乙女回路




 ほえ〜・・・・
 ・・・・ほえ〜・・・・・

 何だか、足下がふわふわするよ〜・・・。

 村雨さんと、キスをした。

 うわわわわわわわわわ〜!
 お、お、お、お、思い出すと、ははははは恥ずかしいよぉ〜〜〜!!
 
 村雨さんが、僕のこと、好きって言ってくれた。

 うにゃにゃにゃにゃにゃ〜〜〜!!
 『アンタが好きだ』って〜!『アンタが好きだ』って〜〜!!

 ほえ〜・・・・
 ・・・・ほえ〜・・・・・・

 あぁ・・駄目だぁ・・・足下がふわりふわりと、雲の上歩いてるみたいだ・・・。
 だってだって〜!
 む、村雨さんが、僕のこと、好きなんて、好きなんて、だって、僕なんてホントにとろくさくて馬鹿で平凡な顔してて〜!
 な、な、なのに、なのに、村雨さんが『そういうとこも全部ひっくるめて、好きだ』って・・・
 うにゃ〜!
 うにゃにゃにゃにゃにゃ〜〜!!


 「・・・あんた、何、百面相してんのよ」
 うっきゃあああああ!!
 と、ともちゃんさん〜〜!
 「言っとくけど、さっきから、目の前にいたわよ?」
 ほえほえほえ〜!す、すみません、気づきませんで〜!
 「ま、いいわ。さ、首尾を教えなさい。アタシには、その権利あると思うけど?」
 守備?守備ですか?何の守備でしょう〜!?
 「・・・結局、しーちゃんとは、やったの?」
 やった?やったって、何をでしょう〜!?
 あわわわあわわわあわわわわわ・・・
 い、いつもに増して、僕、馬鹿みたいです〜・・。
 も、何が何だか・・・・

 『アンタが好きだ』

 うっきゃああああああ!!
 勝手にリフレインが、リフレインが〜〜!

 「・・・その分だと、まだのようね。しーちゃんも何やってんだか」
 な、何故そのように溜息を吐かれるのでしょう。
 そんな呆れ果てたみたいな顔しなくたって・・・ぼ、僕を馬鹿にするのはいいけど、村雨さん馬鹿にしたら駄目です。
 いくらともちゃんさんでも、怒りますよ、僕。
 「ぜーーーーっったい!しーちゃんなら、そのまま雪崩れ込むと思ったんだけど〜」
 ・・・何を?
 雪崩?僕、雪山になんて行ってませんが。
 流れ込む、の聞き間違いかなぁ。でも、村雨さんが流れ込むって何かなぁ。
 村雨さんの<氣>が、僕に流れ込む・・・うっっきゃあああああ!!キ、キスしたとき、そんな感じもしたような・・うわわわわ、僕、何、思い出してるんだよ〜〜!
 
 村雨さんが、僕にキスをした。

 にゃにゃにゃにゃにゃにゃ〜〜!
 め、目の前に、ともちゃんさんがいらっしゃるんだから〜!
 早く立ち直んなきゃ・・・!
 「いや、だからね?どこまで行ったのよ。キスくらいはした?」

 僕のした『キス』とは、全然違うキスだった。

 うにゅうううううう〜・・・・
 ほえほえほえ〜・・・・
 ・・・・・・はっ!た、立ち直んなきゃ・・・!
 「は、はい・・その・・キス、しましたです・・・」
 辛うじて、僕がそう答えると、ともちゃんさんは、にんまりと笑った。
 「やーっぱりねぇ。そのっくらいは、ねぇ?」
 そのくらいって・・・僕にとっては、青天の霹靂・・違うな、ちょっと・・・えーと、針小棒大・・もっと違う・・支離滅裂・・は僕のことか・・えーとえーと、と、とにかく世界がくるってひっくり返るくらいの衝撃だったんですから〜!
 
 村雨さんが、僕を引き寄せて、顎をくいって持ち上げて・・そしたら、唇に温かい感触があって、びっくりしてたら、
 「先生、こういうときは、目を閉じるもんだ」
 って言うから、ぎゅってしたら、また温かくって、でも濡れたようなくすぐったいような感触が唇を辿っていって、その間中息を止めたたら苦しくなって、感触が離れた途端に慌てて息を吸って、吐いて、何度か繰り返してたら、村雨さんが笑って、
 「・・まさか、キスは初めてかい?」
 って・・・。
 でも、僕は、この前、村雨さんの寝てる間に唇舐めちゃったから、あれもキスだと思うから(というか村雨さんがそう教えてくれたんだけど)、
 「・・2回目です・・」
 って答えたら、何だか、村雨さんのご機嫌が急に悪くなって、あれあれって困ってると、また村雨さんが僕をぎゅってして、今度はさっきと違う角度で唇がぴたってくっついて、「村雨さん?」って呼びかけようと思って口を開けたら、何かぐにゃってした物が入ってきて、何かそれが軟体動物系の感触で、びっくりして咬んじゃったら、村雨さんが「いってぇっ!」って離れて、どうしたのかと思ったら、実はそれは村雨さんの舌で・・・。
 「ごめんなさい、ごめんなさい」
 僕、全然気づかなくて、思い切り咬んじゃったから、一所懸命謝って、でも村雨さんは優しく笑ってくれて、
 「こういうキスは初めてなんだな」
 でもでもやっぱり痛そうで、どうしよう、回復薬探そうかなって思ったら、村雨さんが、
 「舐めてくれたら治るかもな」
 って仰ってくれたから、村雨さんがべーって出した舌の血が滲んでるとこをぺろぺろ舐めてみたら、村雨さんが、僕を床に押しつけて、また唇がぴたってくっついて、でもでも舌は僕が舐めようとしてるのにじっとしてくれなくて僕の口の中を色んなとこうろうろして・・・
 そうしてるうちに、なんだか、頭がぼーってしてきて・・・
 いつの間にか、村雨さんがちょっぴり離れてて、僕を上から見下ろしてて、でも僕は頭の中真っ白で、ぼんやりと村雨さんの顔を見てたら、
 「くっそー、用意しとくんだったぜ・・初めてで何の用意も無しでやっちまうのもなぁ・・・アンタを痛い目に遭わせたかぁねぇし・・・」
 よく、わかんない・・。
 でも、村雨さんは、すごく悔しそうだった。
 しばらくぶつぶつ言ってから、村雨さんは不意に笑って、
 「まあ、次までに用意しとくか。時間はたっぷりあるよな?」
 って・・・んと・・・やっぱりよくわかんなかった。
 でも、村雨さんが、「全部、俺に任せときゃいいんだよ」って言ってくれたから、よくわかんないけど、村雨さんの言うとおりにしてたら良いのかなって・・。


 ・・・・・・・はっ!
 つい回想してしまった〜!
 目の前にともちゃんさんがいらっしゃるのに〜〜〜!!
 そのともちゃんさんは、やっぱりにんまりと笑ってた。
 「ふっふーん♪あんた、次、しーちゃんに会ったら、何が起こるか分かってんの?」
 ほえ?
 な、何か起こるんでしょうか?
 や、やっぱり、何か僕も用意しなきゃいけないものがあるとか・・・
 「あのね。アタシとしても、すっ・・・・・・
 ・・・・・・す?
 ともちゃんさんは、顔を下に俯けて、息を止めてるみたいだ。
 どどどどどうしたのかな?何か、発作でも・・・!
 「・・・・・っっごく!!教えてあげたいんだけど!」
 うわ!びっくりした!!
 つ、続いてたのか・・・。
 「やっぱりね?こういうことは、しーちゃんが教えたいと思うのよ〜。ま、アタシとしても、しーちゃんに嫌われたくないし?頑張んなさいね♪」
 な、何を頑張れば良いんでしょう・・。
 村雨さんに会ったら、何が起こるんでしょう・・。
 村雨さんに教えて貰うにも、会わないと出来ないし・・うーん・・・。

 あ、ともちゃんさん、いなくなってる。
 ほえ〜。僕、そんなに長い間、考え込んでたかなぁ・・・。
 気を付けないと、また、道路に立ったまま夜になっちゃう・・・。

 んと・・考えてもわかんないし、とりあえず、村雨さんに会ってみよう。
 あ、その前に、ちょっぴりお姿を拝見するだけでも。
 うん、そうしようっと。前、良い場所見つけたから、あそこからこっそり覗いてみようっと。


 うん、今日もうまく誰にも見つからずにここまで来られたぞっと。
 うーん、実は、僕はやっぱり、やれば出来る人だったのかもしれない・・。
 それとも、村雨さんの運が僕にも付いて来たとか?えへへ〜、やっぱり一緒にいると、運も僕に流れてくるのかな?
 そのためじゃないけど、もっともっと村雨さんと一緒にいたいなぁ・・。

 んと〜んと〜・・・あ、いた!
 村雨さんだ〜・・相変わらず、格好良い・・・・・・
 ・・・・あれ?
 あれあれ?
 何だか・・・違う。
 ど、どうしよう・・・ま、前なら、村雨さん見たら、ほわーって暖かくなるのに、なんか・・・胸がきゅーって痛い・・。
 し、心臓が、すっごいドキドキしてる・・壊れそうなくらい、おっきく動いてる。
 あ、頭の中は、かーって熱くなって、真っ白で真っ赤で、なんだか、もう、何も考えられないや・・。
 ほえ・・どうしよう・・・。
 息が・・・苦しい・・・・・・。

 「・・・先生?」
 うにゃ〜〜!!
 いつの間にか、村雨さんがこっちに〜〜!!
 「そんなとこで、何やってんだ?こっちに来な」
 こっちに・・こっちにって・・村雨さんの前にですか!?
 あわわわわわわわわわわわ・・・・・
 村雨さんは、すたすた歩いてきて・・僕の腕を掴んだ。
 「ほら、そんな狭っ苦しいとこにいるんじゃねぇよ」
 熱い・・熱いよぉ・・・腕がじんじん熱いし・・顔も熱い・・・・。
 
 「俺に会いに来てくれたのかい?」
 どうにか、目を上げて、村雨さんの顔を見ると・・笑ってくれてるようだけど・・・駄目だ、目まで合わせる自信がない・・。
 かといって、目のとこまで行かないと、視線が唇に・・・あう・・・乾いてるようだけど、温かい唇・・・

 あの唇が、僕に、キスをした。

 にゃにゃにゃにゃにゃ〜〜〜!!!!
 うにゃにゃ!!うにゃにゃにゃ〜〜!
 にゃ〜にゃにゃにゃ〜にゃにゃ〜〜〜!!

 にゃ・・・
 心臓が・・・ばくばく言ってる・・・。
 駄目だ・・やっぱり、もう、これ以上、顔を上げられない・・・。
 
 村雨さんが、好き。

 違うよ、全然、違う・・・。
 だって、これが『好き』なら、今まで感じてた『村雨さんと一緒にいられると嬉しい』ってほんわかした気分のあれは『好き』じゃなかったってことで・・・。
 あ、あれが『好き』なら、今のこれは『好き』じゃないってことで・・・
 ああああああああああ!!もう、わかんない〜〜!!
 
 「先生?」
 村雨さんの指は、そーっと僕の頬を撫でただけなのに。
 僕にとっては、まるで電流でも流されたみたいな感じがして。
 咄嗟に、村雨さんの手を払いのけてた。
 本当は、謝らなくちゃいけないんだろうけど、うまく言葉が出ない。
 どうしよう・・もう、何も考えられない・・・
 でも、これ以上、ここにいたら、もっと何も考えられないから、とにかく、村雨さんのいないとこに行かなくちゃ。
 村雨さんは、何か言いかけたみたいだけど、全然何言われてるか、わかんなかった。
 とにかく、その場から離れるのに必死で。

 多分、僕は、全力疾走したんだと思う。
 無駄に体力は結構あるんだ、僕。
 頭が足りないけど。
 それでも、ちゃんと自分の部屋に帰り着いてる自分を、誉めてやりたい。

 温かい紅茶を入れて。
 床にうずくまって。
 僕は、一所懸命考える。
 
 僕は、村雨さんが、好き。

 ・・そうなのかな?
 というか、『好き』って、どういうことだろう?
 えと・・えと・・・最初は、村雨さんに触りたくなったんだよね・・・で、キスしたいってことは『好き』ってことだろうって思い込んでたけど・・・。
 だって、『好き』って、幸せな気分になることだと思うし・・村雨さんと一緒にいると幸せだと思ったし・・村雨さんに『好き』って言われて、どうしたらいいのかわかんないくらい嬉しかったし・・・。
 でも。
 今日は、村雨さんに会っても、『幸せ』じゃなかった。勿論、『不快』じゃないけど。
 だけど、心臓がばくばく言って、頭がどくどく血が流れる音がして、舌がもつれて言葉が出ないし、手も足も震える感じで・・・。
 な、何だろう、これって・・・。
 んと・・・不良に絡まれた時にも、そんな風になることはあるけど・・・村雨さんに恐怖を感じてるわけじゃないし・・何かちょっと違う感じだし・・・。
 どうしよう・・・『好き』って、どういうことだろう・・・。
 えと・・・例えば、『おとうさん、おかあさんが好き』。これは分かる。ほんわかする。
 『美里さんや蓬莱寺くんが好き』。んと・・・うん、これもほんわかする。
 『村雨さんが好き』・・・・
 ・・・・・・・うにゅうぅ・・・・・・・・・
 む、胸が痛い・・・心臓も痛いし、呼吸も痛いよぉ・・・・。
 どうしよう・・・・

 ぴりりりりりぴりりりりり

 び、びっくりした〜!
 携帯電話の音だ・・・。まだ慣れてないから、すっごくびっくりする・・・。
 えと・・・このボタンを押して・・っと。

 『先生』
 
 うにゃにゃにゃにゃ〜〜〜〜!!
 
 『さっきは、どうした?何か、あったのか?』

 あわわわあわわあわわわわ・・・
 で、でも、これって、僕が考えなくちゃいけないことだし・・・・
 あ、駄目・・・頭の中、真っ白・・・・・

 「ごごごごごごごめんなさい・・・・!」
 『・・・何が?』
 
 村雨さんの声は優しいのに・・・なのに僕は安心するどころか、ドキドキして、目も開けられない。

 「あのあのあのあのぼぼぼぼぼ僕僕僕僕・・・・ち、違ったんです・・・!」

 村雨さんは、待っててくれるけど・・・とにかく、僕は、何とか分かって貰って、切ってしまわないと・・!ってそれで精一杯で。

 「村雨さんのことが『好き』だと思ってたけど、何か違うんです!『好き』じゃない気がするんです!あのあのだからだから、もう少し、時間を下さい!僕、考えないと・・・・!」

 

 気づいたら、携帯は切れていた。
 ほにゃ〜・・・何言ったか、さっぱり覚えてないや・・・・
 村雨さんに、うまく伝わったかなぁ・・・。
 待っててくれるかなぁ・・・村雨さん、いつも僕がわたわたしてても見守ってくれるけど、今度も、待っててくれるかなぁ・・・。
 僕は、一所懸命、考えなきゃ・・・『好き』ってどういうことなのか・・・・。

 どうしよう・・・これって、どういう感情なんだろう・・・・
 思い浮かべただけでも苦しいなんて、こんなの「好き」じゃないと思うけど・・・だけど、「恐怖」や「嫌悪」じゃないのは確かだし・・・。


 ・・・・・・・・村雨さん・・・・・・・


         ・・・・・苦しいよぉ・・・・・・






あとがき
えーと、まあ、その、なんだ。
次回が『拉致監禁』にならないことを祈ってて下さい・・。


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