「伝説の森カネガバラ」


私が「ボク」で父をお父さんと呼んでいた頃のお話です。

夏休みに入ると、毎朝早起きして山に登るんだ。とにかく友達より早く行かないと。
お日様が出てしまったら、もう遅すぎる。何んにも採れない。
カブトやクワガタは夜明け頃に飛んできて木にトマルんだ。
トマル木は大体決まっていて、そこで採れなければその日はお終いだ・・・。

とにかく早いもの勝ち!速攻でポイントを回るんだ。
木の低いところに居るヤツは手づかみで取れるから簡単だぁ!
藤ヅルを引張ったり、木を蹴飛ばすとクワガタは落ちてくる。
問題はカブトだ。簡単には落ちてこない。イルのが見えていても採れないことが多いんだ。
ボクはまだ小さいから木に登れないし、蹴飛ばしても木が太すぎるからね。
だから、、、なかなかカブトは採れない・・・・。

ウチからずうっと南の方へいって、笛吹川を渡ってドンドン行くと。
その森はある。らしい。行けないから、本当かどうか知らない。
大きなカブトがウジャウジャいるという、しかも昼間でも採れるという。
そんなとこがあるのか?
でも、上級生の誰かはソコで郵便カブト(赤くて角のデカイヤツ)を採ってきた。らしい。
「カネガバラ?」どういう字か知らないが、カネガバラと言っていた。

隣のニイチャンに聞いた。ニイチャンは高校へ通っている。
「ねぇ、カネガバラってどこ?連れてってよぉ?・・・・」
「ああ、なんだ?・・あぁカブトか・・・駄目駄目あそこは遠いよ〜」
(なんか、面倒臭そうだ。そうだよな毎日暑いし、ニイチャンはカブトなんか興味ないし・・・)

「それにな、アソコはとても怖いんだ。生きて帰れないかも知れないよ。」(えぇ!?)
「イルんだ。大きいのが、いっぱい」(だから、行きたいんだよ。何言ってるんだ、よぉ。)
「木の陰に隠れているんだ。蜜をチュクチュクチュク・・・・吸っている・・・」(・・・・・?)
「お前みたいな、小さいヤツが近づいて行くと・・・なっ・・」(なっ、なんだよぉ・・怖い声だしてぇ・・)

「ブゥワサぁ〜!!」(ひぇっ!!)
「大人くらいの、でかぁいクワが首を切り落としに来るんだ!!」(・・・にっニイチャン!?)
「コウいうふうにチュクチュクチュク・・・バァサァ!・・チュクチュクばさぁ〜・・・」
えぇええ〜、ホントかな〜?
「ニイチャン本当?そんなの初めて聞いたよぉ?」
「・・・・・」(ねぇ、どぉしたの・・・ニイチャン?)
「・・・・チュクチュク・・」(ひっ!ニイチャン白目になってるぅ!!)

「チュクチュク・・・こんなにデカイんだ!お前なら胴体も輪切りかも知れない、ぞぉ〜」
ひゃあぁぁ〜、なんか怖いところらしいや、、止めとこ〜ぅ・・・。
「・・・チュクチュク・・・バァ!!」(ひっ!!)
うわ〜、もう分ったから、いいよぉ〜サヨナラ〜〜!

隣のニイチャン、迫真の演技力!って、こちらは子供だし、連れて行くのが面倒だったからでしょうが。
でも当時は、子供が居なくなったといえば、消防団で「山狩り」や「川さらい」が当たり前でした。
夏はクマやイノシシが出るし、冬だと迷えば凍死しちゃうんですね〜子供でなくても。
その森も小さい子供には危ないトコロだったのかもしれません、ね。

で、結局それっきりカネガバラに行くことはありませんでした。
隣のニイチャン、イイ人でしたが10年程前に除草剤を飲んで自殺(40?才)しちゃいました。
原因は「失恋」だそうです。田舎はナカナカお嫁さんが来てくれない。らしいです。
毎年、暑いころになると、いつもオニイチャンのクワガタの話を思い出します。