第5回 あいりん地区(大阪西成区) withともぞう
前回の京橋に続き、ともぞう氏と巡る大阪ディープゾーン。
あいりん地区という名前に馴染みのある人はあまりいないと思うが、大阪の西成といえば、日雇い労働者の町という風に連想する人は少なくないだろう。
JR新今宮駅の南に位置する、求人求職の場である寄せ場を抱える釜ヶ崎という土地に日雇い労働者が集まり、そこにおよそ800メートル四方のコミュニティを形成したのが、俗称としてあいりん地区と呼ばれている地域である。
昔は栄えていたらしいが、今では求人もガクンと減ってしまい、野宿生活者の増加、地域全体の高齢化など様々な問題を抱えた地域であり、最近の大阪オリンピック招致に関して野宿生活者をなくそうとする市と住民(?)とのいさかいなどは記憶に新しいことである。
最初に言っておくが、今回そのあいりん地区に行ってみようと思った動機が単なる好奇心であることは間違いないが、多少のデフォルメはしても小馬鹿にしたり美化するつもりなどではなく、基本的に僕が実際に見て感じたこと、思ったことを嘘偽り無く書きます。
大阪駅でともぞうと待ち合わせ、午後1時にJR新今宮駅についた。
あいにくの曇り空で小雨がパラついている。駅を出ると、目の前に「あいりん労働センター」と書かれたでかい建物がある。
その脇を抜けると、いきなり周囲の空気が変わる。
40代ぐらいのおっちゃんが地べたに座って酒飲んでたり、何を売ってるのか分からん屋台、エロビデオや煙草なんかも道端で売っている。
その地域の空気は確実に退廃的でよどんでいる。
人口密度はやたら高いが活気は全く感じられない。
僕はその日、偏見かもしれんが用心にこしたことはないと思い、Gパンにトレーナーに帽子を深くかぶり、極力目立たないようにして行ったのだが、どう考えても確実に自分達は浮いている。
よそ者のオーラが自分の体から出ているのを感じる。
まあでも普通に考えて、平日の昼間に若者がぶらついてること自体が不自然といえば不自然なんやけどな。
ちなみに西成という土地は「じゃりン子チエ」の舞台にもなった場所で、僕の当初の計画では、屋台で売ってるホルモン焼きを食べたいと思っていたのだが、ホルモン焼きを売っている屋台は見つからず、仕方ないので「とりあえず何か食べてみるか」と目についた屋台に行こうと近づいたが、屋台に入ることなく素通りしてしまう。
ともぞうに「食べるんちゃうの?」と聞かれたが、間近で見るととてもそんな勇気は起こらない。
普通に自分が入れる雰囲気ではなかったが、それはまだ頑張ればなんとかなっても彼らが食べてるものを見たら、とても入ろうという気は起こらなかった。
僕は食べ物に関しては好き嫌いは一切無く、過去にイナゴやねずみを食べたこともある。
どんな状況でも自分は生きていける人間だと思っていたが、それは甘い認識だと思い知らされた。
まずなんと言っても不衛生。
そして得体の知れない「おじや」のようなどろどろした物体。
「食べたら後で体を壊す」と僕の本能が危険信号を発している。
確かに僕は今までイナゴやねずみを食べたが、イナゴは缶ズメだったし、ねずみや犬猫を食べた時も、見た目はちゃんとした料理屋だった。
食べたくは無かったが、「ここで出されるものを食べて腹を壊すことは無いだろう」という安心感は常にあった。
しかし目の前にある食べ物にはその「安心感」が無い。
そう、調理されて缶ズメにされたイナゴは食べれても、そこらにいるイナゴを捕まえて自分で焼いて食えと言われても食べられないのだ。
その時点で屋台で何か食べようという気は無くなったが、その一帯にはマクドはおろかコンビニすらない。
今の御時世に800メートル四方にマクドもコンビニも無い地域は探してもそうそう無いだろう。
さらに奥に行くと、わりと大き目の公園がある。しかしそこも子供の遊べるような雰囲気は無く、あちこちでブルーシートのテントや屋台が目についた。
もうそろそろここにいるのが精神的にしんどくなってきて、近くのスーパーで衛生的な缶ジュースと袋入りのカルメラを買って、あいりん地区を後にすることにした。
第5回に続く・・・
ともぞう氏の体験談