「オーバー・ひゃッkm/h!」


(第1話)

1978年。 春、とは言えまだ石油ストーブを囲んでいる。
山梨県甲府市・某工業高校の教室。休み時間だ。

バイクに乗らないヤツは少ない。市内に住む者以外は乗らないと何も出来ない。
「3ナイ」なんて言葉はない。まだない?
原付免許か中型限定だ。1学年先輩には「限定」などない。嘆いても始まらない。

威勢のイイ会話が続いている。
原付のヤツが言う。
「この間、あっこでウニャkm/hでたぞ!」
特にどうのと言うほどの速度ではない。笑うヤツは笑う。
中免のヤツらは「けっ」といった表情だ。が、あえてケナシもしない。
「出るわけねぇら、おまんのでウニャkm/hなんて、それにメータ読みじゃんか。」

特にチューンしていない50ccバイクだと90km/hが上限か?
おまけに、そこまで出るのは、かなり調子のいい新車のスポーツタイプだ。
が、それを買えるヤツは原付など買わない。中免を取りデカイのに乗るのだ。

中古の原付は自転車屋に出る。まあ程度の良さそうなのを競争で買う。
といった時代である。

オレは黙って聞いていた。
バリバリの400ccから走るのが不思議なポンコツ50ccまでの会話だ。
中免もバイクも・・・金を作っていたら卒業するころになってしまう。
それで、オレはポンコツ派だ。話せば笑い話の種になるだけである。しかし。

(オレのはどのくらい出るんだ?3桁イクのか?)
(ミニクロは駄目だ。1度ボーリングしたエンジンだ。峠も越えられんし。)
(・・・・。)

実は2台目を手に入れていた。弟にキープさせたのだ。彼は3月まで免許が取れない。
ヤツらの一人、大工の次男坊がホークUを買った。原付を下取りに出そうとしたらしい。
「5千円だな。」自転車屋のオヤジあたりが言ったのであろう。彼は売らなかった。
お調子者の次男坊だ。1万5千円でオレにくれる?ことになった。
一気に3倍だが、まぁいい。最初にオレに話してくれた。イイ奴だ。

「マメタン」である。今までのより5年は設計が新しい。
でもさぁ、5000km走行?って。
ほんとか?随分ボロイぞ、上から下まで。売っても売れなかったんかぁ?

もともとチョッパー風だが、さらにハンドルが絞ってある。
タイヤは後ろが坊主だ。替えないと駄目だな。
あーっ、チェーンがタルタル。オイル差してねぇだろ?
おい、なんだこのスロットル。何ぁにが「ハイスロぉ」だ。
ロッキーミラー?。まぁいいか、後ろは良く見えるし。

・・まぁ、しょうがない。買うよ、約束だし。・・・イイ奴はオレだ・・・

蹴る。一発でかかった。エンジンはいい感じ、走行距離もウソはなさそうだ。
ヘロヘロのクラッチ。まぁ原付はこんなものか。
いきなりウイリーした。やろうとした事もないオレである。ポンと上がった。
おおおっと。元気だぁコイツは。

オレは家まで帰った。
ホーンが鳴らない。バッテリー駄目なのかも知れん。
前ブレーキが・・・かけると一瞬、速くなったような感じが・・・治るかぁ?
サスは前後共コテコテである。
タイヤ買うのは痛いなぁ。

エンジンがマシなのが唯一の救いだ。
なんか回していくと途中から急にフケが良くなる。いいことなのか?
W先輩(スズキの整備士だ。)に相談することとするか・・・いつものこと、だ。

(第2話)


「愛宕トンネル」
甲府北バイパス、今でもそういう名称だろうか。
このバイパスの東端に約700mの愛宕トンネルがある。
やや右に緩くカーブしているようだがほぼ直線、当時は開通後間もなく路面も綺麗だった。

たった700mだが、通行料を取る。今でもまだ取っているのか?
2輪車は50円だったか。4輪は結構取られたようだ。
そのせいか交通量が少なかった。大型なんぞはめったに通らない。
東山梨方面から市内に入るのにはとても便利だ。
市内の渋滞が不快なので、オレはいつも通ることにしていた。別の目的もあった。

車は少ない。歩行者の横断はまずない。ネズミ捕り?白バイは要確認だが。
横風の不安はない。風向きによっては無風だ。
騒音に対する非難も受けることはなかろう。
路面は平坦で綺麗だ。いつからかフルスロットルで通過するようになった。



甲府市へ通学し始めてすぐ、駅で自転車を盗られた。たぶん戻るまい。
「単車にしろ。」親父が言ったのは、意外だった。
自転車も中古のバイクも値段が変わらなかったこともある。原付免許を取った。

中学の同級生Jが「2万5千円だってよぅ。おれが買いてぇけど・・・。」イイ奴だ。わざわざ知らせに来てくれた。同じ甲府市内だが、違う学校に通っている。
オレが免許を取ったのを聞いたのか。大した事じゃないが、このての情報はすぐ伝わる。田舎なのだ。
Jが乗っているのはミニトレだ。可愛そうにバイクまで兄貴のお下がりだ。煙幕をはって走る。かなりのポンコツだ。

オレは早速、その自転車屋に出掛けた。イイモノは足が速い。
どれだ?2台あるが・・・2万円と2万5千円か・・・ひでぇホコリだ。
1台はCB50。こいつは駄目だ。2万5千kmも走っている。だから2万円か。
4ストは魅力的なのだ。何と言っても燃費がいい、軽く倍の距離は走る。が、今回はパスだ。大きな修理が必要になるのは困る。小遣いが少ないのだ。

もう1台は4000km?。考えるような予備知識は持ち合わせていない。

ミニクロとの馴れ初めである。
「ボーリングしてある。調子はいいはずだょ。」修理済みということか?
まぁいい。選択の余地は、無い。そのまま乗れるのなら恩の字だ。
2万5千円ポッキリ。消費税なんてものは、まだない。だが、保険等で予算オーバーだ。親父にあきらめてもらおう。
それに、Jのミニトレより状態は格段に上だ。そんなことも考えていた。

ミニクロ50。
初代ハスラー50のタイヤを小さくしたモノだったと思う。
アップフェン、オフロードタイヤ。しかし、良く見ればビジネスバイクベースである。
そんなことは後から知った。どうでも良かった。とにかく足が欲しかったのである。

少しうるさい。油も飛ぶ。抜けを期待したのか?マフラーのスチールウールが抜いてあった。エキパイが少しへこんでいる?詰まっている感じはないが。まぁいいや。
ちょっと洗車したら、どうだ。おおっ、まるで新車のようだ。オレは嬉しくなってしまった。
始動性もいい、良く走る。オレは、もう上機嫌であった。
なにしろ、オレは今まで自転車しか乗ってないのだ。文句を言うとバチが当たる。

が、少し運転にも馴れ。あぜ道から出て、遠乗りをするようになったオレは。
一気に興ざめすることになってしまうのである。


(第3話)


「和田峠」
甲府市街の北側、登り切ったところに千代田湖がある。和田峠だ。
オレは餓鬼のころから釣りが好きだった。雑魚釣り、毛ばり釣りなどに没頭した。
ルアー&フライ、まだ流行ってはいない。それでも、新し物好きのオレである。すでに試していた。
当時、ルアーは引っ掛け釣りだと思う人が殆どだったし、フライなどは振っている人と釣り場で出会うことは、まずなかった。ああ、今はその話ではなかった。

なぜか千代田湖にブラックバスが繁殖するようになった。
ミニクロで自信をつけた?オレは、釣りに出掛けたのである。「峠を攻める。」などということは知らない。知るわけもナイ。
ロッドを背負っている。あまり格好良くはない。オッチャンのようなスタイルだ。

原付。50ccである。そんなに快適に駆け上るとは、いくらオレでも思ってはいない。しかし。
・・・んぁ遅い。幾らなんでもトロ過ぎる。2速か、うるさい程エンジンは回るのに、である。
コーナーを登りながら回ると、うわぁ〜凄い!?オレの後ろは煙ばっか、だぁ。
これではJの野郎のミニトレとドッコイだ。カッコ悪りぃ。勘弁してくれ。
ワンワン回さないと登らない。うるさい上に盛大な煙を撒き散らしている。ううぅ・・恥ずかしい。

半分下を向きながらも、登るしかない。なんとか登りきったころ・・ん!?・・なんだ?
オレは、なんかスロットルの反応がスカスカになったのを感じた。同時に一気にスローダウンしている。
エンジンは回っている。・・・?オーバーヒートかぁ・・・これが。知らないが、そう思った。
「焼け付きそうなときに止めちゃあいけんよ。」とだけ聞いた覚えがあった。

しばらくスカスカと走った。幸いなことに平坦なところに出ていたから良かった。
何だ。こりゃあ、なさけねぇ・・・・。
落胆していると、不思議にエンジンは次第に元に戻り?ポロポロと力が回復した。こんなものか?
そのうちなんとか千代田湖にたどりついた。調子悪いけど着いたから、いいや・・・。
もう頭は釣りのことに切り替わってしまう。
あんまり深く考えないところがオレのイイところだった・・・。サッサと停めて、釣りだ。

結局何も釣れなかった。
デカイのが浮かんでいた。が、まったく相手にされなかった。帰ろ・・・。

イイコだ。草むらの中に停めておいた。お前のおかげで釣りに来られる。
蹴る。いつもと同じにかかる。さっきはどうしたんだ?
呑気に峠を下り始めた。とたん・・・おっとっと、ななにぃ・・ひえぇぇ〜〜!?。

下りは恐ろしかった。が、下らなければ帰れない。オレは必死だった。
2スト50ccだ。エンジンブレーキなんて、無いと同じだ。
フロントブレーキはドラムだ、まあ効かないということはないが、慰め程度だ。
タイヤもオフ用が半分以上磨り減った代物だ。なんか感触が気持ち悪い。滑りそうな気がする。

こんなところ下ったことはナイ!。こんなところをオレは登ったのか!?真剣にそう思った。
いくつものコーナーを多角形のように、オレは下った。ような気がする。
「月子ちゃんターン」というのは、かなり後に知ることになる。たぶんソノ技も使った。
コケルほど速度は出せなかったのだ。それでなんとか無事に下り終えた。やれやれ。

なぜか、家に向かって走りながら、親父のことが頭に浮かんだ。
オレの親父は以前保険会社の外回りをしていた。単車で県内を回ったはずだ。毎日。
ブリジストンの2ストで125〜250cc。今は庭の、柿ノ木の下で錆び付いてるヤツだ。
1960年前後だから、砂利道が殆どのはずだ。悪くすれば泥道だ。峠は?冬は凍結!雪道か?
仕事だ。腹が痛いときも乗ったんだろうか?
今は全く単車には乗らない。
それでも、オレに「単車にしろ。」と言った。言っただけだ、単車の話はしない。

オレはその後も懲りずに、和田峠に通う。そのうち峠道には慣れた。どの程度の走りかは知らない。
釣りに行きたかったのである。その為に通った。行って帰って来る為である。
どうにか転がせるようにはなった。下りも慣れた。
でもエンジンは駄目だ。ちょっと登るとオーバーヒート。ズク無しだ。
このミニクロ。イイコなんだが、平らなところしか走れないようだ。治らないかなぁ。


2学年上のW先輩が整備士になっていた。オレは電話してみることにした。
W先輩はオレの家の前の国道を、仕事で往復することがあると言う。軽トラで寄ってくれることになった。

「これがオジイさんのかぁ。・・・綺麗に乗ってんじゃん。」
(「オジイ」さん。オレのあだ名だ。だいたいオレがどんなか?勝手に想像してくれ。)
「ちょっと、コウバへ持ってくよ。3日ばかりかかるかな。」どうにかしてくれるらしい。

驚くほど調子が良くなって戻ってきた。さすがはW先輩だ。代金も忘れてしまう程度の金額だった。
何をどう調整したのかはオレは聞かなかった。どうせよく分からない。W先輩が言うには。

多分オイルを切らして焼きつかせた。直したんだろうが圧縮比が下がってるはずだ。
エキパイがへこんでいる。抜けが悪い。マフラー交換は金がかかるぞ。
キャブは完璧。やはりエキパイだな問題は。このままだと「これ以上は無理だ。」

7ぐぉkm/h。愛宕トンネルでのミニクロの最高速だ。
でもその時分、オレは最高速などに興味はなかった。調子を試してみるだけだ。
調子は良いが、相変わらず坂に持っていくとサッパリである。無理は無理かぁ。

ここは山梨県。甲府盆地である。峠を越えなければ「外」、そちらにはいけない。
「あちら側?」か「こちら側?」とは随分違う。わけが分からないことを言っている。

つまり、オレは「そちら」に行きたかっただけなのである。


(第4話)


料金所のブースを出る。
マメタンだ。弟には転がしていないと腐るぞと言ってある。ほんとだ。
オレは左端に寄りグラブをつけながら後続をやりすごす。
(そろそろ、イクか!)
例の次男坊が付けたオン・オフ切り替え式のようなハイスロを握る。
原付はこれがイイのだ。どうせ下などないのと同じだ。
馴れがいる。コイツは前が軽い。すぐ離陸したがる。

チェーンは張った。取り替えなくて良さそうだ。オイルもくれた。
クラッチは遊びが大きすぎた。ワイヤーを張ればOKだ。
その程度のことはオレにも出来る。だが。
フロントブレーキは変だ。シューは随分残っているのに・・。
やっぱりW先輩の出番かぁ。

ポンと出る。そういう感じだコイツは。
ハンクラを使う必要は無い。シグナルグランプリではない。
700mもあるのだ。全ギアまるごと引っ張ればイイのだ。
2速・・・3速・・
ナトリウム灯の感覚が広くなる。ここからだ。

やはりコイツは余裕がある。が、ひとつ解らない。
フルスロットルより3分の1くらい手前で排気音が変わる。
?1段高くなるのだ。加速も1段伸びる。
考えながら。伸ばす。ほら、今変わった。

もう1度、不思議にブレないロッキーミラーを覗く。
なにもツイテいない。OKだ!
・・・4速・・・
体を前傾させる。無理だ。ハンドルが絞りすぎだコイツ。
メーターは!?
7うぁkm/h!

なんというとだ。ミニクロをあっさり抜いた。
しかもまだ、1速残っている。
コイツは・・・。

5速・・・8いゃkm/hに乗せた。あっけない。
やや不安定だ。やはり前が軽いのだ。
ナトリウム灯の明るさが増す。出口だ。
!フロントブレーキのことを思い出した。オレは小心者だ。

スロットルを戻す。
出るとすぐ交差点だ。とぼけた速度で近づきたい。
自然と減速した。赤だから止まる。

アイドリングしながら考えた。回転は安定している。
コイツはイケル。
ちょっと整備する必要があるが。


W先輩。馬面である。(今だから言える。)
髪が少し赤い。オレより少し背は高い。
100先に居ても先輩だと判る。ひょうひょうとしている。
オレの髪は栗色。少し猫背だ。ご先祖様のせいかどうか知らない。
相性がイイ。親近感の理由などそんなものだ。

マメタンもたまたま、スズキだ。頼みやすい。

「こいつはメッケモンだぁ。これだけ調子いいのはあまりないぞぉ。」
「ブレーキはね。こんなもんなんだ。シュー替えても意味ない・・・。」
「リアタイヤはもうワンサイズ大きいのが入るが、今無い。ごめんなぁ。」
「オジイさんには十分だぁ。なに?なんだ弟のかぁ」

オレには十分?
オレは少しふくれっ面になった。はずだ。口もとんがったか?
まぁいい。先輩が言ったことだ。

吹き上がりは怖いくらいだ。どこ調整したんだぁ。
ふーん、よく解らんが可変装置が付いてるのか。それで2段階に伸びる。
下も少しはマシな力があるわけだ。
でも、知らないヤツが乗ったら竿立ちだ。ほんとに前が軽い。
そうか、ブレーキは駄目か。


夏休みに入り、オレはバイトで毎日愛宕トンネルを通るようになった。
だが、うまくいかない。
先行車に追いつく。
後続車がとぎれない。
平日。通勤時間帯なのである。オレも通勤だ。

さしてこだわっていないオレだったが。ある日。
オレにとってはとんでもないアクシデントが起きるのである。


(第5話)


毎日電卓を叩いて、単純計算・・・意味が判るのは半分くらい。
学校の大先輩の事務所でバイトだ。
最後の夏休みだ。だが、オレは金が要る。
来春は「そちら」へ出るのだ。

同じくバイトだが、従業員にきれいなお姉さんがいた!
唯一の救いだ。こうでなくてはいけない。カミ様はちゃんと見ている。
が、特にドラマチックな展開があったわけではない。
そこまで考えてはいない。オレは純真だったのだ。

今日も仕事は終わった。真っ直ぐ帰る。
イグニッションOFFのまま、軽く2回踏む。オイルがまわる。
ONにして蹴る。いつも1発だ。気分がいい。

水色のワーゲンに乗ってお姉さんが帰っていく。
だから、オレはまだメットを被っていない。
ニヤケながらサイドウィンドー越しに手を振る。なんか幸せだ。
今度、乗せてくれないかなぁ?

角を曲がってワーゲンが視界から消えた。
メットを被って、曲がった眼鏡を治す。ド近眼だ。1番大きいCが見えない。
最近殆どマメタンだ。トンネルを通るせいでもある。
ブリブリと角を曲がって家路につく。慣れた道だ。

調子がいい鼻歌まじりだ。キャンディーズだったか?

・・・左から銀色のボンネットが出た。
!そろそろと。停まらず出る。

・・おいっコラ!。こっち見ろよ・・。
!!鳴らない!?ホーン直したはずだゾ?
ブレーキ!!!コイツのは効かねぇんだ・・・
(とっ・・うぅあぁぁぁ〜)

ぐわコっ!!
フェンダーの前あたりに突っ込んだ。
ハンドルに引っ掛かった状態だ。
運転手と目が合う。
目を剥いている。オレもか?

(おっちゃ〜ん。勘弁しろよ〜ぅ。右見てないじゃんかよぅ。)

効かないなりに減速していたらしく。フライマンにはならずに済んだ。
ハンドル切っていたら魚屋に突入だったか?洒落にならない。
すぐブレーキをかけていれば停まったかも知れない。後の祭りだ。

マメタンは?・・哀れなもんだぁ。
ハンドル?逆絞りだぁ。これじゃ。
ウインカー。玉だけついてる。フェンダー割れてるぅ。
パンクはしてない。が、なんかフォークが捩れてるぞぉ。

修理代は全部出してくれる約束で、住所と電話番号を聞いて分かれた。

エンジン掛かって良かった。
空を向いているライトを無理やり下げる。点いた。
でも・・ボロボロだぁ。すげぇカッコ悪りぃ・・・。

オレは下を向いて、信号待ちではアサッテの方向を向いて。
これもまたアサッテを向いているハンドルを押さえながら走った。
左手が痛む?少し捻ったか?・・大した事はあるまい。
胸が痛い?・・・身体ではない。ホントは泣きそうだ・・・。

ああ、ヤツ(弟)にはどう話そう。
半端物にしてしまった。
バレルとまずいな停学か?この時期にまずい。マズ過ぎる。
なんか、いろいろ考えながら。
ヨレヨレになって帰り着いた。オレもボロボロだ。

W先輩に電話、だ。
「明日寄る。居ないのか?置いとけば持ってくよ。誰かに話しとけ・・」

修理費用は相手もち、だ。
問題はコイツ。元に戻るのか?あ〜あっ随分グチャグチャだぁ。
怪我してないのが不思議だ。ついていたのか?

まだ、事故の処理が終わったわけではない・・・。


(第6話)

W先輩から電話だ。修理のことだろう。
「先方さんが払うのか?・・・アア、じゃあ駄目なのは全部替えるぞ。」
「結構かかるぞ。・・・いやぁ、3日で出来るよ。お前が居るときに届けるから。」
「でも・・ちょっとなぁ。・・・・うん、そんとき話すよ。取り合えずやっとく。」

どうにかなりそうだが、歯切れが悪い会話だ。それなりってことか?
オレも薄々は感じ取った。

数日後、マメタンは戻ってきた。
なんか綺麗だ。すっきりとしている。
当たり前だ。前は殆ど取り替えられている。

「でなぁ。オジイさん。・・・おもしれぁな。なんで?オジイなんだぁ。」
(なんで?。違うよぉ、おれのあだ名なんか、イイよどうでも。話しにくいのか!?)

「全部直した。キャブもまた見ておいたよ。・・・でなぁ。」
「フレームがイッちゃってんだよ。それと・・・も」
「要は真っ直ぐ走らないんだ。俺も試乗した・・ちょっとな・・ちょっとだ。」
「大丈夫。乗ってても。けど、あんまり飛ばすな。なっ。」
(背中叩かれても、ねぇ。先輩ぃ。・・・イイ人だW先輩・・いつもすんません。)

やはり。チョットがちょっとか。直ったのは見掛けだけかぁ。
・・・・・・・。
伝票?
げーっ。コイツ1万5千円で買ったんだけどなぁ。
ありゃー、なんか沢山替えてるわ。
こんなに替えても、元にもどらんのか!?

元に戻らない。これはどうにもならない。
しかし、問題はそれだけで済まなかった。
この後すぐ運転して。オレは結構落胆するのだが、その話は後にしよう。
簡単に済まなかったのは・・・こういうこと、だ。


「セッパン?」なんのことだ?(意味がわからなかった。)

事故相手の自宅である。直したマメタンに乗って出かけていった。
お茶が出た。当然だぁ。(いばってどうする。)
ちょっと話して解った。と、納得してる場合ではない。

話はこうだ。
先方もフェンダーが凹んだだけで、対して費用はかからないと思っていた。
車の色がマズかった。シルバーメタッリック系だ。
車片側半分を塗装する必要があったらしい。
いい金額だ。呆れた。

おまけに誰かと話したらしい。なんか書いて説明してくれている。???
カシツワリアイとか言っている。(それも知らなかった。オメデタイ話だ。)

要は「本当は君が(オレのことか)払う分の金額が、ある。」・・・・えっ!?。
私は「そう思ったんだけど、普通はそうやって計算するらしい。」・・てっ!?
でも「おじさんの方が悪いんだし、お金のやり取りは無しにしよう。」
君も「ソレで、いいよネ?」・・・なんだ、なんだぁ!?

・・おじさんに、金は払わなくてイイ・・・そりゃそうだ・・・!?

「お金のやり取りは無し」面倒なくていいねぇ・・・!?
??ちょっと待ってくれぇ。マメタンの修理代はどうなるんだ!?

落ち着け。おじさん何か勘違いしてるようだ。(勘違いしてるのはオレだ。)
ぶつけた時からの事を、ひととおり話した。(そんなの当事者だ。知ってるよぉ。)

「車のフェンダーなんか見た目ですよぉ。バイクは半端モノになった・・・。」
「バイト代、半分もなくなっちゃいますよう。」(声が裏返った・・この際関係ないのに。)
「どーしたこーした。なんたらかんたら。」(必死だ・・・)
おじさんは、とうとう黙って聞くだけになった。
「・・・・・。」

も、駄目だ。丸め込まれている。オレは徐々に諦め始めた。
横車は押せない。オレはそういう性分だ。

!奥から、奥さんが出てきた。
なっ、なんだよぅ。二人掛かりか、勘弁しろよぅ。(カッコ悪りぃ。泣きそうだ)

「貴方・いいから出してやんなさいよ。可哀想じゃないの・・ねぇ。」

!!!!!!!

「ねぇ。」って、ハイ。(ひぃ〜。地獄で仏っていうのかなぁ。奥さん後光が差してる!)

まぁ。おじさんも途中からその気だったみたいだ。
言いだした手前。黙っていたのか、なぁ?
イイ人だぁ奥さん。おじさんも。

お金はくれた。約束どおり。
そうなれば長居は無用だ。
ピョコピョコお辞儀しながら玄関を出た。(カッコなんか、どうでもよくなっていた)
表から振り返ると、入る時は気にしなかったが、そこそこ大きい屋敷だ。

粘り勝ち?なのかな。先方がイイ人でよかった。
ああ、よかった。本当によかった。
これで学校にでも捻じ込まれたりしたら、目も当てられないところだった。

よかったのは、それだけだ。(元気ないよ、やっぱり)
自分の無知が嫌になった。オレは何も知らない。
簡単に済まなかったのはオレの気持ち。かも知れない。

家に帰って寝た。

(第7話)

チョットがちょっと、かぁ。
乗れば解る。オレは出掛けた。
エンジンが温まるまでデロデロと走る。国道140号線だ。

しばらく走る。フケが良くなってくる。
何がチョットか?直線で少し速度を乗せる。
?気のせいか。微妙にハンドルを切っている。左向きだ。
これか?でも、安定している。違和感はない。

よく解らないまま、トンネルの料金所まできた。
いつになく、空いている。

やや抑え目にスロットルを絞る。
ハイスロだ。かえって難しい。
2速・・3速・・・いつもどおりじゃんかぁ・・

4速!?
!無意識だったが、左手を引いている。
同時に加速を緩めていた。
加速する、とっ。!!ブレる!?

グッとくるあたり、伸び始めでブレる。
落ち着かない。右に出たがるようだ。
これでは、チョットがちょっとではない。
普通に走っていると感じないだけだ・・・。

5速に入れたがそのまま流した。もう出口だ。
交差点。意識して制動する必要もなかった。

「・・・あんまり飛ばすな。か・・・。」

オレはそれほど、何も思わなかった。
とくに最高速にこだわっていたのではない。
エンジンは好調だ。峠も問題ないだろう。しかし。
・・なんか、寂しかった。
落胆したと言うほどではない。強がり?そういう問題でもない。


オレはその後も、何度か確かめた。
6にゅkm/h位までなら、急加速でもしないと分からない。
それだけの事だ・・・。でも、ねぇ。

エンジンは天然発酵?大当たりぃ。バリバリで絶好調。
なのに。
前ブレーキは物理的に装着されてるけど、リヤカー並みで。
フレームは、バイク向けのカイロプラクティックに通わせたい有様だぁ。

乗れば乗るほど、納得できない1台になってしまった。

それに。
乗っていてあるとき気が付いた。

・・・オレも少し変だ・・・。

転がしていて、左側から車がでると気になる。
怖いのではない。

反応してしまう。
視線がソレに固定する。
減速する。ハンドルを切る。
左からのソレに反応する。過剰だ。
(4輪に乗るようになっても同じだ。いまでも・・有る。)

あまり深く考えたくなかった。
もともとオレは意識して「悩まない」。


ヤツ(弟)には悪い事をした。
「(コイツは)危ないから飛ばすな。」とだけ言った。
ヤツは早生まれだ。4輪免許が就職に間に合わない。
親父に、ヤツには中免を取らせろと話した。
親父は入院中だ。最近、オレに対して意見もしない。

夏休み?休んでいないが終わった。

秋。就職の内定通知が届いた。
「普通自動車免許を取得のこと・・・云々。」
事件だ。金をどうする?
なんとかして4輪の免許は取得することになる。


マメタン。
弟が中免を取り。しばらく乗った。
あるとき、軽トラの左に巻き込まれて、一ヶ月入院する事故にあう。
当然、廃車。
オレはその事故のことを、弟の退院の1週間前に知った。
オレに余計な心配をさせまいとしたのだ。オレはそのとき埼玉にいた。
(弟はこの事故の賠償金でCB400を買う。懲りないヤツだ。)

ミニクロ。マメタン。最後にオレが乗ったのはどちらだったか。
高校卒業後20数年間。バイクを持つことはなかった。
4輪は社用車に乗ることになる。
カローラ30を手に入れるのには3年かかった。8年落ちのポンコツだ。


オーバー・ひゃッkm/h!。
たぶん。オレは超えられたと思う。

一瞬の運命の悪戯で、あっけなくそのときは、オレにとって不可能になった。

でも、アレで挑んだら。きっと。「ひゃッ!!」じゃあ済まなかった。はずだ。


W先輩。
大工の次男坊。ミニトレのJ君。クラスの連中。
事故の相手のご夫婦。
親父。弟。(バアさんも)
今回お話していない人達とも。
オレはバイクを通じて、いろいろと関わり様々な経験をした。
とても話しきれるものではない。


2000年。夏、高速道路での2輪車100km/h走行が合法になった。
私が中免(普通二輪)を取ったのは、2000年の11月。
単車も買った。慣らしも終わったので高速道路へ行ってみようと思っている。


そのとおり、私はまだ。ひゃッkm/hに挑戦中だ!!。

オーバー・ひゃッkm/h!


おしまい