蒼晶智勇は、ちょっぴり仔ウサギ属性な<黄龍の器>です。 最近、『オニ』こと『しーちゃん』に、囓られちゃったりしたけれど、今日もとっても元気です。 ま、そんなわけで。 『ぴんぽーん』 玄関のチャイムの音に、智勇のウサギ耳が、ぴんっと立ちました。 半分押して、タイムラグがコンマ数秒あってから最後まで押し切る−−智勇の大好きな『しーちゃん』の押し方です。 智勇は、玄関の扉を開けると、そこに立っていた男の顔も見ずに、飛びつきました。 「しーちゃんだ〜!いらっしゃ〜い!!」 「おい、先生。離してくれねぇと、ケーキの箱がつぶれちまうぞ?」 どこをどうやったら、この智勇が『先生』と呼ばれるのか、さっぱり解りませんが、とにかく、村雨は智勇のことを『先生』と呼びます。 ひょっとしたら、村雨にしか解らない、Hな理由があるのかも知れません。 「ケーキ!?・・うわぁ、風月堂のアップルパイだ!!嬉しいなっ!しーちゃん、ありがとう!!」 えへへ〜と智勇は笑います。 帝国ホテルの1ホール5000円也のケーキを買ってきても、パチンコの景品の50円のチョコを持ってきても、同じように、智勇は喜びます。 持ってくる方としては、嬉しいような、寂しいような、複雑な気分です。 ケーキの箱を大事そうに抱えて、隣を歩く智勇の耳を引っ張って、村雨は言いました。 「俺が来たことと、ケーキを持ってきたことと、どっちが嬉しいんだい?」 「んーとね、んーとね・・・しーちゃんが、来てくれたこと〜!」 そのくらいの問いには、即答して欲しいものです。 悩んだ時点で、かなり失礼です。 「アップルパーイ、アップルパーイ。食べたかったんだ〜!」 「・・・本当に、俺の方か?」 居間に入るなり、ケーキの箱を開け始める智勇に、村雨はこっそり呟きます。 えぇ、断言します。 智勇は、本当に『しーちゃん>ケーキ』です。 理由は、『1個のケーキは、すぐに食べ終わるけど、しーちゃんは、これからも一杯ケーキを持ってきてくれるから』です。 それは、村雨は知らない方が幸せでしょう。 「しーちゃんも食べる?」 「いらねぇ」 村雨はソファに横になりながら、大きなフォークを手に、アップルパイに取りかかる智勇を横目に見ます。 口の回りを、メープルシロップでべたべたにして、パイを食べる姿は、とても18歳には見えません。 ついでに言うなら、チョコに釣られて上がり込んだ家で、意味もよくわからずHされておいて、懐いてくる精神構造も、18歳とは思えません。 別段、村雨は、罪悪感も感じてないけど。 村雨の感情を、敢えて表現したなら『棚ぼたラッキー』でしょうか。 智勇は、アップルパイを半分食べて、残りを前に悩んでいます。 「んーと・・・やっぱり、残りは明日にしよっと」 箱を冷蔵庫にしまいに行き、戻って来た時には、村雨はソファに仰向けに寝転んで、新聞を読んでいました。 その横に、ぺたんと座って、智勇は、首を傾げます。 「しーちゃん。・・・ガメラと遊んでもイイ?」 ちらりと智勇を見やって、無関心そうに村雨は答えます。 「好きにしな」 「わ〜い♪」 ガメラ(智勇命名)は、しーちゃんのカメ(仮称)です。 智勇は、村雨のズボンの前をくつろげて、ガメラくんを取り出しました。 「ガメラ、ガメラ♪今日も、元気ですか〜」 ガメラは大抵の確率で、元気一杯です。 「こんばんは、ですv」 智勇は、ガメラに、ちゅっと音を立ててキスしました。 「ガメラは〜、この間、俺のとこ来てから今日までに、何人の人と遊んでましたか〜?」 ガメラの頭を撫で撫でしながら、問いかける智勇を、村雨はじろりと睨みます。 「一人前に、妬いてんのか?」 「俺は、ガメラに聞いてるんです〜」 村雨のご機嫌が良ければ、ガメラは、横にぶんぶん頭を振ったり、縦に頷いたりするので、意志疎通が出来るのです。 「うーん、今日は、口紅の味はしないかな〜」 智勇は、ガメラの全身(?)をぺろぺろと味見します。 「うん、おっけー。今日は、だいじょーぶ」 満足そうに、智勇はガメラの頭にキスしました。 「うーん、ガメラに顔があったら、もっと可愛いのになー」 ガメラに鼻面を押しつけたり、頭を撫で撫でしたりしながら、智勇は呟きます。 村雨は、それを聞いて、ちょっとイヤな顔をしました。 多分、想像したんでしょう。 ま、一般的に、顔がついていても、カメ(仮称)の顔は可愛くないですから。 しばらく、ガメラを銜えたりして遊んでいた智勇が、可愛らしく小首を傾げて、村雨を窺いました。 「しーちゃん、ガメラが火ぃ吹くとこ、見てもイイ?」 「勝手にしろ」 まだ、村雨は余裕モードです。 無関心そうに、新聞を読み続けています。 全然、めくられていないところを見ると、本当に読んでいるのかどうか疑わしいですが。 許可を得た智勇は、一所懸命、ガメラと遊びます。 胴体を横銜えにしたり、頬張ったままその輪郭をなぞったり、うちゅーと吸い付いてみたり、色々やってます。 村雨に教えて貰ったので、だいぶ、上手になったらしいです。 「あ」 ガメラが、どくん、と身震いしたので、智勇は慌てて口を離しました。 「飲めって言ってるだろ」 「だって、見たかったんです〜」 鼻先から、口にかけては、よだれやら、メープルシロップやら、ガメラが吹いた某かやらで、ぐちょぐちょです。 その顔で、上目遣いに、智勇は村雨を見やりました。 智勇は、ちゃんと、村雨が、口で言うほど怒ってないのを知っています。 赤い舌先で、ぺろりと、自分の口の回りを舐めると、また、ガメラが勢いを取り戻しましたし。 結構、この顔も気に入られているのが分かるんです。 「ん〜、でも、しーちゃんがそう言うなら、もう一回、しよっかな」 ガメラの首筋に垂れてきているどろりとしたものを舌先で舐め取りながら、智勇はちろりと村雨を見上げます。 村雨は、ようやく、新聞を下に落としました。 「そうだな。・・・先生の足、こっちに寄越せよ」 「にゅ?」 怪訝そうに首を傾げながら、智勇は、ぺたんと座っていた足を伸ばしました。 その足首を掴んで、村雨は、智勇の下半身をソファの上−−というか、自分の上−−に引きずり上げました。 智勇のズボンを緩めながら、村雨は、にやりと笑います。 「さて、じゃ、やって貰おうか」 「ふぇ・・・この格好で?」 大好きな『しーちゃん』の顔に跨るような姿勢になったため、智勇は慌てます。 「そ。ちゃんと、やらないと・・・」 言って、村雨は、智勇の内股をがぶりと噛みました。 「・・・噛み切るぞ」 「ふええぇぇぇん!しーちゃんが、噛んだ〜〜!」 何度、噛みつかれても、慣れるものではありません。 勿論、村雨はわざとやってるんですが。 「しーちゃんが、いぢわるだよぉ・・」 しくしく泣きながら、智勇は、またガメラを頬張るのでした。 翌朝(笑) すぴすぴと眠っていた智勇は、村雨の 「あ〜〜〜〜!!!」 という叫び声で目を覚ましました。 「ほえ?しーちゃん?」 寝ぼけ眼を擦りながら、ベッドに座った智勇の前に、憤怒の表情も露わに、村雨が駆け込んできました。 「こら!!ちー!!」 怒鳴って、げんこつを一発、ぽかんと智勇の頭頂部に喰らわせます。 「ふぇぇええええん!!」 泣き出した智勇には構わず、まだ、げんこつを握りしめています。 「どういうつもりだ!!」 「ふぇええん!だって、だって〜!」 「だって、じゃない!!」 「だって、お顔がある方が、ガメラ、可愛いと思ったんだもん〜〜!!」 そうです。 智勇は、村雨が寝ている間に、ガメラに顔を描いたのでした。 ちょっぴり目つきの悪いそれは、村雨に似ていて、蒼晶智勇・改心の一撃でした。 「しかも、取れやしねぇ、ときてる。一体、何で描きやがった!!」 「翡翠に貰ったの〜」 智勇が見せたペンには、『超強力油性ペン〜何度水洗いしても落ちずに安心!』と書かれています。 場所が場所だけに、あまりごしごしとも擦れないし。 「まったく、もう・・・これじゃ、女も抱けやしねぇ・・・」 怒り冷めやらぬ体で、村雨は、ぶつぶつ文句を言います。 ま、こんなもん、見られた日には、評判がた落ちでしょうから。 じろり、と、殺気の籠もった目で、村雨は智勇を睨みます。 智勇は、小さな躰を更に縮めて、指を銜えて上目遣いでうるうるしています。 「ごめんなさぁい・・・」 はぁ、と村雨は、溜息をつきました。 そして、智勇の耳を引っ張り、低く、囁きました。 「・・・責任、取れよ?」 耳元にかかった熱い吐息のせいか、その内容のせいか、智勇の睫毛がふるふると震えました。 小さな声で、 「・・・はぁい・・・」 と、答えます。 そして、さんさんと朝日が降り注ぐ中、村雨に押し倒されつつ、智勇は、こっそり笑います。 (これで、しーちゃんは、しばらくは、俺のものvv♪) 蒼晶智勇は、その見てくれと言動のため、頭にチューリップが咲いているように思われがちですが、実は、18歳なりの知能はあるのでした。 おしまい。 |
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