第1回 ウインザード総合学園(四条烏丸)
第1回は、大学生なら誰もがこのことばを聞いた時負のイメージを抱くであろう、かの悪名高きウインザードである。
突然電話をかけてきては、わざとらしい世間話や誘導尋問で誘い出そうとする彼(女)らのセールストーク。僕も昔から「こんなのに引っかかる馬鹿なんているのか」とあしらっていたのだが、まさか自分がその馬鹿になろうとは思っても見なかった。
大学3年の9月のこと。
例によってまたウインザードから電話がかかってきた。
僕は勧誘の電話がかかってきた時、ヒマならいつもすぐ切らずに世間話をして時間を潰させてもらうのだが、その人と話すのは3回目だった。
20分ぐらい世間話をしたあと、いつものように「1回でいいから話聞きに来てよ」とのお誘い。
僕はいつものように「バイトが忙しいんで無理です」と断ったが、
「バイトが終わってからでいいから来てよ」
「でも朝の6時ですよ」
「それでもいいから」
そう言われては、それまで合計1時間ぐらいは世間話をしてて多少情もあり、またテレアポ全般に言えることであるが、声が結構可愛かったので「顔を見てみたい」との思いもあり、「じゃあ行きますわ」と言ってしまった。
バイトが終わり、6時過ぎにウインザードのビルに着いた僕は、電話で目印として言われた、ピンクのバインダーを持った女の人をさがした。
むしろその人を見に行くのが目的の7割ぐらいで、それだけが楽しみと言って過言ではなかった。
しかし、その人を見つけた時僕は「それは反則やろ」と心の中でつぶやいた。詳しい描写は避けるが、とりあえずお世辞にも「可愛い」とは言えなかった。
世の中こんなもんだよなと自分を納得させつつ、その人に案内されてビルの中に入る。
部屋に通されると、いきなり分厚いファイルを目の前に積まれた。
開くとそれはエントリーシートの山だった。
どこのエントリーシートだったかは忘れたが有名企業ばっかりで、どれもちょこっと志望動機や自己PRの欄がある以外はほとんど資格や語学力、留学経験についての項目しかない。
今にして思えば、よくこんなエントリーシートばっかり集めたなと思うが、就職活動を全くしていなかった当時にしてみれば確かに少し不安になった。
「あなたはこのエントリーシートをどれぐらい埋めることが出来ますか?」そう言われると確かに自分にはほとんど書ける項目はない。
「これが就職活動なんです」そしてそこからウインザードがいかに就職に有利な資格
が取れる所かを熱弁し始める。
しかし一言も「うちに入会してください」とは言わない。
そして極めつけに、ウインザードに通っている学生がいかに満足し、充実した生活をしているかを見せたいのだろう、もう1冊のファイルを取り出した。
それは学生と担当者の間の誓約書みたいなもので、「ファイトだぜ!!」「メグ姉(めぐねえと読む、ちなみに担当者の名前は中本めぐみといった)、おれ絶対TOEIC800点取るよ!」「おれは絶対〜の資格を取る!だからメグ姉、おれをビシバシシゴいてくれ!!」というような、やってる方は充実してるのかも知れんが、見てるほうは恥ずかしくなるようなやりとりで埋め尽くされていた。
ぼくはそれを見て、「なんか宗教みてえなノリだな」と思い引いてしまったが、向こうはこれでイケると踏んだのか、「こっちは入ってくださいなんて言うつもりはありません。やるのかどうか決めるのはあなたです。あなたがやるというのならこちらは全力でサポートします」とあくまでも強気の姿勢で勝負をかけてきた。
僕は元々乗り気では無いし、年間百万もかけてやろうという気も起こらない。でもこの場で断るのも悪いと思い、「家に帰ってもう一度考えてから結論を出します」と言ってその場を逃れようとした。
しかしその瞬間相手の表情が険しくなった。「今やらないのならもう来なくて結構
です。そういう風に言う人はみんな就職活動失敗してますよ」さらに強気に、脅迫気味に迫ってきたが、そんなものにひるむ僕ではない。
「この場で決めろと言うのならば、今この場ではっきりとお断りさせていただきます」そう言うと、さすがに向こうも少し動揺したようだ。「そうですか。じゃあ少し待っててください」そう言って席を立って奥に引っ込んでしまった。
2〜3分たっても帰ってこないので、もう帰っちまおうかと思ってたら(ちなみに朝8時ぐらい)、なんかまた新しい人を連れてきた。
久本雅美によく似たその人は、「中本は新人なもので失礼しました」と僕の前に座り、僕の地元とか、わざとらしい世間話を始めた。
もういい加減うんざりしてたので、適当に相槌だけ打ってたら、そいつも突然キレだした。
「あなたはセールスマンに対して偏見がある。セールスマンはアメリカでは、自分を売りこめる人間として非常に高いステイタスのある職業だと見なされているんですよ」
僕も「いやいや、ここは日本ですよ。じゃああんたアメリカ行きなよ。第一おれは自分から進んでここに来たんじゃない。あんたらがしつこく呼ぶから来たんだよ。わざわ
ざ来てやってるのに、おれを説得できてねえじゃねえか。自分を売り込めてないんじゃないの?」と言い返してやりたかったが、もめるのも馬鹿馬鹿しいので黙って聞く。
「あなたはD大学ですよね。D大学といえば世間はみんな英語ができるっていう目で見てますよ。あなたはD大学なのに英語が話せないっていう理由で馬鹿にされたらどんな気がしますか」それはメチャメチャ強引なすり替えだな。
いい加減むかついてきた。
「僕はあなた達が熱心に「話だけでも」っていうから話を聞きに来たんです。
で、僕は考えさせてくれって言ってるのに中本さんがこの場で結論を出せってって言うからはっきりと断ったじゃないですか。じゃあそれでいいでしょう。なんでそんなわけのわからんこと言われなあかんのですか。気分悪いんで帰らせてもらいます」と言って帰ってきた。
もう時間は朝の9時。外に出たら通勤のサラリーマンがうようよいる。
「はー、今日もバイトか。無駄な時間を過ごしてしまった」
結論。ウインザードの教育体制についてはよく分からん。
でもあの勧誘の仕方は汚ねえ。
不安を煽りまくって、それでだめなら脅迫か。
ふざけるな、時間返せ!!
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