龍麻は、村雨がアマゾン川流域の地図を買っているのを、目撃してしまった。 (あのバカーー!諦めてなかったんかーい!!) いや、幻の魚とやらを、己のためだけに探してこようとする、その姿勢は、ちびっとは嬉しいかも知れない。 ひょっとしたら、村雨の財力と運をもってすれば、本当に『幻の魚』も手に入れることも可能かもしれないが。 だがしかし。 ちょっと口からついて出たような言葉に本気になって、東京−香川間を飛行機で1週間、通ったってだけでも、なんか、滅茶苦茶に感動してしまったのだ。 アマゾンなんて行かれた日には、もう、どうしたらいいのやら。 (俺の心の平穏のためにも!断固、阻止するべし!!) その決心を後押ししたのは。 「あぁ、先生。ちぃっと明日から、仕事で2,3日、留守にするからよ」 なんてことを、さも本当ですと言わんばかりに、平然と言ってのけた村雨のセリフであった。 (行く気かーーーっ!!) もう、こうなったら、背に腹は代えられない。 やるしかない、と龍麻は、作戦開始モードに移行した。 「むらさめぇ」 語尾を延ばして、甘ったるく囁くのが、『あの時』を連想させるのは、十分承知の上で。 膝の上に向かい合わせで座って、ちょっと小首を傾げて、上目遣いに見上げる。 「むらさめぇ・・我が儘、言っても、イイ?」 その状態で、駄目なんて言うヤツを男にしているわけじゃない。 「あのさぁ、むらさめぇ・・・」 指先で、胸の辺りに『の』の字を書きながら。 「俺の、近くにいて。『会いたい』って呼んだら、30分以内に来られる場所にいて欲しい・・・って、やっぱり、俺の我が儘かな?」 伏し目がちに、頬を染めて。 「仕事なのは・・・判ってるけどさ」 涙は、流れるほどは多すぎず、睫毛に乗っかるくらい。 「でも、やっぱり・・・寂しい・・・」 はい、チェックメイト。 のし掛かられつつも、『30分以内に戻ってこられない場所には行かない』という約束を取り付けた、龍麻だった。 で、いたすべきことをいたしてから。 ソファの上でゴロゴロしていると。 パソコンに向かっていた村雨が、歓声を上げた。 「おぉ、Migの良い出物があったぜ」 Mig?・・・旧ソ連の戦闘機か? 確かに、ソ連が崩壊してから、軍備が格安で流出しているらしいが。 それでも、数百万はする・・・が・・・村雨にとって、数百万なんて、はした金・・・だったっけ? しかし、まさか、そんなもん買う気じゃ・・・第一、使い道が・・・。 「これで、30分以内に戻ってこられる場所が拡がるってもんだ」 なんつっても、音速だから、なんて、楽しそうに言う村雨の声を聞いて、龍麻は撃沈した。 (なんで、そっちに、ひねるかなーーーっっ!!) 村雨と、龍麻の、攻防は続く。 |
あとがき ・・って、なんじゃこりゃ(笑) いえね、そのまま続けて書こうかな〜とも思ったんだけど、 ますます『料理』から遠ざかるもんで。 今回、村雨さんが『壊れ系』なのは、 『取引』打ってて、息が詰まってる反動が、これに集約されたためと思われます(苦笑) |