月刊メディカル 7月号
<気>で治療!?現代の奇跡か、はたまた・・・
桜ヶ丘病院 医師 緋勇龍麻氏
さまざまな民間療法が闊歩する医療界。その中でも異色な『<気>による治療』を行っている桜ヶ丘病院を取材しました。
記者「こんにちは、初めまして」
緋勇「初めまして。院長代行の緋勇龍麻です」
記者「代行、と仰いますと・・」
緋勇「院長は、現在、バチカンに招かれて某御方の治療をしており、
離れられませんので」
記者「そうですか・・」
緋勇「・・・余計、胡散臭い、と思ってるでしょう(笑)?」
記者「い、いえ、そんなことは・・・」
緋勇「別に隠さなくても良いですよ。そういう反応が普通だと思って
ますから」
記者「疑われていますか?」
緋勇「どんな治療をしようと、患者がよくなる最善の方法を尽くすの
が、医師の役目でしょう?たまたま、我々は、他の医師には
出来ない手段をとれる、というだけのことです」
記者「本日は、<気>による治療、というものの実体を教えて
いただきたいのですが・・」
緋勇「うーん・・実体、ですか?そうですね、まず、人は、肉体だけで
生きているわけではなく、中には<気>が流れているんです
よ。そこまでは、よろしいですか?」
記者「はい、まあ、何となく・・」
緋勇「大地や大気にも、<気>の流れ、というものは存在します。
それを、遮断、あるいは歪めると、どうなると思います?」
記者「えーと・・」
緋勇「川の流れと同じですよ。澱むと腐る、あるいは、堰き止められた
流れはいつか爆発します。人間の<気>の流れも同じです。
うまく陰陽のバランスを取りつつ、淀みなく流れてこそ、健康で
いられるのです。肉体が弱れば、ウィルスや細菌の侵入を許し、
病気になるでしょう?それと同じで、<気>も弱れば、様々な
障害が起こります。我々は、<気>が正常な流れになる手伝い
をし、ひどく<気>が衰弱していれば、それを増やす治療を
行います」
記者「具体的には、どのように?」
緋勇「弱り方のレベルによりますが、完全な結界に隔離して、我々
自身が<気>の注入を行ったり、特殊な調合をした薬草を与え
たりすることもありますし、軽度のものなら、自分で<気>を回す
指導をしますよ」
記者「自分で?」
緋勇「はい。慣れると簡単ですよ。・・・あぁ、自律神経訓練法、と
言えば、少しは信憑性が増しますか(笑)?」
記者「緋勇先生は、いつ頃から<気>の流れを操れるようになった
んでしょうか?」
緋勇「高校生ですね。この病院の存在を知ったのも、その頃です。
当時はまさか自分がここの医師になるとは思っていません
でしたが。・・<気>を読める人間は、意外と多いんですよ?
ただ、そう口にすると周囲に引かれるから、言わないだけで。
たとえば、舞園さやかのCD。これは、見るものが見れば、
聞いた人間の<気>が清浄に流れていくのがよく分かります。
見えなくても、さやかちゃんのCDに癒し効果があることは、
皆さん意見が一致していますけど」
記者「あぁ、それは有名ですね。・・では、高校生の時、ここを知って、
医師の道を目指した、ということですか?」
緋勇「本当は、異様に回復の早い自分の身体を研究するために、
医師を目指したんですけどね(笑)。誰かの実験動物になる
くらいなら、自分でやっちゃえ、と。
それで大学の5年生の時に、岩山医師よりお誘いがありまして、
卒業と同時にここに就職しました。岩山医師は、後継者に悩んで
おられましたしね」
記者「やはり<気>による治療は、難しい、ということですか?」
緋勇「難しい、というか・・センスの問題なんですが。自分の気を操る
のは、練習次第で割合多くの人が出来るようになりますけど、
他人の<気>を操るのは、コツが必要なんですよ」
記者「<気>による治療が有名なこの病院ですが、本当は、
産婦人科なんですよね?」
緋勇「はい。ごく普通に産婦人科の病院ですよ?ただちょっと<気>
による治療設備も整っている、というだけで」
記者「気になっていたんですが、<気>による治療は、保険で認め
られていませんよね?どのような支払い体系なんでしょう?」
緋勇「その治療によりますね。特殊な薬草を使った場合は、その分
高いですし、我々の<気>だけで治療できるものなら、まあ
いわば人件費だけで。・・・そう言ってしまうと、管轄外の患者が
増加しそうで、あまり言いたくないんですが」
記者「管轄外?」
緋勇「我々の治療は、<気>の異常による病態には効果的ですが、
それ以外に効くことはありません。ですから、末期ガンの方が
藁にも縋る思いで・・と、ここに来られても無駄です。ガン治療の
病院に行って頂きたい。無論、子宮ガンなどの婦人科疾患は、
我々の本来の標榜科ですが。
それに、『狐憑き』のような状態も、本当の狐憑きなら治せます
が、詐病なら無理です。精神科に行って頂きたい。
何にでも効果がある民間療法と一緒にされると困ります。
耳には耳の専門家である耳鼻科があるように、我々は<気>
の専門である、ということですから」
記者「先生の個人的なことをお伺いしてよろしいですか?」
緋勇「個人的なこと?」
記者「ご自分の気の安定のために行う趣味とか・・」
緋勇「えーと・・・北海道の牧場で、馬をぼーっと眺めるのなんか、
好きですよ。・・その、北海道は東京より大地の気が濃くて、
心地よいもので・・」
記者「(何故赤面されているのでしょう?)まだ独身でらっしゃるん
ですよね?」
緋勇「えぇ、まあ・・・。独身の男が産婦人科の医師をしていると、
何かと言われますけどね。そういう目で患者さんを見たことは
ありませんね。・・これ以上のプライベートについての質問は、
お断りします」
記者「失礼しました」
<気>による治療を行う桜ヶ丘病院。普通の治療ではよくならない特殊な病気を治療する病院であるが、意外にも、医師はその存在を世間に広められることは嫌がっているようだ。
すっきりしない気持ちで帰途についた記者だが、帰りの車中、同行したカメラマンが妙に機嫌がいいのを問いただしたところ、緋勇医師には口止めされているのだが、との前置きで白状した。
彼は二日酔いで仕事に来ていたのだが、なんと、緋勇医師が額に手を当て、何かを呟いただけですっきりと治った、と言うのだ。
そして彼はこうも言った。
「いやあ、こんなにすぐすっきりするなら、今度から二日酔いになっても、あそこに行けばOKですね!」
緋勇医師の「記事により病院の存在が有名になると、管轄外の患者が増えて困る」という懸念も、あながち杞憂ではなさそうだ。
<気>による治療は、本来、特殊な病態に適応されるものであるらしい。科学的治療ではどうにも改善の見込めない患者を紹介することは望ましいが、他の方法でも治る患者を安易に回すことは避けたい。
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