピーダンスです。
この程度なら問題ないと判断し、この対策で行くことにしました。


周波数特性
まずは周波数特性です。とても素直な特性です。特に低域はほぼフラットに近いカーブです。東栄の出力トランス「OPT-10P」はなかなかのものですね。3000円もしないでこの特性、充分満足です。
高域がもう少し延びてほしいかなと思うところではありますが高域発振があったせいか、高域についてあまりいじる気がしなかったのです。とは言っても20kHzまではフラットで60kHzで-3dBですからかなりいいのではないでしょうか。
150kHz以上で小さな乱れがありましたが-10dB以下でしたので大勢に影響なく細かく取りませんでした。


歪率特性
この歪率特性から見ますと、本機のの出力は2Wと言ったところでしょうか。

トーンコントロール周波数特性
なかなか現実的には思うようなカーブを描いてくれません。この特性から見てまだまだ改良しなければと思っています。つまみ中央でかなり乱れています。B型ボリュームを使ったためです、A型ボリュームでやるべきですね。トーンコントロール回路は宿題としてこれから少しずつ検討していきたいと思います。おまけの回路といいつつかなり気になってきました。
これでも結構低音高音がブーストし最大ではもうやりすぎって感じです。


そのほかの特性
そのほかの特性も測ってみました。
(アンプゲイン)
これはPCL86全段差動メインアンプのみのゲイン測定です。コントロール回路はバイパスしています。
帰還抵抗なしのとき アンプゲイン 20倍 (26dB)
4.7kΩFBをつけてとき アンプゲイン 10.7倍 (20.6dB)
と言うことで約6dBのFBでした。

(ダンピングファクター)
ON-OFF法で計測です。8Ω負荷でON時2V、負荷開放時2.62V でした。
ダンピングファクター 3.2

(残留ノイズ)
右CH 0.8mV
左CH 0.9mV
スピーカーに耳を当てても何も聴こえないレベルです。



出力を上げる改造
(2006/01/03 改造)
本機の出力2W。何とかもう少し出力アップできないものか・・・。
B電源を上げたいところですが、トランスの端子は220Vまで。そこで、電源100Vを1次側90V端子に接続して2次側220V端子から取りました。その結果2次側から240Vほどの電圧を確保でき、整流平滑回路はそのままでB電源を280V以上とることが出来ました。
波形計測しかしていませんが、1kHzの正弦波の上下が欠け始めるのが8Ω負荷で5Vちょっと越えた所からです。ということは3Wは出ていることになります。とりあえず期待通りの出力アップが出来ました。とりあえず、これで完成とします。
回路と各部の計測電圧です。

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