第8回 罪と罰(ロシア文学・ドストエフスキー著)
「秘密の花園」初の文学編。
「罪と罰」という作品名を聞いたことが無い人はほとんどいないだろう。
僕は元々本は好きだが文学はほとんど読まない。
でもまあせっかく今ヒマがあるし、「たまには重い文学でも読んでみるか」という気にな
って、どうせ読むなら最高峰のものということで、「罪と罰」を選んだのである。
簡単なあらすじを書くと、
頭はいいが貧乏な苦学生ラスコーリニコフは、「世の中の人間は凡人と非凡人に大別される。
大多数の凡人は現行の秩序に従う義務があるが、選ばれた少数の非凡人は、結果的に人類の幸福に貢献するためならば、現行の秩序を破り、踏み越える権利を持つ」つまり、「百の善行のために行う一の悪行は許される」という独自の理論に基づいて高利貸しの老婆を殺害する。
犯行自体はほぼ完全犯罪に終わった。
しかし、実際に犯行を犯した後に、彼は思いも寄らなかった苦悩をするはめになる。
熱病に犯され、老婆の亡霊を見、回りからは狂人ともとられるような言動を繰り返すようになる。
頭の中では「シラミ同様」と見なしていた老婆であったが、「シラミ」を殺したことで苦悩する自分もまた非凡人ではなく、シラミ同様の凡人であるということに気づき、自分の小ささを意識する。
また頭が切れる予審判事ポルフィーリイによって、徐々に法に追い詰められていくラスコーリニコフは、不安と焦燥のなか、酒屋で偶然知り合ったダメ親父の娘、ソーニャの自己犠牲に徹した生き方に触れ、徐々に彼女に心を開き始め、ついにソーニャに全てを打ち明ける。
ソーニャに何度も神の教えを説かれたラスコーリニコフは、ついに自首を決意する。
しかし自白はしたものの、ソーニャの自己犠牲的な生き方は否定し、自分の理論の正当性を信じて疑わなかったラスコーリニコフであるが、シベリアの流刑地において囚人たちの中に身を置くうち、自分にとってのソーニャの存在の大きさ、愛の深さに気づき、所詮は机上の論理でしかなかった自分の信念を捨て、残り7年の刑期を終えたらソーニャの幸福ために生きることを誓うのであった。
まあこんな感じだ。かなり荒っぽいあらすじだが、なんせ元がクソ長いのでうまくまとめられない。
このあらすじからでは絶対に伝わらないと思うが、読んだ後、純粋にスゴイと思った。
とても百年以上前に書かれたものとは思えない。
まあ物語は全体通して非常に暗く、気分が晴れるようなシーンもほとんど無いのだが、登場人物の心理描写のリアリティが恐ろしいぐらいに真に迫っている。
人が狂っていくさま、主人公と様々な人間との心の駆け引き、老婆を殺害する場面の描写、どれもスゴイ。
感情移入とかいうのではないが、世界に引きずり込まれる。
次に、哲学的な問いの数々。
さっきの「百の善行のために行う一の悪は許される」というのもそうだが、登場人物の会話の中に、そのような哲学的な問いがそこかしこに散りばめられている。
そんな問いが出てくるたびに考えさせられる。
また、推理小説的な面もある。
と言っても犯人は最初からわかってるので、「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のような形式で話が進められていくのだが、徐々に相手を追い詰めていったり、罠を張ったりと、その駆け引きの絶妙さがまた素晴らしい。
自分に表現力が無いのがもどかしいが、とりあえず「スリルとサスペンスの連続」なのである。
まあでもこんなに褒めちぎってはいるが、まあ当然いいところばっかでもない。
どうしようもない部分であるけども、「古いな」とか「おれにはわからん」と思ってしまうところも確かに多々ある。
当時はその技術は無かったんだろうが、「殺人犯ぐらい指紋照合したらすぐにわかるやろ」とか、神を本当に絶対視して信仰してるとことか、また海外文学にありがちなところだが、場面設定やら会話やら描写に不必要なものが多すぎたりとか。
そのせいでダレてしまうところもままあった。
あと話が暗すぎるから読んでて疲れる。
息抜きする場面が無い。
しかしながらそれらを全部ひっくるめて、総合評価としてはやっぱり「スゴイ」となるのである。
やっぱりストーリーはともかくとして、話の奥がとにかく深い。
別に「罪と罰」という作品自体、字面で理解するだけなら小学校高学年ぐらいでもできる奴はできるだろう。
僕も中学のときには「罪と罰」の1.5倍ぐらいの長さの推理小説を読んでた気がする。
でも、今まで生きてきた中でぶち当たってきた様々な問題とシンクロさせて考えることによって、物語にグッと深みが出てくるのである。
その辺の琴線を刺激してくれる文章が満載なのだ。
まあ僕自体そんなに理解できたわけではないが。
読者を楽しませる本ではなく、考えさせる本だった。
「読んでよかった」とは思うけど、だからと言って「よし、じゃあ次はカラマーゾフの兄弟を読もう」とは思わなかったな。
やっぱり僕には重すぎた。
もっと気軽に楽しめる本のほうがやっぱり好きやな。
こんな本は1年に1冊も読んだら上等だろう。
疲れた。