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 僕は、ご存じの通り、霊感が強く、死者の念と話をすることが可能なのですが…。
 あるとき、龍さんが弓道場に一人でいらしたことがありました。珍しいことなのですけどね。たいていは、取手くんか皆守くんが一緒にいますからね。本当にあの二人と来たら、いつでも龍さんとべったりと…あぁ、いえ、その話はひとまず置いておきましょう。
 さて、龍さんが弓道場にいらした…というところまでお話ししましたっけ。
 龍さんは、僕も一人でいますのを見て、ちょっと嬉しそうな顔になって小走りで駆け寄りました。何だか子犬が尻尾を振り振り転げてくるようで大変愛らしかったですよ。本当に、あんなに愛らしいのにすでに男を知っているかと思うと…!(弓がぎゅんぎゅん)
 …あぁ、いえ、また話が逸れてしまいました。
 龍さんは僕にもじもじしながらこう仰いました。
 「あの…神鳳くんは、板戸…っていうものなんですよね?」
 「…イタコです」
 「その〜…俺の親が、どこで死んでるかとか…分かります?」
 聞けば、龍さんの御両親はすでに亡くなられているとか。
 龍さんのご期待に添えないのは大変心苦しかったのですが、僕は首を振らざるを得ませんでした。
 「せめて日本国内であれば何とかなるかも知れませんが、世界中のどことも知れないのでは、僕の力では何とも」
 「…そうですか〜…」
 項垂れた龍さんの頭を思わず撫でると、龍さんは微笑んで僕を見上げられました。
 「あ、でも日本にいないことだけでも分かれば嬉しいです。ちょっとは…ほんのちょっとだけど探索範囲が狭まるから」
 この地球上にどれだけ遺跡が存在するか、僕などの想像外ですが、『日本』が除かれたとしても微々たるものなのでしょうねぇ。
 龍さんは少し考えた後、背後を指さしながら僕に尋ねられました。
 「えーと、念のため聞いておきたいんですけど、まさか、俺の背後に、え〜何て言うんだっけ…」
 「守護霊ですか?それとも背後霊?」
 「あー、そういうの。います?」
 僕はいつもより目を開いて龍さんの背後を見ました。
 「残念ながら、ご両親らしき方はいらっしゃいませんね」
 「そうですか…まあ、そういう人たちでした…」
 溜息を吐かれる龍さんを慰めようと、僕は背後の方をよく観察いたしました。
 「いえ、でも、ご先祖…でしょうか、着物の方ならいらっしゃいますから…」
 「ええええっ!」
 龍さんは文字通り飛び上がりました。
 「うっそ、俺の後ろにいるんですかっ!?じゃあ、そいつ、いつでも俺のこと見てるってことで〜!うわーん、痴漢〜!エッチ〜!」
 龍さんは振り返って背後の空間をぶんぶん手で払いましたが、残念ながらご先祖は龍さんの背中にくっついていますので、すでにそこにはいらっしゃいませんでした。
 「…見られると…まずいことでも?」
 僕の言葉に、龍さんはぴたりと動作を止めて、人差し指同士を付き合わせてもじもじと動かしました。
 「え…えーと…その…い、一般論…」
 「ふふ、霊の方は、気にしていないものですよ?」
 「ですから、一般論〜!」
 悲鳴を上げる龍さんには、内緒にしておくことにいたしましょう。
 取手くんの背後で、お姉さんがずっと見守っていることについては。
  
 長くなりましたね。それでは私はこれで。



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