『旦那の悋気』


「でね、でね、そしたら、りゅーくんがね」
 新宿区内、とあるマンションの一室。村雨の愛人黄龍の器こと緋勇龍麻(@原罪)の自宅である。
 で、目の前でコロッケをほおばりながら嬉しそうに話しているのが、劉の恋人黄龍の器こと緋勇龍麻(@ろり)である。
 判り難いので、以下、原罪龍麻を「龍麻」、ろり龍を「たつま」と表記する。少しばかりややこしい上何故別シリーズの主人公キャラが一緒にいるのかさっぱり謎だが、ここは爽やかに笑って無視しよう。
「ん〜、おなかいっぱ〜い」
 食べ終わり、満足そうにフローリングの床に転がったたつまを横目で眺め、そっと龍麻は笑った。テーブルの上を片付けていると、「手伝う!手伝う!」とたつまがじゃれついてくる。口の端についたままのソースが可笑しくて、舌で舐めとってやった。それをキスだと勘違いしたのか、にこにこ笑いながらたつまが両手で龍麻の腕に縋り、目を閉じて「ちゅう」の姿勢をとった。
「んー」
 なんら躊躇いなく微笑んでくちづける緋勇龍麻、大物といえよう。
 が。
「…………。」
 なごやかいっぱいの二人を硬直したまま見つめる暗い影。折悪しく帰ってきた秋月家使用人村雨祇孔その人であった。
「……何してやがる」
 地を這うかの如き声音に龍麻が顔を上げて振り向く。村雨を認めてほんの少し柔らかく目を細めた。
「帰ったのか」
 帰ってきたかだとォ?
 俺の居ない間にどこぞの餓鬼つれこんで何やってんだお前はぁああ!!
 (以上村雨心の絶叫)
「…どこの餓鬼だ、そいつは」
 内心嫉妬の業火に焼かれ絶叫していようとも流石は博徒、表情は髪一筋変えずたつまを顎でしゃくった。村雨の視線を受け、聡いたつまは怯えて龍麻の腕に隠れる。「村雨祇孔」はたつまも良く知る仲間であったが、目の前の男は自分のストーカー友人とは大分違う雰囲気を持っていた。
 しかし村雨のそんな性格もすべて愛している懐大海原な龍麻は、ぴりぴりと張り詰める緊迫感も当り前と思っているのか、たつまの髪を優しく撫でて、
「俺だ」
 と答えた。
「…何?」
「緋勇龍麻。俺ではないが、俺だ。何だか良く判らんのだが、行くところもないと言うし、無下にするわけにもいかんので部屋に上げた」
 俺に判る日本語を話せと思いつつも、村雨は龍麻の言葉を無理矢理理解する。「緋勇龍麻」を胸に抱いて自分を見上げている龍麻の双眸はいつもの通り小憎らしいほど澄んで落ち着いており、嘘を言っているようには見えない。
 もっとも、龍麻が自分に嘘をつくことなどけして無いと、村雨には自負もあった。結局はバカップルである。理不尽な事件はいつものことであるし、次第に余裕を取り戻した村雨は龍麻の腕にいる「緋勇龍麻」を見つめた。

 チビだ。

 龍麻の言うことが真実ならば、これも「緋勇龍麻」の割に、随分と自分の「龍麻」とは違う。
 中学生、下手をすれば小学生にも見える体躯で、鼻は小さく瞳は大きくいかにもロリ系だ。うさぎの耳でもつけたらさぞ似合うだろう。こんなのが黄龍だと言われたなら、自分はとても信じられなかっただろうなと村雨は思った。
 ちなみ、「この」村雨の好みはアダルトな美人なので、ろりたつまは単なる子供にしか見えていない。もっとも、帰ってきて転がっていたのが荒縄で縛られた和服姿の龍麻でもあれば、さぞや危険であったろうが。
 たとえば。
 『いい恰好じゃねえか……え?』(とか言いつつ手をはだけた前から太腿へ這わせる)
 『……っ。何のつもりだ……』(気丈にも静かに睨み返す龍麻。何故か下着をつけていない)
 『ふっ。知りたけりゃ教えてやるよ。そのからだに、たっぷりとな……』(膝で腿を割り圧し掛かる)
 なんてな。
 いずれにしろ自分の龍麻が「たつま」とやるつもりだったわけではないらしいと村雨は納得し、制帽をとり上着を脱いでソファの上に放り投げる。「仕事」で疲れて帰ってきたのだ、風呂入って飯食って龍麻喰って寝るかとベルトに手をかけ、横で怖がるたつまをあやす龍麻を振り返った。
「もう十一時回ってるぜ。そのお子様は、そろそろ家に帰した方が良いんじゃねえか」
 村雨としては、当然ここで龍麻が頷くものだと思っていた。しかし、龍麻は軽く首を横に振る。
「そうしたいが、どこから来たのか、本人も良く判っておらん。いや、判っていないというのは違うな。『ここ』に住んでいるというのだから」
「――――何?」
「どこぞの空間でも捩れているのだろう。とりあえず今晩はここに泊める。お前はそこで寝てくれ」
 そこ、と言われて村雨は龍麻の視線を辿った。延長線上で見つかったのは、寝るにはちと厳しいソファだけである。
「……ここで寝ろってのか?」
「仕方があるまい」
 こともなげに返された答えに、村雨の頭へ血が上った。口の端をゆがめ、大股に近寄って龍麻の腕を捻り上げる。「やめて」と叫んで取り縋ったたつまを、冷たい一瞥をくれて振り払った。たつまの大きな瞳にみるみるうちに溢れる涙を無視し、眉を顰めて見上げる龍麻へ顔を寄せて寝室のドアを開けた。
「…外法ってものを見せてやるぜ」
 いや、それキャラ違うし。


「……ぅあっ…く」
 有無を言わせず突っ込んでやろうかとも思ったが、そうも出来ないあたり、どうにも随分いかれているのだと思う。龍麻が「辛そうな」顔をするのは好きなものの、「辛い」顔をするのは真っ平御免である。指で嬲るだけ嬲り慣らすだけ慣らし、少しばかり性急に膝裏を抱えた。
「ふぁ…あ…あっ」
 他のメンバーが聞けばまず即勃ちものの声が零れる。元々意識して声を殺す方ではなかったが、近頃のこれは少し違う。安心しているというのか、ゆだねているというのか、一人で聞けて幸せというのか。
「ぁう…ん、く…。……し、こう」
 焦らし気味にゆすってやると、ふと龍麻がうっすらと目を開けて村雨を呼んだ。涙に埋まった瞳で真直ぐ目の前の顔を見つめたまま、震える指先をそっと逞しい首筋に這わせ、両手で愛しげに村雨の頭を抱いた。優しいが強い力で引き寄せて、掠れた声で囁く。
「……どうした……。何を、怒っている……?」
 どっくん。
 いや、出るもの出た音ではなく、村雨の臓腑がときめいた音である。
「わけを、いってみ……あぁあっ!」
 心房からごばりと押し出された血液が合体している箇所へ急激に集中し、突如増した圧迫感に龍麻が悲鳴をあげた。ぎゅっと村雨の首に縋りついて眦から涙を流し、震える唇を無精髭がざらつく顎へ押し付ける。その間にも村雨の心臓はターボエンジンさながらに回転し、下半身へと血液を送りつづけた。
「…あっ…あ…あっ…」
 龍麻の嗚咽にも近いその喘ぎに、ドアの向こうで膝を抱えてえくえく泣いていたたつまが顔をあげた。思わず息をとめて澄ました耳に、はっきりと龍麻の苦悶の声がとどく。慌てて立ち上がり、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ドアをぱたぱたと拳で叩いた。
「ふぇ…おにいちゃん、龍おにーちゃぁん」
 絶好調のエンジン全開でがんがん飛ばさんと両手でがっしりと龍麻の腰を掴んだ村雨の動きがぴたりと止まった。胸下の龍麻が苦しげに、んん、と喉を鳴らして村雨の顎を噛む。
「おにーちゃん、おにーちゃん、うぇえん」
 軽い音を立てて揺れるドア。その向こうで泣いている(実年齢以外)子供。身じろぐたびにベッドを軋ませて切ない涙を零す美人を組み伏せているこの状況。
 まさに、「子供を締め出して母親をなかせている悪い男」そのままの図式である。
 が、そんなことを自覚したとて萎えるような村雨ではない。龍麻の顎を左手で掴み深く唇を重ね、甘い悲鳴を残らず呑みこんでぐっと身体を動かした。後頭部から背中へとずれた龍麻の指がきつく爪を立てる。ねっとりと貪欲に自分を求める肉体に逆毛立つ歓喜を覚えつつ、村雨は愛しい獣をすべてでもって苛んだ。


「おにーちゃん!」
 思いきり気だるそうにゆっくりとドアを開けた龍麻へ、たつまが泣きじゃくりながら抱きついてきた。シャツだけを羽織った己が姿に頓着せず、しゃがんだ龍麻はたつまを優しく抱きしめて髪を撫でる。
「えくっ、おにーちゃん、えうっ」
「泣くな。何か、怖いことでもあったのか」
 天晴れ緋勇龍麻。当事者が何を言う。
「えっ…うぇっ…じょう、ぶ?」
「なに……?」
「お、にぃちゃん、だい、じょう、ぶ?いたいこと、されて、ない?」
 大丈夫だ。きもちよいことされてはいたが。
 龍麻はふっと目を細め、じっとたつまと視線を合わせて親指の付け根でその涙を拭いてやった。
「ああ。俺を、心配してくれたのか」
 大丈夫だと微笑まれてやっと安心し、鼻をすすりあげて笑うたつまの顔を龍麻の背中越しに眺め、村雨は煙草を一本咥えた。
 餓鬼がいたらこんなもんかも知れねぇなと片眉を上げてベッドにふんぞりかえる村雨は、その「餓鬼」が似たようなことをされているなどとは、到底及びもつかなかったのであった。






ジーダの謝辞
小動さまの『天地人罰』にて45000を踏んで、頂いた『原罪あにぃのラブラブ』です!
ロリ龍麻も絡んで、あぁ素敵すぎる・・。
原罪あにぃの太っ腹さにめろめろです。
でも、悪人になりきれない(けど佐渡属性)村雨さんも最高です!!
・・ところで、何が何だか、さっぱりわからん、と言う方!
いますぐ、天地人罰に飛んで行って、シリーズを読んで下さい!
それで、貴方もめろめろに!!
・・まあ、うちに来てて、小動さまんちに行ってない人がいるとも思えないが・・。
小動さま、ありがとう御座いました〜〜!!


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