音の工房

 811A
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811Aを手に入れたのが事の始まり
アマチュア無線の城山レピータ管理団体総会では毎年オークションが行われます。2003年の総会でJA1QUM青木さんが出展した送信管811Aを私が落札しました。手にした811AはRCA製でなんとも迫力のある真空管です。
話ではプレート電圧が1000V以上でフィラメントが6.3Vで何と4Aも流れる、その上グリッドがプラスバイアスでIgが盛大に流れるとのこと。さすが送信管、今まで見てきた真空管とは何から何まで違うではないか。果たしてこれでオーディオアンプが作れるのだろうか・・・。

811Aを調べてみた
まずは811Aと言う真空管を調べてみた。
ST管、直熱式の3極管で4本足、プレートが頭のキャップに出ていて足には出ていない。フィラメントはトリタンといって非常に明るく光り輝く。
主な特性は
フィラメント電圧:6.3V 電流:4A (フィラメントだけで25W、2本だと50W電球並み)
最大プレート電圧:1250V 電流:175mA
この球を使う上で大きな問題はなんと言ってもグリッドにプラスバイアスをかけることです。と言うことはグリッドに電流が流れることです。とどのつまりはこの真空管をドライブする前段はパワーが必要だと言うことです。
そしてもうひとつ頭を悩ますのがフィラメントの大電流。

方針決定
この球、手っ取り早くドライブするにはトランスを使うことです。しかし、トランスを使うと音が悪くなるのではないかと言う不安と費用がかかりそうだと言うことで・・いろいろ調べていくとダイナミックカップル方式と言うのがあることが分かりました。前段球のカソードを直接811Aのグリッドに入れてやる方法です。前段はカソードフォロアになるので前段に少しパワーのある球を用います。プレート電圧をうまく調整してあげればプラスバイアスかけ、かつ電流も流すことが出来ます。その上直結なので音的にもGoodではないかと想像してしまいます。6V6が2本あったので3極管結合して使うことにしました。
つぎに、811Aの動作点の決定をします。811Aのプレート特性カーブからプレート電圧350Vでグリッド電圧20Vのときプレート電流60mAぐらい流れることが分かります。これを動作点にします。グリッド電圧の調整は前段6V6のプレート電圧で調整します。6V6は3結でEc-17Vで15mAがプレート電圧210Vぐらいです。
それから、フィラメントですが直熱管なのでハムが気になるところです。そこで直流点火したい。・・・そうだ5V5A(25W)のスイッチングレギュレータ使えないだろうかとジャンクから引っ張り出してきました。実験です。スイッチングレギュレータについている電圧調整用の半固定抵抗をグイッと回すと6.3Vになるではないですか。しかし、6.5Vぐらいで安全装置が働くのか出力が落ちてしまいます。ちょっと安全をみて6.2Vに設定してみました。811Aを点火させると明るいオレンジ色の光を発しました。これは使えそうです。このスイッチングレギュレータ2個用意しました。
これで、気になっていたところは解決です。
あとはトランスの選択です。いつもここが頭痛くなるところです。そう、一番出費がかさむところだからです。そりゃ金出しゃいいもの買えるに決まってますね。今回はちょっとケチってノグチトランスのPMF-10WSを使いました。パワートランスもノグチのPMC-170Mです。容量が170mAと少し少ないのですが811Aのプレートに60mA、グリッドで15mAと見積もって何とかつじつまが合います。これらのトランス選択理由は安かったから。
初段は6SL7GTも考えましたが、内部抵抗の小さな6SN7GTをゲイン不足承知で使いました。

回路図
下が回路図です。結果的に811Aプレートは331Vでバイアスは18〜19Vになりました。フィラメントの51Ωは電流確認のためつけたものがそのままです。

音が出たぞ〜・・その前に
試行錯誤もあったものの、一発で音が出ました。B電源の平滑回路の抵抗をいくつか換え100Ωに決定しました。設計時よりプレート電圧が低いですがこれ以上あげると電流が流れすぎてしまいます。
なかなかいい音ですがその前にいくつか気になるところがあります。
まず、6V6のプレート電圧調整、8.2kΩでいいころあいになりました。電流は14mAです。
次に、811Aのフィラメントに使用したスイッチング電源が結構ぎりぎりの電流を流すので気になります。それに電源投入時のフィラメント突入電流とスイッチング電源の電源投入時の不安定さで保護回路が働いてしまうのではないかと心配しましたがこちらは問題ないようでした。(たまたまかも)
12時間連続運転でもスイッチング電源はOKでした。


奏でる音は
じつは私は直熱の3極管を聞くのが初めてなのですが、三極管は透き通った音きれいな高音と言ってますが、その通り高域の綺麗さにはびっくりしました。低域もしっかりしていて申し分ありません。
実はNFBをやる予定でしたが無帰還で聞いています。6SN7を使ったせいで全体のゲインに余裕がないこともありますが、それ以上に充分満足できる音だからです。もうひとつ帰還をかけるとこの出力トランスPMF-10WS高域に乱れを生じる傾向があります。素直な特性で気持ちよく聞きたいと言う心理も働いたかな?
下に無帰還時の周波数特性を取ってみましたが、このカーブから想像する音とはまったく違って実に高域が綺麗に聞こえてきます。人間の耳と測定器のデータは必ずしも一致しないものだと、今回は特に感じました。


周波数特性は




オーディオアンプの風格?
実のところこんなにうまく行くとは思わなかったので購入材料には出来る限り金をかけませんでした。シャーシだってアイボリーの塗装はしてあるものの3000円とお安いものです。そこで、ひと工夫をしてみました。ホームセンターで2cm厚みの木材を買い(ちなみに430円)シャーシの両サイドにつけてみたのです。これがなかなか雰囲気を出してくれました。木材をよくペーパーで磨きオイル塗装をし取り付けてみるととても3000円のシャーシには見えません。
811Aのはかまの部分が茶色なのでシャーシのアイボリー色と木材の同系色コントラストがうまく調和して落ち着きのあるオーディオアンプの風格すら出てきました。
デザイン的にも満足できる一品となりました。

真空管のイメージとして電源を入れるとフィラメント(ヒーター)が灯り暖かな感じ・・・でも実際の真空管はヒーターの明りってよく見えないのですよね。ところがこの811Aは違います、まばゆいばかりのオレンジ色の光が管内部で輝きまくりです。この明るいフィラメントはトリタンと呼ばれるものでトリエーテッド・タングステンを略してトリタンといっています。
この光を見ているだけでも自作の満足感があります。

(2004年2月製作)




初段をSRPP回路に改造
作って1ヶ月目ですが、とても気になっていた初段を改造してみました。
初段に6SN7を使用しましたが双三極のうち片方しか使っていませんでした。そこで、SRPP回路にし出力インピーダンスを下げてみました。
NFBも少しかけました。聞いた感じはそんなに激変とは行きませんでしたが、気持ち締まったかなって感じです。
ただ、ゲイン不足はどうしても否めません。
そこで改造第2弾、初段を6SN7から増幅度の高い6SL7に変えてみました。6SN7は内部抵抗が少ないのが魅力でしたが、SRPP回路にすることで出力インピーダンスが下げられるため6SL7でもいけるだろうとふんだわけです。
改造結果、音質的にはそう変わることなく希望のゲインが取れるようになりました。
この改造で何と買ってきた6SL7の1本がノイズがひどく聞けたものではありませんでした。SOVTEKで600円と安いからと思ってましたが使えないのでは何にもなりません。こんなリスクもあるのですね。

2004/4/13:SRPP回路の抵抗値記述にに間違いあり修正

 


そしてさらに改造にすすむ

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