「デイ・ドリーム」
ボォ〜ボボボッ、ッボボ、ボボッ・・・。
リズム感などは、全くない。スロットルを離したら即止まりそうだ。
クヮラ、カラカラコロ、コロカラ・・・。
どこから出ているのか解らない、調子ハズレの音も混ざっている。
バブゥー!
パァーン!!ブボボボぉ〜。
ご丁寧にバックファイヤーまでしている。
ここは埋めたて造成地の工場地帯の真中。自動車教習所の2輪置き場の出口だ。
最近、これだけ調子の悪そうなバイクも、めったに見かけない。
国産のアメリカンタイプだろうが、車種が解らないくらいに改造されている。
改造と言っても原形が不明なだけで、寄せ集めという表現が当っているのだが。
250ccくらいか?酷いポンコツである。
見るからにボーとした風貌の男が、フルフェイスを被って跨った。
ジーンズに革ジャン?いや、どうやらビニジャンのようだ。皺がなさすぎる。
グラブもイボ付き軍手だ。教習用だったのかも知れない。
スパーン!!
ひときわ大きいバックファイヤーと共に駐輪場を出た。
フルフェイスから覗いた目が笑っている。
高笑いをしているようだが、排気音でかき消されている。
嬉しくてしょうがないのだ。
普通なら恥ずかしいのだろうが、今日は特別だ。周りが見えていない。
威勢がいいのは、音だけだ。デレデレと流していく。
彼は「カズオ」だ。彼の仲間はそう呼んでいる。和夫だか、和男かもしれない。
今しがた、念願の大型2輪免許の卒業検定に合格したのだ。
教習はストレートで終わったが、そのまま卒業できるほど甘いものでもなかったようだ。
初回の検定は、クランクの途中でコーンを派手になぎ倒して、中止になってしまった。
「軍手の指が破れていて、指が覗いてたんだよぉ。クラッチがすべっちまったのさ・・・。」
本当なのか、照れ隠しなのかは分からないがそう言っていた。
今日も結局ギリギリで受かった。まぁいい、合格は合格だ。
近所のバイク屋が、部品取りにも使えないから解体屋行きだと言っていた。
それが、今の彼のバイクだ。
止せと言われたが、まだ走りそうなので買い取って乗ったのだ。
だましだまし乗っていたが、とんでもない場所やタイミングでエンコしたのも数回ではない。
スピードが出ないから、危ない目には会いようもなかったのは良かったのか?
よく2年も乗ったもんだと、バイク屋が呆れるようなバイクである。
最初はそれしか買えなかったのだ。免許を取るのもやっとだったカズオであった。
それでも最近ようやく、バイクを買い換える余裕ができた。
どうせ買い換えるなら大型にしようと思ったらしい。ごく自然な動機だ。
「うわ〜ぁ。最低の写りだなぁ。取っ換えてくれないかな・・・。」
赤ら顔、左右の目の大きさが違う。髪の毛はボサボサだ。
二日酔いのムクレた顔が、そのまま免許証になってしまった。
昨日、教習所から家に帰って、独りで祝杯をあげたのは良かったが飲みすぎた。
飲んでも滅多に寝過ごす事はないが、今日は計画的だったらしい。
会社に遅刻するくらいなら休んだほうがマシだ。と、勝手に納得して仮病をつかった。
電話をしたときに上司が居なかったのは幸いだった。
「腹を下してます〜。」
恰好悪いから発熱にしておけばよかった。などと後から思ったらしい。アホである。
まあいい、とりあえず大型2輪の免許は貰った。目出度いことである。
さあ、次はバイクだ。十二分に予算は用意してある。
カズオは酒は家でしか飲まないし、ギャンブルもしない。タバコは嫌いだ。
本当は飲み歩くのは大好きだが、この為に我慢した。努力は報われたようだ。
カズオの部屋は、少し前からバイクの雑誌やカタログが散乱している。
今朝も、起きた時にはその内の一枚が顔に貼りついていたくらいだ。
目星を付けてはある。アレかアレ、もしくはアレだ。
バイク雑誌のインプレや、カタログスペックで選べば、大体アレかアレである。
カズオも素直だ。もう、どれでも乗れるのだ。迷いはなかった。
カズオの家の近くにはバイク屋が少ない。
つい最近まで3軒あったが、この不景気で某メーカーの代理店が撤退してしまった。
残りは2軒だが、1軒は以前冷たくあしらわれてから寄りつきたくもない。
結局、今のポンコツを世話してくれたオッチャンのバイク屋しかないのだ。
どうしてもオッチャンのところでなくてはいけない理由もないのだが。
そこはそれ、なかなか他所へは行けないカズオなのだ。
「止せ!」と言ったわりには、今のバイクもなんとか走れるようにしてくれたし
エンコする度に、安上がりに直してくれていた。
カズオはオッチャンが好きなのだ。それだけのことである。
「えぇっ?・・・おや〜ぁ?なんだぁ??・・・。」
オッチャンのバイク屋の前を、カズオは一旦通りすぎたが振り向きながら減速した。
一度家によってから出直そうと思っていたのだ。30m程通りすぎたが、ユーターンした。
店の入口で、女の子が手を振っていたのだ。
聞こえなかったが、声もかけられた気がした。
「どこかのメーカーでキャンペーンでもやってんのかな?」
「結構可愛かったし、あの恰好!やっぱ先に寄っていこ〜っと。」
そうだ。間違いないあれはキャンギャルだ。それなら寄らない手はない。
(うわ〜ぁ!今日はツイてる。ラッキ〜♪)
「いらっしゃいませ〜!買い換えですか?」
本当に居た。
やはりキャンギャルだった。
(うわは〜っ!俺のタイプ。可愛い〜ぃ。)
「え、あは、あぁ。おっ大型免許が取れたモンで、かっ買おうかなぁ〜っと・・・。」
声がうわずっている。それに、メットを脱ぐのを忘れている。
「あら!素敵なの乗ってますね〜。私、渋いの好きなんですよ〜。」
(おぁっ?お世辞でも、ソンナコト初めて言われた・・・う、うれしいぃ〜。)
「ぐおっ!」
カズオがうめいた。慌てて、あご紐を解かずにメットを持ち上げたのである。
馬鹿丸出し、だ。
「だ、大丈夫ですか?」
心配そうに、彼女が覗きこんでいる。目が、大きい。潤んでいる。
(うひょ〜っ!可愛い〜ぃ!!)
「うぶっ。あ、あぁ何でもないです。ははは。」
紐を解いてようやくメットが脱げた。照れ笑いで誤魔化している。
「それでぇ、どんなのに乗りたいんですか?」
「う、あ。ええと、KAWASAKIの・・・・とか・・・。」
しどろもどろになったが、カズオはいくつかのリッターバイクの名を挙げた。
キャンペーンだから当たり前だろうが、彼女はとてもバイクに詳しかった。
カズオの知らないような、バイクの特徴などを説明してくれた。
もっとも、カズオは舞いあがってしまって、中身を良く理解していないようだ。
バイクのことはどうでもよくなってしまったようだ。
「うん」と「はぁ」しか、最後には言えなくなっていた。骨抜きだ。
「きゃ〜、凄っごいのばっかり〜、ちょっと待っててくださいね〜っ。」
店の中へ駈けて行った。
(うおぉ〜っ!うっ後ろ姿が、また、かっ可愛い〜っ!)
すぐに戻ってきた。カタログを何部か持ってきたようだ。
「ごめんなさい。今お店にはどれも無いみたいなんです〜。カタログありましたけど・・・。」
カタログは、もう家にあるが、折角だ。そうも言えないから受け取った。
「あのぉ〜。他のじゃ駄目なんですかぁ?」
「え、いや。駄目じゃないけど、やっぱりどうせなら、そのう何だからぁ〜。」
どうも駄目だ。カズオはジッと見つめて話されると、考えがまとめられなくなってきた。
「あれなんか、いいんですけどぉ〜。でもリッタークラスじゃないの。ちょっと小さい?」
1年ほど前から置いてあるレプリカ風のマシンだ。
「あぁいうのも、いいんですよ〜。人気ないんですけど・・・。」
「とっても、似合いそうなんだけど、なぁ〜。」
「それにぃ、あれだと同じ予算で、革の上下とブーツまで買えちゃいますよ〜。」
「駄目?あれ、そんなに嫌いですか?」
「う、あ、あぁぁ。嫌いじゃないけどぉ。ま、また来ます。」
(まっまずい。良く考えろ、ハマッテはいかん。)
「ちょっと、考えて。とりあえず・・・また。」
相変わらず、ジッと見つめられている。困った。なんで?困ることはない。
沈黙の後、彼女は何か思いついたようにニコッとすると。言った。
「じゃあ、この次。決まったら来てください、ね?」
「あ、はい。えっ?」
彼女が小指を差し出し出している。「指きり」か?何でまた?
(くぅ〜。なんか全部可愛い〜。もう駄目だ俺〜っ。)
「ゆびきりゲンマン、嘘ついたら・・・・。」
(もぉ〜針飲んでもイイから、指離したくないよ、俺〜っ。)
「ありがとうございました〜!またどうぞ〜!」
(う〜、まだ手を振ってくれている〜。)
相変わらずの、バックファイヤーには参ったが、彼女は気にしてないようだった。
しつこいくらい振りかえりながら、バイク屋を後にした。
自分から逃げ出したくせに、未練たらたらなのだ。
でも、どうしよう。彼女と楽しかったのは良かったが、バイクのことはどうなったのか。
指きりも、良く考えてみたら、いったい何を約束したのかも解らなかった。
(あ、でもこの次って彼女言ってた。また会えるってことかぁ?)
もう、都合の良いように考えている。カズオらしいと言えば言える。
「うーん、どうしよう。リッタークラスしか考えてなかったけど。」
カズオが、寝転んで独り言を言っている。部屋に居ると、いつもそうだ。
夕飯を済ますと、雑誌やカタログをひっくり返して、考えこんでしまったようだ。
「むぅ〜。分からん、決まってたはずなのに・・・。」
しばらくブツブツ言っていたが、やがて、寝たようだ。カタログによだれが垂れている。
「うにゃら、それなら・・・いい・・。」
寝言だ。
「あぁ?お前は?なんのようじゃ?」
(ナンの用って、オッチャン?バイク屋へ来たん・・・あれ?)
「お、オッチャン。いつの間にヒゲなんか生やしたんだ。それに真っ白い!うぇ?」
バイク屋のオッチャン?に似ているが、白髪だヒゲを蓄えている。
それに妙な恰好だ。
(ななな、なんか変だ。様子がぁ。)
と言いながらも、特に不安感はない。カズオは落ち着いていた。ボーとしている。いつもだ。
「オッチャンだと?この不届き者!ワシを誰かと間違っておるのか?」
(うわ〜っ。よく分からんな、どうしちゃったんかなぁ?)
「あ、いや。私はただバイクを買いに、買い換えに来たんですけど。」
「ほっほ〜っ。少しはマトモだ。お前、場所は間違えておらん。」
(そりゃそうだ。バイク屋にきたんだから・・・。でも、いつもと雰囲気が、店の様子が・・・。)
「で、オッチャンは?バイクの話ししたいんですけど。」
「まぁだ、言っておる。オッチャンとは誰だ。ここにはワシしかおらんぞ!」
(?・・・・・・・・・・。)
「はぁ?ところで、お宅様はどなたで?」
「お宅様だとぉ?無礼者ぉ!!そこへ控えいぃ!」
「ひっ!あわぁわわ。しっ失礼ぇ、それではいったいどなた・・・。」
デカイ声だ。カズオは驚いた拍子に正座してしまった。まぁ、いいや、弾みだ。
(おわぁ〜いよいよ変だぞ〜、)
「ふん、多少の礼儀はわきまえているようじゃな。」
「自分で言うのもなんじゃが、ワシはバイクのカミ様じゃ!」
「え、えぇ〜っ。かっカミ様!カミサマって?」
(?カミ様。バイクのカミ様なんて、聞いたことないよぉ。そんなの居るのか?)
「安心せい。お前の目の前におる。嘘ではない。」
「え?」
「口に出さずとも、お前の考える事は逐一お見通しじゃ。むははははっ!」
「バイク屋の店主のことも知っている。あれは良い人間じゃ。」
(・・・・・・・・・・・。)
「ふぉほっほっ。お前バイクが欲しくて来たんじゃろう?」
「は、はいぃ。」
「どのようなモノが欲しいのじゃ?言ってみよ。」
(おおお、良く分からない。まだ決まってないけどいいや、言っちゃえ!)
「はい〜。それは、、、・・・・・・・・・。」
カズオは、目星をつけていたリッタークラスのバイクの名を3台あげた。
全部、聞いたか聞かない内に、カミ様の目がクワッと見開かれた!
「くわぁ〜つ!」
山もないのに、周囲にカミ様の一喝がこだました!
「ひいぇっ!」
思わずカズオが仰け反るほどの大音声だ。腰が抜けたかも知れない。
「このっ!身の程知らずっ!聞かれたからとヌケヌケと、言いおったなっ!!」
(あわわわ、かっカミ様!何をそんなに怒ってるんですかぁ〜?)
「などと。言いたい、ところではあるが・・・。」
急にとぼけた表情に戻った。何を考えているのか不思議なカミ様だ。
「ほっほっほっ。まぁ良かろう。」
(はぁ?)
「お前の世で言う免許もあるようであるし、それに。」
「そこなバイクを助けて、多少は修行を積んでいたようでも、アルしな。」
「は?バイク?」
(お、お、これは俺のバイク。なんでここに?)
いつのまにかカズオのバイクが、傍らに停まっていた。
「ヨイヨイ!許すぞ。いずれか好きなモノを選んで行くがよい。」
(えぇ〜?そんな、そんな旨い話しが・・・。)
「あっ!?」
カズオの目の前に、ボワァ〜ン!と、先程あげた3台のバイクが現れた。
(うはは、すっ凄い〜!)
「カミ様!本当にですか?戴いて構わないんで?」
「良いと言っておる。二言はない。ワシはカミ様じゃ。」
(はは、それでは。ううう、値段と、スペックだと。これだ!これにしよう。決めた!)
「で、では。これに、このKAWA・・・」
中央の一台を、カズオが指差そうとした。そのとき。
「待って!カミ様!待ってください。」
悲鳴のような、声がカズオの後ろからかかった。
「うわぁっ!」
振りかえったカズオは、信じられないという表情になった。
「あ、あのっ・・・」
あのキャンギャルの子である。間違いない、がカズオの見間違えかもしれない。
顔は、そのようだ。しかし、その恰好は、カミ様以上に普通ではない。
可憐な、素晴らしい姿態に半透明の衣のようなものを、巻いて?いるのか。
ほとんど全裸に近い、カズオは目のやりどころに困った。
喚いた理由の半分は彼女の姿のせいだった。
(ど、どうして彼女が?こんな姿で、で、でも可愛いぃ、イイ〜!あの時以上だ。)
「カミ様。それは、それは待ってください。その者には無理があります。」
(え?その者って俺か。無理ってなんだ?)
「カミ様の決めたことに、間違いはないかも知れません。でも、それでは
その者の為になりません。せっかく戴いたバイクの為にも良くありません。」
(ありゃ〜。彼女、俺にはコイツは無理だと言っているのか。)
「ほほう。だが、この者には免許もあるぞ。若いし体力も充実しておる。」
「それに、見ろ。そこのバイクにも丁寧に乗っておった。精神も曲がってはおらん。」
(おおお、今度は随分持ち上げてくれるねぇ。むはは。)
「そうです。カミ様のおっしゃるとおりです。」
(あらら、なんか変なお言葉?矛盾してるよぉ?)
「この者は、この人はいい人です!だから、だから素のバイクだけでは可愛そうです。」
(へ?素?「スのバイク」って、なんのことだ〜。)
「むぅ〜。そのことか。まぁ、それはそうだが、なぁ。」
カミ様も少し考え込んでいる。
「それで、お前はどうすればいいというのだ。このまま追い返すのか?」
「それにバイクを選ぶのは人間の自由だ。本当はワシにも止められん。」
(むう〜。俺にも分からなくなってきた。やっぱり駄目か、貰えないのか?)
「カミ様。お願いです。私の、私のバイクをお与え下さい。」
(う、なんか彼女必死だ。私のバイクって?なんのことだ〜。)
「ほほう。ふぉっふぉっふぉっ。なるほど、そうきたか・・・。」
「ふふ、お前がのう。」
カミ様は、まだ何か決めかねているようだ。カズオと彼女を交互に見つめている。
「だが、今も言ったが。バイクを選ぶのは人間だ。バイクは人間を選べないのだゾ?」
(まぁ、それはそうだな。)
「こらぁ!勝手に納得するでない!乗り手を選ぶバイクという言葉もあるのだ!」
「へぇっ!すっすみません。」
(う、、忘れていた。俺の気持ちは筒ぬけ、だった。)
「で、でも。でも・・・。」
(あぁ、なんか。困っているようだ。可哀相だよ。カミ様。あんまりいじめちゃ・・・。)
「ん、でも?が、どうしたのじゃ?」
何か決心したように、突然、彼女は叫んだ。
「この人と私。約束したんです!そうです約束しました。このバイクにするって。」
そういう彼女の傍らに、バイクが。
(あ!それは。あの売れ残りのバイク!)
「これがいいって。いいっていったんです。指切りしました!」
(うぇ!そ、そんな!それは言い過ぎっ!・・う・そは、げっ!)
「あぅ!痛っ!ひぃっ!いててってて!!」
突然。カズオの小指がキリキリと痛み出した。そう、指切りした小指だ。
「いたた!・・・。」
「うははは!こらこら。それぐらいにせんか。分かった。分かったから勘弁してやれ。」
カミ様が止めたととたん。スゥッと痛みは引いた。
「なんだよ。酷いな、指切りはしたけど、やくそっ!あっ痛っ!いたた!」
「うわっはっはっ!コイツは参った。うははは。」
カミ様は、もう半分呆れて見ている。彼女は必死だ。泣き顔になっている。
「むっ。よし!もういい。お前はちょっとアチラで待て。」
「えっ、でもカミ様!」
「よしよし、いいから。悪いようにはしない。アチラに行っていなさい。」
渋々、彼女はさがっていった。あとには例のバイクが置いたままだ。
「ふぅっ。カミ様。いったいあの子、なんなんですか?」
(可愛い顔して、そうとう気が強いようだ。でも、どうやって?)
カズオは、カミ様に尋ねながら小指を見た。
(うはっ!赤くなってる。痛いわけだぁ〜。もぉ、俺が何をしたっていうんだ。)
「ふぉっふぉっふぉっ!えらいモノに惚れられたものじゃのぉ。」
「はぁ?惚れられた?」
「そぉよ。アレはバイクの精霊じゃ、人間だと女に見えるかもしれんが、な。」
(なんだってぇ?バイクのセイレイ?お化けかぁ、あんな可愛いのが?)
「おいおい。お化けではないぞ、妖精だ。悪さはしないんだ。」
(えぇ〜ぇ?さっき俺の指を、食いちぎろうとしたじゃんかぁ〜。怖かったよぉ。)
「うはは、あれはお前のためじゃ、お前がさせたようなものだ。」
「・・・・・・。」
「精霊もな、それほど沢山いるわけではないんじゃ。中でもバイクの精霊の
数は少ない。それに、精霊はバイク乗りを守るためにいるから、そこら辺には
おらん。サーキットなんぞには多いがな。おお、お前ら勝利の女神とか言って
いるじゃろう。ソレも位の高い精霊の仲間じゃ。どうだ、分かったか?」
「う、なんとなく。はぁ、はい、分かりました。」
「お前に惚れているんじゃよ。だから一緒に居たいんじゃろう。」
「え、でも一緒にって?」
(う、もしかして。まさか、あの子と?え〜っ。むははは。)
「喝!このタワケ!何を想像しておる。アレのバイクに乗るのじゃ!それだけっ!」
「あ、そうか。でも約束は、、、してないんだけど。」
(ふぅ、指は?ダイジョブだぁ〜っ)
「そんなことは、お見通しじゃ!わしが分からんとでも思ったか。」
よく見れば。結構イケテルかもしれない。なかなかのバイクだ。カズオは思った。
「どうじゃ?」
カズオはハンドルを握り、跨いでみた。
(んん、なんかこうハマルな。スポッと。前傾もそれほどきつくない。)
「そりゃぁ、お前さんの体格のせいだよ。手長猿じゃな、まるで。うはは。」
「ふぅ。その気になったようじゃな?目出度し目出度し。」
「お前さんが納得せんかったら、アレが泣くからのう。ふはは、ワシも女?は苦手じゃ。」
「おお、そうと決まったら。アレのところへ行ってやれ。喜ぶぞ。」
(え、・・・。)
「心配することはない。全部聞いていたはずじゃわい。筒抜けじゃ。ふぉっふぉっ。」
「む。一言いっておくが、ワシが認めた以上。指切りは有効じゃ。嘘をつくと指が落ちるぞ。」
「ひっ!勘弁して下さい。う、あぁ、じゃあ。ちょっと行って話してきます。」
(うひゃ〜。最高!ツいてる、ツいてる。はははは。指くらい痛くてもイイや。)
「おお、あっ。待て待て。お前、ソノ前に、そこの泉で身を清めてから行け。」
「ナンといっても精霊じゃ。汗臭いのはいかんぞぉ〜。ほれこれで拭け。」
(あら〜。真っ白な布。はいはい綺麗にしてから、ですね〜。)
カミ様の指す方に、確かに大きな泉があった。こんこんと聖水?が湧いている。
「あ、泉って。こりゃあ凄い。まるで露天ぶろじゃないかぁ〜。」
(綺麗にね。そうか清潔にね。よぉし!洗っちゃおう。)
カズオの悪い癖だ。すっかり調子に乗っている。なにやら勘違いもしているようだ。
パンツまで脱いでしまった。
「うはっ!ちょうっと。冷たいかなぁ、おお!冷たい。あはあは。」
「うむはぁ。・・・つめたい・・は、は・・・・・・・。」
「んんん・・・はっ!」
ガバッ!
気が付いて。起き上がった。カズオの部屋だ。バイク雑誌とカタログが散乱している。
布団も敷かずに寝込んでいたようだ。もう、朝だ。
「あっ!んぁ〜っ!!ダァ〜参った。やっちまったぁ!」
カズオ。寝小便をしてしまったようだ。前にも酔っ払って寝て、シタことがある。
(ありゃりゃ〜、、、かぁ〜夢かぁ。ホントかぁ?小便はホントだ。情けねぇ〜。)
髪をバリバリとかきむしる。参ったときのカズオのくせだ。
「ん?のおぉおぉおお〜っ!」
かきむしった後の、手を見たカズオの目が寄っている。手を見つめている。
「ひぃえ〜。夢じゃない〜っ!!」
カズオの指。小指の中ほどが、紫色に腫れていた!
「あっ、オッチャン。来た来た。おはよう〜!」
カズオは、さっそくバイク屋に来た。店が開くのが待てなくて
オッチャンが来るのを待っていたのだ。オッチャンは軽トラックで家から通ってくる。
「おう、カズオか。どうした?またエンコしたのか。もう駄目だゾ、それ。」
(これは?・・・大丈夫、オッチャンだ。間違いない不精ヒゲだけだ。)
「ななっ。駄目だゾ、文句つけたって駄目だ。直らんといったら直らん!」
「エンジン取り換えるってんなら別だけど?あぁっ??」
「違うよぉ。大型取れたんだよ、昨日。乗りかえるよ、俺。」
「おおぅ。そうか、良かったなぁ!そういやお前、昨日夕方来たじゃないか?
表をウロウロしたきりで、気が付いたらいなかったけど。ああ、そうかバイク
見てたのか。なぁんだ。声かければ良かったのにぃ。」
「うぇ?あぁああ、ちょっと。ちょっと、それが・・・。」
(あ、あの子の話しは、、、や止めとこう。馬鹿と思われるの、やだ。)
「あぁん?可笑しなヤツだな。目ぇ覚めてんのか?・・・今開けるから。待ってて。」
オッチャンがシャッターを上げ、自動ドアが、開いた。
(あぁ、いた。あった、これこれ、この子だ。)
「オッチャン。コレ!これ売ってくれよぉ!」
「ほっ?いいけど。お前もっとデカイ奴乗りたかったんじゃないのか?」
「いやっ。この子でなきゃ駄目なんだよ。この子がいいんだ。」
「はぁ、お前も結構賢くなったのか?どうか分からんが・・・・・。」
「まあいいや。こいつならお勧めだ。うん、カズオには丁度イイ。お似合いだ。」
「でも、オイちょっと。アソコで顔洗って来い。お前ちょっと寝ぼけてるみたいだぞ。
全く、朝からそれじゃあ、彼女の一人もできゃせんぞ!ボーとして。」
「んぁっ。あっそう、そう?そうだ。綺麗にしないとね〜清潔第一。あははは。」
こんな奴でも、惚れられることもある。世の中不思議なことばかりだ。
おしまい。