3万HIT御礼
御礼になるのかどうか微妙な代物。
このメイドさんたちは、非常に役に立たなさそう(笑)。
連帯責任で毎晩旦那様に可愛がられているらしい。
メイド村雨の場合。
緋勇家の次期当主である龍麻坊ちゃんは悩んでいた。
もうじき18歳の誕生日を迎えるのだが、それに関して親父がろくでもない命令を残していったからである。
何とかして逃れる術はないか、と今日も頭を抱えていたところ、金髪グラマーな家庭教師に窘められてしまった。
「まあ、龍麻。何も結婚相手を決めろと言われているのでは無いでしょう?どのみちお世話係は必要なのだし、それが好みの相手であるに越したことはないわ」
「マリア先生・・でもなー、世話係=結婚相手って期待されてる気がしてな」
「あら・・そうね。緋勇家は、代々メイドと結ばれているから・・メイドたちは当主のお世話係になるのを、それはもう夢に見ているわよ」
「・・うぅ・・代々メイド萌えの家系ってのが近隣に広まってるなんて、俺は恥ずかしくてやってられんぞ」
そう、代々当主は18歳になると、専任のお世話係なるメイドが一人付くことになっている。
そして、緋勇家においては、そのメイドと結ばれることが、非常に多かったのである。
かく言う龍麻の母もまた、父の元メイドであった。
龍麻を産んですぐに亡くなってしまった彼女の亡骸を冷凍保存して、父は各地を放浪している。
彼女に似合う最高のメイド服を探す旅である。
題して『世界制服の旅』。
息子は、大変気まずかった。
それはともかく。
龍麻もまた、18歳の誕生日を迎えるにあたり、専任メイドの選出を命じられているのである。
だが、極真っ当な神経を持っている龍麻にとっては、その習慣は迷惑以外の何物でもなかった。
しかし、抵抗していても毎日やいのやいのとせっつかれるのは目に見えている。
仕方がない、と龍麻は溜息を吐いた。
そして、数日後。
家庭教師に長々と書かれた紙を渡し、
「この条件を満たすメイドを選んでくれ。そうでなきゃいらない」
と宣言したのだった。
2ヶ月後。
誕生日も過ぎ、うまくいった、と龍麻がほくそ笑んでいた頃、マリア先生がにこやかに部屋に入ってきた。
「喜んでね、龍麻。見つかったわよ、貴方の理想のメイドが!」
その背後に続いて入ってきた『メイド』を見て、龍麻の顎が、がくーんと下がった。
「ち、ちょっと、待ってくれ、マリア先生・・それ、どう見ても、男・・」
長身かつ筋骨逞しい肉体をメイド服に包み、頭には可愛い帽子(白いリボン付き)を被っているが、顎にはうっすら無精髭。
スカート丈は長目とはいえ、にょっきり付きだした足には、スネ毛がもさもさと。
どこからどー見たって男である。
だが、マリア先生は気にした様子もなく、手にした紙を読み上げる。
「えーと・・まず、『知力・体力・時の運を満たすこと』でしょう?
知力の『英検1級取得、他外国語2つ以上が堪能であること』については・・」
「あぁ、英検は取ってるし、他にタガログ語とウクライナ語がいけるぜ?」
「・・何故、そんなマイナーな言語を・・・」
「それから、『暗算でラプラス変換が出来ること、流体力学の方程式が解けること』。これも、クリアしたわ」
「マジでーっ!?」
「他の学力に関しても、私が試験したけど、ほぼ満点だったわ」
「信じられん・・・」
龍麻坊ちゃんは呆然とした。
彼の知識を振り絞って、クリアできそうにもない難題を突きつけたつもりだったのに。
「体力に関しても素晴らしいわ。貴方の求める『100m6秒台以下、幅跳び5m以上、高飛び自分の身長以上』・・他も全てOKよ」
「どこのオリンピック選手だっ!」
「時の運も問題ないわ。ロト6を買って貰ったんだけど・・1億円が出た数字を3枚買っていたの」
「それだけ稼いだなら、勤めに来ることないだろーが〜!」
「いや、俺ぁ金目当てに来てるわけじゃねぇから」
あっさり言い切ったメイド(男)は、何が可笑しいのやらにやにやと笑いながら龍麻を見ている。
よく考えると、メイドの割には言葉遣いがイマイチだった。
まあ、この風体で丁寧語なのも不気味だが。
「容姿端麗、学力優秀、身長も貴方の求めをクリアーしたし・・」
「よ、容姿端麗?・・そ、そういう表現も・・あり・・か?」
「白または花柄エプロンが似合い・・」
「『花』が違うだろーが〜!」
「夜のお勤めも出来る・・これについては、私が試験したけど・・完璧だったわ・・」
ぽっと頬を赤らめるマリア先生に、龍麻は全力で突っ込んだ。
「試したんか〜い!!村主サイトで、村マリアなんて、やっていいことと悪いことがあるだろーが〜!」
「・・とういことで、貴方の求めるメイドは彼よ!」
「いや、だから・・そもそも男じゃんか〜!」
「あら、貴方のメイド条件表に、性別は無かったわよ?」
「当たり前だ〜!誰が、メイドに性別を問うか〜!」
「問わないなら良いんじゃない?」
「良くない〜!」
椅子の上で身を捩りつつ叫ぶ龍麻に、メイドは無精髭を撫でつつ、ずいっと歩み寄った。
「ま、これからよろしく頼むぜ?ご主人様」
「よろしくされたくない〜!」
「精力の限りを尽くして、お仕えしてやるからな?楽しみにしてくれ」
「・・せめてそこは『精根尽くして』くらいにしてくれ〜!精力って・・精力って〜〜〜!」
「んじゃまあ、とりあえず、夜のお勤めの具合を見て貰おうか」
「い〜や〜〜!!」
叫ぶ龍麻をひょいっと担ぎ上げて、メイドは寝室へと歩いていった。
それを見送るマリアは、にこやかに手を振るのだった。
「良かったわね、龍麻。これで貴方にも専属メイドが出来た・・私も当主の御命を果たせて嬉しいわ」
こうして。
やはり緋勇家の当主は、メイドと結ばれるのであった。
めでたしめでたし。