【トノサマヤンマ】
渋江喜久夫:
子供は時として残酷なものだ。少年時代に近所の悪タレ共との遊びの中で、カエルの尻の穴から麦わらで空気を入れ腹を膨らませたり、トンボの羽や尻尾をむしり取り無理やり翔ばせようとしたり……。今頃後悔しても遅いが、罪ほろぼしにギンヤンマの背中に羽を接いで放してみた。オヤ?何か翔び方が変だぞ? あっ、いけねっ、トノサマバッタの羽つけちゃった!(点描)
  西谷 史:
古代中国でもギリシャでも、文明が発生したときから人間は動物を合成して神話の中に取り込んできた。けれども渋江さんが描くような合成動物は見たことがない。それは合成動物にこうあって欲しいという感情移入を抑えて、ありうる動物を描くことに徹しているからだと思う。神話からリアリズムへの脱皮といえばいいだろうか。そういう意味で、トノサマヤンマくらいリアルな動物はいない。

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