せめて、貴方に、我が儘を



 曰く「ひーちゃんは、我が儘だよなー」
 曰く「ふぅ・・龍麻は、本当に、我が儘だね・・」
 曰く「龍麻の我が儘にも、困ったものだな」

 etc、etc。

 かく言う村雨も、「緋勇龍麻は我が儘だ」という認識だった。
 
 ・・・かつては。

 いや、まあ、別に、「実はあれは、甘えてるだけで可愛いもんじゃねぇかっ」とかいう認識にすり替わったわけではない。
 
 村雨は、目の前で繰り広げられている光景を見つめながら、ぼんやりと、そんなことを考えていた。
 
 「くれは〜、くれはの作ったクリームコロッケが食べた〜い」
 「龍麻・・そんな急に言われても・・・明日じゃ駄目かい?」
 「やだ〜!俺はくれはコロッケ食べたいの!!」
 
 一字一句、強調しながら、龍麻は壬生の首っ玉にかじりついて揺さぶっている。
 背後からスリーパーホールドをかけられているも同然な状態でありながら、壬生の顔は、幸せ一杯だ。
 ちなみに、真っ赤なのは、照れているのではなく、鬱血状態と思われるが。
 「しょうがないね・・如月さん、台所をお借りしますよ」
 「やった〜!くれは、好き〜〜!」
 以前に比べると、ずいぶんとあっさりと「好き」という言葉が出るようになったものだ。
 村雨の教育の賜であろう・・・が、なにゆえ、自分の恋人が他人に言うのを、黙って見ていなきゃならんのか。
 しかし、龍麻に底意は無い。
 単純に『コロッケを作ってくれる壬生』が好きなんである。
 もともと、壬生のことは好きだけど。
 
 そう、そこで、話は元に戻る。
 思えば、自他とも認める−−いや、他人は認めてないかも知れないけど、とりあえず公表はした−−恋人同士となった村雨と龍麻だが。
 いや、いっそ、恋人となったその時期あたりから、村雨には『龍麻に我が儘を言われた』記憶が無いのだ。
 その前、つまり、ただの仲間だった頃には、無論ある。
 山ほどある。
 しゃれにならんほど思い当たる。
 思い返せば涙ぐましいほどである。

 あぁ、それなのに、それなのに。

 今、現在、となると、さっぱり無いのだ。
 
 それは、やはり寂しいではないか。
 恋人(それも照れ屋さんで憎まれ口を叩くそんなところも可愛い)に、我が儘を言われ、しょうがねぇなぁ、とか口では言いつつも、力の限りそれを叶える努力を惜しまなかったりなんかして、それを龍麻もちゃんと知ってて、「ありがとう、村雨」なんて、ちょっとはにかみながら、にこっとか笑ってくれたりして、そしたら、もっと張り切って、その夜のベッドの中では・・・

 とまあ、考えてるうちに、ちょっと妄想入ったりして、顔のにやつく村雨だが。
 要するに、我が儘を言われてみたいのである。
 何で、その他大勢には言うくせに、恋人である俺には言わねぇんだ、ちくしょうめってなもんだ。

 壬生の作ったクリームコロッケを頬張っている龍麻を見ながら、よし、今日は、何が何でも、我が儘を言わせるぞ、と心に誓う村雨であった。


 で、二人の愛の巣(笑)に戻ってから。
 あふ、なんて可愛らしく欠伸を噛み殺している龍麻を手招きすると。
 ソファの前に、ぺたんと座り込んだ龍麻が、首を傾げて村雨を見上げた。
 
 (あぁもう、ちくしょうっっ!!
 どうして、こんなに可愛いんだ!!
だぁっ・・だぁっ・・だぁっ・・・(注:エコー))
 
 本来、龍麻は、警戒心の強い動物であった。それも、肉食動物系猛獣。
 それがもう、なんだか最近、村雨の前でだけ(ここ強調by村雨)、やたらと無警戒な姿を見せてくれるようになったんである。
 その度に手がわきわきと動きかけては、いや、ここで襲いかかっては、また警戒されてしまう!となけなしの理性をかき集めて耐えてみたりしている村雨である。
 いやまあ、本当は、女王様モードも決して嫌いではないのだが。
 むしろ、平素が女王様、ベッドの中では俺が支配者、なんてのも結構萌えるシチュエーションである。

 「・・・村雨?」
 
 ちょっぴり思索の旅に出かけていた村雨の思考を、龍麻の訝しげな声が引き戻した。
 「あぁ、いや、悪ぃ。・・・あのな、龍麻」
 がしっと両肩を掴んで。

 「俺に、我が儘を言っちゃあくれねぇか?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 龍麻のあっけにとられた顔というのも珍しい。
 は?の形のまま固まった唇が、なんとも愛らしくて、ついそれを貪りたい欲望に駆られるのだが、それは後のお楽しみに置いておくとして。
 
 「アンタ、他の奴らには我が儘言うが、俺には言わねぇじゃねぇか。何でも叶えてやるから、俺に言えよ」
 「・・・・・・はぁ。・・・いや、叶えられるのが分かっている望みは、すでに我が儘ではなく、願い事、というのではないだろうか」
 呆然とだが、それでもしっかり揚げ足を取る龍麻である。
 そう呟きながらも、意識がはっきりしてきたのか、龍麻の目が、きらきらと輝き始めた。
 面白がっているような、どこか傲慢な光である。
 それを待ち望んでいるあたり、村雨はひそかにM属性なのかも知れない。

 「我が儘を言うな、とはよく言われたが、我が儘を言え、と言われたのは初めてだな」
 「へっ、俺は何でも、アンタの初めての男だよ」
 「・・・・・ばっ・・・馬鹿者っ・・・!」
 照れ隠しなのか、ジーンズの上から、村雨の膝にがぶりと噛みつく。
 「痛ぇよ、先生」
 「貴様が悪い!」
 がしがしと歯を立てる龍麻の頭を撫でながら、村雨は、平然と続ける。

 「なんかねぇのかい?一般人にゃあ手に入りにくいようなチケットでも、俺なら簡単に・・・」
 「いや・・・生憎と、コンサートだのライブだのには興味がないし」
 「何でも買ってやるのになぁ。・・・新しいマンションとかどうだい?もっと広いマンションに、でっけぇベッド置くとか・・そうだ、屋根をプラネタリウムに改造するってぇのは?」
 「・・・・・・無駄遣いもいいところだな」

 心底あきれたように、龍麻が口を離して、見上げた。
 濡れ光る唇を、ぺろりとなめる姿が、餌を前にした獣を思わせる。
 頭を撫でていた手を、耳を経て顎へと滑らせると、合った目が、挑戦的に細められ、赤い唇の両脇がきゅっと吊り上がった。
 膝にかじり付いていた頭が、村雨の手をくぐり抜けるように、ふわりと動いて、別の場所へと移動した。
 やはりジーンズの上から歯を立てる龍麻の、耳から顎にかけての線を指先でなぶると、ちらりと目だけが上げられた。
 龍麻の口元で、ファスナーの金具と歯が触れた音が、かちり、と鳴った。


 てなわけで、夜半過ぎ。
 なんだか、うやむやのうちにベッドの中にいるわけだが。
 いや、うやむやになったのは、つい誘惑に負けたせいだし、そもそも誘惑技を教育してしまったのも村雨なんだが。

 眠りに落ちようとしている龍麻の肩を揺すぶって、耳元に囁きを落とす。
 「龍麻、我が儘は?」
 「・・・いい加減、しつこいぞ・・・」
 「我が儘を言えって」
 うぅ、と龍麻が呻る。
 いつもなら、ここで引く村雨だが、今日はひと味違う。
 何が何でも、我が儘を言わせるぜ、と心に誓っているのだ。
 
 確かに、龍麻は物欲が薄い。
 この部屋の中のものも、ほとんど村雨が転がり込んでから、買ったものだ。
 服の好みがあるでも無し、食べるものも、身体が・・というか村雨が許せば、毎日カ○リーメイトだけですませても平気だし。
 趣味は、と言えば、寝ること、なんて答えるが、その辺の床で寝ても気にしないし、おねむ用グッズがあるわけでなし。
 思えば、他人に対する我が儘だって、大したものじゃないことの方が圧倒的に多い。
 特に、金銭的に負担のかかる我が儘は、皆無と言っていい。

 物品的我が儘は無理とすると・・・精神的我が儘、ということになるが。
 「一生、俺のことだけ考えてv」
 なんて、『我が儘』言われようものなら、
 「そんなのは、我が儘じゃねぇ、当然のことじゃねぇか」
 と、答えてやるのだが。
 ・・・まあ、まず、無理だ。

 「なぁ、龍麻。なんか、食いたいもの、あるか?」
 つい、食べ物に振ってしまったのは、今日の壬生のクリームコロッケが頭に残っていたからだろう。

 うにぃ、と龍麻は、意味不明な言葉を漏らす。
 「・・・・・・し〜ず〜〜〜」
 「シーズー?・・・犬か?」
 半分眠り込んでいる龍麻の口から、ついに、人間の言葉が出てきた。

 「シズの塩焼き〜〜・・・まんばのけんちゃん〜〜・・・・・葉ゴボウのピリ辛煮〜・・・打ち込みうどん〜〜」

 ・・・人間の言葉には違いなかったが。

 シズとは?
 まんば?けんちゃん?
 葉ゴボウ?
 
 村雨の頭の中に<?>マークが飛び交う。                          しかし、本日の目標「龍麻に我が儘を言わせる」は、一応成功したのだ。
 本人に解説を求めるのは、野暮ってもんだ。
 男、村雨、ここは自力で暗号を解読し、龍麻の我が儘を叶えてやるのだ。       
 
 「確かに承ったぜ、先生よ」

 村雨の脳裏には、すでに、龍麻の驚き喜ぶ顔しか映っていなかった。


 さて、翌日。
 龍麻を学校に送り出してから、村雨はパソコンの前に座った。
 皇神の3年は、この時期ほとんど授業がないのだ。
 決して、さぼっているわけではない。
 それはともかく、インターネットで、「シズ」「まんば」「けんちゃん」などを検索する。
 
 結果。
 龍麻の出身地である香川の郷土料理であることは判明したが。
 料理法も出ているは出ているが、いかんせん、材料が手に入らない。
 
 村雨が腕を組み、考え込んだのは、ほんの数秒。
 「くくっ、先生、アンタの我が儘、叶えてやるぜ・・・」
 上着に手を通しつつ、呟く言葉を聞くものは、誰もいなかった。

 
 さて、まるで何事もなかったように、1週間が過ぎた。
 龍麻は最初から、自分が寝言のように食べ物を強請ったことを忘れているのか、それともあきらめているのか、村雨に再度せっつくことはなかった。
 村雨も「そんなことは聞いたこともございません」みたいな態度であったし。
 
 が。
 その朝。
 何気なく、本当にさりげなく、村雨は朝の味噌汁をすすりながら、龍麻に言った。
 「あぁ、先生。今晩は、俺が夕食を作るから、如月んとこ寄ったり、ラーメン食ったりせずに、戻って来な」
 「え〜・・・お前の料理〜?」
 あからさまに不満そうなのは、失礼ってものだろう。
 少なくとも、龍麻が作るものよりは人間向きだ。
 「村雨の料理って、なんか酒のつまみみたいでさ〜」
 ・・・それは、確かに当たっている。
 というか、それが村雨の料理の原点だ。
 高蛋白・高塩分で料理自体は、少量ってなもんだ。
 普通の夕食向きではないかもしれない。
 「何だ、俺の料理は、イヤかい?」
 「・・・まあ・・・キライじゃないけど〜」
 目を逸らしてぼそぼそ呟くあたり、本気で嫌がっているようでもない。
 箸を犬ぐわえして、じーっと探るように見やるのを、にやりと笑って誤魔化す。
 「じゃ、決まりだ。うまいもん、食わせてやるぜ」

 
 で、その夕方。
 龍麻が帰ったときには、すでに村雨はキッチンにいた。
 「あぁ、お帰り、先生。・・・アンタは、リビングで待ってな」
 「ん〜・・・で、何、食わせてくれるんだ?」
 覗き込むのを、巧妙にブロックして、村雨は笑う。
 「内緒」
 それを胡散臭そうに見て、それでも龍麻は大人しく引っ込んだ。
 
 数十分後。
 「・・・村雨、なんか、焦げ臭い・・」
 ひょこっと龍麻が覗きに来た。
 その言葉に慌てて、グリルを引き出す。
 途端に、焦げ臭さはキッチン中を満たした。
 「でーっ!そうか、ここのは火力が強いのか・・」
 言い訳がましく呟くが、実際は忘れていた、というのが正しい。
 村雨は、まだ辛うじて魚と判別できる物体を、ひっくり返した。
 「・・・村雨、あっちの鍋、吹いてる・・・」
 グリルにかまっている間に、鍋の蓋ががたがたっと音を立てたかと思うと、じゅわっと大量に吹きだした。
 あせってコンロのスイッチを捻り、火を止めている間に、龍麻の手がすいと伸びて、隣の鍋の蓋を開けた。
 「こっちも、微妙に怪しい・・」
 龍麻は、4つ点いていたスイッチを、全て消した。
 「・・・村雨、慣れない人間が、一気に作ろうとするのは、無理なんじゃないか?」
 「・・・・・・はは・・・・・」
 力無く笑って、村雨は肩を落とした。
 そう、頭では分かっていたのだ。
 しかし、メニューはどれも熱々の出来立てをいただくのが美味しいものばかり。
 ・・・という献立自体に無理があるのだが、龍麻ご希望とあらば仕方なく。
 
 一つ、大きなため息をついて、仕切直しだ、と気分を入れ替えたところで。
 龍麻が背中から抱きついてきた。
 「・・・その・・・うん、その気持ちは、分かってるから。・・・・・・ありがとな」
 「・・・先生・・・」
 それだけで俄然元気一杯になるのだから、村雨も現金なものだ。
 「・・・では、手伝って頂けますかな?女王様」
 「はなっから、そう言えばいいんだ」
 
 結局、龍麻に食器を出してもらったり、よそってもらったりしつつ、夕食が出来上がった。
 まあ、魚はちょっぴり冷えて固くなってたり(しかも一部焦げ)、打ち込み汁はどろどろに溶けてうどんの形骸がなかったり、煮物は煮すぎて辛くなったりしたが。
 「いただきます」
 と手を合わせた龍麻は、テーブルの上を見渡して、にこぉっと笑った。
 「で?メニューは?」
 ・・・見て分かれ、と言えないところが悲しい。
 「・・・シズの塩焼き、まんばのけんちゃん、葉ゴボウのピリ辛煮、打ち込みうどん」
 「あ、やっぱりそうなんだ。・・・・でもさー・・・あ、いいや、食べてからにする」
 
 一口食べては、
 「あ、おいしい」 とか
 「懐かしいな〜」 とか
 呟いてくれて、村雨としては、嬉しいやら、失敗作なのが申し訳ないやら、複雑な気分であった。
 作り方は分かってんだ、次回こそ!と、心の中で握り拳を作る。
 いつもより、一口一口味わうように食べていせいで、龍麻が食べ終わったのは、随分と時間が経ってのことだった。
 ごちそうさまでした、と両手を合わせて、そのまま龍麻は両腕を組んだ。
 「で?・・・わざわざ俺んちまで行ったのか?」
 「いや?作り方はネットで調べて・・・」
 「嘘つけ」
 苦笑とともに、龍麻は指をとんとんと鳴らす。
 予定では、「ありがと」なんて言いつつ甘えてくれるはずだったのに、なにゆえ、取り調べのような雰囲気になるのだろう、と、ちょっぴり遠い目をしながら、村雨は言い抜けする言葉を探す。
 「あの、まんばのけんちゃん。ホントは厚揚げか豆腐か、どっちかしか入れないんだ。うちは両方入れるけど。味付けもすっげー慣れ親しんだ味だったし」
 「あ〜・・まあ電話で聞いたのは確かで・・・」
 「更に嘘。シズとかまんば、めっちゃ新鮮だったし。・・・香川まで行ったんだろ」
 「いやあ、送ってもらって・・・」
 「・・・電話、してみてもいいんだぞ?」
 携帯を取り出して、今にも短縮ボタンを押しそうな龍麻に、降参しようとした途端、いきなり携帯が鳴った。
 龍麻自身もびっくりして、携帯を取り落としかけたが、危うく持ち直して、耳に当てる。

 「はい、緋勇龍麻です・・・あ、母さん。ちょうど今、その話を・・・」
 げ。
 龍麻の実家かららしい。
 
 「1週間、通った〜〜〜〜!!!?」

 ・・・ばれた。

 「い、いや、だって、そななほっこげなことするや思わんもん〜・・・我が儘?だ、だって、村雨が・・・はぁい・・・うん、分かってる・・・うん、ほな」

 携帯を切って、こめかみに手を当てつつ、龍麻が振り返った。
 「村雨・・・・・・東京から香川まで、1週間、通ったのか」
 「い、いや、飛行機なら1時間だしよ・・・」
 「飛行機で、1週間・・しかもとんぼ返りか」
 「ちぃっとばかし、教えて貰おうかなっと・・・」
 後ずさりつつ、ははは、と笑ってみせる村雨に、龍麻は、がくぅっと突っ伏した。
 「なんでまた、そこまで・・・」
 
 「そりゃあ決まってんだろ。・・・アンタの喜ぶ顔が見たいがためだ」
 
 そこは胸を張って言い切る村雨に、俯せたままの龍麻の声が聞こえた。
     
 「あ〜ほ〜か〜・・・」
 「・・・そりゃ、ねぇだろ・・・」
 「だってさ〜・・」
 
 何か予定と激しく狂って、龍麻に非難されているようなのだが。
 さすがに、がっくりきて椅子に座り込んだ村雨の目に、龍麻の耳が見えた。
 ・・・真っ赤である。
 そりゃもう、トマトもかくやってくらいに真っ赤である。
 
 「我が儘ってのはさ〜、なんて言うか、相手が俺のこと、どれだけ許してくれてるかのバロメーターみたいなもんでさ〜・・だから、村雨には、言う必要が無いんだってば」

 まだ、下を向いたまま。

 「だって、村雨、俺のこと、愛してんだもん〜・・・知ってるんだからな〜、ちくしょー・・・」
 「・・なんで、そこで『ちくしょー』になんだよ・・」
 「・・・うぅ・・・・くそー・・・まだ、おさまんねー・・・・むらさめー・・・」
 「何だ、先生?」
 「愛してるぞー」

 ・・・聞いた。
 そして、効いた。
 突如、龍麻ががばと身を起こした。
 「はっはっは、ざまーみろ、村雨!貴様の顔も赤いぞ!」
 いや、そんなこと、真っ赤に染まった顔で言われても。
 あんまりにも幸せなので、村雨は、立ち上がって、龍麻の背後に移動した。
 そして、そのまま抱きしめる。
 「愛してるぜ、龍麻・・・」
 「だから、それは知ってるってば」
 可愛くない返事をする可愛い恋人は、くるっと振り向いて、村雨にキスをした。


 翌晩。

 見るともなしに、点けっぱなしのテレビを眺めていると。
 『なんと、ピラニアよりも凶暴だと言われる幻の魚が、現地にいるらしいのです!』
 なんかわざとらしい現地の人の証言なんかが盛り込まれつつ、その幻の魚を捕獲する作戦が始まる。牛を丸1頭、ロープで繋げていると、翌日骨と皮だけになってたり。
 「そういや、ピラニアってやつは、結構旨いらしいぜ?」
 「へー。んじゃ、この幻の魚ってのも、旨いのかな〜」

 何気なく、龍麻は相づちを打ったが。
 村雨の目がきらーんと光るのを見て、慌てて身を起こした。
 「じょ、冗談だからな!?食いたいなんて、言ってないからな?!」
 「くっくっく、そうかい、そうかい」
 「お前、『俺の運をもってすれば、幻の魚の一つや二つ』とか考えてないか!?マジで、俺、食いたいとか言ってないからな!」
 
 しかし、今現在、村雨の脳裏には。
 世界で唯一人、自分しか叶えられない『龍麻の我が儘』を、ばっちり達成して、『村雨、愛してる』なんて顔を赤らめた龍麻の様子がぐるぐる回ってたりして。

 「村雨〜〜!!聞いてるか〜〜!?」
 悲壮ささえ漂わせる龍麻の声も耳に入っていない。
 「なぁ、先生」
 「あぁ!?」

 「刺身とスープ、どっちがいい?

 答えは、こめかみへの、強烈な一撃であったとさ。



   どっとはらい。



ジーダの言い訳
5556(5555のニアピン)を踏まれた綾月様からのリク
『料理をする村雨さん』でした。
最初はね・・もっと格好良くさ、踊りながらステーキを焼くとか
考えてたんだけど、うちの村雨さんは『情けない』のが売りだしさとか思って・・(売るな)
すみません。肝心の料理する部分が短くて。
うちの村雨さんは『金で片が付くことなら、金を出す』人なので、料理しないんです。

こんなもんですが、綾月様、御笑納くださいませ〜!


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