小ネタ 1 何か絵本みたいなの
あるところに、あげたがりの青年が居ました。
青年は働いてお金を稼いでも、女の人が「子供が病気なのです。お薬を買うためにお金を貸して下さい」と言ったら、すぐにお金をあげてしまいます。
残ったお金でパンを買っても、子供が「おなかが空いたの、パンをちょうだい」と言ったら、パンをあげてしまいます。
青年にはお友達がたくさんいたので、飢えて死ぬことはありませんでしたが、その暮らしはとても慎ましいものでした。
あるところに盗賊が居ました。
盗賊は、何でも人から奪います。
自分で汗水垂らして働いたことなどありません。実力で奪い取ることだけが、盗賊の知っているやり方でした。
あるとき、盗賊が青年の家の前を通りかかりました。
とても良い匂いがしたので、家の中に入って言いました。
「オイ、テメェのスープを寄越せ」
青年は答えました。
「はい、どうぞ」
けれど盗賊は納得しません。
「ただ貰うんじゃあ施しを受けてるも同然だ。表に出てオレ様と戦え」
そうして、困った青年は、盗賊と戦いました。
負けて呆然としている盗賊に、青年は言いました。
「あぁ、動いておなかが空いた。一緒にスープを飲もう」
二人はスープを分け合って飲みました。
あるとき、盗賊が青年の家の前を通りかかりました。
とても眠かったので、家の中に入って言いました。
「オイ、テメェのベッドを寄越せ」
青年は答えました。
「はい、どうぞ」
けれど盗賊は納得しません。
「ただ貰うんじゃあ施しを受けてるも同然だ。表に出てオレ様と戦え」
そうして、困った青年は、盗賊と戦いました。
負けて呆然としている盗賊に、青年は言いました。
「あぁ、動いて疲れてしまった。一緒に休もう」
二人はベッドを分け合って眠りました。
あるとき、盗賊が青年の家の前を通りかかりました。
青年が歌っているのが聞こえたので、家の中に入って言いました。
「オイ、テメェの声を寄越せ」
青年は答えました。
「はい、どうぞ」
けれど盗賊は納得しません。
「ただ貰うんじゃあ施しを受けてるも同然だ。表に出てオレ様と戦え」
そうして、困った青年は、盗賊と戦いました。
負けて呆然としている盗賊に、青年は言いました。
「声は持って行けないけれど、お前がいるときだけ喋ることにしよう」
二人はたくさんお話しました。
あるとき、盗賊が青年の家の前を通りかかりました。
青年が縫い物をしているのが見えたので、家の中に入って言いました。
「オイ、テメェの手を寄越せ」
青年は答えました。
「はい、どうぞ」
けれど盗賊は納得しません。
「ただ貰うんじゃあ施しを受けてるも同然だ。表に出てオレ様と戦え」
そうして、困った青年は、盗賊と戦いました。
負けて呆然としている盗賊に、青年は言いました。
「手は持って行けないけれど、この手はお前の好きにするといい」
二人はたくさん触れ合いました。
そうやって、盗賊は青年のものをどんどん奪っていきました。
そうしているうちに、盗賊は青年が痩せ細っていくのに気付きました。
盗賊が青年の全てを奪ったせいで、青年は働けなくなって、お金を稼げなくなったのです。
盗賊は考えました。
何でも何でも欲しいものは全て奪ってきたけれど、こういうときにはどうしたらよいのだろう。
いつでも笑って出迎えてくれる青年が、どんどん弱っていくのに、自分に何が出来るのだろう。
あるとき、盗賊は青年の家にパンを持って行きました。
「オイ、テメェの胃袋はオレ様のモノだ。オレ様の胃袋が空っぽなのは我慢できねェ」
「それもとてもお前らしい」
笑って青年はパンを食べました。
盗賊は、やっぱり他人の物を奪う盗賊だったけれども、青年に毎日パンと肉を持って行きました。
あるとき、盗賊は青年の家にシャツを持って行きました。
「オイ、テメェの身体はオレ様のモノだ。オレ様が小汚い服を着ているのは我慢できねェ」
「それもとてもお前らしい」
笑って青年はシャツを着ました。
盗賊は、やっぱり他人の物を奪う盗賊だったけれども、青年に毎日綺麗な服を持って行きました。
あるとき、盗賊は言いました。
「オイ、テメェは何が欲しいんだ。言えば持ってきてやるぞ」
青年は答えました。
「一つだけ欲しいものがある。けれども、それはとても手に入るとは思えない」
盗賊は更に言いました。
「オレ様は盗賊の王様だ。オレ様は何でも奪ってくることが出来る。テメェが欲しいモノは何でも持ってくることが出来るんだ」
青年は答えました。
「それを持ってくることは、到底できないだろう」
「そんなことはない。オレ様に不可能は無い。絶対にだ」
「本当に?」
「本当だ」
「それじゃあ、俺は、お前が欲しい」
盗賊はあきれて言いました。
「オレ様は、お前は欲の無い男だと思っていたが、そうでは無かったようだ。こんな欲張りは見たことがない」
青年は笑って答えました。
「そうだよ、俺はとても欲張りだ」
「オレ様が欲しい、なんて、世界で一番の欲張りだ」
「そうだよ、俺は世界で一番の欲張りだ」
青年は問いかけました。
「それで、くれるの?」
盗賊は答えました。
「オレ様に二言はねぇ」
そうして、与える喜びを知った盗賊と、奪う喜びを知ったあげたがりの青年は、二人で仲良く暮らしました。