欲張りな貴方


 はてもさても、めでたく柳生(他2体)を倒し、執り行われましたるは、仲間(+α)全員を挙げての大宴会。
 しぶる御門を説得(恐喝)し、<浜離宮>邸内なる、技を放つに遠慮の要らぬ空間を舞台に得た魔人達は、大乱痴気騒ぎを繰り広げ。
 屍累々横たわる中、屋敷の主は早々に退散し、女性達は引き取って。
 残るは、酒を浴びるほど飲んだ男連中。
 これで、騒ぎが起こらないはずも無く。

 これより、暗号666リクエストの幕開けで御座います。



 さて、陰ディスクのヒロインこと緋勇龍麻は、何故かきっちり正座して、ちびちびと日本酒を舐めていた。
 その右側を、ちゃっかり占めているのは、村雨祇孔。
 左側を虎視眈々と狙いつつも、お互いが牽制し合い過ぎて、離れた場所に座らざるを得なかったのは壬生紅葉及び如月翡翠。
 
 アルコール臭ぷんぷんの室内は、大声で叫ばなくては会話できないほど煩くもなく、さりとて、他所の会話が耳に入るほど静かでもなく。
 だもんだから、村雨が、龍麻の耳に何か囁き、それを受けて、龍麻がくつくつと笑っていても、どういう会話がなされているのかを知る者はいないような状況だった。
 ま、読唇術をマスターしてるヤツが数名いそうだが。

 そんな、龍麻が珍しく上機嫌でいる前に、霧島、劉、雨紋の年下3人が揃ってやってきた。

 「龍麻サン、オレ様、ちょっと、聞きたいことがあるんだけどよォ」
 「わいもやねん」
 「龍麻先輩っ、僕もです!」

 「なんだ、お前達。揃いも揃って」
 猪口を置いて、龍麻は手を正座した膝の上に揃える。
 なんだかんだ言って、龍麻は、年下組を可愛がっているのである。
 ちなみに、同年齢組は、別の意味で『可愛がっている』のだが。

 「あのな、アニキ・・・」
 三人、見交わし合って、劉が口火を切ることにしたらしい。
 躊躇いがちに語を繋ぐ。

 「アニキ・・・村雨はんと、付きおうとるんか?」

 しん、と室内が静まり返った。
 
 緊張が張りつめる中、動いたのは、2組。
 1組目は、さりげなく、秘拳黄龍の範囲外に逃れた、喰らい慣れている京一・醍醐。
 2組目は、年下3人組を射程距離に捕らえた壬生・如月。

 龍麻は、首を傾げて、ぱちぱちと目をしばたいた。
 「『付き合う』とは・・・どういう意味だ?」
 
 「あっ、お気を悪くされたなら、謝りますっ!」
 霧島が元気良く頭を下げた。
 「・・・なんで、俺と付き合ってたら気ぃ悪くなるってんだよ・・・」
 村雨がぼやくのを、肘鉄で黙らせ、龍麻は、困ったように言う。
 「いや、どういう状態を『付き合う』というのかが、よく分からなくてだな。諸羽はどう思う?」
 「え、あ、はいっ、付き合うというのは・・・」

 霧島は、握り拳で叫んだ。
 「公園で、手をつないで、散歩することですっ!!」

 嘘を吐け
 
 その場にいた全員が、そう思った。
 清純派を売りにしている霧島だが、龍麻の印象を悪くしないためとは言え、いくらなんでも、それはあんまりだろう。 
 しかし、龍麻は、にっこりと笑う。
 「諸羽は、可愛いこと言うなぁ」
 「はいっ、ありがとうございます、龍麻先輩っ!」

 (騙されてる、騙されてるよ、龍麻!)
 壬生は、心の暗殺予定日記に、霧島の名を赤文字で記した。

 「公園で、散歩ねぇ・・・したことないな、俺は。諸羽は、さやかちゃんとしてるのか?羨ましいことだ」
 「・・・龍麻先輩となら、さやかちゃんも、喜んでお散歩すると思いますっ!」

 彼女を売るな

 「さやかちゃんと散歩・・・かーっ、一度はしてみてぇよなぁ!」
 「うむ、同感だ・・・」
 京一と紫暮は二人で頭を付き合わせる。
 が、<京一先輩>には、さやかちゃんを紹介しない霧島だった。

 「ちょお、待ってぇな!付き合う、いうんは・・・」
 「二人でメシを食いに行くってのは、どうだい?龍麻サン?」
 「二人でメシを食うのが『付き合う』なら、俺は、男女を問わず、随分たくさんの人間と『付き合っている』ことになるが・・・」
 「ええぇっ!オレ様とは食いに行ったこと無ぇってのに!?」
 「そうだったか?そうか、今度行こう、雷人」
 「マジ?!約束してくれるかい?!」 
 「うむ、約束だ」
 「イェイッ!」
 雨紋、目的を見失うの巻。

 「いや、だから、付き合う、いうんは・・・」
 「オウ、アミーゴ!姫ハジメにダイカーン遊びネ!」
 「違うやろ!」
 いつの間にか混じっていたアランに、裏拳ツッコミをかましている劉には構わず、龍麻は顔を顰めながら答える。
 「この正月に、姫初めする余裕がどこにある?ついでに言うなら、俺は着物を持ってない」
 「オウ・・・もったいなーいネ・・・ジャパニーズキモノ、ベリベリキレイネ!」
 「うむ、着物の女の子は俺も好きだ」
 「今度一緒に、ダイカーン遊びするネ!」
 「・・・違うやろ!ちゅうてるねん!」

 劉、渾身のツッコミが決まり、アランは障子を突き破り、庭へと落ちていった。
 「ユエ。<氣>を乗せてツッコミを入れるのは危険だぞ」
 「アニキ・・・いい加減、しらばっくれるのは止めてーな、もう。
  村雨はんとは、どういう『付き合い』方なら、しとるねんな?」
 
 疲れたように肩を落とす劉に、龍麻は困惑したまま、額をぽりぽりと掻いた。

 「どういうって・・・村雨とは、セッ・・・」
 
「うわ〜〜〜〜!!龍麻〜〜!」
 「そそそそうだね、龍麻!
  『せっ』かくだから、村雨さんとも飲みたいんだね?!」

 如月と壬生が、大音量で遮った。

 当の龍麻は、きょとんとしている。
 「なんだ?二人とも。・・・俺はただ、セッ・・・」
 「そうだね、龍麻!村雨さんには、『せっ』っせとアプローチされてたね!」
 「アプローチ?あぁ、『愛してるぜ、龍麻』ってヤツか?うん、俺も愛・・・」
 「龍麻!『モアイ』になったんだね!村雨におかしな事を言われて!」

 「・・・壬生。それは、さすがに苦しくないか?」
 「・・・僕も、ちょっとそう思いますよ、如月さん・・・」
 二人、顔を見合わせて、深く溜息を吐く。

 これまで『我関せず』というか、龍麻がどう言うのか見守っていた村雨が、ぼそりと呟いた。
 「お前ら・・・さっきから、何をしてるんだ?」
 「村雨!お前が言うか!」
 「決まってるじゃないですか。あんな言葉を言わせたら・・・
 
 「「僕の龍麻が汚れてしまうではない(です)か!!」」
 壬生と如月は、きっぱり言い切る。

 今更、汚れるも何も無い気がするが。
 そもそも『愛してる』では、汚れないし。
 「いーや、相手が村雨なら、汚れる!」
 ・・・平文に、お答えをありがとう、如月くん。

 壬生が、龍麻の両肩を、がしっと掴む。
 「いいかい、龍麻。ここは、僕たちに任せておいてくれないかな?」
 「そ、それは、別に、構わないが・・・紅葉、目が血走ってるぞ」
 「君への愛が充血しているだけだよ」
 意味不明な上に、なんだか、イヤな『愛』だ。

 当事者なのに、除け者にされた龍麻は、仕方なく壁際で事態を見守る。
 それを背後に、如月と壬生が、年下組に対峙した。
 「いいかい、君たち。龍麻と村雨は、いわゆる『お付き合い』は、していないのだよ」
 「そうですね。デートだなんてものをするような間柄ではないですからね」

 「・・・そうだったのか?」
 「ま、確かに、二人でどこかに出かけたことは無かったっけか」
 「俺達、行き当たりばったりだしな」
 二人でこそこそ囁き合っているのを知ってか知らずか、霧島の顔がぱぁっと輝いた。
 「やっぱり!そうですよね、龍麻先輩が、よりにもよって村雨さんなんてオヤジ臭い人と『お付き合い』なんて、するはず無いですよね!」
 「はっはっはっ、無論だ!村雨などという年齢詐称の『なんちゃって高校生』が、龍麻の愛を勝ち得るはずが無いだろう!」

 如月、それは、ただのお前の願望だ。

 「そうやな〜、服のセンスも凄いしな〜」
 「あの、無精髭はマイナスポイントだゼ。最近の流行は、男でも清潔が基本だもンな」
 「ムラサーメは、声がHネ!アミーゴには似合わないネ!」
 「性格も、どこか捻れているからな」
 「龍麻先輩には、やはり(僕のような)、武道を嗜む人と、お互いを高め合うよな『お付き合い』を・・・もごごっ!?」

 喜色満面に語っていた霧島の背後に、行動力の全力を使って移動してきた京一が駆け寄り、口を塞いだ。
 「諸羽、悪い事は言わねぇ、そのへんで止めとけ!お前には、まだ未来がある!!」
 次のターンで、霧島ごと速やかに撤収する。
 
 霧島諸羽、脱落。

 それには委細構わず、村雨パッシングは続いていた。
 「大体、<力>が『運』というのは、何なのだ。見切りが出来るわけで無し、アイテムゲットが出来るわけでも無し」
 「術形態が<花札>いうんも、巫山戯とるわ〜」

 「お前ら、いい加減に・・・」
 壁にもたれていた村雨は、半身を起こしかけて、隣の龍麻が、俯いているのに気付いた。
 「・・・先生?」

 正座で、膝に握り拳を揃えて。
 俯いたまま、ぷるぷると震えている。

 (秘拳黄龍が来る!!)

 誰もがそう身構えたとき。

   ぱたっ
      ぱたぱたっ

 音を立てて、水滴が落ちた。
 龍麻の手に。

 間をおいて、また、ぱたぱたと落ちるそれは、無論、雨漏りなんかではなく。
 ひっく、というしゃくり声も聞こえるとなれば。

 数瞬、皆、固まった。
 <あの>龍麻が泣いている!?
 きん、と音がするほど緊張の走った室内で、龍麻の泣き声と鼻をすする音だけが響く。

 「たたたた龍麻!?」
 壬生は振り返って、慌てて龍麻に手を伸ばすが、それより先に、村雨が龍麻の頭を抱え込んでいた。
 「先生、どうした?・・・何も、アンタが泣くこたぁねぇだろうに」
 答えは無いが、村雨の胸に顔を埋めて、龍麻の背はしゃくり上げるように震えている。。 

 この、伸ばした手の行き場所の無さを、如何にすべきか。
 壬生は、ゆらりと立ち上がった。
 「君たち・・・僕の龍麻を泣かせたね・・・」
 「まったくだ。飛水流の奥義、とくと見よ!」
 「如月さん、貴方もです!!
  村雨さんにだって、良いところはあるでしょう!?
  あの、金離れの良い太っ腹な所は、余人に真似できるものではありません。
  村雨さんは、生きた金の使い方というものを御存知な、希有な人です!」
 
 『生きた金の使い方』というのは、壬生が盗撮した龍麻コレクションを高値で買うことか?

 壬生は、ちらりと背後の龍麻の様子をうかがった。
 龍麻は−−目元と鼻を真っ赤にして、涙でぐしゃぐしゃになりながら、壬生を感謝の目で見ていた。
 目が合うと、はにかんだように微かに微笑む。

 (あぁっ!!龍麻!その表情は犯罪だよ!!)
 「どうして、僕は、背中にもカメラを仕込んでこなかったんだ!」
 「壬生・・・声に出てるぞ・・・」
 
 その表情にがつんとやられたのは、壬生ばかりではない。
 『自分にも、その顔を向けて欲しい!』
 となると、あっさり宗旨替えしたくなるのが人情というもの。

 「そそそそうだな、村雨は、確かに金離れは良い。いつもにこにこ現金払いだ。定価の2割り増しを請求しても、文句も言わずにあっさり払う太っ腹さだ」
 「如月・・・そんなことをしていたのか・・・最低だな」
 龍麻に嫌悪の表情で見られてしまった。
 
 如月翡翠、自滅。

 「そうだぜ、村雨サンの無精髭と顎の傷は、ワイルドってぇか、男ってぇ感じでイカスよな!!」
 雨紋にも、龍麻のにっこりが付いてきた。

 「せやな〜!白い学らんに、背中の刺繍!いやぁ、個性が溢れとる!誰にも真似出来へんで!」
 これは、誉めてるのかどうか微妙なところだ。

 「オヤジ・・じゃなかった、さすがは大人の男ってぇヤツ?」
 「いやぁ、尾てい骨直撃な声は、もう犯罪的やわ!」
 「ラッキーなのは、グッドネ!!」
 「ニヒルな笑い方は、カッコいいよな!」
 「『運』で人生渡っていくいうんは、なんかええよな!」
 「術師なのに、体格がいいんだよな!」

 必死に村雨を持ち上げる。
 その度に、涙一杯の顔が、幸せそうに笑い出す。

 (何、やってるねんな、わいらは・・・)
 (龍麻サンが笑ってくれるなら、しょうがねぇじゃんか)
 (アミーゴの笑顔は、キュートネ・・・)
 (・・・龍麻・・・つまり、君は・・・)

 嫌々ながら、壬生がまとめる。
 「村雨さんは、君に相応しいくらい、素晴らしい人だ、と。
  そう言わせたいんだね?」
 
 「えええええぇぇぇぇぇっっっ!!??
 劉、雨紋、アラン、そして離れた位置で霧島が叫ぶ。

 「いや、いや、いや、別にそんなこと言うてないやんか〜」
 「村雨サンは、その・・・確かに、格好良い男かも知れないけどよォ・・・でも、龍麻サンには・・・」
 
 「だって、お前らが、村雨、誉めたんだぞ?」
 にっこり・・・いや、にやりと笑って、龍麻は言う。
 その隣で、村雨は、溜息を吐きつつ、頭を押さえた。
 「先生・・・嘘泣きか?」
 「勿論、違うとも。村雨の悪口言われたら、悲しいよ、俺は?」
 

 20マスばかり離れた位置では。
 「離して下さい、京一先輩!!このままじゃ、龍麻先輩が村雨さんのものに・・・!」
 「諸羽・・・お前も、いい加減理解しろ。ひーちゃんはなぁ、自分がこうと決めたことは、誰が何と言おうと曲げねぇって」
 「うむ、今回は珍しく、力技では無かったようだが」
 「いやあ、あれはあれで力技だろ」
 妙に達観した京一と醍醐が、しみじみ語りつつ、霧島の首根っこを押さえていた。


 「いやあ、嬉しいな。村雨が、俺の寵愛を受けるに相応しい男だと言うことを、皆が認めてくれて」
 はっはっはっと龍麻は笑う。
 「ち、違うて!そんなつもりは、あらへ・・・」
 「ユエ。・・・俺の選んだ男が、認められないか?」
 そう言って−−また、顔が歪む。
 目を開いたまま、涙がつーっと流れ落ちる。
 
 (違う!これは、嘘や!嘘泣きや〜〜!!)
 心の中で叫んでも。
 悲しそうな瞳で見つめられると。
 「そんなことは、あらへん・・・。アニキが幸せなら、わいはそれで、ええ・・・」
 がっくりと肩を落としつつ、そう答えるほかにない。

 「他のヤツも、何か、文句はあるか?」
 見渡した先に、目を逸らす者はいても、真っ向から龍麻に逆らう根性のある者はおらず。
 「それでは、そういうことで。俺、帰るから」
 「泊まっていかねぇのか?」
 「泊まったら、覗かれそうで。家でゆっくり寝ようよ」
 十分に周囲の視線を意識したまま、龍麻は笑顔で立ち上がり、村雨に手を伸ばす。
 その手を掴んで、立ち上がりざま、村雨は龍麻を引き寄せた。

 「
ああああああああああっ!!!
 
 悲鳴と怒号の中、キスをする。
 しかも、遠目にも舌が入っているとしっかり解るような、濃密なのを一発。
 危うく奥義をかまそうとした者も何名かいるが、龍麻が密着しているため、放つに放てない。

 ようやく唇を離し、とろんとした表情の龍麻を見せつけるように抱きしめながら、村雨はにやりと笑った。
 「じゃあな。お前らは、好きなだけ飲んでな」
 そして、ふたり絡み合うように帰っていく。
 
 しくしくしくしく・・・とカメが泣き、雷鳴が轟き、号泣と怨嗟が満ちる部屋を残して。



 現実の浜離宮を、ぽてぽてと歩きながら、龍麻は上目遣いで村雨を伺う。
 「村雨〜、何故怒ってるんだ?」
 「ん?別に?・・・まあ、強いて言やぁ、どうせならアンタに庇って欲しかったせいかもなぁ」
 「・・・そっか。ごめん、村雨」
 いやに素直に謝る龍麻に驚いて、隣を見やると、うーうーと唸りながら下唇を引っ張っている。
 「だってさ。俺が庇うと、<俺&村雨VSあいつら>って図式になるだろう?収拾がつかなくなるって言うか、ますますお前が悪者になりそうで。それよりは、ああやった方がいいかと思ったんだが・・・」
 「怒ってねぇよ。・・・ただ、どこまで嘘泣きだったのかは、気になるな。結構、マジに心配したぜ」
 「どこまでって言うか・・・泣きたいな〜、悲しいな〜って時に、ぐっと堪える代わりに、増幅してみた。だから、全くの嘘泣きって訳じゃないつもりだ」

 また、数分、黙ったまま、二人は歩く。

 ぽつん、と独り言のように、龍麻が呟いた。
 「俺って、欲張りなのかな。仮に、仲間全員から嫌われてでも、お前に惚れてる気持ちが変わる訳じゃないけど。
  でも、どうせなら、皆に祝福されたいってのは、我が儘なのかな」
 
 村雨は、龍麻の冷たい手を取った。
 一瞬、驚いたように震えて、それから、ギュッと握り返してくる。
 「祝福は、されねぇだろうなぁ。男同士だし?アンタ、皆に愛されてるし?
  仮に、アンタが蓬莱寺を好きだと言ったとしても、俺は祝福はしねぇだろうしな。アンタが悲しむのが分かってても、蓬莱寺ぶっ殺して、アンタを無理矢理、俺のもんにするかもなぁ」
 「そっか。・・・でも、俺、仲間のことも、結構、好きなんだよな。だからさ、出来ればって・・・」

 くすん、と龍麻が鼻を鳴らす。
 村雨は、敢えてそちらは振り返らず、頭上の、糸のような三日月を見上げた。
 「アンタは、確かに欲張りだが。でも、アンタが本気で望めば、叶えられないことなんて無いさ。
  なんたって、絶対無敵の黄龍様だろ?」
 「<器>だよ。ただの。・・・ま、でも、最強の運の男もついてることだし。
  俺は、俺らしく、我が道を突き進むとするか」
 「そうだな。アンタには、それが似合ってるさ」

 ようやく愁眉を開いて、笑い声を上げた大切な恋人を抱きしめながら。
 村雨は、ひっそりと呟いた。
 
 「だが・・・なーんか、イヤな予感が、ひしひしとするんだが・・・・・・」



 翌日から。
 マンションに次々と来る、
 「ラーメン、52人前でーす!」
 「ご注文のグランドピアノ、どちらに運べばいいっすかぁ?」
 「村雨さん、生ゴミは決められた日に出して下さいね」
 「キッズポルノの通販・・・ちょっと署で話を聞かせて貰おうか」
 
 古典的と言えば古典的、せこいと言えばせこい意趣返しに、村雨は頭を抱えるより他、無かったのだった。






   
ジーダの言い訳

 朱麗乃華さま、666リク、こんなもの出来ましたけど・・・。
 リク内容は、「『あの』龍麻が村雨絡みで泣いてしまう」というものでした。
 条件、満たしてるでしょうか・・・。う、嘘泣きじゃないんですよ!一応、本気泣きなんですよ!
 泣いてる場面は、短いけど。
 登場人物が多いと、会話文ばかり多くなるし。
 どうにも、短く爽やかにまとめる才能が無いもので・・・はっはっはっ(開き直るし)。
 つまらない物ですが、御笑納下さいませ。


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