【うつろい】

渋江 喜久夫:

 「このままの状態で放置したら、最悪 左目は失明するかもしれませんよ!」と、行きつけの眼科医に脅され、何回も眼球注射をしているため、ここ3年ほど絵を描くのが怖くて控えておりましたが、あまり変化が見られないので恐る恐る描き始めてみました。描いた対象は、何年か前に近所の八百屋さんがくれた60センチほどの瓢箪の中身をくり抜き乾燥させたもので、そのシワシワ感が気に入り、途中まで描いていた絵に加筆したものです。 これからも、目を騙しながらでも描き続けられたら嬉しいのですが、果たして…。(鉛筆画)

西谷 史:

 渋江さんのこの力作を目にして、最初に頭に浮かんだのは、仏典をもとに描かれた「九相図(くそうず)」だった。絶世の美女である小野小町が亡くなり、その亡骸が朽ち果て、骨になり、やがて灰になるまでを描いた絵が有名だ。
私たちは、瓢箪といえば真ん中がくびれた、つやつやした容器としての瓢箪を思い浮かべる。だが、こんなふうに枯れてしぼんでいく瓢箪があっていい。植物は、美しくなるために果実をつけるわけではなく、子孫を増やすために実を結ぶのだろう。
九相図のように、役割を終えた瓢箪が朽ちていくその一瞬をとらえた渋江さんの絵には、生命の普遍性が宿っている。

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