森の木陰でドンじゃらホイ


 (まずい・・・)
 たら〜り、とガマの油よろしく、鏡を見つめながら、リアムは冷や汗をかいている。
 夕べは、クレイドルの訪いは無かった。
 ということは、たっぷり寝る暇があったということだが。
 鏡の中のリアムの顔は、腫れぼったい上に、目がやや充血している。
 (読むんじゃ無かった・・・)
 フィーレ先生がくれた1冊の本。その名も『新婦心得』。
 初夜の迎え方から、『穢れ』時に受け入れられない場合の、体位及びご奉仕の仕方まで。
 何で、賢者がこんな物を持ってるのだ、と突っ込みたくなるような知識満載の、その御本を、つい寝る前に広げてみたのが悪かった。
 ショックのあまり、ほとんど徹夜。

 とは言うものの。男女のなさるべき事は、理解したとは言え。
 口でのご奉仕くらいしか、流用できる技術がない。
 しかも、それには『ただし、初めての相手に、いきなりソレは避けましょう。慣れていると思われ、幻滅されがちです』と注釈がついてたし。
 その他は、男同士で、どのように応用するのやら。

 (あ〜もう!考えてたって、仕方ないし!・・・とにかく、この顔、何とかならないかなぁ・・・)
 冷たい水で、顔を何度も洗う。
 しかし、タオルで擦る度に、顔がますます赤くなる。
 再び、鏡を覗き込みながら、しくしく泣いていると、扉を叩く音がした。
 少し乱暴な、叩き方。でも、誰が来てくれたのか、すぐに判る。
 「は〜い」
 来ちゃったものは、しょうがない。会えて嬉しい方が、勝ってるし。

 顔を合わせたクレイドルは、何も言わなかったが、リアムを見て、少し驚いた顔をした。
 涙の跡はあるわ、目は充血しているわ、顔は腫れぼったいわ。
 泣いていたと思われても仕方がないだろう。

 それはそれとして、夕べの事は、何て言おう、とリアムは思案する。
 御礼を言おうかとも思ったのだが、クレイドルはわざと姿を見せずにいたようだから、何も言わない方が、彼の気持ちに沿っている気もするし。
 でも、一応、何故森を歩いていたかだけ、説明しておこう。
 「え〜と。クレイドルさん。・・・昨日の、あれ、分かりました。フィーレ先生に、教えて頂いたんです。こういうのも、キスマークって言うんですね・・・僕、全然知りませんでした」
 「ふん・・・また一つ、賢くなって、良かったな」
 揶揄の口調だが、悪意は無い。
 それどころか、目線を外したその顔は、うっすらと紅潮している。
 (赤くなったクレイドルさんの顔って・・・ちょっと可愛くて、格好いいなぁ・・・)
 矛盾した事を考えつつ、リアムは、うっとりとクレイドルを見上げる。
 なお、本日はすでに、クレイドルの膝の上に、横座り中。
 「はい・・・。また、色々、教えて下さいね?」
 「子供のくせに・・・分かった風な、口をきく・・・」

 クレイドルの顔が、更に赤くなった。
 頭の中では、『教えるべき色々な事』が渦巻いてもいるのだが、リアムには通じていない。
 こういうところで鈍いせいで、クレイドルが『お持ち帰り計画』を躊躇っているのも、全く気付いていない。困った物だ。
 クレイドルとしては、出来ることなら、リアムの覚悟が確認できてから『お持ち帰り』したいのだが、いかんせん、『アンヌンに行く』=『クレイドルの贄になる』=『いたす』をリアムが理解しているかどうかが、どうも心許ない。
 やっちゃった後で『こんなことするクレイドルさんなんか嫌いだ!』とか言われると、大変物悲しい気分になるであろうと推測される。
 一度言われてるし。
 まだ大して心を奪われていなかった頃に言われたのでさえ、ある程度のダメージを受けたのだ。
 今、あれを言われたら、ぶち切れそうな気がする。

 クレイドルが何を考えているかは知らないが、黙って考え込んでいるようなので、リアムも黙って、クレイドルの膝の上で抱かれる心地良さを堪能する。
 そのうち、睡魔が襲ってきて、脱力しかける。
 「・・・何を、考えている」
 クレイドルの声に、びくっと起きて、胸に頭をすり寄せた。
 「クレイドルさんと、こうしてると、何だか気持ちよくて、眠っちゃいそうだな〜って」
 「馬鹿な子供だ。俺と共にいて、そんなに無警戒でいていいのか?」
 「・・・なんで、警戒しなくちゃいけないんですか?」
 クレイドルさんと一緒にいるのが、一番安心できるのに、と言いかけて、ちょっと悩む。
 悪魔にとって、『安心できる』と言われるのは、不名誉なことだろうか?
 あまり失礼なことを言って、怒らせるのは避けたい。

 代わりに、別のことを言ってみる。
 「夕べ、ちょっと考え事しちゃって、寝不足なんです。今度、クレイドルさんにお泊まりしてもらおうかな。そしたら、ぐっすり眠れるかも」
 冗談めかして言ったつもりだったのに、クレイドルの顔が、また赤らんだ。
 ・・・しかし、これは怒りのためのような気配もする。
 そりゃまあ、結果として『安全牌』扱いされてるも同然な上に、泊まってもぐーぐー寝るだけという意味だし。
 悪魔だから、というより、男として、不名誉な気がする。
 「・・・眠らせるものか」
 「はい?」
 押さえた声に、リアムは反応するが・・・やっぱり理解はしていない。
 それどころか、喋っていないと眠り込みそうなくらい、心が弛緩しきっている。

 「・・・起きろ」
 また、数秒意識が途切れたらしい。クレイドルの声が遠い。
 ふいにクレイドルが、リアムの身体を押しのけ、立ち上がる。
 (怒らせちゃった?!)
 いきなり覚醒し、泣き出しそうな目で見上げると、クレイドルは不機嫌に言い放った。
 「どこか、案内しろ」
 「はい?」
 「さすがに歩けば、目が覚めるだろう。どこでもいい。お前が、好きな場所に案内しろ」
 「えと、えとえとえと・・・森かなぁ・・・」
 「どこでもいいと言っている」
 ぶっきらぼうなのは、幾分照れも混じっているのだが、リアムには、クレイドルが不機嫌そうだというのしか判らない。
 慌てて、戸口へと向かった。


 森への道を歩きながら、リアムは横に立つ悪魔を見上げる。
 「ごめんなさい、クレイドルさん・・・せっかく来ていただいてるのに、僕、寝そうになったりして・・・失礼でしたね。反省します」
 「ふん・・・」
 「クレイドルさんが、優しいからって、甘えすぎでしたね・・・」
 「俺が・・・?優しい?・・・ふん。馬鹿な子供だ」
 だって、優しいもの、とリアムは思う。
 誰よりも優しくて、誰よりも格好良くて、誰よりも素敵な人。
 こうやって、馬鹿な子供に付き合ってくれるし。
 (もうちょっと、僕が大人だったら、クレイドルさんは、僕のこと好きになってくれるかなぁ・・・20歳くらいになってたら、もうアンヌンに連れて行ってくれたかなぁ?)
 考えても仕方が無いことだけど。
 4年どころか1ヶ月以内に、香水瓶は一杯になる。
 そういえば、と気付く。
 「この辺だったんです。香水瓶、拾ったの」
 いつもの道で、草むらに半ば隠れながらも、煌めいていた綺麗な瓶。
 あれを拾わなければ、どうなっていただろう。
 拾って、蓋を開けなければ?
 「後悔しているか?くだらないことに、巻き込まれた事を」
 「くだらなくなんか、ないです!」
 だって、貴方に会えたもの。
 もしも、あのままなら、平穏に学生をしていて、きっといつも通りフィーレ先生の学舎に通っていて。
 あの頃は、それで幸せだったけど、今はそれじゃ物足りない。
 貴方と会わない生活なんて、考えられない。

 ナーヴェリーなんて作りたくない。

 ざわり、と首筋が総毛だった。
 考えちゃいけないことに、気付いてしまった。
 ナーヴェリーなんて、どうでもいい。天使と悪魔の和解なんて、どうでもいい。
 もしも、和解が成立して、だから、どうなるというのだ?
 その風景に、自分は関係がない。
 みんなが仲良く暮らしたって、そこには自分はいない。
 ただの人間でしかない自分が、たかだか50年ぐらいの人生を終わらせた後も、彼らはずっと生きていくのだ。
 そういえば、そんな奴がいたなぁとか、リアムのことをたまに思い出しながら。
 そして、クレイドルは、誰といるのだろう。
 誰に話しかけて、誰に笑うのだろう。

 自分ではない、誰かに。

 そんなのは、イヤだ。
 絶対に、イヤだ。
 どうやってでも、クレイドルについて行きたい。

 たとえ、何を失っても。
 たとえ、何をしてでも。

 とは言っても。
 リアムは、苦く笑う。
 自分に出来るのは、せいぜい願いを込めて、メーラの葉を調合するだけ。
 それは、願いと言うより、呪詛。

 (僕は、穢れた、醜い人間です、ジーア様。
  こんな人間に、何故あなたは香水瓶を拾わせて下さったのでしょう?)

 クレイドルの意志をねじ曲げてでも、自分の意志を押し通したい。何て、汚れた欲望。
 自分の好きな人が、幸せに暮らす。どうして、そんな風なことを望めないのだろう。


 「クレイドルさん。・・・手をつないでも、いいですか?」
 「・・・好きにしろ」
 大きな手に触れると、握り返してくれた。
 身長差のせいで、幾分腕を曲げなければならないが、なるべく寄り添うようにして歩く。
 ・・・自分の躰から立ち登る、魅惑の香りが、クレイドルに届くように。

 (本当に、僕は、醜いな)

 だんだんと薄れていくグラウメリーの代わりに、メーラの葉を調合して、クレイドル好みにして。
 (でも、利用できる物は、最大限に利用しなきゃ)
 だって、本当の自分は、こんなにも愚かで醜い、つまらぬ存在だから。
 それが判っていても、この望みは止められないから。

 「これが・・・お前の世界か」
 クレイドルの呟きに、リアムは俯けていた顔を上げる。
 (僕の、世界)
 早朝の、幾分ひんやりとした空気に、幾重もの葉を通して降り注ぐ、フラヒスの光。森の中の、湿った匂い。
 きらきら光る水面と共に、好きだったはずの光景。

 今は、違う。

 クレイドルが居る光景こそが、自分の望む世界。
 中でも、一番好きなのは、朝一番に聞こえるノックの音に、扉を開けた時に、見つける貴方の姿。
 眩しい光に照らされて、不機嫌そうに目を細めながら、こちらを見る顔。
 「この道は、どこに続いている?」
 「シーの森です。妖精さんたちがいる」
 「もう少し、足を伸ばしてみるか」
 少しでも、長く一緒にいたいから、リアムに異存は無いけれど。
 ひょっとして、俯いていたのを、まだ眠りかけていると思われたのかも。
 
 このまま、時間が止まればいいのに。
 このまま、ずっと二人だけでいられればいいのに。
 それを、邪魔したのは、妖精だった。
 「こんにちわ、学生さん。良いお日よりですね」
 「こんにちわ、サフィ」
 まあ、妖精がそこにいるのは、仕方ないけど。
 ルビィやエメルがいるよりは、ましだったかも、とリアムは自分を慰める。
 「後ろの方は、どなた・・・きゃああ!あ、悪魔〜!」
 「あ、サフィ!」
 いなくなった・・・ラッキー。
 ・・・じゃなくて。
 「今のが、妖精か」
 「はい・・・ごめんなさい、クレイドルさん」
 全く、失礼な、妖精だ。
 たとえ悪魔だろうと、世界で一番優しくて、世界で一番格好良くて、世界で一番素敵なクレイドルを見て、悲鳴を上げるなんて。(・・・念のため、書き添えて置くなら、これは、リアムの視点である。)
 別に、「お似合いだ」とか言われたかった訳でもなく、「ラブラブだよ〜」とか叫ばれたかった訳でもないけれど。
 それでも、逃げるのは、失礼だろう。
 「何故、お前が謝る?・・・俺なら、怖れられて当然だ。・・・悪魔なのだから」
 「だって・・・僕・・・」
 「いいから、涙をふけ。・・・みっともない」
 慌てて、顔を擦る。
 多分、自分は今ひどい顔をしている。
 悔しさと、悲しさと、怒りと。全部、それは負の感情だ。
 逃げるように、顔を背けて、リアムは言った。
 「すみません、僕、ついでだから、香料採ってきます」
 「・・・俺は、こちらで、待っている」
 「はい・・・」
 
 世界で一番優しくて、世界で一番格好良くて、世界で一番素敵な人でも。
 悪魔、なのだ。クレイドルは。
 自分とは、違う世界の、住人。
 クレイドルが望まなければ、共に行くことも出来ない。
 自分が、いくら望んでも。
 「不利だなぁ・・」
 小さく呟き、苛立ちのままに、ティンヌの枝を握りしめた。

 棘が、刺さるのも、気に止めずに。


 「お待たせしました」
 妖精の輪から離れた入り口で見つけたクレイドルは、なんだかぼんやりと天を仰いでいた。
 いつもは、光を避けて手をかざすか、顔を背けるかしているのに。
 「・・・眩しくないんですか?」
 「・・・ここの、光なら、な。多少は、ましだ」
 様々な形の濃淡を作り出す、木々を通した光。
 クレイドルは、比較的強い光線を手に受けて、それを見ながら、穏やかに言った。
 「・・・これが、お前の愛する、光なのだな・・・。捨てられない、というのも、解る気がする・・・。これは、お前に、似合う。お前のいる世界は、やはり、ここか・・・」

 一瞬、頭の中が、真っ白になる。
 どういう意味だろう。
 お前がいるべき世界は、ここだと・・・言われてるのだろうか? 
 まさか・・・・・・アンヌンに連れて行ってくれる気は、全く、無いのだろうか?
 
 「クレイ・・・」
 思わず伸ばした手が、クレイドルに触れる前に、掴まれた。
 「これは、どうした?」
 「・・・あ、さっき、棘で・・・」
 指先と、掌から、血が流れている。
 心が疼いていたから、気付かなかったけれど、結構深く刺したようだ。
 引っこめようとした手を更に引かれる。
 「あ・・・」
 指先を、くわえられた。
 温かくて、少しざらついた舌が、流れた血を嘗め取り、傷をつつく。
 そのまま、乾いた血の跡を追い、掌へと舌が這っていく。
 「ん・・っ!」
 瞬間、背筋を走った痺れを噛みしめて、声を漏らすまいとするが、息を詰めた分、顔が紅潮するのを避けられない。
 そのまま手を引かれ、クレイドルの胸に抱き取られた。
 背けていた顔を、顎にかけられた指一つで上向けられる。

 幾度目かのキスは、血の味がした。

 軟体動物のように蠢く舌を、何故か不快とは感じない。
 それどころか、自分の口腔内を探るそれを追い、絡めることで、気が遠くなるような陶酔が襲う。
 がくりと力の抜けかけた躰を、背後の樹に縫い止められて。
 ぼんやりとしている間に、シャツが捲り上げられていた。
 「あ・・・やっ・・・」
 首筋に触れる吐息。大きな、乾いた手が、胸を覆い、さすり上げた。
 「んっ・・・クレ、イドル、さ・・・」
 淡く色づく小さい実が、幾度か刺激されて、硬く立ち上がる。
 それを更に、引っ掻くように嬲られて、尾てい骨から背筋を上に駆け抜けた電流を、目の前のクレイドルの肩に縋り付くことで、受け流そうとした。
 その、肩が沈んだ。
 ぴちゃ、という音で、クレイドルが舌を這わせたのを、辛うじて認識する。
 普段、そんな過敏な神経が通っているとは思ってもいなかった部分に対する刺激が、全身を支配する。
 立っていられない。
 意識を保とうと、力無く振った頭につれて、ぱたり、と涙がクレイドルの髪に落ちた。
 「・・・嫌、か?」
 見慣れた青緑色の瞳が黄みがかっている。
 刺すような視線に下から射竦められ、リアムは数瞬、逡巡した後、かぶりを振った。
 「それでいい」
 満足そうに、クレイドルの目が和らぐ。
 それが何より嬉しくて、震える手で、また胸へと降りたクレイドルの頭を抱えるように、しがみついた。

 ところで。
 ここは、いくら妖精の輪から離れたとはいえ、妖精の森であるわけで。
 彼らにとってみれば、自分たちの家の庭先で、いきなりおっ始められたも同然で。
 「ちょっと〜!どうにかしなさいよ、あれ!」
 「あぁぁ、リアムが・・・悪魔に襲われてます〜」
 「実際問題として、僕らがどうこう、できませんけどね」
 こそこそと囁き交わす妖精達に、リアムは全く気付かない。
 クレイドルは、仮に気付いたとしても、気に止めないだろうし。
 「ら、らぶらぶにも見えるんだけど・・」
 「仮に、合意の上のことでも、私たちの目の前では、やめて欲しいわよっ!」
 「このままじゃ、リアムが『魔』になっちゃいます・・・」
 「だからといって、どうしようもないでしょう?邪魔したら、僕ら、殺されますよ」
 「おいら、とりあえず、みんなを呼んでくるね」
 ・・・妖精、鈴なり。

 「んくっ・・・んん!」
 がくがくと足が震える。
 ごく淡い色彩であった小さい飾りは、何度も舐られ、色づいている。
 歯をたてられる痛みすら、すぐに快感にすり替わって。
 ようやくクレイドルが頭を上げた。
 瞬間、さらされた空気の冷たさにすら背筋が粟立つ。
 力の抜けた躰は、クレイドルの腕に支えられている。
 だから、その濃密な口づけは、頭を振れば簡単に逃れられるはずであったが、リアムにその意志はない。
 それどころか、ゆらりと両腕を上げて、クレイドルの首に回し、自分から舌を絡める。
 だが、次の瞬間、思わず仰け反って小さく叫んだ。
 「!い、いやっ!」
 クレイドルの手が、下腹を這っていた。
 ベルトが緩められ、ズボンが乾いた音をたてて、草地に落ちた。
 すでに形を変えていたそこを、直接掴まれて、目がくらみそうになりながらも、胸を押し返そうとした。
 「このままでは、辛いのだろう?」
 本気で訝しんでいる声。
 耳元を掠めたそれにすら反応する。
 「だ、だって、だって・・・あっ・・・」
 緩く挟まれ、2、3度扱き上げられただけで、リアムはあっけなく達して、その場にへたり込んだ。
 上がる息を押さえ込み、何度か舌で乾いた唇を嘗める。
 紅潮した顔のまま、リアムはクレイドルを見上げ・・・慌てて、飛び起きた。
 クレイドルは、ゆっくりと自分の掌を舐めていた。
 その手を汚している白濁した液は、自分のものだ。
 「ごごごごごめんなさいっ!僕、汚しちゃっ・・・!」
 半ばぶら下がるようにして、クレイドルの手を下ろした。
 そして、迷わず、クレイドルの手に舌を這わせる。
 苦い、自分のものに、眉を顰めながら、丁寧に舐め取り、クレイドルの手の動きに合わせて顔を上げると、金色に染まった瞳が、貫きそうな強い光を放っていた。
 引かれるままに、無言で唇を合わせる。
 リアムの唾液に濡れたクレイドルの手が、背筋を這って、尾てい骨まで降り、白い双丘を割った。

 「ちょっと〜!!あれ、本格的に、まずいわよ〜!!!」
 「あぁ、あれは、最後までいっちゃう体勢ですね」
 「リアム・・・ふっ(気絶した)」
 「え〜、かち割り、いかがっすか〜」 
 「どどどどうする?おいら達、どうする?」
 「なんとかしなさいよ!!男でしょ!」
 「この場合、関係がありますか?」
 物売りまで出現して、観戦モードに入っている妖精達ではあるが、リアムを見知っていた妖精達は、さすがに慌てている。
 このまま襲われる→学生さんは『魔』になる→ナーヴェリー未完成→ルー様にますます怒られる
 ・・・というわけ。
 「・・・ここは一つ、長老に我々の未来のために犠牲になっていただく、ということでどうでしょう?」
 「それしか、ないわね」
 「わ、わしはイヤじゃ!悪魔に殺されて死ぬなんて、イヤ過ぎる!」
 「長老の犠牲は忘れません。後のことは、このアンバーにお任せ下さい」
 「貴様、クーデターを起こすつもりか〜!」
 「では、いきますよ。せ〜のっと!!」
 妖精カタパルト発射!

 「ひ〜ぎゃ〜〜!!」
 ぽふっとな。
 
 大した衝撃では無かったが、リアムの意識を多少はっきりさせ、衝撃の源を見渡させる位の効果はあった。
 「・・・妖精さん?」
 「ひ〜!わしは、ただの通りすがりの老いぼれですじゃ〜!命ばかりは、お助けを〜!」
 リアムの背中に回り、クレイドルの視線から逃れようとする長老を、鋭い爪がつまみ上げた。
 ぼんやりとそれを眺めていたリアムが、ふいに真っ赤になって、脚元に蟠っていたズボンを上げて、ベルトを締めた。
 「クレイドルさん・・・あの・・・部屋に戻りませんか?」
 とてもじゃないが、目線を合わせる勇気は無い。
 捲られたシャツを引き下ろし、リアムは、そう提案する。
 目の端に、放り投げられた長老の姿が掠める。
 「ふん」 
 不機嫌そうな声と共に抱き寄せられ、そうっとクレイドルにしがみついた。
 密着した下腹部が、圧迫される。
 (え?・・・・う、うわわわっ!クレイドルさんも、こんなになっちゃってるっ!!)
 自分に、欲情してくれているのだろうか?
 「馬鹿な子供」で「ただの人間」で「男」の自分に。
 そんな力があるのだろうか?
 奇妙な誇らしさと、悦びに胸を高鳴らせながら、リアムは、『飛ぶ』衝撃に備えた。

 「行っちゃったわね」
 「あぁ、長老、ご苦労様です」
 「本気じゃったじゃろう!?本気で、わしを生け贄にするつもりじゃったじゃろう!!」
 「ははは、そんな、気のせいですよ」
 「今度から、リアムと、どんな顔してお会いしたらよろしいんでしょう・・・」
 「い〜っぱい、嘘ついて、苛めてやるわよ!!」
 「また、会える・・・かなぁ・・・?」
 あの様子では、部屋に帰ってから、続きになだれ込みそうな気もするが。


 部屋に戻ったリアムは、ソファに下ろされていた。
 「クレイドルさん?」
 さっさと距離を取るクレイドルを、不思議に思って、見上げる。
 まだ、その・・・クレイドルが臨戦態勢なのは、服の上からでも見て解るのに。
 「リアム!」
 「はいっ!」
 ほとんど怒っているような呼び声に、背筋が伸びる。
 「1日の猶予をやる。光を選ぶのか、闇を選ぶのか・・・俺と共に来るか、否かを、1日、ゆっくり考えるがいい」
 「はいっ!・・・って、えぇっ!?」
 速攻で消え失せた、愛しい男の姿を探して、部屋の中を見渡すが・・・やはり、いない。
 「僕の返事なら、もう、決まってるのになぁ・・・」
 側にあるクッションを抱きしめて、リアムは呟いた。
 (クレイドルさん、これからどうするつもりなのかな?自分で、抜くとか?・・・他の人が手伝ったりするのかな?)
 それは、かなり腹立たしい。
 (他の人にさせるくらいなら、僕が・・・・・・って・・・うわわわっ、僕、何、考えてんだろっ!!口で、どうこうするのは、最初は止めておきましょうって、書いてあったし!これで、いいんだっ、うんっ!)
 クッションを抱えたまま、ごろごろと床を転げるリアムであった。
 転げたまま、クレイドルのセリフを思い浮かべて・・・
 (あれって、プロポーズだよね?ぷろぽおず!!ついに!・・・クレイドルさんと、一緒にいられるんだぁああ!)
 更に、転がる。
 どうしようもないな、これは・・・。

 なお。
 クレイドルは、自分で抜いていた。
 危なかった、と心の内で、反省しつつ。
 ・・・空しい。





   次回予告!!

 ついに、ついに!お持ち帰りが実現します!
 何だか、すっかり5枚目イベントまで行っちゃった気もするが、告白&贄イベントがやって参ります。
 予定よりも、リアムがやたらと強いのだが・・(遠い目)。クレイドル様、しっかりしないと、尻に敷かれそうです!
 次回「闇に、染まる」で、お会いいたしましょう。


   あとがき
 危なかった〜!(byクレイドル様)。ホントに危なく、初Hが「森の中」で「衆人環視(妖精)」の元で行われるところであった・・・。「やったら、贄」。この設定さえ無ければっ!(自業自得)。ちょっと、強引にクレイドル様が引いてます。切羽詰まってたんでしょう・・・すみません(笑)。
 尚、最初は、クレイドル様の瞳は普段青緑で、欲情すると深紅になる(TAKUYO2月度トップ絵参照)と設定してみましたが、深紅の瞳はナデューとかぶるため、金色にしてみました。
 ・・・ところで、イベント内のセリフは、割と適当です。だってほら、イベントは見りゃあセリフがあるんだから、全く同じじゃつまらないでしょ?・・・ということにしておいて下さい(苦笑)。



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