■二人の災難■ 「あまり見ないでよ…」 リビングで村雨と龍麻は晩酌している。だが、龍麻の顔は紅潮しており村雨と顔を合わせようとしない。 「何がだい?俺はいつも通りだぜ?それより龍麻。一本付けてくれよ」 空になった徳利を振る。 「………、意地悪だよな」 半ば涙目になりながら、龍麻が立ち上がる。剥き出しになった脚が村雨の視界に入った。そう、現在の龍麻の姿は普段から使用している青いチェックのエプロン以外何も身につけていない。横幅が広く、前で紐を縛るタイプの物であるため、後ろが丸見えになる訳ではないが、丈は短い。膝上15cmといった所か。 「今日は俺の言う事何でも聞いてくれるんだろ? 「そ、そうだけど!!」 何か言い募ろうとした龍麻に村雨はこれみよがしな溜息をついた。 「だって、そうだろ?あんたのおかげで折角の休みが駄目になっちまったしなあ?」 「…ごめん……熱燗作ってくる」 言うなりキッチンに行ってしまった龍麻の後姿を見やりながら村雨はニヤリと笑う。 (ホント今日はツイてるぜ。何せ、龍麻には悪いが、こんな美味い展開逃すのは男が廃るって言うもんだ) 村雨にとってはとても美味しいこのシチュエーションになった原因は龍麻が誤って村雨が御門から預かっていたMOディスクを壊してしまった為である。実際のところ、それはあくまでバックアップの為の物で直ぐに修復可能な物だったのだが、龍麻は重要な物だったのではないかと勘違いしたのだ。 「ごめん、祇孔!!」 「仕方ねえだろ?壊しちまった物はよ」 「でも、御門から預かった物なんだろ?大切な物じゃないか」 不安げな龍麻の様子にいつもの村雨であったら、何でもないと言った違いないが、不意に悪戯心が沸き起こった。 「……そう、だな……次の休みねぇかもな」 顎を撫でながら思案する村雨に龍麻は罪悪感の為か俯いて言った。 「ごめん……祇孔。俺に出来る事だったら何でもするから……」 「何でも?本当かい?」 「うん……出来る事だったらするよ…」 しおらしい龍麻の様子に村雨は笑みを隠せなかった。 そして、現在に至る。 すなわち、裸エプロン姿になる羽目になった龍麻がいるのだ。 流石に白いフリル付きのエプロンまで着せなかったが、今の姿も充分に村雨にとって満足できるものである。 「さて、これから楽しませて貰うかな…」 クククと笑うと村雨は立ち上がり龍麻が姿を消したキッチンへと移動した。 熱燗を温めながら龍麻はつまみであるチーズを切っていた。トントンとリズム良く包丁を動かしている龍麻の背後に気配を隠して近づく。 (うなじが色っぽいねぇ) 笑みを噛み殺すとそのうなじに口付ける。 「ひやぁ!」 思わず包丁を取り落とし龍麻は悲鳴をあげた。幸い包丁は床には落ちなかったが突然の行為に驚いたのだろう、龍麻は腰が抜けたのか、ズルズルと崩れ落ちるように座りこみそうになった。 「クククっ。そんなに驚いたかい?」 笑いながら龍麻の腰を支え、半ば落ちかけた身体を引き上げ、そのまま横抱きにする。 「うわっ!な、何する気!?」 突然の村雨の行為に龍麻は声が裏返っている。だが、そんな龍麻の様子を気にしもせず、村雨は今は殆ど使用されていないダイニングテーブルに龍麻の身体を乗せてしまった。 人が乗るには不安定なテーブルに乗せられ龍麻は驚きと不安で声も出ないようだった。ただ縋るような視線を村雨に向ける。 「そんな顔されたら、我慢できなくなっちまうな…」 最初からその気であった癖に村雨はわざとニヤリと笑い、片膝をテーブルに乗せ、龍麻の上に覆い被さるように口付けた。 「んっ!」 咄嗟に逃れようとした龍麻であったが、ガタガタと揺れる不安定なテーブルの上では逃れる事もままならず、村雨に唇を奪われる。奪われてしまえば村雨の手管の前に抵抗する術はない。 たっぷり数分間龍麻の柔らかい唇を堪能した村雨はそのまま舌を龍麻の鎖骨へと滑らせる。 「ふぇ……こんな……所…や、だあ……」 舌の感触に身体を震わせた龍麻であるが、そうでなくても恥ずかしい恰好をしている上、情事をするには不釣合いな場所での行為に抗議の声を上げた。 だが、エプロン姿+キッチンというシチュエーションが燃えるのである。 「ふぅん?そんな事言っていいのかい?」 村雨の言葉に龍麻がハッと顔を上げた。脳裏には破壊してしまったディスクの事が過ぎっているに違いない。うーと言う小さな唸り声を出しながら唇を噛み締める。今にも涙が落ちそうな顔でしばし村雨を見たが村雨が止める気配がない事を知ると、顔を逸らして眼を閉じた。 「ひどい事はしねえよ」 耳元で優しく囁いて村雨は龍麻の耳たぶを齧る。手はエプロン越しに胸の突起を探る。それを探り当てた村雨は爪先で突起を引っ掻いた。直接触れるのとは違う感触に龍麻の身体がヒクリと跳ねる。それでも声を出すまいとしているのか、右手の甲を噛んで、必死に耐えている。 「声ださねえつもりか」 耳元でねっとりと舌を這わしながら村雨は低く囁く。龍麻は眼を閉じたまま答えを返さなかったが、声をあげまいとしているのが見て取れた。その姿に村雨は一瞬眼を細めると。 「長い紐だよなぁ……」 上体を上げ、龍麻が身に付けているエプロンの腰紐を手に取る。身体の前で縛るタイプの物であるため、その腰紐は通常の物よりは随分と長い。 「……な、に……?」 突然、エプロンの紐を手に取った村雨の行為の意味が判らず龍麻は不安そうに問い掛けた。それに不気味なほどの笑顔を村雨は浮かべた。ちょうちょ結びを解くと村雨は片方の紐で龍麻の腕を縛り上げ、その先をテーブルの脚に括り付ける。 「やっ!何!?」 そのような行為をされるとは思っていなかった龍麻が大声をあげる。 「あんたの声が聞きたいからな」 村雨の言葉に龍麻が絶句する。不安定なテーブルの上で腕を縛られれば抵抗など出来るはずもない。まさしくまな板の魚のごとくである。羞恥のあまり全身を桜色に染めた龍麻をじっくり観察しながら村雨は剥き出しになっているふくらはぎに舌を這わす。舌を動かしながら片脚を持ち上げる。 「やあ!やだあっ……」 元々丈の短いエプロンである。脚を持ち上げられれば下肢が丸見えになってしまう。その事が恥ずかしく龍麻は首を振って抵抗の声を上げる。涙が目の端から落ちた。 流石に涙を流されれば、村雨にも罪悪感というものが沸き起こる。顔を上げ、龍麻の頬に流れる涙を唇で掬い上げる。 「悪りぃ……調子に乗りすぎたな」 髪を撫で優しく謝罪する。 「ぅ……ふッ……え……」 だが、龍麻の涙は止まらない。ボロボロと流れる雫に村雨の罪悪感は倍増する。 (やっべぇ……、ここまで泣かせる気はなかったんだがな…) 本気で泣いている龍麻に村雨は心底、反省した。 「すまねぇ。龍麻、俺が悪かった」 急いで紐を解き、龍麻を抱きかかえるとリビングに戻る。そしてエプロンを脱がせパジャマに着替えさせる。しかしよっぽど嫌だったのか、龍麻は肩を震わせて泣き続けている。ここまで泣かせた事はなかった村雨は動揺した。 「龍麻。ほんっとうに俺が悪かった。もうこんな事しねえ。だから泣き止んでくれよ…」 細い肩を抱き、必死に謝罪する。正直、龍麻は村雨の言う事はいつも笑って許してくれていた為、このような出来事は村雨にとっては予想外だった。 柄にもなくうろたえる。歌舞伎町の帝王などと言う二つ名を持つ村雨祇孔も本気で惚れた人間の涙には滅法弱かった。 「すまねぇ。あんたがそんなに嫌がるとは思わなかったんだ。もう2度しねぇ。そ、そうだ。この間言ってたライブのチケット取ってやるから一緒に行こうぜ」 「…ふっ……それ、先約……あるっ…て…言ってた……」 ようやく、反応は返ったものの痛い所を付かれた。しかも秋月絡みの用事であるため、抜け出すのはかなり厳しい。だが、ここで出来ないとは言うのも憚られ、村雨は必死に言い募った。 「い、いや。大丈夫だ。あんたを泣かせた詫びさせてくれよ」 「………ほんと……?」 顔をあげた龍麻の顔に喜色が浮かぶ。元々、秋月の用事で約束を破りがちな村雨に龍麻はずっと我慢してきた経緯があるのだ。だが、それも直ぐに憂鬱に変わる。 「でも……俺、御門のディスク壊しちゃったし……」 しゅんと肩を落とした龍麻に村雨は首を振って否定した。 「大丈夫だ!あれは直ぐに修復できる物だから」 「………えっ……?」 空気が一瞬、止まった。 しまったと顔を顰めた村雨に龍麻がその意味を理解する。やがて龍麻の顔に珍しくも怒りの表情が浮かんだ。 「それって……!!」 滅多に見せない龍麻の顔に村雨は冷や汗が流れた。 (まずい!!やぶ蛇だっ!!!) 「祇孔の馬鹿!!!」 ……黄龍を放たれなかっただけましと言うのかもしれない。 それから数日間、龍麻の家には村雨が様々なプレゼントを持って謝罪にしに行く姿が確認された。 教訓:可愛い恋人に嘘をついてはいけません。 |
ジーダの謝辞 茜さまのサイト「海天藍」にて1900のキリ番を踏んで、 頂いた「裸エプロン」です。 なお、エプロンに合わせて、壁紙を青のチェックにしてみました。 か、可愛い〜!! 村雨さんが、可愛い〜vv 龍麻さんが、泣いただけであれだけ動揺してvv その挙げ句に、口を滑らせちゃって。 なんだか、龍麻さんの裸エプロンの愛らしさより、 村雨さんの可愛さばかり目に付いたジーダです(笑)。 茜さま、ありがとうございました! 次もよろしく(笑) |