音の工房

FET selecter
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FET選別器なるものを作ってみました。

FETを差動回路で使用する場合、どうしても特性の揃ったものがほしくなります。しかし、半導体の特性なんてかなりいい加減なもので10%や20%は簡単に違ってきたりします。そこで、「O」とか「Y」とか「GR」とかでランク付けして大雑把には特性のグループを作って販売しています。
しかし、そのグループ内でも特性の差があるのは当たり前のことです。同じ特性のペアFETなんてメーカーで作ってくれる訳がなく、販売してくれるお店も聞いたことがありません。
私の知る限り唯一、ぺるけさんがご自身で選別ペアにして有料頒布されています。これも商売でやっているわけではなく一個人が良心的に行っていることで、アンプビルダーにとってはうそのような本当の話で、ありがたいことです。
こちらがそのサイトです→http://www2.famille.ne.jp/~teddy/tubes/buhin.htm

さて、 1台こっきりのアンプ製作であれば上記の頒布でお願いしたほうがよろしいかと思います。1台のアンプであれば2ペア4個のFETが必要になりますが、部品屋さんからFET4個買ってきて特性の揃った2ペアが取れる確率はほとんどないと言っていいでしょう。
それじゃ、FETなんて安いもんだから10個ぐらい買ってきて選べばどうだ?→それでも2ペア取れるとは全く言えません。それに例え取れたとしても残った6個のFETはどうするの、捨てちゃう?もったいない話です。
であれば、単価は少々高くついても頒布してもらったほうが、経済的で効率的ですね。



それじゃなぜFET選別器を作るの?

そうなんです。ペアのFETを求めるのであればぺるけさんより頒布していただいたほうがはるかにいいと思います。

それでも、自力でペアFETを揃えたいと思う人がいるはずです。この自分もその一人だと思います。
じゃ、なぜそう思うのだろうか・・・自分の場合だと

・手持ちのFETがそこそこ部品箱に眠っている。これを活用したい。
・部品一つ一つから集める事が楽しい。代替部品として使えるのではないか思い巡らすことが楽しい。
・計測器だって作れるものは作ってみたい。
・自分で選別した部品で音を鳴らしたときの喜びを味わってみたい。
・「このアンプ、FET1個1個自分で選別したんだよ」と、ちょっと自慢してみたい。

前向きな動機、ちょっと不純な動機も含めて
なにしろ「FET選別器」を作ってみたい!との思いが強かったのです。
そうなると人間って損得、後先、なんて考えずもう頭の中は製作モード全開です。



作るにあたってのお手本

FET選別器はこれもぺるけさんがその製作を発表されています。
こちら→ FET & CRD選別冶具  FET & CRD選別冶具(改訂版)

基本回路は上記のものを参考にさせていただきました。
じつは、この選別器製作途中でぺるけさんのHP覗いてみたら、なんと(改訂版)がアップされているじゃないですか。興味深々でで見ていたら固定電流式になっています。う〜ん、固定電流にするには定電流回路と基準電圧の安定性が問題になるなぁ〜と思いつつも、確かに固定電流は使い勝手がいいかもしれないと思うようになり、そこからまた設計の見直しをしました。

どうせ見直すなら・・・



工夫とアイデア

ぺるけさんの選別冶具をそのまま真似て製作してもいいのですが、どうせ作るなら少しはオリジナリティのあるものを作ってみたいものです。
そこで、私の場合次の点を工夫してみました。
(1) 回路面では、定電流回路はトランジスターの温度特性を気にしなくていいOPアンプを使った安定度の高いものに。
(2) 固定の定電流(1mAと2mA)も出来、ボリュームにより定電流を可変することも出来るようにする。
(2) 測定するFETをセットする治具をP-ROMライターなどで使用するレバー付ICソケットを使用してみる。

これらのアイデアを盛り込んでみました。

また、測定器やチェッカー類の製作はとかく雑になりがちです。
と言うのも、これらの機械はみんなの目に触れるわけでもないし、本命のアンプの陰に隠れてちょこっとしか使われなかったり。どうしても簡単に作ってしまいがちです。

ところが気づいた事があります。このような測定器やチェッカー類過去にもいくつも作っていますが、「雑に作った」や「とりあえず作った」ものは総じてなくなったり大掃除の際処分してしまったりしています。
ちゃんとした箱に作るとか、面倒がらずにスイッチの役割などマジックやラベルで明記しておくなどちょっとしたことで長く使える道具になります。

これらのことを念頭に、製作開始です。




FETのセット治具




選別作業を始めると1度に20〜30個、いやもっと多くのFETを測ることになります。
FETの足はもちろん3本です。そこに接続する方法ですが、色違いの「わに口クリップ」や「ICクリップ」で各足に挟み込みます。
これって結構大変な作業になりそうです。大きなわに口クリップでは隣の足に触れそうだし、小さいクリップは手が痛くなりなりそうです。
いろいろ考えた結果、ロムライター用のICソケットを使用してみようと思付きました。
ソケットにFETを差し込み、レバーを倒すだけ、取り外しも簡単。FETをピンセットで持てば手の熱の伝導も防げます。
1石3鳥ぐらいの効果がありそう、とさっそくこの案を採用することにしました。

ネットで、ロムライター用ICソケットを探すと、サトー電気さんに置いてあることが分かり、
一番小さいものが14ピン用、なんとなく16ピン用を購入しました。
8ピンが2列になっています。
そこで、バイアス測定用に左側の列を使い、電流測定用に右側の列を使用すれば切り替えスイッチを付けなくて済みます。
16ピンのソケットですが、使用するのは計6ピン。残りは遊びピンになります。

ひとつ気になるのが、このICソケットの耐久性です。レバーを計測のたび倒したり戻したり、
ロムライターにも使用されているのである程度の耐久性はあると思うのですが、何回ぐらい持つであろうか?
何しろ買ったこのICソケット、中国製で安かったのです。
サトー電気さんでは「ゼロプレッシャーICソケット」と言って、16ピンのものが315円でした。(2012年11月現在)
そこで、壊れた時に交換できるようICソケットの部分だけ別の基板に乗せ基板ごと取り外せるようにしました。

それから、このICソケットの取付位置ですが、ケースの端に取り付けるようにしないとレバーを戻すときやりづらくなります。
レバーを倒したときレバーがケースの外側になるようにします。間違ってもケースの真ん中に配置してはいけません。



回路図
電流検出用の抵抗100Ωは正確さが求められます。抵抗値がそのまま電流測定精度になります。
手持ちの抵抗から、比較的正確な100Ωを使用しました。正確な100Ωの抵抗がない場合は2個の抵抗を使いできるだけ正確な100Ωを作ります。
また、FETのドレインDとソースSがショート状態になったときこの100Ωに大きな電流が流れます。最大120mAの電流が流れますので1.44Wになり1/2W程度の抵抗では持ちません。 3W以上の抵抗を使うと安心です。 (私は手持ちの100Ω5Wを使用しました。運よく99.9Ωのものがありました)

16ピンのICソケットを利用し、バイアス測定用と電流Idd測定用を別々に用意し測定切り替えスイッチは省きました。
測定したい方にFETを差し込みます。

定電流回路もOPアンプを用いたもので詳細は次で説明します。
そして、バイアス計測時の電流設定をぺるけさん改訂版のアイデアをいただき1mAと2mA固定電流切り替えにしました。
ただ、固定だけじゃほかの電流値の値を知りたいときの計測ができなくなるので、ボリュームによる電流可変(電流可変範囲は0.2mA〜10mAです。)もできるように工夫してみました。
固定電流ができるようにしたことで、定電流回路の再現性精度が求められるようになり・・・OPアンプ回路にし、ツェナー電圧の安定化も必要になりました。
結果、0.1%以下の精度で計測できるもができました。
 

定電流回路
     

ぺるけさんの定電流回路は(左の回路図)
@トランジスターのベース電圧を決める
Aエミッターの電圧が決まりエミッタ―に付けた抵抗に電流が流れる。
Bエミッター電圧が変化しなければ常に一定の電流が流れる。
Cその電流はコレクターより吸い込まれる為、コレクターの上に付けた素子にも一定の電流が流れる。
というものです。
ただ、ベースエミッター間の電圧VBEは温度依存性があり、ぺるけさんはベース側回路にダイオードDを付け温度補正しています。

この回路でも特に問題なくいいと思いますが、どうせ作るなら少しはオリジナリティのあるものにしたいと
OPアンプを1個使って温度依存性のない定電流回路にすることにしました。(右の回路図)
OPアンプとは仰々しく思いますが、いまやOPアンプも1個50円とかダイオードと大して変わらない値段になっています。
動作原理は基本的に先のトランジスターと同じですが、エミッタ―の電圧をOPアンプでかなり精度よくコントロールします。
そしてトランジスターのVBE温度依存性を無視することができ、トランジスター(2SC1815)のランクも関係なくYでもGRでも何でもいいです。
このOPアンプの効果は絶大で理想的な定電流回路を作ることが出来ます。
ただ、回路のシンプルさはぺるけさんのほうでしょうね。

ここまで定電流回路が精度のよいものになると、電流を決定する電圧(ツェナーダイオード)の安定度が問題になって来ます。
そのため、温度補償タイプのツェナーダイオードを使うか、ダイオードなどで温度特性の相殺で補正するかなど対策したくなります。
私の場合、ほとんどを部品箱の中にあるもので間に合わせたこともあり、6Vのツェナーダイオード(ZD)とシリコンダイオード(D)の温度特性相殺で安定化することにしました。

じつは、ぺるけさんの改訂版もツェナーダイオード(ZD)とシリコンダイオード(D)の組み合わせ回路になっていて
私の回路と同じような回路になっていますが、シリコンダイオード(D)の考え方がちょいと違います。
・ぺるけさんの場合:トランジスターのVBEの温度特性補正のため。
・私の場合:ツェナーダイオードの温度特性補正のため。
です。

精度追求始めるとキリのないことになるので、全体のバランスを考えないと頭でっかちのおかしなものになってしまいます。
そう考えるとOPアンプを使うのはちょっとやりすぎ?
でも、部品箱に眠っているものの活用や安いものなら良いに越したことはありません。

もう一つ、ここで使うOPアンプは単電源用のものでなければ低い電流設定ができません。
単電源用OPアンプはGND側(負側電源)近くまで出力できるようになっています。
今回使ったCA3140Eは単電源で1個入りのOPアンプです。
単電源でよく使われるLM358Nでも大丈夫です。
ただ、358はOPアンプ2個入りICなのでもう1個はOPアンプでツェナー電圧のバッファに使うのもいいかもしれません。
もう1個のOPアンプを使わないなら処理をちゃんとしないと思わぬトラブルになりますので気をつけてください。



使用部品の資料

品名 型式 メーカー 端子・ピン配列 規格表・詳細記事(掲載ページ)
OPアンプ
CA3140E
  <規格表PDFファイル>
http://akizukidenshi.com/download/CA3140E.pdf

 


製作

ケースはタカチのYM-130を使いました。やはり、ICソケットの穴あけ加工が大変、角穴加工です。
ICソケットはフリー基板に取り付け、その基板をシャーシに2mmのねじで止めました。フリー基板にはこのICソケットだけしかつけていなく、他も部品は平ラグ板上です。これで、もしICソケットが壊れても2mmのビスをはずし交換ができます。
ラグ板が足りなかったのでロータリースイッチの空き端子を利用して半固定VRをつけました。(もちろんCOM端子は使いません)
OPアンプのCA3140Eも強引に平ラグ板に取り付けました。



調整と使用方法




左上のトグルスイッチがBias(バイアス)電圧の出力と定電流を換算した電圧出力の切り替えになります。
定電流出力(Id側にスイッチを倒したとき)は100Ωの両端の電圧ですので、10mA流れて1Vが出力します。1mA→0.1V、2mA→0.2Vです。

Bias測定のときはFETをICソケットの左側に差込み流したいドレイン電流を左側のつまみで選びます。1mA固定、2mA固定、VRにすると右側のボリュームで0.2mA〜10mAまでの任意の電流を設定できます。ここで電流を決めて出力電圧切り替えスイッチをBias側にすると端子からFETのバイアス電圧が出力します。

次にFETの定電流特性Idssを計測するときには 、ICソケットの右側にFETを差し込みます。出力電圧切り替えスイッチをId側にし電流値を電圧換算で読み取ります。10mA/1Vの換算です。

本気の調整は定電流1mAと2mAの調整です。ダミーのFETをBias側に付け、1mAのつまみのとき出力電圧が正確に100mVになるよう内部の1mA用半固定ボリュームで合わせ込みます。同様に2mAも200mVに合わせ込めば調整は終了です。



定電流の安定性能

1週間ほど定電流の値を計測してみましたが 、驚くほど再現性の良いデータでした。→8.5℃の温度変化で変動電圧が0.04mVですから
0.005%/℃になります。
これは短期間のデータなので断定的なことは言えませんが、安定性は良いようです。

電源を入れて、すぐにこの電圧が出力され10秒、20秒後でもほとんど同じ電圧出力で変動はありません。と言うことは定電流はすぐに安定動作に入ります。

(2013年7月6日追記)製作時は冬でしたがあれから半年、暑い夏がやってきました。温度計を見ると28度越え、思い立ってこの選別器の安定性を計測してみました。
室温は28.8℃、電源を入れて定電流の値を同じテスターで計測。1mA時の出力が100.02mV、2mA時の出力は199.96mVと製作時とほとんど変わっていません。0.01mVクラスになると計測しているデジタルテスターの精度にも左右される値かと思います。
ということで、本セレクターの定電流特性は1年を通して安定に働くことが分かりました。


計測日
温度
1mAの
電圧出力
2mAの
電圧出力
2012/12/2
12.2℃
100.06 mV
200.04mV
12/3
11.8
100.08
200.05
12/3
20.2
100.04
200.04
12/4
12.9
100.06
200.04
12/6
19.3
100.05
200.02
12/7
11.7
100.06
200.06
12/8
11.6
100.06
200.06
2013/7/6
28.8
100.02
199.96

 

 


使用感

思っていたよりよく仕上がったと思います。
固定電流はいつ電源入れても1.00mA、2.00mAを示してくれ気持ちがいいものです。

ロムライター用ICソケットの使い心地は最高で、短時間で効率よく計測できます。
レバーをパッチン、パッチンと勢いよくやりたいところですが、耐久性を考え優しく行うよう心掛けています。

以前から選別機作ろう作ろうと思っていましたが、アンプと違い脇役的存在のアイテム、なかなか腰が上がりませんでした。
しかし、内容的にそう難しいものではないものでも、いざ作るとなるとそれなりに準備は必要だし
考えさせられたり、とてもいい勉強になりました。

そして、ここまでちゃんと作ればさすがに整理の時に捨てたり無くなったりすることはないでしょう。









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