TOM WAITS
♪ジャンル一口メモ♪ 酔いどれ音楽家 (ロック+R&B+フォーク+ジャズ+レ
トロ+映画音楽+実験性+ユーモラス=トム・ウェイツ)
トム・ウェイツ 『レイン・ドッグス』
※愛聴度 ★★★★★
※購入価格:900円(中古輸入盤)
※中古購入予想:1000円(2004年リマスター盤出ました。)
トム・ウェイツという人は、過去、自分の中で「役者」というイ
メージが強くて、CDもリリースしてる
らしいけど「副業っていうか片手間でしょ?」程度にしか考えていなかったのが本当のところです。
でも、ちょっとした店なら仕切り板にも名前がきっちりあるし、ここまでメジャーなら人気の理由を
探るべく一度は耳を通してみたい。でも、かつての幾多の俳優兼アーティストに魅力を感じなかった
経験から、やっぱり訝しく思う気持ちが先行してた矢先に、このアルバムをアマゾンの980円セール
で
見つけました。他のサイトでもやたら喝采を受けてるし、「そんなにすごいの?」と、便乗というか興
味
本位で試聴したのが最後、彼の音楽を今まで知らなかった事が悔しく思えて仕方なくなりました。
そもそも思い間違いをしてるのは自分の方で彼は元々生粋のシンガーソングライター。10年ほどの
キャリアと数枚のアルバムを発表した後、かの映画監督フランシス・コッポラから「ワン・フロム・
ザ・ハート」
という作品のスコア制作依頼を受けます。それを機に、映画音楽〜俳優としての銀幕デビュー。
映画界でも評価を受け、今の彼に至るというわけです。もともとの音楽というか初期の頃の作品は
わりと時代性もあってかフォーキーなものが多く、自分の理解力では、まださほどピンとは来ないので
すが、
代表曲と呼ばれるものも多く、若いフレッシュなトム・ウェイツの声と、スタンダードな演奏が味わえ
ます。
のちに激渋声に変わるところはブルース・スプリングスティーンと似てるところがありますね(笑)
話は戻りまして、一方このアルバムは彼がいくつかの映画音楽制作を通過した後、85年に発表された
のですが、これがまた物凄く面白い。意図的にチューニングを狂わせたかのようなギター、破れたドラ
ム、
ウッドベースのような重みのある低音、バンジョー、マリンバ、オルガン、トロンボーン。そしてシェ
イクスピアの
演劇のような大雨のSE。ロック、R&B、ブルース、ジャズ、はたまたポルカのような音楽までが混
沌と一枚に
凝縮されています。聴いてると、幾度となくどこの国の音楽だか分からない不思議な瞬間に襲われる
し、
リズム1つ取ってみても、言い表せない異様さがあって、音から浮ぶイメージを音像と言うのは言葉と
して
間違っているのかもしれないけれど、閉鎖して寂れた遊園地のテントの中で薄汚れたピエロの楽団が
演奏してるような薄気味悪さ。あとは古いキャバレーの中と深夜の裏路地を行ったり来たりするよう
な。
経験した事はないのだけれど、そんな退廃的なムードが漂っています。一言で「アヴァンギャルド」と
片付けてしまうには、メロディがやたらと耳に残る。つまり、ポップなんですよね。高度な実験精神
と、
ジャンルや国境をマッハのスピードで飛び越え独自の形にしたようなサウンド。そういう意味では、ま
さに
異形のポップアルバムと言えると思います。それにしても、このアルバムに収録されている名曲と名高
い
「タイム」が、むしろ耳障りが良すぎて浮いてしまうくらい他の曲の印象が濃い。「なぜこの中に?」
とも思い
ましたが、繰り返し聞いてるうちに非正常の中に正常が入り込むことで、張り詰めた緊張感が解けるよ
うな
気分になることに気が付きました。全体として異様になり過ぎず、まだ現実との接点もあるように感じ
るのも、
この曲のおかげと言えるのかもしれません。 さ、アレンジ面ばかりの話になりましたが、トム・ウェ
イツの
ボーカル。これも特筆に価するもので、時に怪しく、時に盛りのついた獣のように野性的。年季と煙草
と
アルコールで焼けたであろうしゃがれた渋さがあるのに、クールで知性すら感じます。この編曲の世界観に、
この存在感のある特異な声。声はもっとも情報量の多い楽器だといいますが、彼の歌声を聞くと、その
話も
納得がいきますし、やはり好きな声には本能的に反応するのでしょうかね。俳優として評価されるだけ
あって
表現力にも長け、鬼気迫るものがあります。また重要な追記としては、ゲストとして、ストーンズの
キース・リチャードや、
ロカビリーの大物、またはジャズとパンクを融合させた俗称「フェイク・ジャズ」のラウンジ・リザー
ズの中心メンバーが
参加しています。これだけ豪華なだけあって、彼らによって創作意欲が沸いたり、いいスパイスになっ
たことも
大きいのかもしれませんが、それにしたって音からここまで心地良かれ逆に不快であれ、「映像」が浮
んだ作品に
出会ったことはありませんでした。やはり映像と音楽のコラボレーションを経験し突き詰めた人間が
作った
からこそ、一感からのみで、これだけのインパクトと想像力を掻き立てる作品が出来上がったのでしょ
うね。
昔から流行の音楽なんて興味がなかったという彼だけあってレトロさもある、この異空間のような本盤
を
気に入るかどうかも、その人次第。ぜひ聴いてみてください。 最後に結びとして、異性より同性のアーティストに
惹かれるというのは、音楽を聞く全ての人に言える事だと、個人的には思ってるのですが、彼の音楽を
好んで聴くのも
ここまで長文になってしまったのも、多かれ少なかれ自分が同性として「こうなりたい」という一種の
「憧れ」を
持っているからなのかもしれません(笑)