日常



■日常■

 恋人との二人での夕食後。
 村雨祇孔は入浴を済ませ、リビングでソファーに背を預けて床に座り本を読んでいた。
 暫くすると恋人、緋勇龍麻も風呂から上がりバスタオルを頭に巻いてリビングにやってきた。
 そして、何を思ったのかちょこんと村雨の傍らに座り込むと、その膝に頭を乗せる。言わば膝枕である。
 龍麻の突然のその行為に村雨は眼を見開いたが、目を閉じ心地よさそうにしている龍麻を見て、微かな笑みを浮かべて読書を続行させた。
 外は雨が降り出したらしい。
 雨音が響き始める。
 その音をBGMにして、村雨は読書を、龍麻はその村雨の膝の上で丸くなっていた。
 やがて、村雨が片手にしていた文庫本を床に置く。
 その僅かな音に龍麻が顔をあげ、村雨を見上げた。少し眠そうな龍麻の表情に、ニヤリと意地の悪い笑みを村雨は浮かべた。
 無防備な態度は時に悪戯心を描かせるものである。
「隙あり」
 呟くなような声で言ったかと思うと、村雨は龍麻の両脇をくすぐった。
 突然のその攻撃に龍麻は対応できず、しかも体制も悪い。逃れる事もできずその魔手に捕まった。
「ちょ!!やっだって……アハハハっ!くすッ…ぐったいー!!」
 村雨の両手に良い様にされてしまう。大きな笑い声をあげながら、その手を逃れようと床の上を転がるが、滅多にない龍麻の姿に村雨は手を緩めない。
 結局、10分以上くすぐられ、ようやっと、その攻撃が終わった後、龍麻はゼイゼイと荒い息をついてしまっていた。
「……い、…きなり……っ、何……する…ん…だよ……」
 村雨からはやや距離を置いて。床の上に転がったまま上目使いで抗議する龍麻に村雨は飄々と答えた。
「ん?隙だらけだったからな」
 しかし口元には笑みが消えない。
「……それが理由………?」
 ぐったりと床に顔を伏せた龍麻だった。
「あんまりに無防備だったからなぁ。つい、な」
 龍麻の態度に村雨が悪びれない態度で言葉を続けた。
「…………」
 怒ったのか、無言で床に顔をつけている龍麻に、少し反省した村雨が龍麻の側に近づいた。
「悪りぃ……、そんなに怒るなよ」
 龍麻の肩に触れた瞬間。龍麻が素早い動きで起き上がり村雨の腕を掴んだ。
「うぉっ!?」
 次の瞬間、村雨が床の上に転がった。背中を強く打ち付けられる。
 その身体に龍麻が跨る形で上に乗った。
「ってェ……。そんなに怒ったのかよ」
 今度は村雨が抗議する形で上にいる龍麻を見上げた。
「……仕返しだよ」
「仕返しねェ」
 上になったとは言え、体格ではどう贔屓目で見ても村雨の方が勝っている。ちなみに腕力も村雨の方が強い。龍麻の分はけして良いと言い難いはずだった。だからこそ、村雨も揶揄に意味を込めて鸚鵡返ししたのだ。
 だが、しかし。
「………てっ!」
 龍麻が手に力を込めれば、押えられた村雨の腕にかなりの痛みが襲った。
「あまり甘く見ないでほしいね。確かに俺は華奢だけどさ。一応鍛えているんだよ?」
 本人も言っているが龍麻と村雨の体格差はかなりある。身長差も10cm近ければ体重も然り。
 しかし、村雨はいつも押し倒す側である為に失念していたが、龍麻は短い期間とは言え、古武道を叩き込まれているのだ。すなわち関節技などの基礎もしっかりできている。押さえ込む事など案外容易い事だったりするのだ。
 現に今、村雨はしっかりきっちり、龍麻に押さえ込まれている。肘を支点にして腕を押さえ込まれている為、動かす事もままならない体勢だった。
 流石に動かせない身体に村雨が焦りを覚えた。
「…っく」
 腕力にまかせて何とかしようと試みるが、技をしっかり決められている状態では、力だけではどうにもならない。
 珍しく焦りを覚え始めた村雨に龍麻が顔を近づけ耳元で囁いた。
「俺だっていつも祇孔に倒されるばっかりじゃないんだよ」
 優勢にいる龍麻が笑いを含んだ声で言った。村雨が悔しげに顔を歪める。
 この体勢は、腕が自由であるならば、村雨にとっては(ある意味)美味しいシチュエーションなのだが、如何せん、腕の自由が利かないのは不利である。しばらくその体勢で悔しそうに村雨は考え込んだ。
(どうするか…………でも、龍麻の事だしな……)
 次の瞬間、村雨が痛そうな大声をあげた。
「いっつう!!」
 いきなりの大声に龍麻が驚いて手を離す。
「えっ!ちょっと大丈夫!?」
 龍麻はけして村雨を傷つけたいわけではない。ただ、好き勝手に玩具にされるのは我慢できなかっただけである。その上基本的に龍麻は人が良い。痛そうな声を上げられれば心配してしまうのは当たり前だった。この場合、それが村雨の狙いだったが。
 手を離した隙を狙って、今度は村雨が龍麻の身体を反転させた。
 形勢逆転成功。
「いった………、え、ちょ……」
 呻く龍麻の身体に覆い被さる。そうして村雨は人の食った笑みを浮かべた。
「折角、アンタから跨ってくれたんだ。楽しまなきゃ損だろ?」
 その言葉に龍麻が一瞬絶句した。
「……そういう風に取るか?」
 呆れた声を出した龍麻に村雨は優しいキスを送る。
「駄目かい?」
「拒否してもするつもりの癖に?」
 軽く睨みながら龍麻が腕を伸ばした。
「物分りが良くて助かるぜ?龍麻」 
 

 それは二人の日常生活。


  


ジーダの謝辞
茜さまから、頂いた、誕生祝いですvvv
もー、そんなこと、毎日やってんだから〜
みたいな、バカップルぶりがたまりませんvvv
茜さま、ありがとう御座いました〜〜!!


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