村雨、猫になる

マニュアル人間で行こう!3



 
 その日、極々普通に、村雨は龍麻のマンションにやってきた。
 龍麻も、極々普通に迎え入れ、ソファに座って、一息吐いたところで。
 村雨の額に、何やら札が貼り付けられた。
 「・・・・・・先生?」
 「えーと・・・」
 村雨の不審な目には応える様子もなく、龍麻は手の中の紙に目を落として、ぶつぶつと呟いている。
 「・・・でもって、こうして・・・」
 「先生・・・」
 「令!」
 びしぃっと額の札を指さして、龍麻は声高く叫んだ。
 
 数秒の沈黙の後。
 突如、村雨の周囲に白い煙がたちこめた。
 それを見て、龍麻は小さくガッツポーズをする。
 「よっし、今度こそ!」

 思えばマニュアルを読まないがために、術と名の付くものは尽く失敗してきた龍麻である。
 別に術士ではないのだから良いようなものだが、普通人(?)にとっては『術』というと何かこう超人的な憧れというか、知的なステータスというか、失敗すると思いっきり御門に馬鹿にされるとか、まあそういうものが相まって、意地のように術をかけることに飽く無く挑戦しているのだった。
 そのせいで、村雨に少々迷惑をかけたり、自分に多大な迷惑をかけたりもしているのだが、そのへんはとりあえず大きな棚にしまい込んでいるらしい。

 てなわけで。
 『お前の身体は俺のもの』的に、村雨本人には何の説明もなく術をかけたわけだが。
 まあ村雨も諦めた節があって(というか結構良い目に遭ったりしている感じも)、抵抗しなかった。
 そうして、そこに現れたのは。

 真っ白い、そして巨大なであった。

 「・・・あっれー、おかしいなぁ」
 「・・・ニャ、ニャ〜」(・・・何が、おかしいって?)
 龍麻は首を捻りながら、呟いた。
 「いやー、その人らしい動物になるって言うからさー、てっきり村雨は種馬になると思ったんだよなー」
 「ニャ」(おい)
 「そしたらさ、鞍も付けずに乗ってさ、町中を走ったら、かっこいいだろうなーと思ったんだけど」
 「ニャ〜ニャニャニャ〜」(馬に乗りたきゃ、今度、連れてってやるから・・)
 「いや、車が走ってる一般道路を走るのがかっこいいかなーって」
 「フギャギャニャ〜」(馬の蹄が割れるぞ。アスファルトの上は駄目だって)
 「あ、そうなの?」
 「ニャ」(そう)
 「ちぇ、つまんない」
 ぷーっと頬を膨らませて、龍麻はでっかい猫の髭を引っ張った。
 猫とはいえ、体長約1.8mの猫である。
 身体もでかけりゃ、顔もでかい。
 丸飲みされそうな口に、恐れもせず指を突っ込んで、いーっと両脇に拡げた。
 「うわー、牙だ、牙」
 楽しそうにむにむにと口を引っ張った後、急に龍麻は立ち上がった。
 ソファに蹲る村雨を床に降りるよう促し、素直に従った猫の背中に跨る。
 「ニャ」(おい)
 「いやー、もののけ姫ごっこ?」
 「ニャニャ〜・・」(ありゃあ、狼だろ・・)
 「な、な、これで、走れる?」
 「ニャ」(ご希望とあらば)
 背中の筋肉がうねり、龍麻は慌てて背中の毛を掴んだ。
 猫科の動物特有のしなやかな動きで村雨は四つ這いに立ち上がり、ゆっくりと歩き始める。
 「うわーっ、うわーっ!」
 村雨が交互に歩を踏み出す度に左右に振られ、龍麻は振り落とされないよう、ぎゅっと毛を握りしめる。
 次第に速度を上げ、いきなりジャンプしてソファを飛び越えた。
 「うっわ〜!」
 村雨の背中にしがみついて、首のあたりを掴んで、龍麻は悲鳴を上げる。
 テーブルを飛び越えたり、空中で一回転したりとアクロバティックな動きをする度に悲鳴を上げ、元のソファの前に戻ったときには、ぐてっと滑り落ちるように床に降りた。
 「む、向いてないみたいだ・・・俺・・・」
 「ごろごろごろ・・」(くっくっく)
 「笑うな!」
 ぽこ、と音を立てて村雨の頭を叩くと、思わず目を閉じた顔が、いかにも猫な細目になって、龍麻はけらけらと笑った。
 「ニャーニャニャ」(それはそうとして、アンタ、さっきから俺と会話してるよな?)
 「え?あ、うん。何となく、何言ってるか分かるし・・」
 「ニャ〜」(ふぅん・・・愛の成せる技ってか?)
 「愛〜?そんなわけあるか!」
 笑いながら、龍麻は村雨の手(前足?)を取り、ぷにぷにと押さえた。
 「にくきゅー、にくきゅー」
 そして、それをじーっと見つめて。
 「なー、村雨、棘、出せる?」
 「ニャー」(棘じゃねぇだろ。爪って言えよ)
 突っ込みつつ、爪を出す。
 体格が体格なだけに、爪と言っても立派な凶器くらいの鋭さと大きさがあった。
 「猫じゃないくせに、分かるんだなー、爪の出し方」
 感心したように言う龍麻の頬を、何かが撫でた。
 くすぐったさに身を竦めて、それを見ると、立派な尻尾がふりふりされていた。
 「そっかー、尻尾の動かし方も分かるのかー」
 しみじみ感心している間に。
 頬を撫でていた尻尾が、するりと襟元から潜り込んだ。
 「うわ!馬鹿っ!くすぐった・・・あ・・・」
 怒って尻尾を掴んだ手から、ふにゃっと力が抜けた。
 「あ・・・ば、かぁ・・・」
 床にぺたりと座って、イヤイヤと首を振っているのには構わず、尻尾は龍麻の胸を這い回る。
 指で刺激されるのとはまた別の感覚に、龍麻は抵抗する力も失って顔を真っ赤にさせた。
 「ニャ〜」(相変わらず、胸、弱いねぇ)
 「うるさ・・」
 睨み付ける瞳は潤んで、かすかに哀願の色も混じっている。
 「やめろ、よぉ・・・マジ、俺、くすぐった・・・」
 首を振りつつ、耐えきれないように漏らす吐息は、あぁん、と何とも艶めかしいもので。
 村雨の頭のどこかで、自分が猫なのも気にせず、当然のようにGOスイッチが入った。
 尻尾はそのまま胸をなぶりつつ、舌でべろりとシャツの上から舐め上げた。
 「やぁん!」
 獣の粘い唾液をたっぷりと乗せて、小さなしこりを執拗に刺激する。
 すぐにシャツは肌に張り付いて、うっすらと赤い飾りが透けて見えた。
 「村雨・・・痛いってばぁ・・・」
 いつもよりもざらざらとした舌に擦られ、敏感なそこが痛みすら感じるらしい。
 「ウニャ〜」(好きだろ?そういうのも)
 ついでにべろりと頬を舐めると、その感触に龍麻は顔をしかめた。
 「もー・・マジ、ざらざら・・・」
 「ニャニャー」(そりゃまあ猫だからな)
 ついでに一層猫らしいところを見せようと、爪を出して、龍麻の肩に前足を乗せた。
 ちくりと刺される小さな痛みに、不安そうにそこを見やると。
 村雨は、そのまま手を下ろした。
 ビリッ!ビリビリッ!
 力を込めるまでもなく簡単にシャツが裂ける。
 「ちょっ・・・何を・・・」
 身を捩ると、掠めた爪が肌にも幾条もの赤い線を描く。
 「ニャー」(動くなよ)
 勝手なことをほざきつつ、村雨は背中にも前足を回し、びりびりに破った。
 「ちょ・・ちょっと待てってばぁ・・・」
 すでにシャツの形状を為していない布きれが、座り込んだ周囲にぱらぱらと落ちていく。
 座り込んで村雨を見つめる頼りない視線、引き裂かれたシャツ、肌に滲む血・・・。
 「フギャ〜〜」(いやぁ、そそるねぇ〜)
 「・・・どーゆー趣味だ・・・」
 「ニャー」(安心してくれ)
 「何が」
 「ウニャ〜ニャ」(傷は、責任持って舐めてやるから)
 「いらんわーー!!」
 ぽかぽかと村雨の頭を殴るが、力の抜けた手では全くダメージを与えられない。
 それどころか、いつもの村雨の数倍はあろうかという体重でのしかかられて、じたばたしつつも押し倒されて。
 「村雨〜!重い〜!」
 怒って見上げた先には、細く縦に裂けたような猫科の瞳。
 言葉通りにケモノな目には、間違えようもないケダモノな光が煌々と宿っていて。
 この期に及んで、ようやく龍麻は、村雨が思いっきり本気なのを悟った。
 「ま、まさか・・ちょ・・・待て・・・だって、おまえ、今、猫・・・」
 知らず知らず怯えた表情になる龍麻に、村雨は喉の奥でごろごろとくぐもった笑い声を立てた。
 「ニャ〜」(なぁ、龍麻)
 「な、何?」
 「フギャ〜ギャ〜ニャ」(アンタ、いつも俺のことケダモノつってるよなぁ)
 「だ、だって、マジ、お前ケダモノだもん・・・」
 「ニャオン」(なら、いつもと変わりねぇじゃねぇか)
 「変わるわーー!」
 全力で突っ込んでも、身体の上の男が気にする気配は欠片も無い。
 「ニャーニャオニャ」(いやあ、こんな機会滅多とないからねぇ。楽しませてもらうぜ)
 「いーーやーーー!」
 じたばたじたばた。
 腕を振り回すと、それをうるさそうに見て、村雨は身体を密着させた。
 一応、体重はかけないように気を使いながら、しかし自由には動けない程度に押さえつける。
 「やぁっ!」
 先ほどなぶられて敏感に立ち上がった乳首に、柔らかな猫の毛がざわざわと絡みつく。
 ざらざらした舌で擦られるのとは全く違う種類の刺激だが、物足りないようなその感触が、じわじわと龍麻を追いつめた。
 徐々に力の抜けていく龍麻を確認して、村雨は少しばかり身体を離した。
 「ん〜・・・!」
 毛先が触れるか触れないかほどの距離で掠めていく。
 泣き出しそうな目で村雨を見上げ、ようやく気づいたように胸を腕でかばった。
 それには構わず、村雨は鋭い爪をズボンにかけた。
 「・・・あっ」
 意図に気づいた龍麻が慌てて押しとどめようとするも間に合わず、ついに下半身も布きれ&引っ掻き傷に覆われることになり。
 晒された中心に、村雨の目線を感じて、龍麻は唇を噛む。
 「ごろごろごろ・・・」(ふぅん・・・)
 「言うな〜!」
 「ニャ」(何も言ってねぇだろ?)
 「絶対、言うんだ〜!『へぇ、乳首だけでこんなに感じたのかい?』とか何とか〜!」
 「ニャニャ〜」(分かってんじゃねぇか)
 否定もせずに、村雨は舌を下半身に伸ばす。
 ざらりとした舌で包み込むように擦り上げると、龍麻の身体がびくりと跳ねた。
 「いやっ・・て・・・!なぁ、マジで、やめてってばぁ・・・」
 いつもされていることではありながら、大腿の間にあるのはふさふさとした毛並みの大きな猫の顔。
 頬の毛が柔らかな太股をくすぐり、いつもより大きく広げられて、咄嗟に龍麻は上体を起こしてそれをどけようと手を伸ばした。
 その視線の先で、猫は目を細めて、血のように赤い口を開いた。
 滴る唾液が、下腹部に落ちる。
 「・・・あ・・・」
 目を離せないでいるうちに、見せつけるように村雨は龍麻のそれに舌を巻き付けた。
 びちゃっ・・ぺちゃっ・・・
 わざとらしいほどに立てられる湿った音。
 龍麻の肘が崩れて、また床に背を付け、弓なりに身体を反らせる。
 「ん〜!んっん〜!」
 喘ぎが外に漏れないように、指を噛む。
 瞬くうちに追い上げられ、頭を左右に振る度にぱさぱさと髪が頬を打った。
 なんとか堪えようと必死に気を逸らす龍麻にトドメを刺したのは、胸を強く擦り上げた猫の太い尻尾であった。

 整わぬ息で、虚ろに下半身に目をやる。
 猫は、満足そうに赤い舌でべろりと自分の顔を舐めていた。
 へたりと力の抜けた腕で、まだ胸を彷徨っている尻尾を掴む。
 力強く振られる尻尾をどうにか引き剥がしているうちに、いつの間にやら身を起こした猫の生暖かい息が近づいてきていた。
 そのまま止める間もなく、ざらついた感触が胸を舐めずる。
 「や・・」
 のろのろと胸をかばいながら身を捻る。
 丸まるような姿勢の龍麻の背を、濡れた感触が這った。
 ぴくんと背を反らせるが、上を向けば胸を攻められるに違いないため、そのまま指を噛んで耐える。
 背に付いた爪痕から、じわりと滲んでいた血が、獣の唾液に溶かされ、背中一面を淡いピンクに染めていく。
 かすかに香る血の匂いと、獣の匂いが部屋中に立ちこめる。
 ざらついた感触は、背中を通り、徐々に下へと向かった。
 白い小さな双丘の間を、生暖かく濡れた感触が襲う。
 大きな舌を、なるべく尖らせるようにして潜り込ませようとするのに、龍麻は小さく悲鳴を上げた。
 一度絶頂を迎えて、うっすらと霧がかかったような頭の中で、快楽に流されつつもはっきりとした警報が鳴った。
 丸まりつつも頭を上げて、大きな白い猫を見る。
 顔・・前足・・尻尾・・・・そして、猫がゆっくりとした動作で起き上がり。
 四つ這いの獣の下腹部に、毛に包まれているが凶暴に存在を主張するものを認めて、もう一度、今度ははっきりとした悲鳴が漏れた。
 「やぁっ・・!・・だって、だって・・・お前、猫・・・!」
 今更。
 というか、本気で本番までいっちゃうとは思ってなかったらしい。
 性的な面では、まだまだ甘い龍麻だった。
 逃れようとするのに、尻尾が腹に巻き付いた。
 腰を上げられ、それでも前へずり上がろうと足掻く龍麻の背に、暖かな毛皮の感触が沿い。
 「ニャ〜ニャ」(大丈夫だって。いつもよりゃあ細いから)
 何の慰めにもならない言葉とともに、濡れた感触が押し当てられる。
 数瞬、位置を探られて。
 ゆっくりとそれが埋め込まれていった。
 「・・・・ひ・・・っ!」
 どろどろに濡れてはいたが、あまり慣らされていないままに貫かれて、龍麻は息を詰める。
 いつもとは違う感触と、何より周囲の毛が逆立つように秘孔を刺激して、泣き出しそうな声を上げた。
 「い、やっ・・あ・・あっ・・!」
 尻尾で器用に龍麻の身体を操り、緩やかに揺さぶりつつ奥まで納めきった。
 舌先で、涙目で振り返った龍麻の首筋や頬を、あやすように舐める。
 「ニャーニャー・・・」(うまくイイとこ突けねぇんだよなぁ・・)
 独り言のように鳴きながら、猫はゆっくりと律動を始めた。
 途端、上がる悲鳴。
 哀切ささえ感じるその声に、村雨の瞳が細められた。

 白い巨大な獣に覆い被される隙間から、人の肌がわずかに見え隠れする。
 上半身は力を失い、床に伏せられ、腰だけが、巻き付けられた尻尾によって倒れることも叶わずに高く掲げられて。
 その間から覗いてはまた打ち込まれるものは、じっとりと濡れているが、それを包む毛は内部で逆巻いて、慣れない感触に悲鳴を上げさせる。
 獣が動く度に、押し出されるような呻き声が、悲痛な響きすら帯びて。
 尻尾が、宥めるように、下半身に延びて、巻き付いた。


 ようやく解放されて、猫の腹に頭を持たせかけながら、龍麻はぐったりと横になった。
 「・・・もー・・・お前、最悪〜・・・」
 「ニャン」(何が)
 「お、お、お、俺は、こーゆー趣味は無いんだ〜!」
 「ニャ〜」(いやあ、俺は楽しかったぜ?)
 「さいってー・・・」
 ぶつぶつと呟きながら、柔らかな毛並みに寄り添う。
 それを抱き込みながら、村雨はごろごろと喉を鳴らし、顔を擦り付けた。
 「ニャ〜ニャン」(それでも、遠慮したんだぜ?)
 「・・・どのへんを」
 「フギャ〜ウニャ」(ホントは尻尾も突っ込みたかったんだが)
 「やめんかー・・・変態〜・・・」
 とろとろと瞼を半分以上閉じながら、龍麻は力無く罵った。
 「貴様なんか、蛙にでもなってろ〜・・・」
 「ニャ〜ニャオニャア」(なんだ、あーゆー冷たい肌に犯されんのが好みかい?)
 「・・・・・・蛙になったら、諦めるとかしないのか〜!」
 「ニャンニャン」(そんな、可愛いアンタを前にして、遠慮するような俺だと思うかい?)
 「・・・全然、嬉しくない〜・・・」
 完全に目を閉じ、すぅすぅと規則正しい呼吸になった頃。
 独り言のように、ひっそりと。
 「な〜、村雨〜」
 「ニャ?」(何だい?)
 「もし、俺のほうが猫になったら、どーすんだ?」
 「ニャ」(そりゃ・・・)
 目を閉じた龍麻の瞼の裏に、はっきりと、にやりと笑う男の顔が浮かんだ。
 「ニャ〜ニャー」(俺が、遠慮するわけねぇだろ?)
 「・・・・・・・・・・・・変態」

 今度こそ意識をブラックアウトさせながら、龍麻は、「絶対、この男の前で呪詛にかかってはいかん!」と、身震いする思いで誓うのだった。


あとがき
シャインさまによる暗号17777キリリク『獣になる村雨さん』ですが・・。
単にやってるだけの話ですな!
あはははははは!(←ちょっとヤケクソ)
いやー、うちの龍麻さん、意外とアドリブに弱くて、
ちょっといつもと違うことされると、たちまち主導権が村雨に移行(笑)。
ちなみに、村雨さんは、犬だと思うんですが、今回、猫なのは、尻尾が太くて
遊びやすそうだったから(そんな理由かい!)
いや、ホントは、突っ込もうかな〜とか・・その・・掻き出すのに・・
ごにょごにょ
あ、なお、猫語は字幕スーパーとなっております(笑)。
ごめんなさい、シャインさま。
こんなん出来ちゃったや。ただのケダモノ?


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