龍麻のせこい企みに陥落した村雨が無意識のうちに鬼畜風味な復讐を果たし、京一が要らぬとばっちりを食った事件から約一月後。
龍麻は不機嫌だった。
いかにも「苛々しています」と書いてあるかのような顔で、明後日の方向を見て机の脚をコツコツと足の爪で叩いている。
「帰れ」
「いきなりそれか。俺には釈明の場も与えてくれないってわけかい」
「お前の言い訳なんざ聞く気は毛頭ない。大体、ホワイトデーもくそもあるか、馬鹿。先月のパターンを繰り返そうってんなら今直ぐぶち殺すぞ」
自分の部屋でベッドに転がり、仰向けで足を組みじろりと睨んでくる龍麻に、村雨は見えない位置で溜息を吐いた。
今まで何度も電話やら何やらで謝ろうとしたのである。しかし龍麻は電話なら取った瞬間に切るし、携帯は着信拒否にするし、真神に行ってもさっさと逃げる。だから三月十四日というこの日、ホワイトデーという口実にかこつけて無理矢理龍麻の自室に押しかけたのだ。
正攻法では無理だと考えベランダから入った。窓が開いていたのは運が良かったとしか言い様がない。
「帰れこのボケナス。俺はお前と話すことなんか、今までもこれからもひとつだってねえからな」
無駄に胸を張る、龍麻の聞き耳持たない言い草に、流石の村雨も苛々と左の眉を上げ顔を顰める。かいた胡座の上にのせた手でぱんと膝を叩き立ち上がると、ベッドに転がる龍麻に覆い被さって言った。
「じゃあ訊くが。あんた、何で俺にさんざ抱かれた?」
いきなり圧し掛かってきた村雨に一瞬たじろいだらしい龍麻だったが、直ぐに威勢を取り戻して睨み返す。
「簡単だ。お前がそれだけ襲ったからに決まってるだろうが」
「それだけか?なら、どうして俺を殴らなかった。必死どころか、あんたが本気になれば俺が敵う訳がない。今までの抵抗が総て本気だったって、あんたは言うのか?」
龍麻の眉がぴくりと動く。顔を横に逸らし、吐き捨てるように答えた。
「お前だろうと、人を傷つけるのはもう嫌だったからだ」
その哀しげな瞳に胸が痛まないではなかったものの、村雨はある確信を持って追求を更に深くする。
「欺瞞だな。何も腕やら足やらを使い物にならなくしろと言ってる訳じゃない。俺を跳ね除ける、ただそれだけで良い筈だ。なのにお前はしなかった。一度も」
一度も、のところを噛むようにゆっくりと発音する。龍麻が僅かに身じろぎ、村雨の胸を弱々しく押した。
「一度も、じゃない。この前だって、追い出した」
「本気で拒絶したことが一度もなかったと言ってるんだ」
「そんなこと……」
龍麻の声が急激にトーンダウンする。ビンゴだ、と村雨は手ごたえを感じてほくそえんだ。
この厄介な可愛い奴は、良いだけ焦れていたらしい。村雨を拒否し続けた結果独りでぽつねんといじけねばならず、よくよく寂しかった(はず)のだ。
龍麻の唇を食む形でかすめさせながら、右手をそっと胸元に伸ばす。順序を間違えちゃならねえ、と村雨は自分に言い聞かせた。龍麻が雰囲気に弱いタイプなのは今までで判っている。いきなり下半身を攻めるのはNGだ。
案の定、龍麻は困った――瞳を潤ませ、眉根を寄せるかなり色っぽい――表情で、村雨のシャツを掴み戸惑っている。耳を優しく噛んでやると、小さく声が上がった。
「や、めろ、って」
ここでこの手の負けず嫌いに、抵抗してみろ、は禁句。本心であろうとなかろうと、じゃあ抵抗してやるよで終わってしまう恐れがある。前回のようにこちらも本気を出して強姦まがいの手に出る方法もないではないが、村雨の好むところではなかった。
従って、自尊心をくすぐりつつあくまで下手に出る戦法をとる。
「俺はあんたじゃなきゃ駄目なんだよ」
「や、だ、って、う、ん、んん――」
耳朶に吹き込まれた吐息混じりの台詞に龍麻は頬を赤らめて身じろぐ。
「やだ、っつって、はぁっ」
嫌よ嫌よも好きのうち――と正に今村雨は思っているが、口には出さない。
確かに最初は半ば無理矢理ものにした。咥えてくれ、なんてことは今もって無理だが、風呂場に連れ込んで後始末を口実に弄繰り回したり、挙句白いナニものか(たぶん蛋白質)を舐めさせるくらいのことはやってしまった。
反対に言えばそこまでやられたにも関わらず真剣に拒まない男を、脈がないなどと誰が思う。ただのセックスフレンドと割り切るだけの根性も経験も龍麻にないのは承知済みだ。
「ん、ん、く、んぁ…っ」
首筋、胸、脇腹と歯を立てつつ、左手で前を慰め、右手で後ろを掻き回してやる。やわらかい壁のぷっくりとしたそこを抉るように擦ってやるだけで、きゅうきゅうと龍麻は小動物じみた声をあげた。その腕はいつの間にやら村雨の首にしっかと回っており、きゅうきゅう龍麻が実は何より好きな村雨はついついサービスしてやっちゃったりするのだ。
「ふ、ぅあんっ」
という訳で三点責めを開始する。龍麻は先刻までの減らず口はどこへやらで、すべらかな肌をじっとりと濡らしてうち震えた。
「あっ、も、やだって」
「我慢しなくていいぜ」
低く耳に吹き込んでやれば震えが一際大きくなった。要するにあれだ、と村雨は得心する。
元々硬派な男に憧れる(今時珍しくもあるが)からこそ、外見と気風の良さで好かれていたにも関わらず、本心ではくすぐったい想いを感じていたとしても特定の女性と交際することがなかった龍麻である。村雨の勢いに押されたなし崩し的な関係から始まって、肌が合い、そしていつの間にか気が合ってしまった(はず)などとは何が何でも認めたくない(はず)のだ。
見栄張りなのだからとも言えるが、無理もないとも言える。その気持ちは良く判る。
だからこそ愛しいし、手離したくない。
「あっ、あーっ、あああっ」
先に一度達した龍麻がびくびく泣きながら村雨を受け入れる。達したお蔭で多少弛緩していた身体が直ぐ感じ始めてしまい、村雨の熱をなかなか呑み込もうとしない。
「たつま」
村雨は優しげにもとれる、大人が子供を見るような目を細め、顎や首筋を噛み鼻先で強張る身体を宥めた。
「んー、ん、んんっ」
ぐずる龍麻が首を左右に振り、村雨に必死とも呼べる力でしがみ付く。低く穏やかな声とは裏腹に、着実かつ強引に自分を侵蝕するものに悲鳴じみた声をあげて戸惑った。眦から頬へ伝う生理的な雫を舐めとり、目を閉じて村雨は軽く鼻を鳴らす。
引き攣る細い悲鳴と共に、龍麻の顎がくんと上に仰け反った。
「っ、っ。らさめ、ぇ」
はあ、と深い溜息を吐いた龍麻が涙の零れるすこぶる魅力的な瞳でじっと村雨を見上げた。
ちょうだい、とかもっと、とかここで言わせられたら俺は神だ、と村雨が妄想した瞬間、龍麻の長い脚が腰に強く絡みついた。
ナニぃ!と意気込んだのは村雨だけではない。
「ふぁあ」
ナニ!と力を篭めたナニが妙に体積を増し、龍麻がちいさな悲鳴を上げる。ぐじゅ、と自分の奥が立てた音を聞いてきゅっと目を閉じ、村雨の肩に噛み付いた。
「あっ、あっ、ふ、うっ……!」
持てるだけの熱を持って立ち上がった龍麻のものが揺さぶられてふるふる震え、先端から溢れるとろみに塗れて時折当たる光にてらてらと輝く。村雨の腹に擦られる先端と抉られる奥が喘ぐような音で鳴いた。
「いや、あ、あっ、あっ」
村雨を舐めまわし吸い付く自分の肉があからさまに判り、嫌だと首を振ると場違いなまでに優しく宥められる。その唇や手に震えた次の瞬間、脊髄を脳天まで衝撃が駆け上った。
「ああ、あーーーーっ!!」
びくんびくんと痙攣する龍麻を太い腕でぐっと抱きしめたまま、抱えた頭をやんわりと撫でて低い声が囁いた。
「いい子だ」
惚けた頭の中でもその言葉は猛烈に恥ずかしいと思った龍麻が、零れた唾液で濡れた唇をぼんやり開けて顰めた眉を顰める。何かを言おうと唇が微かに動いた途端、
「ひぁっ!」
「うん?」
「まっ、やめっ、あっ、あっ、ああ!」
憎らしいほど余裕綽々で笑う目の前の男は、せんせいはいい子だからなとか訳の判らないことをぬかし、疲れ果てた龍麻が気を失うように眠ってしまうまで溢れる愛情と執着心でもって延々責め苛み続けたのであった。
ぶる、と龍麻は身を震わせた。肩がすうすうして寒いとぼんやりした頭で思い、あたたかい方へぎゅむぎゅむと身体を寄せる。目元の頬がざりざりするのが少し嫌で、顔を顰めてむずがった。するとあたたかい何者かがすっぽりと肩まで包んでくれ、ほっとしたところで頬が噛まれて龍麻はぱちりと目を開けた。
「訊く。…何でお前がここにいる?」
龍麻の肉布団であった髭ざりざり男村雨はにやりと笑い、滑らかな腰から下を撫でまわして答える。
「朝から元気だなぁ、先生」
意味ありげな笑いが示すところを悟り、途端に顔を真っ赤にして龍麻が怒鳴った。
「生理現象だ、ばーか!」
「ま、そうだねぇ。俺も同じだ」
喉奥で笑う村雨に龍麻は耳まで染めてぷいと顔を逸らし、不機嫌にぼそりと呟く。
「放せちくしょう!……大体なぁ、ホワイトデーとかぬかして来た癖に、食い物のひとつも持ってきやしねえ」
悪態をつきつつも離れようとはしない龍麻に村雨はだらしのない笑いを浮かべ、ふっと鼻を鳴らした。
「だから食わせてやっただろ。白いやつを、たっぷりと」
十秒後村雨が丸めた服と共に叩き出されたのは、言うまでもない。
ジーダの謝辞
う・・うふふふふふふふふ・・・・
小動さまんち99999(!)キリ踏みましたのことよ♪
思えば、昨年『仁義なきバレンタイン』を読んでから、続きが見たい!と
キリを狙ってたのに・・1年経って踏めたんですな。
執念ですね、もはや(笑)。
京一限定で容赦のない龍麻さんといい、素面でもかなり佐渡属性な村雨さんといい、
ツボです!・・うっとりvv
ぶつぶつ言いながら(いや、龍麻さんが)も、バカップルまっしぐらでしょう!
しやわせ〜〜vvv
小動さま、ありがとう御座いました〜〜!!!