時に、17年前。 中国は客家省。 あやめも分からぬ暗闇の中、燃えるような髪の男が、哄笑を上げていた。 「くっくっく、はーっはっはっは!!」 「はーっはっはっは・・はーっはははは」 狭い洞窟の中で、高笑いをするのは、やめておいた方がよいだろう。 反響して、大変、喧しい。 「笑って・・・いられるのも、今の・・うち、だ・・・」 その足下に転がった、満身創痍の男が、げぼげぼと血を吐きつつ、にやり、と笑った。 「ふん。これで、この俺を、封印したと思っているなら、笑止!」 「俺の・・・代では、お前を、倒すことは・・できなかった・・・だが・・きっと・・・俺の・・むす、こ・・が・・・」 (智勇−−−) そして、父、蒼晶弦麻は、息絶えた。 17年後、東京。 中央公園に、きしっという音が響いた。 ガラスが割れるよりも、まだ硬質で、透き通った−−−音叉を鳴らしたような音。 周囲を、不穏な気配が、どろどろと立ちこめていく。 「ついに真実に辿り着いたか、蒼晶智勇よ−−−」 身動きも出来ないような、濃密な殺気の中、ふっふっふ、と笑いながら、一人の男が、姿を現した。 柳生宗崇、196歳。職業、剣鬼である。 「お前は、この世界の新たな−−−」 言穂を紡ぎかけたとき、硬直している高校生達の合間から、ぴょこん、と、何か小さいのが飛び跳ねてきた。 「あーっ!サンタさんだーーっ!vvv」 ・・・・・・・は? さんた?誰が? 柳生は、案外、アドリブに弱かった。 一緒になって硬直している間に、そのちっちゃいの、こと、蒼晶智勇が、柳生に駆け寄ってきた。 「こんにちはーっ」 何か期待しているように輝く瞳は、濡れたようにキラキラと。 緑がかった黒の制服に埋もれて、白い顔が、より小さく見える。 淡い茶色の髪を揺らして、智勇は、えへっ、と首を傾げた。 激ぷりちー。 柳生の脳裏を、そんな単語が過ぎっていった。 (これが、蒼晶智勇・・・ くっ、弦麻め!良い仕事をしおるわ!!) てーか、アンタ、智勇の顔も知らんかったんか。 警戒心もなく、智勇はトコトコと、柳生の目の前にまで歩いてくる。 そして、柳生の顔を、じーーーっと、見たかと思うと、目を真ん丸にして 「サンタさん、お顔、怪我してるの?」 心配そうに聞いた。 「お、お、俺は、サンタではない!」 どもってる、どもってるよ、剣鬼さん。 「俺の名は、柳生宗崇。この世を、修羅の世界に変える男だ!!」 どどーん、と演出で、真っ赤な月をバックに背負う。 昼間の中央公園なんだが。 智勇は、にこおっっと、無邪気な笑顔を見せた。 こっちは、バックに赤いチューリップが咲き乱れている。 「野牛さん、ですかー。初めましてー。蒼晶智勇です!」 ぺこり、と勢い良く頭を下げすぎて、前につんのめりかけた智勇を、思わず支える野牛、いや、柳生。 その顔が赤いのは、月の照り返しなどでは、決して、無い。 「ありがとー」 腕の中で、えへへ、と照れたように笑いながら見上げる智勇の顔から、べりべりと視線を引き剥がし、努力と根性で厳しい表情を作る。 「お前の役目は、終わったのだ−−」 ぱっっと、智勇の顔が輝いた。 歌舞伎町の裏通りまでも照らした、折り紙付きの輝きである。 柳生の心の闇まで払拭できるのは、間違いない。 ・・・いや、どっちの闇が、より深いのか、と言われると困るが。 「あーーっ!すっごーい!!三つ編みだーーーっっvvv」 きゃっきゃっと、柳生の後ろ髪を見つけて、引っぱり出す。 「ねぇ、ねぇ、これって、自分で、やってるですかー?」 憧れの色を浮かべた瞳で見つめられて、柳生に、どうしてそれ以上、セリフを続けられる訳が在ろうか。 「あ、あぁ・・・毎朝、自分で編んでいるのだ・・・」 「うわーっ!すっごーい!野牛さんて、器用なんですねー」 「あ、いや、それほどでも・・・」 深紅の学生服(推定)着用の顔傷男に、ちっちゃな子供が、きゃっきゃっとまとわりついている様子を、仲間達(特に劉)は、身動き一つ取れないまま、悔しそうに見つめるのだった。 12/24。 自宅へと向かって、ぽてぽてと歩いて帰る智勇の前に、ずしゃあっと音を立てて、立ちふさがる男がいた。 「あ、野牛胸高さんだーっ、こんにちはーvv」 「う、うむ・・・久しいな、蒼晶智勇よ・・・」 5日前に会ってるがな。 「野牛さんも、今日、終業式だったですかー?」 百歩譲っても、学生服のコスプレをしているようにしか見えない男を、智勇はきちんと『高校生』として扱っているようだ。 さすが、『なんちゃって高校生』を旦那に持つだけのことはある。 「あ、あぁ・・・」 柳生の歯切れが悪い。 両腕は、後ろに回しているし。 視線を数瞬漂わせた後、柳生は、決然と口を開いた。 「蒼晶智勇よ!!」 惜しむらくは、やや、上擦っていたのが、難であろうか。 剣鬼、一生の不覚。 「ち・・・いや、まずは、これを受け取るが良い!!」 大量のピンクの薔薇の花束が、智勇の鼻先に突きつけられた。 ちなみに、花言葉は、『恋の誓い』。 あぁ、何を考えて生きているのか、柳生宗崇。 「うわあ、ありがとーvvv」 ピンクの花束に顔を埋めるようにして、智勇は、えへ、と上目遣いに柳生を見る。 ずがん。 柳生の胸を、恋のキューピッドがトカレフから放つ弾丸が貫いた。 「そして、これも!!」 「あvvvモロゾフのチーズケーキだーっ! ありがとー、タカちゃんっ!vvv」 チーズケーキの好意度上昇率は、なかなかのものだったらしい。 一気に愛称扱いだ。 花束とケーキの箱を抱えて、幸せそうに笑う智勇に、しばし見とれて、それから、はっと気付く。 一つ、咳払いをして、深呼吸。 「そ、蒼晶智勇よ!!」 「なあに?タカちゃん」 「ち・・・・ちーちゃんと呼んで、良いだろうか!!!」 柳生宗崇、196歳。職業、剣鬼。 只今、青春、真っ盛り。 かくして。 蒼晶弦麻&伽代が丹誠込めて作り上げた『対柳生最終トラップ』は、ここに発動した。 東京は、今日も、平和だった。 |
あとがき 柳生主。・・・どうしたのだ、ジーダよ。 ・・・もはや、言うべきことは、何も無い・・さらばだ!! 村雨「モロゾフのチーズケーキ・・・12/24・・ひょっとして、Hの後に、 『今日はお夜食があるんだ〜vv』っつって、食ってたヤツか?」 智勇「うん、そーだよ。運動した後は、お腹が空くもんね」 村雨「・・・・・・」 智勇「なあに?しーちゃん」 村雨「いや・・・敵ながら、柳生に同情してるだけだ」 智勇「???」 |