むかーし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
 おじいさんとおばあさんは、大変に仲が良かったのですが、残念なことに子供はいないのでした。
 それでも二人は仲良く暮らしておりました。

 さて、ある日のこと、いつものように、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
 「うむ、行って来る」
 「うふふ・・・私は、この寒い中、冷たい水で洗濯をするのね」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・あら、どうしたの?醍醐くん」

 「ナレーター!!」
 いや、ナレーターに話しかけられても・・・。
 「醍醐雄矢、一世一代の頼みだ!配役を・・配役を替えてくれ!!」
 いやあ・・・でも、美里に合う役がなくってさぁ・・・
 「頼む!この通りだ!!」
 ・・・しょうがないか。


桃太郎



  さて、ある日のこと、いつものように、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
 「うむ、行って来る」
 「いってらっしゃい!ボクも、川に洗濯に行ってくるね!」
 「・・・・・・(じーん)」
 「どうかした?醍醐くん」
 「い、いや、何でもないんだ、桜井。さあ、俺も行くとするか」
 結婚してウン十年。
 未だ名字で呼び合い、手を握るのがせいぜいという清らかな夫婦には、子供がいませんでした。
 当たり前か。
 
 そうして、川へ洗濯に行ったおばあさんは、
 「だーいごくんの着物はおっきい、おっきいおっきい醍醐くん♪」
 と鼻歌を歌いながら、せっせと着物を洗います。
 すると、川の上流から、大きな桃が、どんぶらこっこ、どんぶらこっこと流れて来ました。
 「おっっっっき〜い!すっごいな〜、あんな桃、初めて見たよ!アレ持って帰ったら、醍醐くん、びっくりするだろうな〜」
 おばあさんは、桃を引き寄せようとしましたが、あいにく川の真ん中辺を流れてきていて、とれそうにありません。
 「えーと、どうしようかなぁ・・・んー、この醍醐くんのふんどしを矢に結びつけて、と」
 「奥義!九龍烈火!!」

 桃の中身:(死ぬぞ〜!それは〜〜!!)

 「・・は、桃が砕けちゃうから、普通に、速射!!」

 桃の中身:(・・・あっぶね〜!それでも、マジ、当たるところだったぞ!この中狭くて逃げられねーんだから!!)

 おばあさんの矢は見事に桃に突き刺さり、ふんどしをたぐり寄せて、おばあさんは桃をゲットする事に成功したのでした。


 「ただいま」
 「あ〜!醍醐くん、お帰りなさい!」
 「・・・・・・(じーん)・・・・・・」
 いちいち幸せを噛み締めているおじいさんでした。
 「あのねー、醍醐くん、今日は、お土産があるんだ!」
 「そうか、それは楽しみだな」
 「ほら!見てみて!美味しそうな桃でしょ!」
 「(君の方が美味しそうだ・・とか言えたなら、俺たちは真の意味で夫婦になれていたのだろうか・・・)」
 ちょっぴり遠い目をするおじいさんにはかまわず、おばあさんは菜切り包丁を振り上げました。
 「はっ!!」
 「真剣、白羽取り〜〜!」
 すぱーんと割れた桃の中心で、素っ裸の少年が、包丁を防いでいました。
 「危ないだろうが!中身を確認してから切れ!確認してから!」
 どこの世界に、桃の中身を確認してから切ろうとする人がいるでしょうか。
 というか、中身を知るために切るような気も。
 「やかましい!とにかく、着物を寄越せ!!」
 「あ、あぁ」
 呆然と巻き込まれつつも、おじいさんは着物を差し出すのでした。


 そんなわけで。
 桃から生まれた少年を桃太郎と名付けて、おじいさんとおばあさんは大変可愛がりました。
 桃太郎はすくすくと大きくなり、食べる量も多かったのですが、何故か桃太郎が来てからと言うもの、二人の畑は異常に豊作で、3人が食べても余るくらいのお米や野菜が取れたのです。

 そんなある日。
 いつものようにドンブリ飯をかっ食らった後、桃太郎はさらっと言いました。
 「あ、俺、そろそろ鬼退治に行って来るから」
 おじいさんもおばあさんも、そんな恐ろしいことはするものじゃない、このまま幸せに暮らそう!と説得するのですが、桃太郎は聞き入れません。
 「いや、桃太郎と生まれたからには、鬼退治の一つや二つ、やらないとな。・・・九角あたりが出てきそうで、ちょっと楽しみだったりするし」
 柳生という可能性もあるが。
 
 そして、おばあさんが作ったきびだんごを腰に下げて、桃太郎は出発するのでした。
 ちなみに、武器・鎧は無しです。
 「俺は、無手で十分!」
 見かけは、桃太郎と言うより、ただの浮浪者みたいですが。
 
 桃太郎がすたすたと歩いていると、道の脇ががさがさと鳴り、目の前に、一匹の赤毛猿が現れました。
 「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰に付けたきびだんご、一つ、俺にくれないか?」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・な、何だよ?」
 「・・・もうちょっと、ひねれ」
 「ひ、ひねれ?えーと、えーと・・・きびだんご、くれなきゃお前を取って食う!・・とか」
 「そうじゃなくて」
 はーっと桃太郎は、額に手を当てて、深い溜息を吐きました。
 「猿→赤毛猿→京一・・・なんてーかこう、全く予想の通りというか」
 「悪かったな・・・」
 「『壬生の小猿』って別名もあるから、紅葉が出てくる可能性もあったんだが・・・ま、紅葉に猿は似合わないよな、猿は」
 「俺なら似合うんかい」
 ぶつぶつとこぼしながら、赤毛猿は桃太郎に付いて行くのでした。

 「さて、そうなると、残りが気になるところではあるが」
 「犬と、雉、だよな。まさか、犬神が出てくるわけねぇしな」
 「雉は何となく小蒔っぽい気もしたんだが、すでにおばあさん役で出てきたからな〜」
 二人がのんびりと話しながら歩いていると、道端からイノシシが突進してきました。
 「・・・イノシシ?」
 「桃太郎にゃ、関係ねぇんじゃねぇ?」
 「あ、晩御飯かも」
 構える桃太郎と赤毛猿の目の前までイノシシが迫ったとき。
 遙か上空から、矢のように降ってきた何かが、イノシシの首筋に突き刺さりました。
 「・・・・・・うわお」
 どぅ、と重い地響きを立てて倒れるイノシシの首筋から、すたっと降り立った影が、爽やかな声で挨拶しました。
 「やぁ、龍麻。大丈夫かい?」
 血塗れの足の爪をきらりと煌めかせて、にっこりと雉は笑います。
 「・・・雉って・・・猛禽類だっけ?」
 赤毛猿がこっそり呟くように、イノシシの首筋をまさしく鷲掴みにした足は、蹴爪としか言い様のない鋭いものでした。
 「てーかよぉ、猛禽類でも、くちばしが武器じゃねぇの?何で蹴り技なんだよ」
 「いや、ほら、ロック鳥がシンドバットを鷲掴みにして連れて行ったのも足だったし」
 「・・・日本昔話でシンドバットはねぇだろ、ひー・・もとい桃太郎さん」
 こそこそ呟く二人を、雉は微笑みながら眺めています。
 「で、連れて行ってくれるのかな?」
 「ひー・・桃太郎さん、駄目だっつってみ?絶対、付いて来るからよ」
 「俺もそう思う」
 「さ、行こうか、龍・・桃太郎」
 ちゃっちゃっちゃっちゃと爪をカチカチ鳴らしながら、雉は桃太郎に付いて行くのでした。

 「さー、こうなると、犬が実に気になる」
 「村雨じゃねぇの?犬っぽいって言ってたし」
 「前は猫で今回犬か・・・色々となる奴だな〜・・・いや、できれば、連続で獣×は勘弁して欲しいんだが」
 「・・・は?」
 「いや、こっちの話だ」
 「如月さんも出て来そうなんですが・・・」
 「亀はな〜」
 「亀だもんな〜、浦島太郎なら絶対なんだけどよ〜」
 和やかに3人が歩いていると。
 道の真ん中にある物体は。
 「・・・亀だな」
 「亀だね」
 「俺以上にひねりがねぇ・・・」
 そう、でっかい海亀が、甲羅干しをしているのでした。
 「さぁ、犬はどこかな〜」
 わざとらしい呟きを漏らしつつ、桃太郎は足早にその脇を通り抜けようとしました。
 すると。
 突然、亀が甲羅から首を伸ばしました。

 「と呼んでくれ」
 「・・・・・・・・・・・」←桃太郎
 「・・・・・・・・・・・」←赤毛猿
 「・・・・・・・・・・・」←雉
 「桃太郎さま、貴方様の犬と呼んで下されば、これ以上の栄誉は御座いません」
 「ぎゃ〜〜〜!!!」
 桃太郎は、亀が足に顔を擦り付けたのを蹴り上げて、わきゃわきゃと隣の赤毛猿の肩によじ登りました。
 「も、もっと蹴ってくれ!」
 「うぎゃあああああっ!」
 猿の頭にまで登って、しっしっと払います。
 「ひーちゃん・・・女王様なくせに、真性マゾは苦手だったんだな・・・」
 「気持ち悪い〜〜!!」
 「犬と呼んで下されば、足でも舐めてみせる!」
 「い〜〜〜や〜〜〜〜〜!!」
 赤毛猿の頭の上で、毛を逆立ててぎゃーぎゃーと鳴く桃太郎の肩を、雉がぽんと叩きました。
 「まあ、そう言わずに、連れていってあげよう、桃太郎。他に犬を探すのも面倒だし」
 犬が村雨だとややこしいし。
 本音は言わない雉でした。
 「それに、ほら。鬼ヶ島に渡るのに、便利かもしれないよ?」
 「いくらでも乗ってくれ!踏んでくれ!!」
 「うぎゃああ〜〜!」
 「ほら、この亀は君に近づかないように僕が守ってあげるから」
 「う〜〜〜〜」
 半分涙目で見上げる桃太郎に、雉はふらふらと近寄って、ぎゅっと抱き締めるのでした。
 「あぁっ!村雨さんがいないと、こんなにいい感じになるとは!神様、ありがとう!」
 
 その頃の??:「壬生・・後でコロス」
  
 こうして、3つの僕(しもべ)を手に入れた桃太郎は、一路鬼ヶ島へと急ぐのでした。

 「あ、ところで『小蒔のきびだんご』は、行動力回復20だから、鬼と戦うまで取っておくよーに」
 「・・・俺、もう食っちゃったよ・・・」
 「なに〜!馬鹿者!秘拳・黄龍〜!」
 「うおおおおおお!!」
 
 急ぐのでした!

 結局、亀に乗るのは、桃太郎が必死の形相で拒否したため、赤毛猿が亀に乗り、桃太郎は雉の背中に乗って、鬼ヶ島に着きました。
 「ごめん、紅葉・・じゃなかった雉。重かったか?」
 「いや、全然?君の重さなんて、僕には感じられないよ」
 「紅葉・・・」
 「君のお尻の感触さえ味わえれば、僕はいつだって天まででも上っていける!」
 何となく、別の意味が感じられる言い回しでした。
 「くそー、俺なんか溺れかけたぜ、何度も・・・」
 「ふん、猿如きに気を使いながら泳ぐほど動物愛護精神に恵まれていないんでね」
 「桃太郎、踏んでやれよ」
 「ほれ」(げしっ!)
 「あぁっ!僕は幸せだよ、桃太郎!」
 「・・・・・・やなキャラクターだな〜・・・・・・」

 賑やかな一行が砂浜から奥へと進んでいくと。
 突如開けた場所行き着いたかと思うと、腰巻き一枚の美人の姉ちゃんたちが、駆け寄ってきました。
 「きゃあん!久しぶりのお客様〜!」
 「はーい、四名様ご案内〜!」
 きらきらとロウソクが光り輝くお店が何件も並んでいます。
 薄衣を羽織った綺麗ねぇちゃんたちの客引きに負けて、桃太郎ご一行は一件の店に入りました。
 「ねぇん、こちら、なんてお名前?」
 「あぁん、この子可愛い〜!」
 「お酒頼んでもいいかしらぁ」
 怒濤の攻撃に巻き込まれているのは猿一匹です。
 桃太郎はおねぇちゃんの胸に顔を埋めつつも、目は妙に冷静だし、亀はそもそも興味がないようだし、雉もこんな店には慣れているようでした。
 「ところで、鬼ヶ島がこんなところとは思わなかったんだが」
 桃太郎が聞き込みを始めました。
 「うふvvそうよぉ?昔はもっと寂れたところだったんだけどぉ」
 「帝王様がいらっしゃってから、住み易くなったわぁ」
 「あたしたち、元はさらわれて来たんだけどぉ、帝王様の寵愛を受けられるなら、一生このままもいいかなぁっ!なんてvvv」
 「あぁん、ずるい〜!あたしも帝王様と一夜を共にしたぁい!」
 きゃあきゃあと騒ぐおねぇちゃんと裏腹に、桃太郎の周囲にどす黒い氣が立ちこめていきました。
 「帝王・・・鬼ヶ島の夜の帝王・・・ふ・・・ふふふ・・・・」
 桃太郎の手が、わきわきと動きます。
 まるで引っ掻いてやろうと言わんばかりに爪がしゃきーん!と伸びたりして。
 「あっ、でもね?最近、あの女が来てから、帝王様あんまり遊んでくれなくなって、つまんないのぉ」
 「いやぁよねぇ、あんな女、ちょっと綺麗だからって、どこがいいのかしら」
 「最近じゃ、手下たちを手なづけてるって話よぉ。帝王様に逆らうつもりじゃないのかしら」
 「あぁん、帝王さまぁ」
 桃太郎たちは、目を見交わします。
 どうやら鬼の頭領が『帝王様』で、最近その傍らの『女』が手下を手なづけているらしい・・・となれば、内部分裂させてその隙にどちらも壊滅させる、というのがよさそうです。
 「いや、楽しかった。また来るよ」
 「猿、そこで埋もれてないで、来たまえ」
 腰を上げた3人の前に、にっこり微笑んだ綺麗ねぇちゃんがお盆を差し出しました。
 「全部で50両になりまぁすvv」
 ぼったくりもいいところです。
 桃太郎は、赤毛猿の首根っこを掴んで引きずりつつ、にっこりと笑いました。
 「亀」
 「ふむ、こんなこともあろうかと、用意していたものが役に立ったな」
 ちんぺらびょん
 亀は甲羅から対複数睡眠攻撃の琵琶を取り出し、短い前足でかき鳴らしました。
 すると、おねぇちゃんたちは、次々に倒れてしまうのでした。
 「ま、一般人だしな」
 
 次から次へと襲い来るおねぇちゃんたちの客引きをかわしつつ、どんどんと中心地に向かいます。
 そうして、辿り着いたのは、でーんと豪華な屋敷でした。
 中からは、これまで通ってきた店以上に賑やかな声が聞こえてきます。
 「殲滅するぞ」
 「え?ちょ、ちょっと待って、桃太郎。ああいう情報を仕入れた以上、その『女』とやらに接触してみて・・」
 「殲滅する。完膚無きまで叩きつぶす」
 ふっふっふ・・・と手をわきわきさせて桃太郎は低く笑います。
 どうやら、『鬼ヶ島の夜の帝王』が気に入らなかったようです。
 「だいたい、誰だよ、その女。まさか薫ちゃんか?それとも俺の知らないお色気おねぇちゃんか?」
 背中にどす黒い氣を背負いながら、桃太郎は、堂々と正面扉に向かいました。
 「開けろ」
 「あぁ!?誰だ、てめぇ!!」
 「お前らのお頭に、『桃太郎が訪ねてきた』と伝えるが良い!!・・・秘拳・黄龍!!」
 「・・・桃太郎・・・行動不能にさせたら、伝えることも出来ないよ・・・」
 「なぁ・・・ここは止めるべきか?」
 「死ぬ気でやってみたらどうだ?蓬・・猿」
 もはや桃太郎を止める者は誰もいません。
 黄色い龍を吹き荒らしながら、桃太郎は足音も高く、ずかずかと屋敷の中を進みます。
 
 「ここか!?」
 一段と豪華な扉をばたんっと開けると、中にいた男たちがびっくりしたように桃太郎たちを見ました。
 桃太郎を中心に油断無く展開する3人の耳に、傲然とした女の声が聞こえました。
 「何事なの!?私のくつろぎの邪魔をするなんて・・・お前たち!やっておしまい!!」
 「ま・・・まさか、この声は・・・」
 赤毛猿が慄然と背を震わせている間に、下っ端な男たちは、手に手に持ったちゃちな刃物で、桃太郎たちに迫ってきました。
 「桃から生まれた桃太郎!推参!!」(推参:呼ばれもしないのに、押し掛けること)
 凛と名乗りを上げ、桃太郎が構えたとき。
 「え?も、桃太郎?あら・・・」
 女の狼狽えたような声が聞こえ、豪奢な紗から女が覗きました。
 かと思うと、羽織った絹を押さえつつ、するするとシタッパーズの間を擦り抜けて桃太郎の前まで来て。
 いきなり床に足を折りました。
 「あぁ・・桃太郎・・・私は、この島にさらわれてきた姫です・・・助けに来てくれたのね・・・」
 豊かな黒髪、白い肌、意外と豊満な胸・・・美人と言えば確かに美人な姫でした。
 「あ、姐さんっ!そりゃ、ねぇっすよ!!」
 「・・・ちっ・・・」
 姫に膝辺りにしがみつかれつつ、桃太郎の視界の端で、紅い光が煌めいたかと思うと、シタッパーズたちは跡形もなく消し飛んでいました。
 「容赦ないな〜・・・」
 呟く桃太郎を潤んだ瞳で見上げつつ、姫はかき口説きます。
 「桃太郎・・・私と貴方は遠い昔から結ばれる運命・・・ねぇ、桃太郎、このまま逃げましょう」
 「いや、俺は、鬼退治に来たから」
 「まあ・・・そうね、後の憂いは絶っておいた方がいいわね。いいわ、案内してあげる。それから、宝物庫にも寄って行きましょうね」
 「そ、そう・・・」
 「桃太郎、信用してもいいのかい?」
 雉がこっそりと囁きますが、桃太郎は深い溜息を吐くばかりです。
 「まー、しょうがないんじゃないか?」
 「てーか、敵対したくねぇな、俺」
 「だよなー、まさかこんな役柄で出てくるとは思ってもみなかったよなー」
 幾分よろよろとした足取りで姫に付いていく桃太郎と猿でした。

 
 姫の案内で奥まったところにある部屋に辿り着いた桃太郎一行。
 重い扉を叩き破る勢いで、桃太郎は部屋に殴り込みました。
 「おい!帝王とやら!どこにいる!!」
 中にいたシタッパーズたちが色めき立ちます。
 そんな中。
 一段と高いところに、寝椅子があり。
 そこで寝そべっていた男が、うざったそうに目を上げました。
 「なんだ?うるせぇなぁ」
 足下に蹲った半裸の女性が一人、頭の方で飲み物を持っている女性が一人、帝王の手の爪をヤスリで研いでいる女性が一人・・。
 「ふ・・・ふっふっふっふっふっふっふっふ・・・・
 桃太郎の背中に、黄色い龍が現れました。
 「いーいご身分じゃないか・・・帝王とやら・・・」
 「なんだい?アンタ。・・あぁ、美里の姐さんが引き込んだのか」
 面倒くさそうに起き上がる帝王の白いガウンがぱらりとはだけ、中の逞しい胸板が見えました。
 ・・・ついでに、そこに散らばる派手派手しいキスマークも。
 「桃から産まれた桃太郎の名において!成敗する!!」
 「あぁ、はいはい。さっ、姐さんたちは、危ねぇから下がってな」
 「はぁい、帝王さまぁ」
 「負けちゃあ、いやぁよぉ?」
 腰を悩ましくくねらせながら、半裸の女性達が別室に下がったのを確認して、鬼の頭領は立ち上がり、懐から花札を取り出しました。
 「お前達」
 桃太郎の低い地を這う声音に、赤毛猿たちは震え上がりました。
 「はい〜!?」
 「お前達は、下っ端どもを片づけろ。俺は、アイツを殺る。殺るったら、殺る!」
 急激にテンションの上がった桃太郎に、赤毛猿は拒否も出来ずに、こくこくと頷きました。
 
 「いざ!秘拳・黄龍〜〜!!!!

 
 「・・・ひーちゃん・・・下っ端も飛んでいってしまいました・・・」


 てかんじで。
 あっさりと鬼退治は終了してしまいました。

 ぼろくずのように倒れ伏す鬼の頭領に、崩れた壁の向こうからおねぇちゃんたちが駆け寄ります。
 「いやぁん、帝王様ぁ」
 「しっかりしてぇ」
 それを睨み付けていた桃太郎が、不意にきびすを返しました。
 「帰るぞ」
 「いいのかい?まだ生きてるようだけど」
 「帰る!」
 
 ぷんぷんと頬を膨らませて、桃太郎は足早にそこを立ち去りました。
 途中、見かけるおねぇちゃんたちに、「もう自由の身だよ」と伝えても、帰りたいという者は一人もいませんでした。
 どうやら、帝王はかなり慕われているようです。
 何だか虚しい気分になりながら、桃太郎たちは鬼ヶ島を後にするのでした。


 さて、いつの間にか美里姫が回収していた宝物を大八車に乗せてえっちらおっちら運びながら帰る途中。
 山の中で、桃太郎達は野宿をすることになりました。

 気を許していると姫の手が這い寄ってくるため、桃太郎は夜半過ぎに、溜息を吐きながら少しその場を離れました。
 崖っぷちに座り、足をぶらぶらさせつつ、大きな月を見上げます。
 「何やってんだろ、俺・・・」
 また一つ、大きな溜息を吐いたところで。
 「四光・夢幻殺」
 小さな声と共に、背後で仲間達が呻き声を漏らすのが聞こえました。
 きりりと引き締まった表情で、桃太郎が振り返ると。
 そこには、真っ白い包帯に身を包んだ鬼の頭領が立っていました。
 「おぉっと。ちっとばかし眠って貰っただけだ。傷一つ付けてねぇよ」
 おどけたように肩をすくめておいて、イテテ、と顔を顰めます。
 「・・・何しに来た」
 身体を開き、構えながら桃太郎は低く問いました。
 すると、帝王は、何でも無さそうにしれっと答えました。
 「なぁに、アンタを口説こうかと思ってね」
 「はぁ!?」
 ずいっと足を進める鬼に、桃太郎は思わず後ずさりしかけて、自分が崖っぷちにいたことに気付きます。
 ずりずりっと位置を変えようとしているうちにも、帝王はずかずかと近寄り、桃太郎の腰を抱きました。
 「ち、ちょっと待て」
 「アンタに惚れた」
 「いきなりか!」
 「俺ぁ、あんなとこでもそれなりに楽しんでたつもりだったが、何かが足りねぇような気がしてたんだよ。それで、あの美里の姐さんみてぇなのを側に置いてりゃ、ちっとはスリリングで楽しいかとも思ったんだが、それでも何だか物足りなくてねぇ。アンタとやり合ったとき、これだ!と思ったんだよ」
 「お、お前もマゾか!?そうなのか!?そうなんだな!」
 「こんな可愛い顔して、俺を叩きのめすたぁ驚きだ。その、気の強ぇとこもたまんねぇ」
 言い合っている間に、ぐいぐいと迫る鬼を避けようとしていた桃太郎は、すでに腰を中心に90度ばかり仰け反り、鬼はそれに覆い被さるように顔を寄せています。
 「なぁ・・・俺と一緒に来ねぇか?絶対、退屈だけはさせねぇぜ?」
 「いや、だから!お前は鬼で、俺はそれを退治する桃太郎なんだってば!」
 「あぁ、そりゃいいや。いつ寝首をかかれるかと思うとぞくぞくするね」
 「変態〜!」
 「ま、それをさせねぇように、俺無しででは生きてけないようにすんのも楽しいんだがな」
 「そっちが本音か〜!」
 それ以上顔を寄せられないように、掴んだ手の下で、白い包帯にじわりと血が滲みます。
 鬼はそれを気に止めた様子もなく、にやりと人の悪い(鬼だけど)笑みを浮かべました。
 「もし、アンタが来てくれなきゃ・・・俺ぁ、別の奴に退治されるかもなぁ」
 「・・・へ?」
 「アンタはこれから生まれ故郷に帰って、しあわせ〜に暮らすんだろ?で、俺ぁ別のとこで相変わらず鬼の頭領やってて、そのうち、別の勇者が俺を退治に来るんだ」
 「・・・・・・」
 「ま、んなこたぁ気にせず、アンタは幸せに暮らしな。のんびりと何事もなく幸せに」
 「・・・・・・う〜・・・・・・」
 鼻の頭に皺を寄せて悩む桃太郎の唇に、ちゅっと小さく音を立てて接吻を落とし、鬼は案外あっさりとその身体を離しました。
 「あばよ、桃太郎さんよ」
 闇の中に、白い包帯だけが浮かび上がり、それが徐々に小さくなっていきます。
 振り返りもせず着々と去っていく鬼を睨み付け、桃太郎は唸ります。
 彼我の距離、4尺・・6尺・・8尺・・・。
 「待て!」
 それでも振り返らない鬼に、駆け寄って。
 「お、思うに、鬼が悪さしないように、予防的処置を行うのも、桃太郎の仕事の様な気がする!」
 「ふぅん」
 にやりと笑う鬼の腕を掴んで、捻り挙げて。
 「だ、だから、一緒に付いていって、お前が悪いことをしないように、見張っててやる!」
 「そりゃそりゃ、たいがいご苦労なこった」
 「何を〜!偉そうに〜!」

 鬼と桃太郎の言い争いは、段々と小さくなっていきました。


 そして、姫と3匹のしもべが目覚めたときには、桃太郎の痕跡は全く無くなっておりました。
 「なんですって〜!あぁ、桃太郎・・どこへ行ってしまったの・・・」
 「・・・まぁな〜、このまま姫とくっつくようなひー・・桃太郎さんじゃないとは思ってたんだよな〜」
 「とりあえず・・この宝物は、おじいさんとおばあさんに届けようか」
 
 その後、姫と3匹は、桃太郎を捜して日本全国を駆け巡るのでした。
 「あぁ、桃太郎・・・どこにいるんだろうか・・・早く、君に『こののろまなカメめ!』と踏みつけられたい・・」
 「くどいようだが・・・やなキャラクターだな、お前・・・」


 めでたし、めでたし。



あとがき
何と言われても困るが・・桃太郎ですな。
何のひねりもなく桃太郎。でも、多分、鬼と二人で海外逃亡する桃太郎(笑)。
如月がイイ感じだ・・。


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