【千古の夢】
渋江喜久夫:
巨木を前にすると理屈ではなく自然と手を合わせたくなる。樹の霊を感じ、我々人間のちっぽけな営みなぞ見透かされているような畏ろしささえ覚えてしまう。その根元に視線を落とすと、そこに積もる枯れ葉の間に新たな生命の息吹を発見する。長い年月をかけ、やがてはそれも大樹となり、またぞろ人間を見続けることになるのだろう。私も樹に恥じぬ生き方をせねばとは思うのだが… (点描画)
西谷 史:
渋江さんは人物画の名手である。しかしこの絵には、人物画とはまったく異なる魅力があふれている。それはこういうことなのだろう。人物を描くとき、モデルは無意識のうちに「良く描かれよう」という意識を働かせる。絵師は、そうしたモデルの心と対峙しながら絵を描くため、そこに葛藤が生じる。しかし、自然は決して「良く描かれよう」などとは思わない。そのため、この絵においては絵師と自然は完全に一体化して、独特の雰囲気を醸し出している。ぼくは、この絵がたまらなく好きだ。

 

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